sabachthani?さんのレビュー
参考にされた数
515
このユーザーのレビュー
-
泣くな道真 大宰府の詩
澤田瞳子 / 集英社文庫
泣いてるなんて、らしくない!
12
一介の学者から大臣にまで登り詰めた菅原道真は、世渡り下手故に大宰府へと左遷されて失意のうちに亡くなり、一方で京の人々は道真の怒りを恐れて神へと奉り上げた…。
菅原道真に関して大体こんなイメージでいたの…ですが、当時最高の頭脳を持つ人物があっさりと失意のうちに死ぬっていうのにも違和感があった私には、この作品は「こんな道真像が見たかった!」と満足の一冊でした。
大宰府に着いた道真は始めは屋敷に引きこもり泣き暮らしているのですが、監視役の小役人・保積と大宰府庁幹部の姪・小野小町(恬子)が博多津の街に連れ出した後は大陸との交易地である当地を満喫する現金な暮らしぶり。
途中、度重なる不幸や他者からの批判に再び失意に陥るのですが、周囲から知恵を借りたいと求められてからは、これでこそ智者・菅原道真だという展開です。
道真の雷神伝説も、定説を知ってるとちょっとニヤリとしてしまいます。
物語の中では喜怒哀楽が激しく描かれていますが、人間くさい道真像も意外性があって魅力的でした。 続きを読む投稿日:2015.01.26
-
体育館の殺人
青崎有吾 / 東京創元社
本格ミステリ・ラノベ風味
12
「~館の殺人」というタイトルですが、舞台が学校の体育館の為、おどろおどろしい展開にはなりません。しかしながら、犯人捜しやアリバイ崩し、そして探偵による解決編などの一連のながれは本格ミステリそのもの。犯…行のトリックや解決までのロジックは無理がなく、鮎川賞受賞も納得です。作品そのもののテイストは東川篤哉氏のユーモアミステリに近い感じです。
ただ、この作品の読みどころとしては、探偵・裏染天馬のキャラと彼の趣味の部分が気になります。天才ではあるが変人というのは大抵の推理小説の素人探偵と同じなのですが、かなりのアニオタでセリフの端々にアニメ・漫画・ラノベのネタがちりばめられています。あまりの数に私自身はメジャーなネタぐらいしか拾いきれませんでしたが、アニメ・ラノベが好きな方はニヤリとできるのではと思います。
続巻の「水族館の殺人」でもその傾向は健在です 続きを読む投稿日:2013.11.02
-
応天の門 1巻
灰原薬 / 月刊コミックバンチ
菅原道真と在原業平がコンビを組むなんて!
12
菅原道真と言えば、学問の神様もしくは日本三大怨霊の一人として有名。
在原業平と言えば、伊勢物語の昔男のモデルとも言われ平安時代きってのプレイボーイ。
生没年が幾らかかぶっているとはいえ、あまり共通点も…接点もなさそうな二人がコンビを組み、京の都で起こる事件の解決に乗り出す…というなかなか意表を突く設定の物語ですが、二人のキャラクターも秀逸で現代に置き換えるとしたら「気難しい天才少年(道真)に事件解決のアドバイスを求める女たらしの刑事(業平)」という感じで結構面白い。
博識ではあるけれど経験値の少ない道真が、挫折や社会の理不尽を知る業平に出会ってどう変わっていくのか…まだ始まったばかりですが、先が楽しみな作品です。 続きを読む投稿日:2014.11.22
-
ヴァン・ショーをあなたに
近藤史恵 / 東京創元社
第二弾もやっぱり美味しそう!
12
三舟シェフの過去と意外な姿が見られる、「ビストロ・パ・マル」シリーズの第二弾。
前回と違ってギャルソンの高築くん視点だけでなく、お客さん視点の作品、フランス放浪中のシェフを当地で出会った日本人視点から…描くものとバラエティに富んだ内容になっています。
特に、三舟シェフの珍しい姿が見られる「マドモワゼル・ブイヤベースにご用心」とシェフ特製ヴァン・ショーの始まりを描く表題作は要注目。
さらっと交わされた会話の何気ない一言から真実を見抜くシェフの推理に拗れていたものが解され、相手の事を考えて作られる慈味深い料理に身も心も満たされる。こんな店が近所にあったら絶対に通う。 続きを読む投稿日:2015.03.02
-
さよならソルシエ(1)
穂積 / 月刊flowers
イメージを覆されるゴッホ兄弟
12
炎の画家フィンセント・ファン・ゴッホと、その弟で画商のテオドルスの絆を描いた全2巻。
兄フィンセントの没年から5年前の1885年から物語は始まりますが、1巻で描かれる二人は、弟のテオは自信家で傲慢な性…格、兄フィンセントは怒りの感情を持たず絵をかいていられれば満足な温和な性格。ここで、ゴッホの生涯や書簡集での兄弟のやり取りを知っている人は「ん?」と思うはず。
2巻で上記の謎を解く鍵となるのが、テオの天才的頭脳とフィンセントの人の心を揺さぶる絵画の数々です。2巻ラストでの展開には思わずうなってしまいました。
昨年の「式の前日」での2位ランクインに続き、今年はこの作品で「このマンガがすごい2014オンナ編1位」となってます。この人のストーリーテリングの上手さは本物です。
読んで損はないと思う!! 続きを読む投稿日:2013.12.11
-
さよなら、シリアルキラー
バリー・ライガ, 満園真木 / 東京創元社
少年は殺人者を狩る者になる。
11
124人を殺したシリアルキラーを父に持つ少年・ジャズ。父親の影響で殺人の為の手口や人を操るテクニックは知っていて、その知識から敬愛する保安官の為、地元で起きた事件の捜査に協力しようとするというストーリ…ーです。
悪夢のような英才教育を受けた為に「少しでも踏み外してしまえば父と同じになってしまうのでは…」と葛藤しながらも、親友と恋人の存在が錨となって何とか踏みとどまっている。主人公の揺れ動く心情が克明に描かれていて、成長小説・青春小説でもありました。
殺人鬼の息子というレッテルを物ともせず、そばに居てくれる友人・ハウイーと恋人・コニーの存在が主人公の、そして物語の救いでした。
どうやら三部作らしく、続きが気になるラストです。早く次回作が刊行される事を期待します。 続きを読む投稿日:2015.05.17