ツクヨミさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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月魚
三浦しをん / 角川文庫
壊れそうな美しさ
23
本作は著者の初期作品の一つです。古書業界をモチーフに、古書店店主・真志喜とその幼なじみ・瀬名垣(太一)の関係が描かれています。
静かで時の止まったような古書店の描写が多いせいか、物語は静謐な空気に満ち…ている感じがします。登場人物の心情はもちろん、なんということのない動作さえていねいに描写されていて、場面の一つ一つをはっきりと思い浮かべることができます。
まるで細い糸で編んだように繊細な物語ですが、読後には心地いい余韻が残りました。 続きを読む投稿日:2013.10.23
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新装版 46番目の密室
有栖川有栖 / 講談社文庫
すでに安定感?のシリーズ第1作
16
「火村&アリスシリーズ」の第1作です。今は短編集も多く出ているシリーズですが、最初は長編だったんですね。
久々に読み返して意外に思ったのは、同シリーズの最近の作品と比べて大きな変化が感じられないことで…した。社会背景や科学技術の点ではそれなりの古さがあるものの、火村&アリスの掛け合いや地の文(アリスの一人称)は、今とほとんど変わりません。違うのは、1作目だけあって人物紹介が特に詳しいことと、火村とアリスがまだ年を重ねている(34歳で固定されていない)ことでしょうか。気軽に短編から入りたい方には「国名シリーズ」の中の短編集をオススメしますが、火村とアリスについてじっくり知るには、まず本書から読むのがいいかもしれません。
ミステリなので詳しい内容には触れませんが、冬ならではの美しい情景と、どこまでも推理作家なアリスの言動が印象的な作品です。 続きを読む投稿日:2014.10.26
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菩提樹荘の殺人
有栖川有栖 / 文春文庫
火村シリーズ初心者にもオススメ
13
火村シリーズの短編集(全4編)。個々の短編は独立しているものの、どれも「若さ」というモチーフが入っていて、それが短編集としてのカラーにもなっています。
火村シリーズの入門書としては『46番目の密室』(…刊行順に読む)や「国名」シリーズの短編集(代表的な短編集から読む)あたりをオススメしてきましたが、今ならこの『菩提樹荘の殺人』から入るというのもアリかもしれません。本書では、火村とアリスの出会い、火村が臨床犯罪学者になった理由、アリスがミステリを書くきっかけとなった事件など、これまでシリーズの中で書かれてきた背景エピソードに一通り触れることができるからです。多少省略されている部分もありますが、これだけ押さえておけば、次にシリーズのどの作品を読んでも大丈夫だと思います。
「アポロンのナイフ」……少年犯罪を扱った作品。高校生の男女を殺したのは、連続通り魔事件を起こして逃亡中の美少年なのか? 個人的には、火村が語る少年犯罪の発生件数や法律関係の話が興味深かったです。
「雛人形を笑え」……殺されたのは若手漫才師の女性。解決に至るまでの道筋が変則的なので、華麗な推理を期待していると肩すかしを食うかも。高柳刑事の意外な趣味と、火村とアリスの漫才めいたやりとりに笑いました。
「探偵、青の時代」……アリスが学生時代の知人から、当時の火村の名探偵ぶりを聞く話。現在にもつながる鋭い観察眼に感心したり、すごく真面目な学生だったんだな、と驚いたり。ただ、学生とはいえ、自転車に乗る火村の姿だけは想像しにくかったなあ……。
「菩提樹荘の殺人」……いつまでも若々しい「アンチエイジングのカリスマ」が殺される。真犯人を導く根拠や被害者が服を脱がされていた理由が、思いつきそうで思いつかなかったです。老化に対する火村の意見には共感する部分もありましたが、そういう火村は(アリスも)永遠の34歳なんですよね。そう思うとちょっと複雑。 続きを読む投稿日:2016.01.22
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夏を殺す少女
アンドレアス・グルーバー, 酒寄進一 / 東京創元社
似たものコンビが突っ走る
12
オーストリアで連続する不可解な事故死について調べる、弁護士のエヴェリーン(女性)。ドイツの病院で起きた少女の不審死を担当する、刑事のヴァルター(男性)。
本書は中盤まで、この2人の主役のパートを交互に…入れ替えながら進みます。性別などは違うものの、基本的に2人とも突っ走りがちな性格で、真実を求めて事件に深入りしていきます。
2人の主役が出会ってからは一気に緊迫感が増して、先が読めない展開にドキドキしながら読み進めました。(ときどき挿入される)犯人視点の犯行シーンにもぞくっと来るものがあります。
とはいえ、なにより印象に残ったのは主役2人の奮闘ぶりでした。心に傷を負いながらも信念を持って突き進む姿は、格好よくて惚れ惚れします。 続きを読む投稿日:2014.01.22
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さいはての彼女
原田マハ / 角川文庫
「彼女」のカッコよさに魅せられる
11
いろいろあって旅に出た女性の話を集めた短編集です。収録の4編はそれぞれ語り手が違いますが、最初(「さいはての彼女」)と最後(「風を止めないで」)の作品には共通する人物が登場します。
その人物とはタイト…ルにもなっている「彼女」のことですが、これがめちゃめちゃカッコいいんですよ。ふとした仕草やまなざしには、同性ながらキュンとしてしまいます。
彼女と一緒の旅ならどこだって楽しいだろうな~、と主人公がうらやましくなりました。 続きを読む投稿日:2013.10.27
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暗い宿
有栖川有栖 / 角川文庫
くつろげない宿へようこそ
12
火村&アリスシリーズの短編集。収録されている4編は〈宿〉がテーマになっていて、作品ごとに趣の異なる宿泊施設が登場します。ミステリなので、当然事件も起きるんですけど。
「暗い宿」――廃業した民宿にアリ…スが泊まります。もちろん夜は真っ暗。どんな状況でも眠れる図太さは、さすが推理作家というべきでしょうか。
「ホテル・ラフレシア」――舞台は石垣島のリゾートホテル。アリスと編集者・片桐がミステリーイベントに参加します(火村は部屋で仕事)。ほかの3編に比べるとミステリ度は低めですが、ある意味いちばん不気味な〈宿〉かも。
「異形の客」――アリスが泊まった温泉旅館で殺人事件が起き、火村も交えて捜査が始まります。鍵となるのは、奇妙な格好の宿泊客。ラスト近くに出てくる火村の台詞が印象的でした。
「201号室の災厄」――東京の高級ホテルに泊まった火村がハプニングに巻き込まれる話。火村が目いっぱい活躍する、火村ファンにオススメの1編です。しかしこれは災難だわ……。
ミステリの探偵役にはありがちなことですが、どうやらアリスや火村も事件を呼び寄せる体質のようです。彼らがのんびりと旅行できる日は来るのでしょうか……。 続きを読む投稿日:2014.10.12