
後宮小説(新潮文庫)
酒見賢一
新潮文庫
書き出しがぶっ飛んでる!
「腹上死であった、と記載されている。」 この一文から始まる、今は休止された日本ファンタジーノベル大賞の第1回受賞作。 皇帝崩御によって後宮入れ替えの募集に応じた田舎娘・銀河が正妃になるというシンデレラストーリー。 「素乾」国の正史や歴史通釈書から後宮にまつわる話を小説として構成したという体裁を採っていて、所々にある書き下し文や引用文献名のもっともらしさに架空の国だとわかっていても「こんな国本当にあったんじゃないか?」と思ってしまう面白さです。 また、好奇心旺盛でイキイキとした銀河、個性的な銀河のルームメイト達や教師達、反乱軍のゴロツキどもも皆魅力的です。ラノベ小説バリにキャラクターが立っていて、お気に入りを見つけて読むのも楽しいかも。 ファンタジーノベル大賞の受賞記念に作製されたアニメ「雲のように風のように」を小学生の時に見て面白かった覚えがあり、中高生の頃にこの原作小説を初めて読んだ時には最初の一文にぶっ飛びました。さすがにアニメでは性的描写は割愛されているので子供の時にはわかってなかった。少しHなシーンもあるけれど、カラッとした描写で笑ってしまいます。
5投稿日: 2014.07.31
火天(かてん)の城
山本兼一
文春文庫
父子はライバル!
信長から安土城建設の命を受けた棟梁父子の「プロジェクトX」的な物語。 施主・信長の期待に応えるべく、敵地からの建材の調達・膨大な人員の確保・前例のない城の構想といった数々の難題を乗り越え、豪華絢爛な安土城が出来上がるまでの展開はドキドキハラハラします。建造されてから数年で焼けてしまい、あまり資料のない安土城をここまで詳細にイメージ出来るのは本当に凄いです。 伝説の宮大工棟梁の父が主人公ですが、私自身はその父に事あるごとに「たわけ」と言われてしまう息子に感情移入して読んでいました。 経験も積み南蛮風建物の勉強もして、設計を任せてもらえるだろうと意気込んでいたところでおもいっきり鼻っ柱を折られたり、詰めの甘いところも多い息子ですが、父が倒れ大工達をまとめなければならない時に皆から必要とされた事で父も息子を認めるようになり、また父の凄さを息子自身も認めていきます。 ライバル関係のある父子っていいなあ。
1投稿日: 2014.07.19
壬生義士伝(上)
浅田次郎
文春文庫
家族と故郷への愛に泣ける
関係者への聞き書きという浅田氏お得意の手法で語られる、新撰組隊士・吉村貫一郎の生き様を描いた物語です。 教養も剣の腕前もありながら、身分の低さゆえに脱藩するしか生きるすべがなかった吉村。彼の最期の「おもさげながんす(申し訳ありませんの意)」のセリフから語られる回想シーンは、もう帰れない故郷、常に気にかけていた家族への愛にあふれていて涙なくしては読めませんでした。 本音はどうであれ思想や矜持を理由に戦う武士が大半だった中で、生きる為・家族の為ということを隠さなかった吉村の在り方はあの時代では異色で、家族を養うために仕事に打ち込む現代のサラリーマンを見ているようでした。 新撰組モノというよりも家族小説の趣きがあり、時代小説になじみがない方にも、この本は是非一読をオススメします。
3投稿日: 2014.07.10
午後からはワニ日和
似鳥鶏
文春文庫
そうだ、動物園へ行こう
「怪盗ソロモン」を名乗る人物による動物の盗難事件の顛末を軸に、一癖も二癖もある飼育員、動物たちの日常・非日常を描いた楓ヶ丘動物園シリーズ第一弾。 隙を見せると人を舐めるキリンとか、女性と見ると求愛行動するダチョウなど、コミカルな動物の描写は佐々木倫子さんの「動物のお医者さん」を彷彿とさせますし、爬虫類担当の変態・服部くんを筆頭に、猛禽類担当のツンデレ・鴇先生、ふれあい広場担当のアイドル・七森さんなど、個性的な飼育員たちの様子も突っ込み処が多く面白いです。 しかし、生き物を相手とする仕事のシビアな部分もしっかり言及されており、ただ楽しいだけのストーリーではありません。動物園とは、生き物との関わり方とは‥などと考えさせられるところも多々あり、動物園に行ったら展示動物だけでなく、飼育員の方たちを観察したくなる一冊です。
4投稿日: 2014.07.08
消失グラデーション
長沢樹
角川文庫
イメージをひっくり返す展開にやられた‥!
男子バスケ部の不真面目な部員・椎名が女子バスケ部のエース・網川緑が屋上から落下した事を知り助けに向かったところ、何者かによって意識を失わされた。椎名が気が付いた時には落下したはずの網川の姿がない。自殺?事件?そして網川の生死は? 椎名の登場シーンはあまり第一印象が良くなく、共感しにくかったのですが、探偵役の放送部員・樋口真由の思わせ振りな態度や言動に先が知りたくなって、違和感を覚えつつも読み進んでいきます。 途中、イメージが覆されるシーンは鮮やかで、端々にヒントはあったのに「やられた」と感じました。椎名に対する悪印象も一変することに‥。 叙述トリックに目を奪われますが、犯人探しの論理もしっかりしたもので、横溝賞審査員が絶賛したというのもうなずけます。 ミステリとしても、青春物としても上質なオススメの一冊です。
6投稿日: 2014.06.28
丸太町ルヴォワール
円居挽
講談社文庫
丁々発止の法廷戦と、どんでん返しに酔いしれる!
古来より京都で行われてきた「双龍会」と呼ばれる私的裁判に、大病院の御曹司・城坂論語が祖父殺しの嫌疑で告発された。死亡推定時刻の前後にルージュと名乗るミステリアスな女性と出会うも、当時視力を失っていた論語にはアリバイ主張の鍵となる彼女を特定することができない。いかにして初恋の人・ルージュを探し出すか、祖父殺しの疑いは晴らす事が出来るのか、強敵との法廷戦をどうすれば勝てるのか‥というのが粗筋です。 検察側、弁護側というような用語が物語独自のモノになっていて初めは戸惑うのですが、登場人物たちによるハッタリや外練味たっぷりの舌戦と畳み掛けるようなどんでん返しの連続にページをめくる手が止まらなくなります。論語の味方、敵方共に魅力的な人物が多く、お気に入りのキャラクターを見つけて追いかけるのも楽しいです。 著者は京大ミス研出身だそうで、綾辻行人や麻耶雄嵩らの後輩だけあって良い意味でひねくれてます。 「河原町ルヴォワール」が配信され、ようやく4部作が出揃いました。この機会に、まずはこちらの「丸太町~」から読んで見てはいかがでしょうか?
3投稿日: 2014.06.20
少年検閲官
北山猛邦
創元推理文庫
ファンタジックな世界で論理的に考えられるか?
検閲により書物が消えて、ミステリーやその用語、そして犯罪そのものについての共通認識が失われたという世界で起こる事件と、そこで出会った二人の少年の物語です。 亡くなった父親からの影響でミステリーや探偵への憧れを持つ少年・クリスが、訪れた町で起こる不審な出来事や検閲官の少年・エノに対峙するという設定はかなり特殊で背景に不明な点も多く、物語の世界に没入できるかどうか読む人を選ぶ作品かも‥と思います。 一方で、作中に「ガジェット」と呼ばれるミステリーの失われた知識の欠片を求める宝探しの要素があり、主人公のクリスが「ガジェット」の謎にどう立ち向かっていくのか、エノとの関係がどうなるのかという所は続きが気になる終わり方でした。 特殊設定の中で謎解きや論理的思考を楽しめるなら、面白いかもしれません。
4投稿日: 2014.06.18
樽
F・W・クロフツ,霜島義明
東京創元社
読んで損はない古典ミステリー
古典の中でもミステリーのオールタイムベスト等でタイトルが挙がる事が多い「樽」ですが、新訳が出た事で改めて読んだ感想はというと、やはり読みやすい。そして、筋がわかっていてもワクワクします。 港に陸揚げされた樽の中から女性の死体が発見され、英仏の刑事、私立探偵へと視点が移り変わって物語られる捜査の状況は地道なもので、アクロバティックな論理展開が有るわけではありません。しかし、一つずつ明らかになる事実に、先が知りたくなってどんどん読み進んでいきます。 いろんな推理小説を読んですれっからしになった人には展開がわかってしまうかもしれませんが、1世紀近く読み継がれるだけの魅力があると思います。
4投稿日: 2014.06.09
昨日まで不思議の校舎
似鳥鶏
創元推理文庫
学校の七不思議、解決。
にわか高校生探偵団シリーズ最新作。 学校中に配布された七不思議の記事が発端となった3つの事件を、例のごとく葉山くん達が解決の為奔走します。度重なる事件との遭遇により調査や聴き込みの手際が良くなっていく彼らですが、周囲に振り回されるのではなく葉山くん自ら事件に首を突っ込んでいくのが前回までと違う所です。それゆえに出てくる悩みもあるのですが、葉山くんの宣言・決断する姿は格好良くなったなぁと感慨深くなります。 そして、一作目「理由あって冬に出る」からの最大の謎に幕が降ろされます。シリーズを通して読んだ方には見逃せない巻でしょう。
2投稿日: 2014.06.06
階段途中のビッグ・ノイズ4巻
越谷オサム,亀屋樹
月刊ビッグガンガン
ライブシーンは圧巻
廃部されかかった軽音部を立て直し、文化祭のステージ・田高マニアに出場しようとする啓人。メンバーを集め、トラブルを乗り越え、練習を積み重ねていざ!というのがこの最終4巻。 ハイライトはライブの「We Will Rock You」の場面です。洋楽詳しくない人でもわかるナンバーだけに、コミカライズでどう表現されるのか気になったのですが、歌詞と回想シーンの一致もさることながら絵として完成度が高くカッコイイです。 原作読んだ人でも楽しめると思います。是非一読を!
0投稿日: 2014.05.31
