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sabachthani?さんのレビュー
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  • 茅田砂胡 全仕事1993-2013

    茅田砂胡 全仕事1993-2013

    茅田砂胡

    中央公論新社

    電子化待ってました!

    茅田砂胡ファンには待望の電子化です。 通称・弁当箱と呼ばれ紙の実物は5cm以上の厚さがあったため、購入に躊躇しているうちにリアル書店では見かけることもなくなってしまい読めないのかと思ってました。こういう分厚い本こそ電子化にはもってこいです。 巻頭の「紅蓮の夢」はデルフィニア戦記のウォル王がリィ達の共和宇宙に来たら、リィが再びデルフィニアに戻ったら、という夢のようなストーリー。これだけで分厚い本の半分近くを占めます。 その他も各シリーズの番外編ショートストーリーやそれぞれの絵師さん達によるコミックがあります。各番外編は本編の紹介をかねているので、全作品を読みつくしていない方でも満足できそう。つまみ読みでも大丈夫です。

    10
    投稿日: 2014.09.29
  • シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱

    シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱

    高殿円

    単行本

    百合ホームズ(笑)!

    英国ドラマ「SHERLOCK/シャーロック」や米国ドラマ「エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY」等で現代化したシャーロック・ホームズの物語が流行りですが、さらに一捻り加えてホームズ&ワトソン両方を女性化したのがこの作品。高殿さん曰く、「時代は百合ホームズ!」とのことw。しかもレストレード警部、マイクロフト、モリアーティ教授までもが女性って‥。 ストーリーはホームズとワトソンが出会う「緋色の研究」を元にしていて、原典との違い、共通点、様々なところにちりばめられた小ネタを探すのはもちろんですが、ドラマ「SHERLOCK」1話目の「ピンク色の研究」と比較して読むのも楽しいです。 タイトルの「憂鬱」というのは登場人物が皆女性だからこそのネーミングで、トリックや犯行の動機を考えるとなるほどと思いますが、男性読者は引いてしまうかも‥。 突っ込みたい所も多々ありますが、あまり詳しいことは考えず、女子校ノリを楽しむ感じで読んでみてください。

    8
    投稿日: 2014.09.05
  • 写楽 閉じた国の幻(上)

    写楽 閉じた国の幻(上)

    島田荘司

    新潮社

    コロンブスの卵的発想の写楽正体説

    江戸の浮世絵師の中でも異色の存在である写楽の正体を解き明かすミステリー小説。 活躍期間が短く、他の絵師との師弟関係も感じられないのに何故か出版界の大立者・蔦屋重三郎から厚待遇を受けて役者絵を出した東洲斎写楽。有名な絵師の変名、武家の能楽師からまったくの素人等、様々な異論がありながら決定的な説がなかった写楽の正体に島田氏が新しい解釈を示します。それまでの既出の説とは発想を転換して進められる解釈は荒唐無稽とも思われますが、それなりに説得力があって面白かったです。 解釈を元にした江戸編も、蔦重や周りの絵師達の様子がイキイキしていて楽しかった。 一方で、主人公が写楽研究に乗り出すきっかけとか、息子の回転ドア事故の話等の脇のストーリーが放りっぱなしだったり、関係あるのそれ?っていうエピソードがあって全体的にまとまっていない印象で、ラストも唐突な終わり方だったのが残念。 ストーリーが消化不良な感じは否めなかったのですが、ぐいぐい読ませる文章はさすがに島田さんです。

    5
    投稿日: 2014.09.02
  • 天使たちの課外活動4 アンヌの野兎

    天使たちの課外活動4 アンヌの野兎

    茅田砂胡

    C★NOVELS

    タイトルに偽りあり

    天使たちは作中でほとんど登場しません。「‥課外活動3」の料理店店主・テオとその義父、怪獣夫婦の珍道中といった味わいの番外編。 でも何故かオッサンと老紳士が可愛く見える不思議‥。

    2
    投稿日: 2014.08.29
  • 大奥 1巻

    大奥 1巻

    よしながふみ

    メロディ

    内容は文句なしに面白い!

    ようやく、よしながふみさんの男女逆転「大奥」も配信されるようになりました! 映画化、ドラマ化、各賞総なめの作品ですので内容について多くは語りません。歴史モノ、SF、ジェンダー論といろんな読み方が出来る作品で、未読の方はとにかく読んで凄さを実感してみてください。 電子化に関しての感想は、冒頭に金頁、カラー口絵の収録があり、原書の雰囲気を出そうというのは感じられるのですが、ザラッとした手触りや指紋のつきそうな金頁のある紙の装丁にはやはり及ばないなっていうところで★マイナス1でした。よしながさん特有の薄く繊細な描線のカラー頁を堪能するにはタブレットで読むことをオススメします。

    8
    投稿日: 2014.08.28
  • 幼年期の終わり

    幼年期の終わり

    クラーク,池田真紀子

    光文社古典新訳文庫

    新訳版と早川の旧版との違い

    J・ディーヴァーやP・コーンウェルのミステリー作品の翻訳を多く手がけた池田真紀子氏による新訳版「幼年期の終わり」 原書の出版が1953年でしたが、1989年にアーサー・C・クラーク本人によって改稿されたものがこの新訳版の元となっています。本人による改定部分はまえがきの追加と第1章を変更したのみで、第2、第3章のストーリー自体はそのままでした。東西ドイツ統一や冷戦終結など、国際政治の状況が時代にそぐわなくなった事が理由だったようです。 第1章冒頭の比較は以下の状況です。 ・早川の旧版(訳:福島正実) →1970年代後半、米ソの宇宙開発競争の背景のもと、米のロケット発射直前に宇宙からオーバーロード(上帝)達が飛来。米人視点で語られる。 ・新訳版 →2000年代初頭、世界各国が協調し宇宙開発を行うようになっている中、露人の女性宇宙飛行士による火星探査ミッション直前にオーヴァーロード(最高君主)達が飛来。露人視点。 大きな違いは冒頭の宇宙船の飛来シーンの時代設定についてですが、固有名詞の表記(カレルレン⇒カレラン)の変更や登場人物の口調の変化などの細かい所でもいろいろと相違点があります。 早川版の「カレルレン」に慣れ親しんでいると読んでて違和感を覚えますが、全体的には自然で読みやすい文章ですし、21世紀となった今読むには、こちらの新訳版のほうが同時代性を感じられます。新訳版と旧版のどちらを選ぶか、あとは好みの問題かな…。 その他、巻末にアーサー・C・クラークの年譜、巽孝之氏による解説、訳者あとがきが収録されていて、クラーク作品やSFというジャンルを考える上で参考になるのでは、と思います。

    5
    投稿日: 2014.08.24
  • SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと

    SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと

    チャールズ・ユウ,円城塔

    新☆ハヤカワ・SF・シリーズ

    初訳だけど、やっぱり円城塔の世界。

    芥川賞作家・円城塔氏の初訳作品。 「タイムマシンの修理を仕事にする男が未来の自分を撃ち殺してしまい、陥ったタイムループから逃れる方法を探そうとする」というのがこの本のあらすじですが、「道化師の蝶」に併録されている「松ノ枝の記」の冒頭部分で主人公が翻訳する小説とも同じ設定になっています。このことを知った時には凄い読みたい!って思い、配信を待ちわびていました。 電話ボックスみたいな狭いタイムマシン内に引きこもって非実在犬(実在しないのにモフれるってなにそれw)のエドをペットにし、マシンのUIをかわいい女の子(ドジっ子気味)にする主人公のダメさ加減が絶妙。そして、同じ時間をループし続ける母親との関係や、失踪したタイムマシン開発者の父親との思い出をめぐる後半のストーリーは少し思いがけない展開で切なくなってしまいました。 円城さん特有のユーモア溢れる文体はそのままで、「記述がタイムトラベルを左右する」という設定は、言葉が世界を定義し、変えていく「道化師の蝶」「これはペンです」等とも共通する世界感だという印象を持ちました。オリジナル作品とも微妙に違うけど、言葉・言語がキーになっているっていうのはやっぱり円城塔の世界だなぁ。

    5
    投稿日: 2014.08.19
  • 高台家の人々 1

    高台家の人々 1

    森本梢子

    YOU

    恋に臆病なサトリ兄妹弟(きょうだい)

    主人公の木絵は妄想癖のある地味なOLで、何故か社内でも評判の美男・高台光正に気に入られ彼女になる。しかし、高台王子には人の心が読めてしまうという秘密があったのだった‥。 タイトル通り、高台家の人々がストーリーのメインで、主人公なのに木絵は1話目以外影が薄いw。高台家のきょうだい達の能力は作品中ではテレパスと呼ばれていますが、どちらかというとサトリと呼ぶのが近いかもしれません。黒髪・碧眼・超美形で三人ともモテるのに、慎重な長男・光正、臆病で恋心を自覚していない妹・茂子、意地悪になってしまう次男・和正と、三人三様ではありますがサトリの能力が恋の障壁になっていました。 ところが、木絵の突拍子もない、時にバカバカしい程の妄想がそれぞれの気持ちをほぐしたり後押ししたり‥。影は薄くともやっぱり主人公です。 「ごくせん」や「デカワンコ」の森本さんらしくコメディタッチの作品ですが、珍しく恋愛寄りなストーリーです。

    3
    投稿日: 2014.08.15
  • サムライ・ポテト

    サムライ・ポテト

    片瀬二郎

    NOVAコレクション

    冒険と勇気と自負が未来への希望になる

    未来への希望が感じられる5編のSF短編集。 「サムライ・ポテト」 ファストフードやカフェ、ドラッグストア等の店頭で接客を行うロボット達の冒険と別れの話。学習機能の蓄積から意識が芽生えたロボット達の思考や行動が、思春期の子供たちみたいで微笑ましかったり、切なかったり。キテレツ大百科のコロ助や不二家のペコちゃん、薬局のサトちゃんが接客するようなイメージで読みました。 「00:00:00:01 pm」 周囲全ての時が止まって途方にくれた男の放浪記。自分以外に動いている人間がいないという絶望が、ある事実に気付いた瞬間に希望へ変わり、人助けへ踏み出す勇気となる。 「三人の魔女」 ウェアラブル端末が行き渡った近未来の女子高生たちの話。技術や時代が変わっても、女子は女子だなぁ。 「三津谷くんのマークX」 完全自律型のロボットを趣味で作っている三津谷くんの自信作が外国人に拐われた。自分の技術に自負を覚える三津谷くんはロボットが世界のどこかで誰かの役に立ってくれるのを期待していたが、テロの道具に使われた事に気付きテロリストへの復讐に乗り出す。技術を持っている人が徹底的な行動を取るとスゴイ事になってしまうんですね。 「コメット号漂流記」 人類が宇宙に進出し、地球生まれではない者が多数になってきた未来の話。彗星衝突の事故により唯一残ったコンビニ型の宇宙船で漂流する事になった少女が、生き残りをかけて戦う。 どの話にも、パンドラの箱のように最後に微かな希望が残されていて、SFを読んだという実感があります。初めて読む作家さんでしたが、山本弘氏や野尻抱介氏を彷彿とさせる作風でした。両氏の作品が好きならオススメです。

    2
    投稿日: 2014.08.04
  • 王妃の離婚

    王妃の離婚

    佐藤賢一

    集英社文庫

    女の強さと弱さ

    フランス王・ルイ12世が王妃ジャンヌに対して起こした離婚訴訟の顛末が物語の主軸ですが、時代や身分が違えど変わらない男と女の有り様がメインテーマの傑作でした。 王妃の父王・暴君ルイ11世によってパリ大学を追われ田舎の弁護士となったフランソワが、葛藤しながらも王妃の弁護士となり敗色濃厚だった裁判をひっくり返す展開が見所。 そしてなんといっても、クライマックスの弁護士フランソワの言葉 「‥男が愛してやまないものは、強い女がみせてしまう、どうしようもない弱さなのです。」 がこの本の全てを物語っています。 強い女・王妃ジャンヌがふと見せた素顔や涙に、読者の私自身も応援したいと思ってしまいました。 ある程度時代背景がわかっていたほうが良いのでしょうが、人物のつながりや当時の雰囲気が詳しく描写されているので、西洋史に詳しく無くても十分物語についていけます。

    5
    投稿日: 2014.08.04