【感想】人質の朗読会

小川洋子 / 中公文庫
(210件のレビュー)

総合評価:

平均 4.0
52
88
43
8
0
  • 読み終えるのが惜しくなる、死者の朗読会

    南米を旅行中にゲリラ事件に巻き込まれた8人の人質。その全員が死亡してしまうというショッキングな事件からこの物語は始まります。
    やがて発見された朗読テープにより、この世にもう存在しない彼らの人生が明かされます。
    欠けたビスケットをベルトコンベアーから拾い上げる仕事をしている製菓業の女性、談話室で開かれる奇妙な集会に足を運ぶ男性、片目の老人が作るぬいぐるみに心惹かれる少年、それぞれの話はどれも幻想的で美しいのだけれど、それらが死者の声によって語られているというシチュエーションが、物語の緊張感と神秘性を一層引き立てます。
    最後の一人が語り終えるその瞬間まで、どっぷりと小川洋子の世界に浸れる一冊。
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    投稿日:2014.04.21

  • 絶妙な設定に唸らされました

    一つ一つの話は普通の短編集でも通じるものですが
    それがこの状況下に置かれ、ピンと張詰めた緊張感を纏ったものとなっている
    う~ん、上手い設定だなぁ
    静けさの中に生きることへの渇望を感じさせられました

    投稿日:2014.04.24

  • 深く広く

    短編集ではありますが、各ストーリーが語られている前提状況を加えるだけでこんなにも、深く広く情景が浮かびあがるとは・・・。 ただの短編集であれば、「個々の話がいいね」ぐらいで終わるところなのだけど、本というのは文章だけでな「構成」も大事だなと感じる一冊でした。
    また、各ストーリーでの登場人物の描写が、まるで映像を見ているかのごとく感じられます。特に「コンソメスープ」を作っているシーンなどは絶品。小川様スゴイ! 
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    投稿日:2014.04.26

  • 自分の想像力で哀しくなる本。

    異国で拉致され、人質として監禁された8人が、監禁されていた時間をしのぐためにそれぞれの物語を朗読する。

    それぞれの朗読で紡がれる物語は、さほどドラマチックなものではない。けれど、シンプルに綴られたその物語の終わりに、語り手の職業と年齢が書き添えられているのを読むと、急に一人の人間が見えてくる。彼・彼女が歩んだであろう道のりが想像できる。
    そうして想像できたその人間は、つまり人質なのだ。

    短編集の始まりには、人質事件の全貌が語られている。人質たちが全員死亡したことも書かれている。
    人生を断ち切られた人々の、「断ち切られる前」を想像させる。描いているのではなく、あくまで読者に想像させる。
    小川氏のその手腕が、切なさを生んでいる。

    登場人物たちが不幸であることと、けれど不幸なばかりではなかったこととを同時に伝えてくれるような、そんな短編集。
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    投稿日:2014.08.28

  • 実は悲しいお話

    地球の裏側の小さな村で、旅行会社が企画したツアー参加者が反政府ゲリラの襲撃をうけ拉致された。
    それから100日以上が過ぎ、その国の軍と警察の特殊部隊が強行突入したが、犯人グループも人質も全員死亡した。
    それから2年の歳月が流れ、ツアー参加者の遺族のもとへ、あるテープが届けられた。
    それは、犯人グループの動きを探るために仕掛けられた盗聴テープで、そこに録音されていたのは、人質8人が自ら書いた話を朗読する声。
    長い人質生活の中で犯人グループとのコミュニケーションも生まれ、命の危険を感じなくなっていたらしく、朗読の合間によく笑っている。
    そんな「人質の朗読会」の8つのお話と、特殊部隊の隊員で盗聴の現場でヘッドフォンを耳にあてていた人物のお話の9章からなる。

    一般人がこんな美しい文章を書けるはずがないと突っ込みを入れたくなるところだが、普通の人たちが普通に暮らしている中で心に残っている出来事が、優しい語り口で書かれている。
    9つのお話だけなら、ほんわかとあたたかい気持ちのまま読み終えることができるのだけれど、その背景にあるのは「そんな普通の人たちが、拉致され殺された」という事実。
    やっぱり悲しいお話。
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    投稿日:2014.06.14

  • なんともいえない余韻の残るお話

    地球の裏側の南米で日本人の旅行者8人がゲリラに誘拐され、数か月のちの救出作戦のさなかに全員が爆死してしまった・・という、非常にショッキングな事件の顛末を語るところから、この物語は始まる。
    ただし物語自体は誘拐事件そのものを扱ったものではなく、捕えられた人質たちの恐怖や政府のゲリラとの交渉、救出時の息詰まる攻防といった類の話は、一切出てこない。
    暴力的で殺伐とした背景を舞台としながら、この物語全体を支配しているのはひっそりとした静けさだ。
    長い拘留生活の中で人質たちの心にどのような葛藤があったかは、外部からは知る由もない。ただし残された記録が存在した。
    人質たちの肉声が。
    彼らは、解放されたら何をしたいかといったような未来は語らずに、自分が過去に体験したエピソードをおのおの語っていた。
    その一人一人の話で構成されているのが、この物語である。
    正直、ドラマになるような劇的なエピソードなど一つもない。よく考えるとちょっと不思議な感じのするお話もあるが、しみじみ感動させるとか泣けるとか、突出した話ではない。ただそれが淡々と次々に語られていくのに耳を傾けているうちに、我々は気付かされるのだ。
    他人が聞けば何でもないようなちょっとした事柄でも、それがその人の人生を決める大事なきっかけとなることがある。そして生涯忘れられないエピソードとして、心に刻まれている。そうしたことは、実は大多数の人が大なり小なり経験しているのではなかろうか。
    私たちの周りにいる、大成した事業家でも華やかな芸能人でもない、どこにでもいるごく普通の人たち。それがある日突然、普通でない状況に巻き込まれ、命を落としてしまった―。
    だからこそ、彼らのささやかな人生が確かにそこに有ったのだと。こんなふうにして皆それぞれ懸命に日々を生きているのだと。
    声高に何かを主張するのではないが、ひたひたと波が打ち寄せて来るような、そんな味わいのある物語だと思う。
    とても感動的だとか胸に迫るとか、そういう劇的な部分は何もない。なのに何故か静かな夜にもう一度読み返したくなる、そういう余韻を残す物語だ。
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    投稿日:2014.10.11

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ブクログレビュー

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  • トモミ

    トモミ

    全ての朗読会が美しい。

    掌編の最後の(専業主婦、30代女性)というひと言だけで、どの話にも結末の暗示や、話のオチが付いているのが、この「人質の朗読会」が他の短編集と一線をかく所だと思いました。

    投稿日:2024.04.07

  • 花

    何度も読んでいる本。
    大きな華やかな出来事ではないけれど、力を与え
    られる出来事を見せてもらった感じが好き。

    投稿日:2024.02.25

  • Mako

    Mako

    構成を初めに話して結果が分かっているからこそ中身の短編たちが意味を持って輝いて見える。

    小川洋子さんの小説は何かしら死の存在を織り交ぜるケースが多く、静かな中に美しさが感じられる文章が毎回落ち着く。

    投稿日:2024.02.24

  • くつした。

    くつした。

    大きくわけると9つの話にわかれていて
    読みやすかった。
    どの話もドカンと衝撃的な話ではないが、引き込まれる話だった。未来が見えない中、自分の過去を思い出したときは、大きな出来事より些細な出来事が思い出されるのかもしれないなと。
    文体がそれぞれの性格や性分を現すように書かれているところもおもしろいと感じた。
    続きを読む

    投稿日:2024.02.18

  • tamasa85

    tamasa85

    うまく理由を言語化できないけれど、
    とにかく空気感や文章が好き。

    人生の中の出来事が、
    職業選択に繋がっていて、そうか〜と感慨を受けたり。

    でもただ明るいというよりは
    静かに生と死が流れている感じ

    やまびこビスケットと花束が特に好きかな。
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    投稿日:2024.01.27

  • み

    人生の中で誰しもひとつは持つ大事な出来事、自分を変えた出来事を朗読していくもの。人質たちの置かれている状況自体はそこまで関係がないように感じて、実はお互いがそれを共有するという意味で重要となり悲しいような美しいようなそんな作品だった。続きを読む

    投稿日:2024.01.14

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