Reader Store オフィシャルさんのレビュー
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岩合光昭写真集 岩合さんの好きなネコ
岩合光昭 / 辰巳出版
ネコ好き必見
10
近年のネコブームとは関係なく、長い間、ネコ写真界の最前線にいる動物写真家の岩合光昭。もちろん本人は猫以外にも多種多彩な動物写真を撮影していますが、ここ数年のネコの大ブームで猫写真家と思っている人もいる…かもしれません。
岩合さんが全国を巡って撮ってきたネコ写真の数々を集めた本書。見ればわかるけれど、ネコに対峙する岩合さんの目線はとても低い。怖がりなネコたちが怯えないよう、目線をネコと揃えているからです。
九州から東北の端のほうまで。登場するネコはどう観たってかわいいに決まっているのだけれど(ネコ贔屓)、野生のネコに慣れた岩合さんだからこそ撮れた写真であることをすっかり忘れてしまいます。それだけ自然な姿で、飼いならされない野良や半野良をカメラに収めるのは想像しているよりも難しいのです。
あまたのネコを撮ってきた岩合光昭の好きなネコって、いったいどんな子たちなのか、見てみたくなりませんか? 続きを読む投稿日:2016.11.28
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女装して、一年間暮らしてみました。
クリスチャン・ザイデル, 長谷川圭 / サンマーク出版
“男らしい”という呪い
10
スカートを履き、化粧を施し、果てには人工乳房までつけてしまう。
男性の著者が行った女装生活という”実験”、その1年間の記録をまとめたのが本書です。
自分の性に疑問を持ったわけでも、遊びとして女性の振…る舞いをしているわけでもない。
彼がウィッグを付けてハイヒールで歩くのは、「男らしさ」という檻から抜け出すためでした。
ある日、ストッキングに足を通してみて、その快適さにやみつきになってしまった著者。
しかし、もちろん世間ではストッキングは女性のための道具。
ストッキングを履いていることを妻に話すと彼女は呆然とし、女装を続ける彼に妻は不安を募らせていきます。
でも、そもそもどうして男性はストッキングを履いてはいけないのだろう?
暗黙のうちに世界で了解されている「男とはこういうものだ」という男性を縛るルールに、彼は身をもってぶつかっていきます。
コミカルで読みやすい内容だけれども、本書から突きつけられる疑問は簡単にはやり過ごせない。
読後には「性とは何か?」と自分自身が考えさせられてしまう、そんなノンフィクションです。 続きを読む投稿日:2015.09.10
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数寄です! 1
山下和美 / YOU
女漫画家 東京都内に 数寄屋を建てる
9
漫画ばかりを書いてきたから世間知らず、と自身を評する山下和美が、大胆にも数寄屋造りの家を建てることを決意。
様々なトラブルに立ち向かいつつ、理想の家づくりを目指すコミックエッセイです。
彼女が求める…ものは、和風ではなく、あくまでも「和」そのもの。
偶然出会った建築家・蔵田とともに、こだわりを追求していくのですが、和の家に合う自分であるべく、なんと茶道や着付けに挑戦していきます。
ずっとマンガ家一筋で生きてきた山下の「世間知らずのまま、年齢だけくって」という言葉には、家という人生最大の買い物をするに至る人生の逡巡や葛藤や重く含まれています。
土地選びから建築資金の調達まで、家を建て始める前から課題はたくさん。
家を建てるという一大事に、読み手である僕たちも何だかハラハラしてしまいます。
続きを読む投稿日:2014.06.23
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猫楠 南方熊楠の生涯
水木しげる / 角川文庫
異色の天才同士が紡ぎ出す奇妙な人物伝
9
1867年に生まれ、生物学、博物学、民俗学など公汎な分野で活躍した南方熊楠。大学や研究機関には所属せずフリーの研究者として活動を続け、海外旅行中に資金が尽きた時はサーカス団の一員となって生活し、最終的…には18カ国語を話したという、数々の逸話を残した彼。まさに怪人と呼ぶに相応しい彼の生涯を、同じく希代の怪人、水木しげるが描き出していきます。
水木の作品ということもあり、人物伝にも関わらず幽霊や妖怪が当然のように登場。しかし、そこに違和感を覚えないところに南方熊楠の懐の深さがある、と言えるかも知れません。
水木の描く物欲や出世欲もなく常に自由な南方は、誇張して描くマンガにあって、むしろその本質をちゃんと表現しているように感じらるから不思議。読み進めていく内に、もっともっと南方熊楠という人を知りたくなる、魔力のある1冊。 続きを読む投稿日:2016.01.15
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ヤクザと原発 福島第一潜入記
鈴木智彦 / 文藝春秋
私たちがつくり出したタブー
9
暴力団専門のライターが、原発に作業員として潜り込んで実情をレポートする。社会の裏の裏、アンダーグラウンドで起きている実体を描き出したのが、本書『ヤクザと原発』です。
原発という”シノギ”に、暴力団が…深く関わっていることを知った著者。深く取材していこうと思うものの、彼らは原発については非常に口が重い。それならば、と自ら作業員として職に就き、原発内に忍び込んでいきます。
そこで明らかになっていくのは、原発とヤクザの関係性だけでなく、日本国内での”原発”という存在を支え続けてきたムラ社会の実相。地縁・血縁で強く繋がった社会では情報がオープンにならず、原発という存在もどんどんとタブー化していく様を描き出していきます。
著者の目を通して衝撃的な事実が露になっていくルポタージュであり、「日本人と原発」と言い換えられる、私たちと原発との関係性を追求していく良質なノンフィクションです。 続きを読む投稿日:2016.01.07
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悪童日記
アゴタ・クリストフ, 堀茂樹 / ハヤカワepi文庫
淡々と紡がれる不条理に、あなたは何を思う。
9
「ぼくら」と自称する双子の兄弟。
親元を離れ意地悪な祖母に預けられた彼らは、その日々を日記に書き込んでいきます。
この小説では、人名や地名といった具体的な情報が明かされないのですが、端々の描写から第…2次世界大戦下を舞台としていることが窺い知れます。
厳しい環境の中、肉体的にも精神的にも自分自身を鍛え上げていく彼ら。
時には、窃盗や殺人にも躊躇無く手を染めていきます。
事実のみを記すと決めた日記には、衝撃的な事件も淡々と簡潔に紡がれていく。
彼らは一体何を思いながら生き抜いていくのか。
感情の込められないふたりの言葉の鋭利さと淡々とした苛烈な事実が突きつける想像力にゾクゾクします。
続きを読む投稿日:2014.12.01