Reader Store オフィシャルさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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舟を編む
三浦しをん / 光文社文庫
辞書通りの言葉の意味はわかっても、人間通しの生きた言葉は辞書通りにはいきません。
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玄武書房で働く編集者馬締光也(まじめみつや)。
名前のとおりに真面目な男は、日頃雑に扱われてしまっている言葉にも敏感でした。
そんな彼が異動を命じられたのは、辞書『大渡海』を編む辞書編集部。
定年間…近のベテラン編集者や老齢の日本語研究者には教わることばかりだが、チャラチャラした編集部の男は、馬締との辞書作りによって、徐々に辞書に愛情を持ち始める。
そしてひとりのステキな女性。
辞書通りの言葉の意味はわかっても、人間通しの生きた言葉は辞書通りにはいきません。
果たして『大渡海』は完成するのか――。
馬締は恋する気持ちを、どんな言葉で定義ではなく表現するのでしょうか。 続きを読む投稿日:2014.05.08
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聖書男(バイブルマン) 現代NYで「聖書の教え」を忠実に守ってみた1年間日記
A.J.ジェイコブズ, 阪田由美子 / CCCメディアハウス
清く正しい生活?
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聖書に書かれている教えを、文字通りにそのまま現代社会で実践していった奇妙な1年をまとめたのが、この『聖書男』だ。聖書が書かれた当時であれば、それはそれほどありえないことではなかったかもしれない。ところ…が、現代それを実行しようとすると…。
月の始めには角笛を吹き、髭は剃らずに伸ばし続け、うそをつかないように努力する。
リストアップされた700余りの戒律を守りながらの生活は、かなり異様で異色で偉大です。
しかし、今の時代にそぐわない教えを笑い飛ばすのではなく、その戒律が生まれた理由は何なのか、戒律が生活を相容れない現代社会とは何なのか、宗教は人々にとってどんな意味を持つのか、といった深い部分まで議論されているのが素晴らしい。 続きを読む投稿日:2014.06.18
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妻は、くノ一
風野真知雄 / 角川文庫
男の憧れでもあるかもしれない
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奥さんがくノ一。しかも美人。萌える人は間違いなく萌えるこのシチュエーション。剣の腕はからきしダメだけど、三度の飯より星が好きという書物天文方の雙星彦馬に嫁いできた織江が一ヶ月足らずで失踪してしまいます…。悲嘆に暮れながら探索を続ける彦馬に、藩主の松浦静山が謎解きを依頼し、彦馬は持ち前の知識で解決していくのですが、その裏では織江が手助けしているのです。この松浦静山は、江戸研究者、江戸時代好きには欠かせない人物。当時の政治経済、文化、風俗を詳細に記述した「甲子夜話」という随筆を書いた人なのです。エンタメ作品としても楽しみながら、そうした人物に裏付けられた文化、風俗の描写でいつの間にか詳しくなっているかもしれません。(スタッフI) 続きを読む
投稿日:2013.09.20
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すごい実験 ―高校生にもわかる素粒子物理の最前線
多田将 / イースト・プレス
この世でもっとも巨大な装置で、この世でもっとも小さな物質をつかまえる
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「ニュートリノ」という言葉を新聞やテレビのニュースで目や耳にした人は少なくないのでは。
とても大切な発見のように語られていますが、そもそもニュートリノとは何なのか?
物理学の最前線で行われている実験…の内容とその面白さを、とことん噛み砕いて伝えてくれるのがこの本。それもそのはず高校で実際に行われた授業をもとに、この本が作られているから。
理屈を説明するだけでなく、イメージ図も用いて丁寧に解説してくれるので、「理系の本はちょっと…」という人でも安心して読めるはず。
さらには、ガンダムやエヴァンゲリオンで使われていた武器が現実で使われたらどうなるか、なんて心くすぐる話題も満載。この世でもっとも巨大な装置で、この世でもっとも小さな物質をつかまえる、そんなワクワクしないはずがない実験をお楽しみください。 続きを読む投稿日:2014.06.10
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ストロベリーナイト
誉田哲也 / 光文社文庫
事件現場を追う、女の生き様
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誉田哲也の女刑事「姫川玲子のシリーズ」第一弾。あまりに凄惨な殺害現場は、犯人の抑えきれない憎しみの表れか、それとも単なる猟奇性なのか。タイトルの「ストロベリーナイト」は、インターネットで参加者を集って…参加者内から犠牲者を決め、ゲームでもするかのようにターゲットを殺害していくという恐ろしき犯罪ショーのこと。遊び半分にも匿名サイトにアクセスして、オンラインで集う様々なコミュニティに気軽に参加できる昨今、突如殺人の標的にされてしまうという設定には寒気がしてしまいました。過去に自らを襲った事件のトラウマを抱え、犯罪を憎む姫川。殺人犯を追う姫川の姿には、警察の正義という論理とは別に、復讐心とも言えるる女の強い憤りが垣間見えてきます。(スタッフO) 続きを読む
投稿日:2013.09.20
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弟の夫 1
田亀源五郎 / 月刊アクション
分からないものの、受け止め方
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ゲイ向けの専門誌で連載を続け、海外での個展開催なども手がけてきた田亀源五郎。そんな彼が、一般紙向けでゲイをテーマとした作品を始めました。
弥一とその娘、夏菜のもとにやってきたのはマイクと名乗るカナダ…人の屈強な男。彼は、亡くなった弥一の双子の弟の結婚相手でした。何だか少しぎくしゃくしながらも、奇妙な3人の共同生活が始まっていきます。
弥一は、同性愛を憎んでいるわけでも、嫌っているわけでもありません。でも、どうしても「マイクがゲイである」ということをうまく受け止められない。
風呂上がり、パンツ一丁で出ていくのは危ないのでは?
いや、こうやって考えることが自体が自意識過剰で、差別的なんじゃないか?
そんな弥一の感じる戸惑い、葛藤を身近に感じる人も多いはず。自分が無意識に持っていた偏見に気づきつつ、一歩一歩マイクとの距離を縮めていく弥一。同性愛者と異性愛者、といった単純な図式ではなく、異なる人間同士の衝突と繋がりを丁寧に描いていきます。 続きを読む投稿日:2015.10.29