Reader Store オフィシャルさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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猫楠 南方熊楠の生涯
水木しげる / 角川文庫
異色の天才同士が紡ぎ出す奇妙な人物伝
9
1867年に生まれ、生物学、博物学、民俗学など公汎な分野で活躍した南方熊楠。大学や研究機関には所属せずフリーの研究者として活動を続け、海外旅行中に資金が尽きた時はサーカス団の一員となって生活し、最終的…には18カ国語を話したという、数々の逸話を残した彼。まさに怪人と呼ぶに相応しい彼の生涯を、同じく希代の怪人、水木しげるが描き出していきます。
水木の作品ということもあり、人物伝にも関わらず幽霊や妖怪が当然のように登場。しかし、そこに違和感を覚えないところに南方熊楠の懐の深さがある、と言えるかも知れません。
水木の描く物欲や出世欲もなく常に自由な南方は、誇張して描くマンガにあって、むしろその本質をちゃんと表現しているように感じらるから不思議。読み進めていく内に、もっともっと南方熊楠という人を知りたくなる、魔力のある1冊。 続きを読む投稿日:2016.01.15
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京都魔界案内~出かけよう、「発見の旅」へ~
小松和彦 / 光文社知恵の森文庫
夏の京都旅行は、これで涼みましょう
9
京都の有名なお寺巡りには飽きた、という方は、こんなガイドマップを手にしてみるのはいかがでしょうか。
民俗学者であり、「妖怪学」の権威でもある著者が、京都の各所に隠された怪異の物語を紹介していきます。
…
本書の興味深いところは、通常のガイドマップには載らない場所も紹介しつつ、清水寺や三十三間堂といった著名な観光スポットに隠された伝説も紹介していくところ。誰しもが行くあの場所に、秘密が隠されているなんて、ちょっと驚きです。
写真や資料も豊富で、民俗学的な目線からしっかりと楽しめるのも気持ちいい。
これまた妖怪研究の第一人者である京極夏彦が寄せた解説も、必読です。
続きを読む投稿日:2014.06.23
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マリー・アントワネット
惣領冬実 / モーニング
ヴェルサイユ宮殿が監修したアントワネットの美しき世界
9
なんと繊細で美しい絵なのかと、読みながら時おりため息が出ます。
それもそのはず。フランスの出版社グレナ社と共同企画で出版された本書は、ヴェルサイユ宮殿美術館国有地公団が取材や資料提供に全面的に協力し…、意匠、建築、王宮儀礼に渡るまで全面的に監修した市場はじめてのマンガ作品。
ロココ時代の絢爛豪華な衣装やインテリア、庭園を見せるための止絵の構図の素晴らしさ、そして微に入り細に入ったディティール表現は、マンガという枠を超えた資料性すらも持ちうるほどかもしれません。
人物を描く時、セリフに集中すべき箇所は背景を大胆に省き、描くべき人間と文化の混在もコントラストも丁寧に描き分けています。巻末には細かな人物紹介や歴史解説等もあり、勉強として読んでもとても役立つでしょう。 続きを読む投稿日:2016.12.20
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沈黙の艦隊(1)
かわぐちかいじ / モーニング
ありうる未来を想定しつつ読んでみる
9
1988年から96年にかけて連載されたこのマンガが、現代の政治や国際情勢に訴えかける射程は驚くほど広いのではないでしょうか。アメリカの原子力潜水艦「シーバット」を日本の海自が占領、独立戦闘国家「やまと…」と名乗り、世界に自らの思想を発信していきます。“政軍分離”“世界政府構想”“沈黙の艦隊計画、別名SSSS(Silent Security Service from the Sea)”などなど、提示される概念は、実態が付いてきていないものもありますが、実際の政治においても検討して見ていいんじゃないかという要素を含んでいます。国連会議から去る海江田が最後に言った「地球のことは海から解決するほうがいい」という言葉は、“水の惑星=地球”に生きる自分たちの安全保障問題を考えるときに、とても重要な言葉にも思いました。マンガが最も得意とする”if”の物語のなかでも、リアリティと危機感を強く感じる名作。(スタッフI) 続きを読む
投稿日:2013.09.20
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ゴールデンカムイ 1
野田サトル / 週刊ヤングジャンプ
元軍人とアイヌの少女がタッグを組む!
8
明治37年、日露戦争で武勲をあげ”不死身の杉本”の異名を持つ杉本佐一。
戦士した親友の妻の病気を治療するため、一攫千金を求めて北海道に来たところから物語は始まります。
北海道のどこかに隠されていると…噂される、アイヌ民族の金塊。
アイヌの少女、アシリパ(リが小さいリ)と手を組んで、その在処を探す旅に出ます。
同じく財宝を狙う者たちとの死闘にも心躍るのですが、何よりもアシリパが披露するアイヌの知恵の数々に興味を惹かれます。
トドマツを利用したクチャと呼ばれる仮小屋。
リスをまるごと叩き、肉だけでなく血も骨も使った肉団子のチタタプ。
参考文献として並ぶ本を見ても分かるように、多くの資料を下敷きに展開されるアイヌの風習はどれも魅力的。宝探しあり、サバイバルあり、アイヌの生活風習あり。
様々な”面白さ”がギュギュッと詰まったエンターテイメント。 続きを読む投稿日:2015.03.18
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監督不行届
安野モヨコ / FEEL COMICS
オタクの生態観察のなんと楽しいこと!
7
マンガ家安野モヨコが、夫であり、新世紀エヴァンゲリオンの監督であり、そして極度のオタクである庵野秀明(本書中での読み名は“カントク”)とのオタク尽くしの日々を描いた日常エッセイコミック。
ファッシ…ョナブルなマンガ家、美容に詳しく美しいマンガ家と形容される安野モヨコが、カントクによるオタクテロの洗礼を受け、驚愕し、ドン引きし、諭し、馴染み、いつの間にか自分も詳しく、そして好きになっていく過程が描かれる。
好きなものを好きなように恥ずかしげもなく披露するカントクのなんともいえないかわいらしさ。現実に隣にいたら震えそうだけれど、他人ごとであるこのマンガは、非オタクにとってオタクの内情を描いた第一級の資料なのである。
続きを読む投稿日:2013.12.03