Reader Store オフィシャルさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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ザ・サッカー
大橋裕之 / KANZEN
不思議なサッカー(?)漫画
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本田圭佑、香川照之、メッシも登場するけれど、全くと言っていい程本人たちのパーソナリティーが反映されていない。というか、タイトルだけで「サッカーとは関係ないんじゃないか?」と思わせる不思議なお話も散りば…められた異色スポーツ漫画が、この『ザ・サッカー』。
大橋裕之の魅力と言えば、どこかシュールで憂いを帯びた物語。今回も、宇宙人や忍者が活躍する摩訶不思議な世界観なのですが、読後には夏の終わりのようなしんみりとした寂しさも感じてしまいます。
そこには、後ろ歩きで進んで行くような、生きることへのネガティブとポジティブが混ざったような思いが満ちているのです。
どんなフィールドであれ、たちまち大橋ワールドを繰り広げてしまう。
そんな彼の独特の腕力を味わってみてください。 続きを読む投稿日:2015.06.11
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ある一日(新潮文庫)
いしいしんじ / 新潮文庫
「食べる」と「食べられる」が一緒くたになる
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ひと組の夫婦が出産を迎える。
たったそれだけのシンプルな物語だけれど、「子を産む」という原初的なエネルギーの奔流を見事に表現している1冊です。
予定日を迎え、錦市場のアーケードでハモとまつたけを購入…する慎二と園子。
それらを口にする場面は、どこかで不思議で官能的。
「まつたけを食べるのは、まつたけの夢をみるのと同じことだ」と語るように、自分が食材を食べているのか、それとも食べられているのか、その境界はどこまでも曖昧になっていきます
自分たちが食べたものが子となり、この世に生まれてくる。
後半、想像を絶する痛みを真正面から描ききった出産シーンは実に痛々しいのだけれど、どこまでも力強く命があふれているのです。 続きを読む投稿日:2015.07.17
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かむろば村へ(1)
いがらしみきお / ビッグコミック
田舎は怖い?
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銀行務めをしていたものの、仕事に疲れ果て、お金を見るのさえ嫌になった高見。彼はかむろば村へと引っ越し、一切お金をかけずに生活することを誓います。
とはいえ、農業の経験があるわけでもなく、具体的な計画…も持たない高見はすぐに困窮状態に。周りからの助けを受けながら、なんとか生き抜いていきます。
田舎を舞台にした現代ファンタジーなのですが、いがらしみきおらしい、どこか不思議でダークな展開も魅力のひとつ。自分を神様だと語る「なかぬっさん」や、どんな頼まれごとも決して断らない村長など、何かヒミツがあるのではないかという気配にちょっと奇妙な村民たちの言動と村の閉塞感が合わさって、背筋がぞくりとすることも少なくありません。
それでも、そんなかむろば村に高見は次第と溶け込んでいき、新しい生き方を見つけていくのです。
最終巻まで先の読めない展開が続く『かむろば村へ』。”不思議”に足を踏み入れてみてください。 続きを読む投稿日:2015.07.30
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同じ月を見ている(1)
土田世紀 / ヤングサンデー
全身全霊で、許し続ける男
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昭和という時代背景も含め、どこか懐かしい、熱い気持ちにさせられる土田世紀の作品たち。洗練から距離を置き、泥臭くかけずり回る主人公たちにはじんわりと胸が熱くなるのです。
子どものころからとても純粋で、…損得勘定で行動することのできないドンちゃん。彼は、親友の哲也が起こしてしまった火事の罪を被り、少年院へと送られてしまいます。しかし、同じく友達だったエミと交わした「20歳の誕生日に絵を贈る」という約束を守るため少年院を脱走し、そこから物語は大きく動き始めます。
大人になっても優しいままのドンちゃん。裏切られ、殴られ、迫害されてもなお、ただ相手を許し続けます。
悲しい程に善人であり続ける彼ですが、最後にはその優しさが、周囲をゆっくりと変えていきます。
実は、宮沢賢治がモデルとなっているドンちゃん。賢治の言葉を体現するようにその自己犠牲で綴られていく物語には、強く強く、胸が打たれます。 続きを読む投稿日:2015.08.05
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ウイナーズサークルへようこそ 1
甲斐谷忍 / ジャンプ改
競馬を知らない人にこそ読んで欲しい!
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『ONE OUTS』、『LIAR GAME』と、知力を駆使して闘う漫画を描いてきた甲斐谷忍が新たに送り出すのは、なんと競馬漫画。馬を観る目は人一倍だけれどちょっとお馬鹿な主人公、山川七雄が競馬の予想集…団「ウイナーズサークル」と一緒に、一攫千金を求めて奮闘していきます。
競馬のことなんて何も分からない、という人でも大丈夫。競馬初心者の七雄君が仲間たちから受ける手ほどきを一緒に学ぶことで、自然とその奥深さ、面白みにはまってしまうはずです。
勝ち馬を予想すると言っても、その方法は人それぞれ。その日の馬の調子を見る人もいれば、今までの統計データを駆使する人、調教師の様子を観察する人など、それぞれが独自の理論を持って勝負に挑みます。そもそも儲けるのが目的ですから、「勝ちそうな馬よりも、配当の高い割りのいい馬を見つけるべき」なんて理屈にも納得させられます。
果たして七雄たちは見事大金を手に入れられるのか? 勝負の行方を見守るあなたの手も、きっと汗ばんでいるはずです。 続きを読む投稿日:2015.08.05
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コンセプション
岡田利規 / 天然文庫
現代演劇を更新する演劇論
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2005年、演劇界の芥川賞とも言われる岸田國士戯曲賞を「三月の5日間」受賞し、2008年には『わたしたちに許された特別な時間の終わり』で第二回大江健三郎賞を受賞するなど、演劇から小説まで幅広く活躍する…劇作家、小説家の岡田利規。
彼が主宰する劇団「チェルフィッチュ」(造語で『自分本位』という意味の英単語『セルフィッシュ(selfish)』が明晰に発語されずに幼児語化したもの)は、00年代以降の新しい演劇の旗手として走り続けてきました。
「三月の5日間」以降、日常を生きる現代の若者言葉を生き写しにした言葉と無意識な身振りまでを含めた身体言語のダンス的な表現。それがチェルフィッチュの主な評価でしたが、岡田自身はそれだけではない演劇の可能性を考えていました。
コンセプション=受精という、舞台上で何かを演じることの表象行為より先に、観客の中で表象が成立する(受精)ような、演劇的な言葉と身振りのあり方を、批評家やダンサーとの対話を通して探っていきます。
※天然文庫は、BCCKSというネット上で本をつくれるサービスから生まれた書籍シリーズです。 続きを読む投稿日:2017.01.17