
タルト・タタンの夢
近藤史恵
東京創元社
ヴァン・ショーは謎解きの合図
サムライみたいな外見の三舟シェフのお店、ビストロ・パ・マルのオススメは、気取らないけど絶品のフランス料理とシェフによる鮮やかな謎解きです。 体調不良や夫婦間の問題、若い頃に起こった不可解な出来事などの話を客から聞いた三舟シェフは、料理の最後に裏メニューのヴァン・ショー(ホットワイン)を振る舞います。そして語られるのは、一度聞いただけの話から推理した謎の真相。 居心地の良さそうな店で美味しい料理だけでなく鮮やかな謎解きも堪能できるなんて、ビストロ・パ・マルの客がうらやましい!
15投稿日: 2014.05.27
ロード&ゴー
日明恩
双葉文庫
職務を全うする人たちの群像劇
タイトルの「ロード&ゴー」とは、救急車が路上で傷病者を収容しそのまま病院へ搬送する事を指すそうですが、その「ロード&ゴー」をきっかけにジャックされた救急車の乗員と、119を受信する通信員・レスキュー隊員等の消防関係者、消防無線の傍受マニアなど様々な人たちが織り成す群像劇です。 救急車ジャックという極限の状況の中で、職務を全うしよう、出来る限りの事をしようとする登場人物たちがとても格好いいです。 ストーリーも手に汗握る展開で、まるでアクション映画でも見ているかのようでした。 今では単行本の刊行時から変わった点もあり最新情報ではないのでしょうが、救急・消防関係のうんちくが豊富でへーっと思う事も多く、その点もおすすめです。 「鎮火報」「埋み火」シリーズのスピンオフではありますが、単独でも楽しめます。
5投稿日: 2014.05.10
Self-Reference ENGINE
円城塔
ハヤカワ文庫JA
円城さんの言葉選びのセンスに脱帽
後れ馳せながら、フィリップ.K.ディック特別賞受賞のニュースを知り読んで見ましたが、今まで読んでなかったのが勿体なく感じます。一見バラバラに見える各エピソードが重なり合う多次元的な構成も面白いのですが、言葉の選び方にユーモアが感じられ思わずクスリとさせられます。これがデビュー作だと言うのがにわかには信じられませんでした。 ちょっと煙に巻かれた感が無くはないのですが、それもまた味です。個人的には、円城作品を読み始めるなら芥川賞受賞作よりもこちらの方が取っつき易いと思います。 日本語だからこそ楽しめるフレーズも結構あるので、受賞した英訳版が どんな感じなのか気になります。配信されませんかねぇ?
2投稿日: 2014.05.07
くーねるまるた(1)
高尾じんぐ
ビッグスピリッツ
真似したくなるレシピがいっぱい!
ポルトガルからの留学生・マルタさんの、貧乏ながらも創意工夫に満ちた食いしん坊な日々のお話。お金はないなりに、手元にあるモノやご近所さんとの交流で美味しい食生活を満喫するマルタさんがとても楽しそうです。 作中のパン耳で作るエッグタルトや紅茶のチャーシュー等も、簡単でローコストなわりに美味しくできて、他のも試して見ようかなって気になります。(ザリガニを釣るなんてとこまでは真似しないけど) 所々で文豪の食エッセイや古い絵本のエピソード、散歩の楽しみ方が出てきたりするのも良いです。 青年マンガではあるけど、絵もカワイイので女性のほうが共感できるように思います。
6投稿日: 2014.04.28
踊るジョーカー
北山猛邦
東京創元社
な、謎はすべて‥解け‥ました‥‥たぶん‥
超気弱な名探偵・音野順の5つの事件簿。 抜群の推理力を持ちながらも引きこもりで気弱な青年・音野順は、ミステリ作家で友人の白瀬白夜に名探偵としての決めゼリフ、立ち居振舞いを仕込まれながら事件解決に引っ張り出されます。調査中に「もう帰りたい」「無理」等と言い出すホームズ役の音野と、名探偵の演技指導と付き添いをするワトソン役・白瀬はあまり例を見ないコンビでちょっと笑ってしまいます。 探偵コンビが魅力的な本作品ですが、語られる事件そのものも驚きに満ちています。犯人の動機や用いるトリックが面白く斬新な一方で、謎解きは消去法で容疑者を突き止めるという古典的な本格派のミステリになっています。 それにしても、決めゼリフが決まりきらない音野がカワイイ!
8投稿日: 2014.04.14
猫柳十一弦の後悔 不可能犯罪定数
北山猛邦
講談社文庫
探偵は事件解決するだけじゃダメなんです。
探偵や探偵助手になるには大学で学び、資格を得ることが必要な世界の物語。有名探偵が主宰するゼミで実際に助手として事件に関わって心得などを学びたいのに、クンクン・マモルの二人の学生が配属されたのは知名度ゼロで年がそんなに変わらない女探偵・猫柳十一弦‥orz 普段の探偵・猫柳はオドオドしていたり自分の容姿に無頓着だったりでこんな人に事件解決なんてできるのだろうかと思ってしまうのですが、孤島での事件発生からの彼女の一挙一動の目的、猫柳が知名度の低い理由を知った時にはガンバレ!と応援したくなります。 猫柳の存在を知ったあとでは、犯行予告を前にして事件を未然に防げない名探偵達のなんと多いことか‥。
3投稿日: 2014.03.27
奇談蒐集家
太田忠司
創元推理文庫
変人コンビの富豪&助手
不思議な話が好きで、高額報酬と共に広告を載せてまで奇談を聞きたがる富豪の恵美酒。 やってくる人物の語る体験談を聞き、「今度こそ本物の奇談か!」と喜ぶ恵美酒に対し、助手の氷坂は合理的解釈で来訪者の嘘・誇張・犯罪を解き明かしバッサリとこき下ろします。 氷坂の推理を聞き、奇談などなかったのかと恵美酒が残念がるかというとそんなことはなく、時間の無駄だったと言わんばかりの態度を見せるところをみると、似合いの主人と助手なのかなと思います。 『謎解きはディナーのあとで』のお嬢様&執事と比較してみるのも面白いかも‥です。
7投稿日: 2014.03.17
去年の冬、きみと別れ
中村文則
幻冬舎文庫
読んだらきっと読み返したくなる
2人の女性を殺した罪で死刑判決を受けたカメラマンと、彼のことを手記にしようとするライターの「僕」、その他事件関係者。それぞれの視点や手紙の形式で物語が展開していきます。 ネタバレになるので多くは書けませんが、事件のあらましが大体わかってきたころ、ある章から脳内世界が一変し最初から読み返したくなること受けあい。 作中でも芥川龍之介「地獄変」とトルーマン・カポーティ「冷血」が重要なモチーフとなっていて、人間の狂気とは‥と考えるとこちらも気になってきます。
23投稿日: 2014.03.07
ランチのアッコちゃん
柚木麻子
双葉文庫
不思議なアッコさん
同名の大物歌手のように大柄でおかっぱ頭の有能な上司・アッコさんとランチの交換をする事になったOL・美智子の物語。 つまらなそうな顔をしていた主人公が、アッコさんからの指令をこなすうちにイキイキとしてくるのを見ると、こんな上司いいなと思えてきます。それにしても、他の人たちから語られるアッコさんの人物像がどれも意外性があり、彼女自身を知りたくなります。 ただ、話が進むにつれスケールダウンした感じがしてしまうのが残念でした。最初と二話目がオススメです。
1投稿日: 2014.02.21
甘栗と金貨とエルム
太田忠司
角川文庫
ハードボイルドな少年探偵
探偵だった父親を亡くしたばかりの高校生・甘栗晃は父の事務所の片付け中に小生意気な小学生・淑子(エルム)から母親探しの依頼を受けるハメになってしまう‥。 太田忠司の少年探偵と言えば狩野俊介シリーズが有名ですが、狩野くんが本格ミステリの探偵だとすれば、こちらの甘栗くんはハードボイルド物の探偵です。 シニカルな性格の主人公が「仕方ない」とか「素人だから」などと言いつつもエルムの依頼に応える様子や、地の文での人称が「私」となっているところなど、しっかりとハードボイルドになっています。作中にもP.D.ジェイムスやローレンス・ブロックの名が出てきて、久しぶりに読み返したくなりました。(続編ではレイモンド・チャンドラーへの言及あり) それにしても、よそ者には未知の世界ですが、作中に沢山出てくる名古屋グルメを甘栗くんはこよなく愛しているようで、実に美味しそうに食べています。
1投稿日: 2014.02.06
