sabachthani?さんのレビュー
参考にされた数
516
このユーザーのレビュー
-
リリエンタールの末裔
上田早夕里 / ハヤカワ文庫JA
『華竜の宮』を読んだ方も、そうでない方も!
11
表題作の『リリエンタールの末裔』は、海面上昇しわずかな陸上、もしくは海上都市で生活を余儀なくされる未来の地球を舞台にしたスケールの大きな物語の『華竜の宮』と同じ世界で展開します。子どもの頃に遊びで空を…飛んだ体験が忘れられずに、周囲からの差別や理不尽な仕打ちに苦労しながらも「空を飛ぶ」という夢をあきらめない青年が主人公。彼のけなげさに心打たれ、応援したくなります。
『華竜の宮』や『魚舟・獣舟』と地続きの世界ですが、同じ登場人物が直接出てくるわけではないので前作を読んでいなくても特に問題はありません。
その他の作品も、舞台はそれぞれ変わりますが「海」と「人」と「技術」の関わりを描くという点が共通しています。中でもクロノメーターの開発にこだわる技術者の話『幻のクロノメーター』は18世紀ロンドンが舞台ということも有り、ちょっとスチームパンクSFっぽい感じがあってオススメです。 続きを読む投稿日:2013.11.23
-
さよなら、シリアルキラー
バリー・ライガ, 満園真木 / 東京創元社
少年は殺人者を狩る者になる。
11
124人を殺したシリアルキラーを父に持つ少年・ジャズ。父親の影響で殺人の為の手口や人を操るテクニックは知っていて、その知識から敬愛する保安官の為、地元で起きた事件の捜査に協力しようとするというストーリ…ーです。
悪夢のような英才教育を受けた為に「少しでも踏み外してしまえば父と同じになってしまうのでは…」と葛藤しながらも、親友と恋人の存在が錨となって何とか踏みとどまっている。主人公の揺れ動く心情が克明に描かれていて、成長小説・青春小説でもありました。
殺人鬼の息子というレッテルを物ともせず、そばに居てくれる友人・ハウイーと恋人・コニーの存在が主人公の、そして物語の救いでした。
どうやら三部作らしく、続きが気になるラストです。早く次回作が刊行される事を期待します。 続きを読む投稿日:2015.05.17
-
アルジャーノンに花束を〔新版〕
ダニエル キイス, 小尾 芙佐 / ハヤカワ文庫NV
心の柔らかい十代に読むべき一冊。
11
初めてこの作品を読んだのは中学生の頃でした。
人体実験とも言える手術を経て幼児並みの知能から天才へと変貌したチャーリィ。普通、一生をかけて経験する「成長→ピーク→老化」の流れを短期間で送ってしまう事、…蔑まれるだけだったところから逆転した立場、天才的知能を得てしまったが為に知る苦悩といった数々の出来事に、自分だったらどんな選択をするか悩みながら読んだものです。
何度となく読み返しているけど、その度にラストの「どーかついでがあったら…」のくだりに涙腺が決壊してしまいます。 続きを読む投稿日:2015.05.10
-
銀河英雄伝説2 野望篇
田中芳樹 / らいとすたっふ文庫
序章にしてクライマックス
11
銀英伝1巻 黎明篇を読んで、この巻を読まないという選択肢はまずないと思いますが、全10巻の始まりにして最高潮がここにあります。
これ以降の全ての巻に、この「野望篇」が通奏低音として関わってきます。こ…れを読んだら最後までイッキ読みは必至!
続きを読む投稿日:2013.10.03
-
消滅 VANISHING POINT
恩田陸 / 中央公論新社
この中にテロリストがいる!
10
空港と駅との違いはあれ、見知らぬ人々の群像劇である事、テロリストへの対峙、程好いコミカルさが「ドミノ」を彷彿とさせました。
巨大台風と通信障害によって陸の孤島となった国際空港の中、テロリストの可能性…ありとして隔離された人達は11人とけっこう多めですが、はっきり書き分けられていて、犯人探しの会話もテンポ良くサクサクと読めます。新聞連載だっただけあり、細かいヒキがあるのもテンポの良さに繋がっている気がします。
また、狂言回しとして登場するヒューマノイドがユーモラスなキャラクター、かつホラーじみてもいて秀逸でした。
続きを読む投稿日:2015.12.12
-
茅田砂胡 全仕事1993-2013
茅田砂胡 / 中央公論新社
電子化待ってました!
10
茅田砂胡ファンには待望の電子化です。
通称・弁当箱と呼ばれ紙の実物は5cm以上の厚さがあったため、購入に躊躇しているうちにリアル書店では見かけることもなくなってしまい読めないのかと思ってました。こうい…う分厚い本こそ電子化にはもってこいです。
巻頭の「紅蓮の夢」はデルフィニア戦記のウォル王がリィ達の共和宇宙に来たら、リィが再びデルフィニアに戻ったら、という夢のようなストーリー。これだけで分厚い本の半分近くを占めます。
その他も各シリーズの番外編ショートストーリーやそれぞれの絵師さん達によるコミックがあります。各番外編は本編の紹介をかねているので、全作品を読みつくしていない方でも満足できそう。つまみ読みでも大丈夫です。 続きを読む投稿日:2014.09.29