
ホーンテッド・キャンパス 白い椿と落ちにけり
櫛木理宇,ヤマウチシズ
角川ホラー文庫
そして恋は振り出しに戻る?
シリーズ第11弾。今回は3話収録です。ホラーとしてはいつもどおり面白く読めましたが、驚いたのは森司とこよみの関係が逆戻りしていること。長い時間かけてやっとそれらしくなってきたところだったのに、なぜ今さら戸惑うんだ森司!?と非常にやきもきさせられました。これもシリーズを長く続けていくための方策かもしれませんが、それにしてもじれったい……。 第1話「悪魔のいる風景」……オカ研に仮入部した学生(男)にまつわる話。メインの超常現象ではないところに最も怖さを感じましたが、読後感は悪くなかったです。 第2話「夜ごとの影」……地縛霊系ホラーがダブルで楽しめる話。その片方(一軒家のほう)を解決するところが、本書の中でいちばん好きです。あと、森司の自炊シーンがやたら美味しそう。 第3話「白椿の咲く里」……呪われているという大学院生(女)にまつわる話。その大学院生ですが、今までいそうでいなかったタイプのキャラで印象に残ります。神社や椿園といった舞台に加え、人魚のミイラ、海尊伝説といったモチーフもホラーっぽさ満点でわくわくしました。着地の仕方も(好きかどうかは別として)いちばんホラーっぽいかも。 前巻に引き続き、今回も鈴木くんがいい活躍を見せています。もうすっかりレギュラーですね。次巻では森司にも(いろいろな意味で)頑張ってほしいです!
5投稿日: 2017.04.30ある小説家をめぐる一冊
栗原ちひろ,THORES柴本
富士見L文庫
世界観が絶妙
若き女流作家とその担当編集者(男)が織りなす現代ファンタジー。前シリーズ(「悪魔交渉人」)と違ってメインキャラに女性が入っているぶん、作風も変わるのかなあ……と思っていたのですが、これが予想外にいい感じでハマりました。たぶん些々浦(小説家)があまり女性らしくないからでしょうね。見た目は可憐そのもので、小動物っぽいところもあるのに、色気は限りなくゼロに近いというこの不思議。 むしろ編集者である田中のほうが女子力高くて、なんだか主夫みたいです。やくざ顔の男がエプロンつけて料理する姿は、想像するとなんともいえないものがありますが……。 ストーリー的にはまだ序盤ということもあって、壮大な事件は起きません。それでも廃病院や古い温室といった退廃的モチーフと、些々浦の小説が持つ幻想的な雰囲気とが独特な世界観を生み出していて、読んでいるあいだはその世界にどっぷりつかることができました。廃墟や古民家、レトロなものが好きな人にもオススメです。 今後この物語世界がどう広がっていくのか、さらには些々浦と田中の関係がどう進展するのか(!?)楽しみです。
8投稿日: 2017.03.18バチカン奇跡調査官 ゾンビ殺人事件
藤木稟
角川ホラー文庫
サブキャラの個性が強烈
シリーズ15冊目(短編集としては3冊目)。全4編ですが、神父コンビが出てくるのは「絵画の描き方」のみで、あとの3編はサブキャラが主役を張っています。サブキャラも個性派揃いの「バチカン奇跡調査官」だからこそできる芸当ですね。 「チャイナタウン・ラプソディ」……FBIのビル捜査官と相棒ミシェル(弥貝)が、とある誘拐事件の解決に乗り出す話。お金大好き!なミシェルの言動や、チャイナタウンのルールについていけないビル捜査官の混乱ぶりが面白かったです。ただ、いつもと違って謎が科学的に解明されないところはちょっと残念でした。 「マギー・ウオーカーは眠らない」……マギー博士がひょんなことから子守りをする話。彼女の冷静かつ合理的すぎる子守りに笑わせてもらいました。ラストも好みです。 「絵画の描き方」……平賀とロベルトが絵画の修復に挑戦する話。本書中でいちばん好きな作品です。絵の具を調べたり作ったりする場面も興味深いですが、なにより平賀の暴走に笑いました。ロベルトかわいそう……。修復士のジジもいい味出してます。 「ゾンビ殺人事件(独房の探偵2)」……アメデオ大尉の持ち込んだ事件を、ローレン(+フィオナ)が華麗に解決する話。ゾンビが登場するありえないような事件ですが、こちらはいつもどおり科学的な解明がなされていて安心しました。タイトルに「2」とあるので、このメンバーはまた再登場しそうな予感。
5投稿日: 2017.03.18バチカン奇跡調査官 楽園の十字架
藤木稟
角川ホラー文庫
豪華客船で行こう!
シリーズ14冊目(長編としては12冊目)。舞台はハイチからスタートするものの、すぐに豪華客船に乗ってしまうので大半は海の上です。それでもハイチの歴史などにはけっこう触れられていて、なるほどそういう国なのか、と勉強になりました。実際の世界情勢やなんかが物語に絡んでくるところがリアルですね。 それにしても、平賀とロベルトが乗る船は本当に豪華です。こんな船でクルーズなんて夢のようですが、これが「バチカン奇跡調査官」である限り、平和なクルーズとはいきませんよね……。というわけで、久々にグロ度高めな仕様となっています。 今回は殺人事件が派手なせいで、奇跡調査パートはちょっと地味に思えてしまったのですが、そんな中でも平賀とシン博士のやり取りには笑わせてもらいました。ある意味いい関係だと思います。……たぶん。 事件や調査の合間に、ちょっとだけくつろいだ様子の神父コンビが見られたのもよかったです。シリーズの今後に関わってきそうな要素もあったので、期待を込めて星5つで!
6投稿日: 2017.02.22立花美樹の反逆 THANATOS
汀こるもの
講談社ノベルス
このキャラあってこのストーリーあり
シリーズ第7弾。新興宗教に入信した(!)美樹を連れ戻すべく、真樹の高校の自然科学部員たちが新興宗教の本部に乗り込みます。ちなみに、今回モチーフとなる魚はピラルクーです。もうTHANATOSシリーズというより、お魚シリーズと呼んだほうがいいような……。 相変わらずミステリとしては変格で、癖ありまくりの作風ですが、ここまで本シリーズを読んできた人なら問題なく楽しめるでしょう。個人的には、ミステリ要素(とミステリ小ネタ)を練り込みまくったキャラ小説だと思っています。 そのミステリ要素の中には、当然トリックなんかも含まれています。今回は仕掛けられたトリックの一つに途中で気づいたものの、これは誰でもわかるかも……。死体移動に関わるトリックは実現できるの!?という感じですが、仕組みとしては面白かったです。 物語は最初ゆっくり、後半には畳みかけるようにスピードアップして、終盤はかなりノリノリで読みました。とんでもない内容だけど、キャラもぶっ飛んでるのであまり違和感はありません。彼らならこういうこともあるか、と納得さえしてしまいます。比較的まともな高槻と湊が、だんだん壊れつつあるのが気になりますが……(笑)
7投稿日: 2017.02.22シャーロック・ホームズの十字架
似鳥鶏
講談社タイガ
この設定があるからこそ!
シリーズ第2弾。1巻では「ホームズ遺伝子」や「機関」といったトンデモ設定に戸惑ったのですが、だんだん慣れてきて、ストーリーを素直に楽しめるようになってきました。改めて考えてみると、本シリーズで起きるような事件を描くにはこういう設定が必要だったんだろうな、と思います。現実にはありえないような手の込んだ不可能犯罪も、「遺伝子保有者を選別する」という目的があることで違和感なく物語に落とし込めるというか……。 ところで、今回いちばん驚いたのは、辰巳がまだ20歳だったことです。前巻にも書いてあったかもしれないけど、てっきりもっと上だと思っていました。幸村さんの強さや七海のぽややんぶりは相変わらずですが、直人はちょっとしっかりしてきたかも。石和さんもひっそりいい仕事してます。 ラストから判断する限り、次巻はさらに盛り上がりそうで楽しみです。
7投稿日: 2017.02.04深い穴に落ちてしまった
イバン・レピラ,白川貴子
東京創元社
不穏かつ鮮烈な『星の王子さま』
読み始めから謎めいていて、読み終えても解けない謎が残る不思議な作品でした。兄弟はどうして穴に落ちてしまったのか? 二人の名前や年齢が書かれていないのはなぜなのか? そもそも話の舞台はどこなのか? ……と、頭の中を「?」だらけにしながら読み進めました。 穴の中に二人きり、という状況は変化に乏しいようにも思えますが、不意にどきっとさせられる場面があったり、意味深なやり取りにあれこれ想像してしまったりして、単調と感じる暇はありませんでした。特に弟の見る夢や幻覚は不穏かつ鮮烈で、強く印象に残っています。 芯となるストーリーからなにげない会話の端々まで、読み手によってさまざまな解釈ができる作品だと思います。今の自分を映す鏡となってくれる、まさに「現代版『星の王子さま』」ですね。ただし、本家と違ってかなりダークなので、子供にはオススメできませんが……。
8投稿日: 2017.02.04怪しい店
有栖川有栖
角川文庫
店もいろいろ、見せ方もいろいろ
火村シリーズの短編集。「店」にまつわる短編を5編収録しています。作品ごとに出てくる店もいろいろですが、事件内容や小説の長さ・形式なんかもそれぞれ異なっていて、一編ごとに違った味わいが楽しめます。 「古物の魔」……骨董品店で店主が殺される。形式としては、オーソドックスな犯人当てといえるでしょうか。骨董品業界の豆知識もあって、楽しく読みました。この先骨董品集めにハマりそうなアリスが心配(笑) 「燈火堂の奇禍」……古書店の店主が万引きに遭って怪我をした。短めの作品ですが、結末の後味がよくて好みです。でも、この店主のこだわりは客としてはちょっと……。 「ショーウィンドウを砕く」……アリスではなく、芸能事務所の社長が語り手を務める倒叙もの。テーマの「店」が意外なところで生きてきて「おお」と思いました。ドラマ化もされた一編です。 「潮騒理髪店」……理髪店が舞台の、人の死なないミステリ。謎の真相は「えー」という感じでしたが、作品全体の雰囲気は収録作品中いちばん好きです。あの火村が夢見心地になるほどの理髪店、行ってみたいです。 「怪しい店」……怪しい店〈みみや〉の女店主が殺される。「古物の魔」同様オーソドックスなミステリですが、真相が明らかになる前にヒントが提示されて、読者も謎解きに挑戦できるようになっています(私は正解できませんでしたが……)。この作品にはほかにも怪しい店が紹介されていて、最後に出てくる隠れ家的な店は近所に一軒欲しいと思いました。
9投稿日: 2017.01.10あしたはひとりにしてくれ
竹宮ゆゆこ
文春文庫
ハイテンション家族
孤独な優等生男子と謎の美女が織りなす疑似家族(?)小説。 家族モノというとなんとなくほっこりした雰囲気を想像しますが、本作の場合は違います。とにかく最初から最後までテンション高すぎで、ときどきついていけなくなるほどでした。謎の美女・アイスを家に連れ帰るシーンとか、なんかいろいろ激しすぎて、「これ、文春文庫(=一般向け)だよね!?」と表紙を見返したくらい……。 主人公・瑛人は暗い衝動を抱えた少年ですが、それでも本作の登場人物の中ではかなりまともな部類に入ると思います。ほかの登場人物があまりにも個性的すぎるので、瑛人のまともさに助けられながら読み進めました。 夜の描き方やラストの着地の仕方は好みで、結果的には楽しめたのですが、瑛人の妹や居候男性の異常なテンションに乗り切れない部分があったので評価を少し下げています。 それにしても、一般向けのレーベルでこのノリはちょっと凄いかも……。
6投稿日: 2017.01.10ホーンテッド・キャンパス きみと惑いと菜の花と
櫛木理宇,ヤマウチシズ
角川ホラー文庫
じれったさ爆発!
シリーズ第10弾(全3話収録)。目玉はなんといっても森司とこよみの初デート(第3話)ですが、ほかの2つのエピソードも楽しく読みました。 第1話「目かくし鬼」は、レトロな洋館に出る幽霊の話。幽霊モノだからと舐めてかかったら、けっこう本気で怖かったです。 第2話「よけいもの、ひとつ」は、森司がオカ研に入った直後の話。森司もこよみも初々しい感じで、シリーズ1巻に戻ったような懐かしさをおぼえます。重めの内容ながら、恋愛要素があったり、製菓部が作っている和菓子が美味しそうだったりで、読後感はよかったです。 第3話「いちめんの菜の花」は森司とこよみの初デートを描いた話。2人がじれったいのはいつものことですが、今回も期待以上に悶えさせてくれました。甘々とホラー要素のバランスもいい感じです。 それにしても、森司やこよみは知れば知るほど好きになるのに(最近では鈴木くんも好き)、黒沼部長は知れば知るほど怖くなる気がします……。
6投稿日: 2016.12.03