
ガザとは何か~パレスチナを知るための緊急講義
岡真理
大和書房
イスラエルのナラティヴによる思考停止から逃れること
2023年10月末に逸早く行われた講演を年末にスピード出版されたもの。にも関わらず10月7日から222日経ってようやく読めた。 イスラエルによる虐殺を非難することは「反ユダヤ主義」でも何でもないこと、ガザの封鎖はアパルトヘイトそのものであること、そして人道問題である以前に政治的解決が求められる問題であること、など緊迫した情況への鋭い言葉に溢れていた。
0投稿日: 2024.05.16情報公開が社会を変える ――調査報道記者の公文書道
日野行介
ちくま新書
まさに「道」の境地
本来は共有物であるのに「役所のもの」だという空気を帯びている公文書を取得し分析するポイントがまとめられている。ハウツーに近い説明や実例に則した反省など具体的で分かりやすくサクサク読めるとともに、公文書管理と情報公開の両制度を使い倒すことが健全な民主社会を支えるという言葉に説得力がある。そして「黒塗り」を見ると隠したい意図の見当が付くようになってきた、というのが凄い境地だと思った。
0投稿日: 2024.04.24情報セキュリティの敗北史
アンドリュー・スチュワート,小林啓倫
白揚社
Microsoftの取り組みをあらためて知って見直しました
ENIACからの歴史を情報セキュリティという観点で掘り下げると、初期のホストコンピュータにあった課題が度々再発しているようだ(ex. DDoS)。OSやアプリはかなり堅牢になってきたものの、最弱点の移行や政府機関による脆弱性情報の占有など、現象からでは見落としがちな諸問題が整理されていて勉強になった。但し「諸説ある」話が一通りの解釈だけで説明されているところがあり、著者の評価を鵜呑みにはしない方が良さそう。
0投稿日: 2024.04.10トランスジェンダー入門
周司あきら,高井ゆと里
集英社新書
トランスを通して見えてくる、マジョリティをも含む社会課題
トランスのみならずジェンダーについて、自分がいかに無知だったかよく分かった。そして、まだよく分かっておらずグルグルと考えている。 トランスの人は「出生時のラベリング」と「ラベル付けられた性らしさを求められること」の2重の違和を抱えている。後者は私自身にも付きまとってきたが、シスでヘテロというマジョリティでも抱えている課題へも多く言及されていて、社会や制度の不備や直す手立てなど様々な角度からの手がかりが得られてよかった。
0投稿日: 2024.02.24イスラームから見た西洋哲学
中田考
河出新書
西洋思想の内側からは得られない視点が多数
様々な西洋哲学者の考えをイブン・タイミーヤを初めとするイスラーム法学者らの考えと対照させるところが流石にユニークで、硬軟織り交ぜた文体もよかった(おそらく体調が悪くて打ち込みと口述が混淆しているのでしょうが)。 1900年に没したニーチェが「今後2世紀はニヒリズムの時代だ」と予言した通り真偽善悪が揺らぐ中、一見それらしい社会課題に右往左往することはニヒルの深淵から目を反らしているだけで、ニヒルの闇を直視しないと希望があっても見えてこないというメッセージは厳しい。畳み掛けるような「おわりに」の数ページを何度か反芻したい。
0投稿日: 2024.02.13スーフィズムとは何か イスラーム神秘主義の修行道
山本直輝
集英社新書
遠い国なのに、不思議なほど近い感性
NARUTOなどのジャンプ漫画に見られる師と弟子の関係性や道の極め方がスーフィズムと似ていてムスリムに人気らしい。「神秘主義」と訳されるとおどろおどろしく感じるけれど、人道支援NGO活動を行い社会に生きて奉仕するように「教条的な伝統芸」ではない面が多くある。武道や茶道に似た「型」の重視、人間の弱さと向き合う姿、ある教団では最高位奉仕職が料理長、など多くのエピソードが興味深かった。
0投稿日: 2024.01.24白亜紀往事
劉慈欣,大森 望,古市 雅子
早川書房
旧作ながら新鮮
昔々あるところで、恐竜さんと蟻さんが出会うことから始まる壮大なお伽噺。設定の巧妙さと筋立ての力強さ(強引さともいう)が面白かったです。 「三体」の四年前、作家として駆け出しの頃の作品らしい。最近、日本オリジナルの旧作短編集が出ているようですが、新作が出たら読みたい。
0投稿日: 2024.01.22イル・コミュニケーション 余命5年のラッパーが病気を哲学する
ダースレイダー
ライフサイエンス出版
とにかく前のめり。かっこいい。
今年の初読み。社会や政治をストレートに語る隻眼のラッパーが、自らの生涯と考えを抜群のリズムに乗せて書きあげた1冊。 様々な体験が人生の流れの分岐点であるように、病気になるということは病気になった後の自分に進むのだ、などの熱い言葉がこれでもかと出てきて、しかし押しつけがましくない。なかなか得がたい読書体験でした。 なお、発行当初は固定レイアウトでしたが、2024年初にリフロー形式に差し換えられて読みやすくなっています。
0投稿日: 2024.01.15三酔人経綸問答
中江兆民,鶴ヶ谷真一
光文社古典新訳文庫
「100分 de 名著」から来ました
2023年12月の「100分de名著」で平田オリザ氏が指南されている書。 時は明治20年。外には帝国主義に翻弄され、内には帝国憲法発布前の侃々諤々の頃。左右の極論とまどろっこしい漸進論を見通しよく読ませ、考えさせるのに「酔っ払い3人の談義」+眉批(欄外注)という体裁が見事だ。さらに、解説を通して時代背景などの周辺情況が深まり面白い。原文は流し読みしただけだけれど、リズムがとてもよく、弁舌を想像するのも楽しかった。
0投稿日: 2023.12.25本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部「女神の化身XII」
香月美夜,椎名優
TOブックス
ここまで読み継いできた読者へのご褒美エピソード満載です
web版は様々に忙しくなってきたタイミングで、考えられる最短から2番目のプロットだったとのこと。この書籍版では分量的にも約3倍に充実して丁寧にお話を仕舞うとともに、次に来る「ハンネローレの貴族院五年生」との情報ギャップも埋めていて、感無量の内容でした。 なお、カラーのピンナップは末尾にあります。しかも3枚!
0投稿日: 2023.12.09