
日の名残り
カズオ・イシグロ,土屋政雄
早川書房
若き執事ではないけれど
「わたしを離さないで」で有名な著者ですが、老執事が主人公の本作もいい味出しています。本作の執事は若くも(たぶん)美形でもないものの、本場英国の正統派執事ならではのいぶし銀の魅力が感じられます。 文学なので奇想天外な展開はありませんが、老執事の徹底した仕事ぶりには目をみはるものがあります。古きよき英国の空気がただよう良質の文学です。
1投稿日: 2013.10.05建築探偵桜井京介の事件簿 未明の家
篠田真由美
講談社文庫
ていねいな人物造形
本書では派手なトリックを使った連続殺人などは起きません。 その代わり人物造形がしっかりしていて、京介をはじめとする主要登場人物が魅力的に感じられます。脇役でさえも、ちゃんと「生きている」感じがします。 また、「建築探偵」と題しているだけあり、作中の事件には建築物(本書の場合、パティオのある別荘)が関わってきます。 派手さはないものの、登場人物の目にする風景が自然と浮かぶような、良質の「物語」を読ませてくれます。
1投稿日: 2013.10.04雪の断章
佐々木丸美
復刊ドットコム
雪も溶かすほどの想い
著者の文体にはちょっと癖がありますが(体言止めの多用など)、本書の情景描写はその文体があってこそのものだと思います。登場人物の心情と共鳴するかのように描かれており、読者を自然と物語の世界に引き込んでくれます。 女性ならばきっと、主人公・飛鳥の強さにはげまされ、祐也の優しさに憧れることでしょう。ただの「恋愛小説」とは呼びたくないくらい、あたたかい想いに満ちた作品です。
0投稿日: 2013.10.04暴れん坊本屋さん(1)
久世番子
ウィングス
リアル書店も好きなんだ!
電子書籍のサイトにこう書くのもなんですが……本が好きで、(ネットだけでなく)リアルな書店に行くのも好き!という方にオススメしたいエッセイコミックです。 作者はかつてリアルな書店で働いており、本コミックには実際に書店で起きた事件(とんでもない「忘れ物」など)や書店の裏事情などが描かれています。 小難しい解説などはなく、あくまでも書店が舞台のリアル・コメディ(?)となっていますので、軽い気持ちで笑って楽しめますよ。
2投稿日: 2013.10.03凍りのくじら
辻村深月
講談社文庫
ドラえもん好きな人も、そうでもない人も
「ミステリー・推理・サスペンス」に分類されていますが、純粋なミステリとはいえないでしょう。実際、物語の前半は大して事件らしい事件も起きず、十代の主人公・理帆子の周辺の状況が淡々と語られます。しかし、物語が進むにつれその世界は不安を帯び、サスペンス味が増していきます。 高校生の理帆子は物事を冷めた目で見ており、自分はどこでもなじめて、なおかつどこにもなじめない人間だと感じています。「若いころって、なんか生きにくかったなー」という方には特にオススメしたい一冊です。
4投稿日: 2013.10.03砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet
桜庭一樹
角川文庫
暗黒に射す光
ハッピーエンドを期待してはいけません。本書は最初から結末がおぼろげに見えていますが、それでも私は、最後の最後できれいな幸せに行き着くことを願ってしまいました。 もともとライトノベルとして発表された本作は、ライトノベルの範疇にとどまらない黒さと絶望感に満ちています。でも、黒一色ではありません。ラストシーンではかすかな光が感じられます。詳しくは語れませんが、その結末には救われた思いがしました。 たとえ痛くても黒くても、本作は私にとって桜庭作品ベストワンです。
11投稿日: 2013.10.02バチカン奇跡調査官 黒の学院
藤木稟
角川ホラー文庫
神父コンビが魅力の本格ホラー
ミステリというよりはホラー寄りです。血なまぐさいシーンもどんどん出てきます。 それでも推したいのは、主人公の神父コンビが魅力的だから。 ですます口調で話す平賀(この巻の表紙)は研究一筋でお堅いタイプの美形。 物腰柔らかでときどき熱いロベルト(2巻の表紙)はラテン系で書物に目のない美形。 怖いのが苦手でなければ、キャラクター小説としても十分楽しめると思います。カトリックについても虚実ないまぜにいろいろ書かれているので、野次馬気分で(?)読むのも一興です。
7投稿日: 2013.10.01向日葵の咲かない夏
道尾秀介
新潮社
暗い夏の記録
ミステリには珍しく、主人公は男子小学生です。 といっても、「少年探偵が明るく謎を追う」といった種類の話ではありません。 物語全体にほの暗く湿った空気が漂い、夏が舞台とは思えないほどダークな雰囲気です。 暗い(黒い)話が苦手な方にはおすすめできませんが、本書のラストには「やられた!」と叫びたくなる結末が待っています。それだけでも読む価値はあるかと。
1投稿日: 2013.09.30十角館の殺人〈新装改訂版〉
綾辻行人
講談社文庫
騙される快感
なにを書いてもネタバレになりそうで怖いのですが…… ミステリが好きなら、いわくつきの洋館が好きなら、「連続殺人」というワードに心躍るものがあるなら(?)、とにかく本書を読んでみてください。 そして見事に騙されてください。騙されて感じる悔しさ(または驚き)もまたミステリの醍醐味です。
4投稿日: 2013.09.29海の底
有川浩
角川文庫
海上自衛隊×トンデモ生物
「自衛官三部作」の三作目です。 本作でもとあるクリーチャーが港に襲来し、青年自衛官コンビと子どもたちが船に閉じ込められてしまいます。 緊迫した状況で進む物語は手に汗握るものがありますが、自衛官コンビのやり取りも軽妙で、軍事ネタやトンデモ生物だけにとどまらない面白さがあります。デビューから三作目とあって有川氏にしては少々文が硬い気もしますが、エンタメ好きの方は読んで損はないと思います。
2投稿日: 2013.09.29