
本好きの下剋上 ハンネローレの貴族院五年生1
香月美夜,椎名優
TOブックス
予想の斜め上をいく、マジでダンケルフェルガー!
「本好き」本編完結後の番外編。あの長い物語の後日譚と、物語の背景が並列で語られるという面白い仕掛け。例によってweb連載からの加筆や整理がいっぱいで新鮮です。そして核心部には到達しておらず、今後を考察するのも面白く、わくわくします。
0投稿日: 2024.08.10
〈中東〉の考え方
酒井啓子
講談社現代新書
ゲームで言えば、最高のセーブポイント
イスラエルによるガザ虐殺や久々に聞くイランとの対立などに触れ、基本的な背景を確認したいと思っていたところで2010年(14年前)の定番入門書に出会った。なぜ「東」なのかに始まり、アラブと西欧そしてイスラエルについて大きく柔らかく語られている、いい本だった。 冷戦構造と中東の諸問題など最近フォーカスされている話題も既に視野に入っており、分かった積もりになる前に立ち返るポイントにしたい(ISの登場で状況が激変する直前であることも大事)。
0投稿日: 2024.08.09
What's Next? 終わりなき未踏への挑戦
平出 和也
山と溪谷社
「夢のファイル」コンプリートまで、あと僅かだったのに…
中島健郎さんとともにK2西壁で滑落し救出断念となった山岳登攀・撮影の第一人者の、最初で最後の単著。私も登山好きだったことから(冬山や岩山で事故を起こしかけたこともある)、計り知れない高みを感じるばかりでなく彼に同調するところが多くあったし、数多くの動画リンクと併せて読める仕掛けも良かった。 先に逝った谷口けいさん達ともども、どうか安らかに
0投稿日: 2024.08.04
エッセンシャルワーカー 社会に不可欠な仕事なのに、なぜ安く使われるのか
田中洋子
旬報社
現場が破綻する前に改革できることを願う
コロナ禍でメルケルが感謝と支援を表明したことで注目されるようになったが、その働き方や境遇についての基本的な研究はこれまで無かったらしい。例えばスーパーのパートさんが家計の補助だった時代の制度そのままに今日あることの歪みや、1クールものの深夜アニメが大量に作られるようになった背景と結果としての現場アニメーターの分断など、内容が具体的で読みやすいものの直視するには辛い話が続く。 その一方、この状況のいくつかは海外で解消済みであること、国内にも変革の動きがあることが紹介されるとともに、根本的な方向性の提案も多く、勇気づけられる本だった。 ps. 本書の分析対象: スーパーマーケット、飲食店、自治体とくに支援窓口、保育士、教員、ゴミ収集作業員、看護師、介護士、トラックドライバー、建築業、アニメーター
0投稿日: 2024.08.03
孤塁 双葉郡消防士たちの3・11
吉田千亜
岩波現代文庫
あの大混乱の中、他にも気付かれていないことがあるはず
「チェルノブイリの祈り」コミカライズを読んでいて、この本を読みそびれていたことを思い出したところ、文庫化で値下げ・追補されていた。 地震、津波、原発事故と折り重なって進行する事態に、全員が16日まで24時間勤務で対応された地元消防士さんへのインタビューが、東電テレビ会議などの記録と併せてうまく構成されており、本書ではじめて気付いたことが多かった。同時に、他の様々な組織や個人の行動や思いも忘れ去られようとしているのだろうとも思った。
0投稿日: 2024.06.23
カフカ断片集―海辺の貝殻のようにうつろで、ひと足でふみつぶされそうだ―(新潮文庫)
フランツ・カフカ,頭木弘樹
新潮文庫
まさに「海辺の貝殻」のような珠玉の断片がいっぱい
カフカは有名どころしか読んだことが無く、それもちゃんと読めてないという自覚がある読者なのですが、自由な解釈に開かれた1行から数ページの言葉たちが並ぶこの本は、とても良かったです。 なお新潮社によくあることなのですが、ReaderStoreでは試し読みができず、他店で試し読みがある場合も目次しか読めないのが残念です。推したいのに!
0投稿日: 2024.06.16
我が友、スミス
石田夏穂
集英社文庫
筋肉とマシンの躍動感が素晴らしい
筋トレにのめり込む女性の物語。著者ご本人も週5で愛好されているという。各種マシンの名前からボディビル競技へと私にとっては未知の世界が実に生き生きと描かれていて、とても面白かったです。
0投稿日: 2024.06.07
アクセシブルブック はじめのいっぽ 見る本、聞く本、触る本
宮田和樹,馬場千枝,萬谷ひとみ
ボイジャー
ReaderStoreも読み上げ対応を進めて欲しい
視聴覚や文章理解に障害や困難を抱えている人へ向けて様々に開発されてきた「本」の諸形態や提供方法と、その意味が語り下ろされる。技術的・実践的・歴史的・制度的な切り口から「読書のユニバーサルデザイン」が切り拓かれてくるのが浮き彫りになって面白い。GPT-4oが写真やイラストを解説できることでの拡がりも興味深く、本の世界にはまだまだ様々な可能性とチャレンジがあると感じた。
0投稿日: 2024.06.06
ガザとは何か~パレスチナを知るための緊急講義
岡真理
大和書房
イスラエルのナラティヴによる思考停止から逃れること
2023年10月末に逸早く行われた講演を年末にスピード出版されたもの。にも関わらず10月7日から222日経ってようやく読めた。 イスラエルによる虐殺を非難することは「反ユダヤ主義」でも何でもないこと、ガザの封鎖はアパルトヘイトそのものであること、そして人道問題である以前に政治的解決が求められる問題であること、など緊迫した情況への鋭い言葉に溢れていた。
0投稿日: 2024.05.16
情報公開が社会を変える ――調査報道記者の公文書道
日野行介
ちくま新書
まさに「道」の境地
本来は共有物であるのに「役所のもの」だという空気を帯びている公文書を取得し分析するポイントがまとめられている。ハウツーに近い説明や実例に則した反省など具体的で分かりやすくサクサク読めるとともに、公文書管理と情報公開の両制度を使い倒すことが健全な民主社会を支えるという言葉に説得力がある。そして「黒塗り」を見ると隠したい意図の見当が付くようになってきた、というのが凄い境地だと思った。
0投稿日: 2024.04.24
