
別冊NHK100分de名著 フィクションの超越者 筒井康隆
中条省平,池澤春菜
NHK出版
「虚構船団」電子版が固定レイアウトで、とても残念
2025年正月の「100分de名著」特番におけるディープ討論を踏まえて、各指南役により書き下ろされた別冊。番組で語られた筒井御大の凄みが、テキストからも滲み出てきて面白かったです。 出てきた中で既読は数冊だけ。大森さん最推しの「虚構船団」は固定レイアウトで残念だけれど、他に何冊かピックアップしたので、近いうちに読もう。
0投稿日: 2025.09.04町の本屋はいかにしてつぶれてきたか
飯田一史
平凡社新書
コップの中の嵐で体力が削られていったように見える
書店経営の視点から、様々なデータを元に「町の本屋」さんの経営が成り立たなくなってきたことを分析している。元々文化政策が弱い上に流通の力関係から普通の商いとかけ離れた「儲からない」構造があるところ、大手書店やコンビニとの競争と雑誌売り上げの減少が痛かったようだ。一方、図書館無料貸本屋論・Amazonに持っていかれた論・電子書籍化論などは言われるほどでない(というか見当違い)らしい。 いま経済政策として書店振興が言われているが、むしろ文化政策が必要だと思った。
0投稿日: 2025.08.19「イスラエル人」の世界観
大治朋子
毎日新聞出版
イスラエル2000年のナラティブの政治利用を打ち砕くには
ホロコーストを重要な契機として作られた国家に、どうしてパレスチナへのジェノサイドが可能なのか。 ひとつにはイスラエルでは幼稚園からユダヤ人がやられたことだけを教えており他の虐殺への想像が働かない。また、絶対的な国防力の安全神話が破られたことによるパニック状態と、国際法より遙かに長いユダヤの教義を利用するネタニヤフらの保身と利益。そして自衛権の拡大解釈で都合がいい国々の黙認状況、など。 こうして腑分けすることで見えてくる希望も少しはあったが、やはり厳しい。
0投稿日: 2025.08.16本好きの下剋上 ハンネローレの貴族院五年生2
香月美夜,椎名優
TOブックス
1巻からジャスト1年経っていました
いつの間にか神々に巻き込まれ/巻き込んでしまった代償で、多くの領地を巻き込んだ騒動が膨れあがるが、まだ本番前。一体全体どんな結末に導こうとされているのか、ますます楽しみです。 書き下ろしのエピローグ&SS2本ではダンケルフェルガー以外の状況が語られ、本編中のキーになった言動や行動の種明かしが面白かったです(そして多分に切ない)。
0投稿日: 2025.08.10ネオ・ユーラシア主義 「混迷の大国」ロシアの思想
浜由樹子
河出新書
プーチンは案外ポピュリストで、支持者の背景がこれなのかも
ウクライナ侵攻後に様々なところでプーチンの思想的背景として語られる「主義」の系譜と内容そしてプーチンとの関係について冷静に考察している。ロシアの中道左派〜極右そして指導層〜民衆まで様々な形で浸透している思想ではあるが融通無碍で、国家統合ナラティブになり得るまで昇華されておらず、侵攻とも直接の接続は無いという卓見。まさしく知りたかった内容で、とても面白かったです。
0投稿日: 2025.07.29イマリさんは旅上戸2
結城弘,さばみぞれ
GA文庫
移動距離は短いのにめっちゃ濃いのは、この土地ならでは
1月に1巻が出た滋賀県在住ライターさんによるラノベデビュー作の続きがもう出た。語り部ハシビロくんの性癖はますます冴え渡り、主人公から脇役まで個性的な面々を配置しつつ、きちんと筋は通すバランスが楽しかった。ハシビロくんの出身地を1巻の段階では読み違えていましたが、いま思えば納得です。
0投稿日: 2025.06.14追跡 公安捜査
遠藤浩二
毎日新聞出版
毎日新聞とNHK以外の追求は弱かった
毎日新聞記者の本。著者らによる大川原化工機冤罪事件の報道はオンタイムで読んでおり、そのまとめだと思って後回しにしていたのだが、あに図らんや記事になっていない内容が山ほどあって驚いた。「捏造」「マイナス証拠の排除」「検察への情報隠蔽」等を繰り返す警視庁公安部、さらには面子にこだわり現場を蔑ろにし公益通報さえ握りつぶす警視庁上層部、思った以上にヤバいです。メディアによる権力監視の重要性もあらためて痛感しました。
0投稿日: 2025.06.07NHK 100分 de 名著アトウッド『侍女の物語』『誓願』2025年6月【リフロー版】
日本放送協会,NHK出版
NHK 100分 de 名著
2冊とも電子化されている。ぜひ読みたい。
おととい(2025/06/02)番組が始まったところで、ぎりぎり予習できた。どうして2冊なのかという基本的な疑問が完全に解消したとともに、今まさに読んでおきたい名著だと思う。主題とは異なるところで、非特権階級のモブ男性(「保護者」と称される「女性を割り当てられていない」存在)の描かれ方も気になります。
0投稿日: 2025.06.04謎の香りはパン屋から
土屋うさぎ
宝島社
お腹がすいてくる1冊
私が生まれ育った大阪府池田市のお隣・豊中が舞台になっていて懐かしく、日常系ミステリィに求めている養分がいっぱいバランスよくライトに盛り込まれていて楽しかったです。そして、美味しいパンが食べたくなってしまうおまけ付き!
0投稿日: 2025.05.27別れを告げない
ハン・ガン,斎藤真理子
白水社
一年遅れでも電子化してくれた白水社さんに感謝
冒頭数ページの不思議な情景が反復して現れ、肉付けられていくのと裏腹に生命が薄れていく感覚に見舞われる連続。どこか遠い出来事だったジェノサイドが急に身近に立ち上がってくる凄まじさに震えつつ、どうしても最後まで離してくれない引力。久しぶりに文学の底力を感じました。
0投稿日: 2025.04.21