
フラジャイル(1)
恵三朗,草水敏
アフタヌーン
10割出す。それがプロフェッショナルの仕事。
患者のデータから診断の根拠を出し、ドクターズ・ドクターとも呼ばれる病理医・岸を主役に据えたストーリー。 各診療科でのカンファレンスではケンカを売るような物言いをし、積み上がった仕事はサボり定時で上がる等と一見独善的にも見える岸の言動ですが、彼の書く病理診断書には絶大な信頼が寄せられている。 それは正しい診断は8割出せれば合格点という中で、自分の鑑別に責任を背負い不安と闘いながらも、根拠を持って10割出すと言い切れるからこそ。これぞプロという感じが格好いい。 また、岸の周囲の人物達も癖者揃いでなかなか良いです。 年明けからTOKIO長瀬の主演でドラマ化との事。イメージ的には合うと思うので、今から少し楽しみです。
7投稿日: 2015.12.26
消滅 VANISHING POINT
恩田陸
中央公論新社
この中にテロリストがいる!
空港と駅との違いはあれ、見知らぬ人々の群像劇である事、テロリストへの対峙、程好いコミカルさが「ドミノ」を彷彿とさせました。 巨大台風と通信障害によって陸の孤島となった国際空港の中、テロリストの可能性ありとして隔離された人達は11人とけっこう多めですが、はっきり書き分けられていて、犯人探しの会話もテンポ良くサクサクと読めます。新聞連載だっただけあり、細かいヒキがあるのもテンポの良さに繋がっている気がします。 また、狂言回しとして登場するヒューマノイドがユーモラスなキャラクター、かつホラーじみてもいて秀逸でした。
10投稿日: 2015.12.12
書き下ろし日本SFコレクション NOVA+ 屍者たちの帝国
大森望
河出文庫
屍者のいる世界 × 8
故・伊藤計劃の『屍者の帝国』プロローグ設定を元に、屍者のいる世界を八人が描いたSFアンソロジー。 序文や円城塔インタビューでも触れられているように、死者(伊藤計劃)を動かすという、良い意味で悪ふざけの効いた企画で面白い趣向だと思います。 屍者技術のある19世紀末という共通の舞台であっても、各人全く違う切り口で歴史上・文学上の人物を生かしてくるのも楽しい。 中でも藤井太洋「従卒トム」、北原尚彦「屍者狩り大佐」、宮部みゆき「海神の裔」あたりがオススメ。 高野史緒の「小ねずみと童貞と復活した女」は読む人を選ぶだろうけど、これでもかとばかりに繰り出されるネタの数々とドストエフスキー作品の不条理さがハマれば面白いと思います。 必ずしも円城塔版の長編『屍者の帝国』を読む必要はないけれど、少なくとも伊藤計劃オリジナルのプロローグは読んでおくべき。
8投稿日: 2015.11.01
BIRDMEN(1)
田辺イエロウ
少年サンデー
これぞ、正しくジュブナイル!
「おっさんはもう飛べないって言うんだな!? なんて世界だ!!!」 ↑は第4巻でのある人物の叫びですが、青春の悩みとSF設定が肝のジュブナイルであるこの作品をよく言い表していて、思わず同意したセリフです。 瀕死の重症を負った事故から生還したら、異能と新しい仲間を得るという王道展開で、ある意味ベタ過ぎるかもしれませんが、各キャラクターの性格や抱える悩み、シリアスとコミカルが程よいバランスでよく練られたストーリーです。 やっぱりこの人、上手いわぁ。
1投稿日: 2015.08.03
さよなら、シリアルキラー
バリー・ライガ,満園真木
東京創元社
少年は殺人者を狩る者になる。
124人を殺したシリアルキラーを父に持つ少年・ジャズ。父親の影響で殺人の為の手口や人を操るテクニックは知っていて、その知識から敬愛する保安官の為、地元で起きた事件の捜査に協力しようとするというストーリーです。 悪夢のような英才教育を受けた為に「少しでも踏み外してしまえば父と同じになってしまうのでは…」と葛藤しながらも、親友と恋人の存在が錨となって何とか踏みとどまっている。主人公の揺れ動く心情が克明に描かれていて、成長小説・青春小説でもありました。 殺人鬼の息子というレッテルを物ともせず、そばに居てくれる友人・ハウイーと恋人・コニーの存在が主人公の、そして物語の救いでした。 どうやら三部作らしく、続きが気になるラストです。早く次回作が刊行される事を期待します。
11投稿日: 2015.05.17
アルジャーノンに花束を〔新版〕
ダニエル キイス,小尾 芙佐
ハヤカワ文庫NV
心の柔らかい十代に読むべき一冊。
初めてこの作品を読んだのは中学生の頃でした。 人体実験とも言える手術を経て幼児並みの知能から天才へと変貌したチャーリィ。普通、一生をかけて経験する「成長→ピーク→老化」の流れを短期間で送ってしまう事、蔑まれるだけだったところから逆転した立場、天才的知能を得てしまったが為に知る苦悩といった数々の出来事に、自分だったらどんな選択をするか悩みながら読んだものです。 何度となく読み返しているけど、その度にラストの「どーかついでがあったら…」のくだりに涙腺が決壊してしまいます。
11投稿日: 2015.05.10
もう年はとれない
ダニエル・フリードマン,野口百合子
東京創元社
おじーちゃん、何やってんのっっ!!
そんなツッコミを入れずには居られない、ハードボイルド(?)な作品です。 主人公のバック・シャッツは偏屈で皮肉屋で元殺人課刑事で、そして愛妻家の87歳。 かつての戦友が『「あんたに親切とは言えなかった」(←この言い回しが面白い)ナチス将校が生きている』と遺言を遺したばっかりに、トラブルに足を突っ込む事に…。「そんな無茶な」って事の連続で目が離せなくなりました。 「年寄り扱いするな」と言いながらも、都合が悪い時は聞こえてない振りをしたり、寄る年波に勝てない事実を突き付けられるとしょぼんとしたりするおじいちゃんのキャラクターが秀逸です。コンビを組む孫のテキーラもなかなか変な性格で楽しい。 その他、日本人にはあまり馴染みのないユダヤ人コミュニティの様子が詳しく描写されていて興味深かったです。 年末恒例の各ミステリーランキングで読者部門の上位を占めていましたが、それも納得の面白さです。
11投稿日: 2015.03.13
ヴァン・ショーをあなたに
近藤史恵
東京創元社
第二弾もやっぱり美味しそう!
三舟シェフの過去と意外な姿が見られる、「ビストロ・パ・マル」シリーズの第二弾。 前回と違ってギャルソンの高築くん視点だけでなく、お客さん視点の作品、フランス放浪中のシェフを当地で出会った日本人視点から描くものとバラエティに富んだ内容になっています。 特に、三舟シェフの珍しい姿が見られる「マドモワゼル・ブイヤベースにご用心」とシェフ特製ヴァン・ショーの始まりを描く表題作は要注目。 さらっと交わされた会話の何気ない一言から真実を見抜くシェフの推理に拗れていたものが解され、相手の事を考えて作られる慈味深い料理に身も心も満たされる。こんな店が近所にあったら絶対に通う。
12投稿日: 2015.03.02
健康男 体にいいこと、全部試しました!
A.J.ジェイコブズ,本間徳子
日経BP
健康は気になるけど、つまらんハウツー物は読みたくない人へ
健康に不安を覚えた著者が、ありとあらゆる健康法を試してみたルポです。 常にバカでかいヘッドフォンを装着したり、NYのセントラルパークで半裸で走り回ったり、奇行としか見えないフィットネス教室に参加したりと、やることが極端な著者にツッコミを入れずには居られない。語り口調もユーモアたっぷりで読み物として面白いです。 笑いながら読みつつも、理にかなった健康法の数々にいつの間にか参考にしてしまっている自分に驚きました。ある意味、極端な方法を知る事で、自分に合った健康法を見極める一助となるのではないでしょうか? トレッドミル(ウォーキングマシン)で歩きながら原稿を書く姿や、除菌派の著者と免疫力をつける為少し位の菌は問題なしと考える妻の戦い、洋式トイレを和式にする下りはかなり笑えます。 上から目線で~しなさいと言うような本や、平凡なハウツー物は読みたくないけど健康が気になる方にオススメです。
2投稿日: 2015.01.29
走れ病院
福田和代
実業之日本社文庫
綺麗事だけでは病院経営は成り立たないけど…
この著者はホントに、崖っぷちで奮闘する人たちを描くのが上手いなぁ。 海外出張中に勤め先が倒産、病院長の父親が急死し、なし崩しで赤字経営の病院理事になってしまった青年の奮闘物語です。 地方の医師不足、患者のたらい回し、勤務医のワーク・ライフ・バランス、医療現場での貧困ビジネス等、作中で取り上げられる問題は多岐に渡り、素人には手に追えないようなことばかりですが、主人公の愚直なまでの誠実さや素人だからこその視点にひょっとしてどうにかなるのでは…と思い応援したくなります。 数多くの問題を抱え、綺麗事だけでは病院経営なんて立ち行かないのは明らかだけれども、この主人公達のように良心と誠実さを理想に置いていて欲しいなと思います。
5投稿日: 2015.01.29
