sabachthani?さんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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限界集落株式会社
黒野伸一 / 小学館
これからの農業の生きる道
31
会社を辞めて骨休めとして父方の田舎・止村にやって来た主人公が、出会った地元の老婆や子供の「村を寂れさせたくない」という声をうけて農業法人を立ち上げる顛末がお話のメイン。
過疎地の農業で生き残りをはかる…為に主人公がすすめる改革案は、今の地方の現状を考えると「これは確かに有効かも」というほどリアリティがあり、お話だからと言って夢物語と流せないものがあります。
また、登場人物達の個々の事情や成長が丁寧に描かれていて、それぞれに肩入れして応援したくなります。 続きを読む投稿日:2013.10.25
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去年の冬、きみと別れ
中村文則 / 幻冬舎文庫
読んだらきっと読み返したくなる
23
2人の女性を殺した罪で死刑判決を受けたカメラマンと、彼のことを手記にしようとするライターの「僕」、その他事件関係者。それぞれの視点や手紙の形式で物語が展開していきます。
ネタバレになるので多くは書けま…せんが、事件のあらましが大体わかってきたころ、ある章から脳内世界が一変し最初から読み返したくなること受けあい。
作中でも芥川龍之介「地獄変」とトルーマン・カポーティ「冷血」が重要なモチーフとなっていて、人間の狂気とは‥と考えるとこちらも気になってきます。 続きを読む投稿日:2014.03.07
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火星の人
アンディ・ウィアー, 小野田和子 / ハヤカワ文庫SF
火星サバイバル!
20
火星探査ミッションの打ち切りに伴う帰還直前の事故で同僚達から死んだと見なされ、たった一人で置いてきぼりにされた宇宙飛行士マーク・ワトニーのサバイバル記録。
少しの誤りが命取りな火星の過酷な環境、助けを…求める事も出来ない孤独な状況の中で、自らの知力・体力と限られた物資を最大限に活かして地球への生還を図ろうとするワトニーのキャラクターが最高。絶望的な状況にもかかわらず、希望とユーモアを忘れない彼にきっと好感を覚えるハズ。読んでいて「宇宙兄弟」の南波兄弟が思い浮かびました。「宇宙兄弟」好きなら読んでみて損はないかも。
また、サバイバルにあたっての試行錯誤の内容や、NASA側の技術についての描写もディテールが細かく、これぞサイエンス・フィクション!て感じで面白い。
登場人物達の口調がハリウッド映画や海外ドラマの吹替えみたいな上、ワトニーが残した日記という形式の文章ですので、ボリュームがある割りに一気に読めて、翻訳モノが苦手な方でも読みやすいと思います。
ちなみに、私は脳内でワトニーの声に山寺宏一さんを当ててみましたが、この読み方はちょっと楽しかったです。 続きを読む投稿日:2014.10.16
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タルト・タタンの夢
近藤史恵 / 東京創元社
ヴァン・ショーは謎解きの合図
15
サムライみたいな外見の三舟シェフのお店、ビストロ・パ・マルのオススメは、気取らないけど絶品のフランス料理とシェフによる鮮やかな謎解きです。
体調不良や夫婦間の問題、若い頃に起こった不可解な出来事などの…話を客から聞いた三舟シェフは、料理の最後に裏メニューのヴァン・ショー(ホットワイン)を振る舞います。そして語られるのは、一度聞いただけの話から推理した謎の真相。
居心地の良さそうな店で美味しい料理だけでなく鮮やかな謎解きも堪能できるなんて、ビストロ・パ・マルの客がうらやましい! 続きを読む投稿日:2014.05.27
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The Indifference Engine
伊藤計劃 / ハヤカワ文庫JA
『虐殺器官』から『屍者の帝国』までのエッセンスが凝縮。
15
表題作『The Indifference Engine』はルワンダ虐殺と少年兵問題を題材にした『虐殺器官』につながる一篇。その他にも、「007」や「メタルギアソリッド」などを元ネタにした短編小説、漫画…が収録されていますが、どれも円城塔が書き繋いだ『屍者の帝国』と共通したイメージが感じられ、出所はこのあたりからかと思われます。
もう新作は読めないんだなと思うとさびしいですが、いかに伊藤計劃が多才な作家だったのかということを思い知らされる一冊です。 続きを読む投稿日:2013.11.23
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てるてるあした
加納朋子 / 幻冬舎
魔女と暮らして
15
親の夜逃げにより、佐々良に住む遠い親戚の久代婆の元へやって来た少女・照代の成長記。
かなりダメな親の元を離れ、元教師の久代婆と暮らし、周囲の人々と触れあうことで人間的に成長する照代の様子も良いのですが…、密かに魔女と呼ばれる久代婆の抱える秘密や分かりにくい愛情表現に気付いた時には、残された時間の短さも相まって涙腺がヤバかったです。
登場人物は前作『ささら さや』と共通しているので久代婆達の人物像をよく知りたいなら読んで置いた方が良いですが、ストーリーはこちらが断然オススメ! 続きを読む投稿日:2014.11.17