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Reader Store オフィシャルさんのレビュー
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  • うたかたの日々

    うたかたの日々

    ボリス・ヴィアン,伊東守男

    ハヤカワepi文庫

    不可思議な世界で描かれる切ない恋物語

    著者のボリス・ヴィアンは冒頭、人生において大切なことは2つしかないと書きます。“1つは恋愛。とにかくかわいい娘との恋愛。もう1つは音楽。それもニュー・オリンズかデューク・エリントンの音楽だ。他のものはなくなってしまえばいい、醜いんだから」”。 本作の主人公、お金持ちの青年コランは、デューク・エリントンの愛する曲「クロエ」と同名の女性と出会います。愛が燃え上がる一方、クロエは肺に睡蓮が咲くという奇病にかかってしまいます。高額な治療費が必要になり、働かなくてもよかったコランはクロエのために働き始めるのです。 ただ自由に暮らし、愛し、過ごしていた日々は終わり、お金と命という過酷な現実が目の前に横たわります。つらく悲しいボーイ・ミーツ・ガールの物語は、ファンタジックな空想と現実が入り混じり、世界は主人公たちの悲しみとシンクロしていきます。 20世紀を代表する悲痛な愛の物語として、読み継がれてきた本作。ボリス・ヴィアンは、小説家でありトランペット奏者であり、歌手、詩人、批評家、劇作家、俳優でもあった、稀代のマルチアーティスト。セルジュ・ゲンスブールの先駆け的な存在としていまなお古びないヴィアンの世界は、何度読み返してもなぜかあきることがないのです。

    1
    投稿日: 2017.04.21
  • オリンピックの身代金(上)

    オリンピックの身代金(上)

    奥田英朗

    講談社文庫

    竹野内豊&松山ケンイチ初共演のドラマ原作

    オリンピックとは誰のための、何のためのものなのか。誰かを犠牲にしてできあがる繁栄、経済成長は虚栄ではないのか。 日本が世界のトップへ上り詰めようと高度経済成長期の1964年。秋田の田舎から、東京大学に入学した奇跡的な存在である主人公島崎国男。東京オリンピックを数カ月後に控え、急ピッチで進められる工事に出稼ぎとしてやってきていた兄が死を迎え、物語は動き始めます。 大学院でマルクス経済を学ぶ国男が違和感を持った、労働者と資本家の関係、日本の繁栄を独り占めするかのような東京とその裏に存在する地方の関係、行動しない左翼学生たち。テレビ局に勤務し、オリンピック警備を担当する警察の責任者を父に持つ国男の同級生(資本主義側)と、妻と子どもと憧れの団地住まいを始めた公安の刑事(国/権力側)という、立場や考えの異なる三者の思惑と行動を、時間軸を巧みに操りながら交差させていきます。 かつての東京オリンピックは、戦後復興を世界にアピールする日本の誇りなのか。それとも、オリンピックは国民をだます隠れ蓑であり、革命をひとり叫ぶ国男の行動はひとりよがりなのか。まるで今回のオリンピックを見るような部分も多く、3年後のオリンピックへ向けて、変わっていく東京の街を見ながら何を思うのでしょう。

    3
    投稿日: 2017.04.21
  • 新月譚

    新月譚

    貫井徳郎

    文春文庫

    今年2月に2006年の作品『愚行録』が映画化され話題となっている貫井徳郎。

    本作は、直木賞候補ともなった一冊。 多くのヒット作を手がけてきた美人作家が、49歳という若さで突然絶筆を宣言。断筆中であることを知りながら、彼女のもとへ執筆依頼に行った新人編集者が明かされたのは、ある男性との壮絶な恋愛の顛末でした。 人間の邪悪な根を見るような読後感の悪い作品が多い貫井が、初めて手がけた恋愛小説。年齢をまったく感じさせない美貌の作家が語る、別人かのような過去と、変わるきっかけとなった愛し過ぎた男。読み進めるうち、美しい小説家の顔は、もはや美しいという表現では収まらない顔に脳内で徐々に変化していきます。 悪を描く貫井とは一味違いながらも、過去を語る人と語られる過去のイメージがダブりながらズレていくこの作品のドキドキに、ハマるはずです。

    1
    投稿日: 2017.04.21
  • 即席ビジンのつくりかた

    即席ビジンのつくりかた

    東村アキコ

    ワイドKC

    美しくなるために体を張って体当たり取材した大爆笑コミック

    1975年生まれのマンガ家東村アキコが、40歳になろうとした年。顔や体、つまり全身に加齢と日々の怠慢、不摂生による衰えを感じ始めます。ところが日々怠慢な人が、巷で盛んに言われる「美は一日にしてならず」という言葉を信じて、根本から生活を改めるわけはありません。 東村が願ったのは、速攻で、すぐにきれいになる方法。美容雑誌「VOCE」での連載をまとめた本書は、東村アキコが即席でビジンになることを目指し、話題の美容法を(経費で)試しにいくのです。 ほうれい線にはじまり、襟足、お腹の浮き輪肉=“ラブハンドル”、むくんだ足、傷んだ髪、眉毛に顎のたるみなどなど。女性なら一度は気にしたことのあるあれやこれや。そして施術後の効果は、たしかにすごいんです。これはやってみたい!と思わず叫んでしまいそうです。 そして、最後はメイク。いつもやっていることを変えるだけで、あっという間に今っぽいかわいいを手に入れられたことがいちばん驚きかもしれません。

    2
    投稿日: 2017.04.21
  • 子どもにウケる科学手品77 : 簡単にできてインパクトが凄い

    子どもにウケる科学手品77 : 簡単にできてインパクトが凄い

    後藤道夫

    ブルーバックス

    身近なもので子どもたちと一緒に楽しもう。

    理系、文系という人の括り方はかなり大雑把ではありますが、子どもがどちら寄りの教科を好きになるのか、興味を持てるのかで、多くは決まるのかもしれません。 本書にあるような実験を通して、科学や物理について学べていたら、その子たちは理系に行くかもしれません。“簡単にできてインパクトが凄い”という副題があるように、用意するもののほとんどはすでに家にあるもの。ファミレス、台所、お風呂、ダイニングテーブルというシーン別、そこにあるであろうものを使った手軽な実験手品。 水をひたひたにいれたコップを逆さにしても水がこぼれない?! まっすぐ進むはずのライトの光が水の流れる方向に曲がる?! 燃えない紙コップ! など、失敗したらビシャビシャだったりと大変ですが、こぼれても子どもはきっと大興奮です。

    2
    投稿日: 2017.04.21
  • BTOOOM! 1巻

    BTOOOM! 1巻

    井上淳哉

    月刊コミックバンチ

    アニメ原作!悪夢の「リアルボンバー殺人ゲーム」

    ニートの坂本竜太はオンラインゲームの最強プレイヤーとして日々を過ごしていました。ところが、突如何者かに連行され、気づくとそこは南海の孤島。まったく状況が飲み込めない竜太に爆弾を持った男が襲いかかってきます。それはまるでそれまでやっていたゲームと同じような設定であり戦闘のやり方で。 最近多いジャンルの作品で、突如ある設定の中に強制的に連れ込まれ、プレイヤーとして役割をこなしていくというタイプの物語。何もわからない状況で何ができるのか、何でも揃う便利な世界から、自分自身そのものの知恵や力でもって何ができるのかという、極限での人間性を浮き上がらせるサバイバルものになっています。 自信満々でゲームをプレーし、仲間からチヤホヤされる一方、家では親から就職について言われて切れる日々。ゲームで最強、現実には弱い男が、現実=ゲームになったらどうなるのか。ニートは最強の人間になれるのか…

    1
    投稿日: 2017.04.21
  • ウムヴェルト 五十嵐大介作品集

    ウムヴェルト 五十嵐大介作品集

    五十嵐大介

    アフタヌーン

    『ディザインズ』が話題の五十嵐大介の、2004年から2014年にかけて描かれた短編集。

    未確認生物がモチーフとした10編で、表題作の「ウムヴェルト」は『ディザインズ』の原型となった宇宙時代の生命のあり方を問う“動物の人間化”についての作品。“ウムヴェルト”は生物学における環世界を意味します。環世界は、それぞれの生物種が持っている独自の世界認識に基づいた世界の捉え方。ここで明示されないけれど、裏にある神の環世界という考えにはドキッとします。 自己中心的な人間がそれぞれの環世界を持つ他の未確認生物に対して、どんな距離を取り、どんな生き方をしていくのか。五十嵐大介はそのことをずっと描き続けているといってもいいかもしれません。そうしたエッセンスが、ごく短いお話のなかにしっかりと込められています。

    2
    投稿日: 2017.04.21
  • 海王ダンテ(1)

    海王ダンテ(1)

    皆川亮二,泉福朗

    ゲッサン

    ワクワクが詰め込まれた大注目の海洋ロマン活劇

    2007年から連載していた『PEACE MAKER』が昨年完結し、今年新たにはじまった皆川亮二の新連載『海王ダンテ』。原作は、海洋ロマンダイバー物語『ポセイドンの財宝』の原作を手がけ、皆川亮二を信奉する泉福朗。 「超文明」×「召喚術」×「海賊」×「世界征服」と帯に書かれた本作は、『スプリガン』や『ARMS』『ADAMAS』など、皆川が著作の多くでも描いてきた多くのモチーフが、新しい姿で描かれています。 吹雪が吹き荒れる北極。祖父から譲り受けたという背中に巨大な“本”を背負った少年は、徒歩で現れます。子供とは思えない、あらゆる知識に精通し、北極点を目指しているという少年は、不思議な超自然的な力を持っているようなのです。 皆川は、人間のプライド/自負を描くことがいつも上手い。科学やオカルトのようなギミックを取り入れながらも人間が戦うことの根がそこにはあります。 1巻はまだまだ謎が謎を呼ぶまま終わりますが、本はいったい何のために存在しているのか。そして死んだ少年の祖父とはいったい何者なのか。

    1
    投稿日: 2017.04.21
  • ゲレクシス(1)

    ゲレクシス(1)

    古谷実

    イブニング

    表紙絵に偽りナシのインパクトとカオスっぷり

    これは一体なんなのか。カフカの『変身』に感じる不条理とは違うけれど、圧倒的な不条理な変身譚という点だけは同じ。 バウムクーヘンを作り続けて23年、39歳の大西たつみは、公園で見かける女性に恋をしてしまいます。ところが、その女性はこの世に存在しているのかしていないのか、見える人にしか見えないという謎の人。勇気を出して声をかけたところ、その女性の顔は謎としか言えないような卵頭の男に姿を変えるのです。 そしてその男に触れられた大西も…。変身物語は基本的にいつも不条理なものですが、この作品の不条理さは、変身してしまう姿形のユーモアと悲哀によって、世界に馴染んでいきます。そしていつの間にか展開していくストーリー。 もはや何故という疑問を持つよりも、古谷実作品内ではバケモノ的な変身もキャラクターの一種として人間的に成立することのスピード感と納得感が勝ってきます。 とはいえ、今作のキャラクターの顔はいつも以上にインパクトがあります。

    2
    投稿日: 2017.04.21
  • 大人スキップ 1

    大人スキップ 1

    松田洋子

    ビームコミックス

    いつも人間の居場所を描くマンガ家松田洋子の新作は、心は14歳、体は40歳の女性の人生。

    家のベッドから落ちて頭を打った14歳の希子は、意識不明の昏睡状態に陥り、26年後、40歳になった時に目覚めました。完璧に空白の26年間。近くにいてくれる看護師の黒田けいと“くろけー”と共に、改めて時計の針が進みだします。 病院を出れば、ただの40歳の女性。心はまだ思春期真っ只中の14歳で、まだ親離れもできていなければ、社会なんてものも何もわからりません。親を見ていて、なんとなく知っている大人を演じながら、だけどいつも現実は辛すぎる。 読んでいる私たちも実際の年齢通りに精神年齢も付いてきているか、なかなか自信を持って言えない人もいるかもしれません。14歳の少女は、どうやって26年分の折り合いをつけていくのか。不安と期待と裏切りと奇跡の物語。

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    投稿日: 2017.04.21