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shizukiさんのレビュー
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  • 豆腐尽くし 居酒屋お夏 春夏秋冬

    豆腐尽くし 居酒屋お夏 春夏秋冬

    岡本さとる

    幻冬舎時代小説文庫

    胸に染みる

    居酒屋を舞台にした江戸の人情ドラマが繰り広げられるこのシリーズは大好きです。 前回のシリーズは親の仇を探して打つというサスペンスが土台にあり、やや事件性があって緊迫感が楽しめました。今の新章はそういう緊迫感が抜けた分、安心して人の心の機微を存分に味わえる感じでしょうか。 特に今回の作品は一つ一つのドラマが濃いなと感じました。胸にじんわりと染み込む・・この感覚が誠に宜しい。このシリーズの醍醐味です。

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    投稿日: 2021.09.07
  • 怪談実話傑作選 弔

    怪談実話傑作選 弔

    黒木あるじ

    竹書房怪談文庫

    読後感が最悪

    実話怪談集は好んで色々よく読んできたが、この著者の作品は初めてだった。数話読んだ時点で「これは…」と感じた事それは、単にゾクリとする怖いお話というのではなく、この著者の集めてきた話は、どれも読後に嫌ぁな気分になるものが殆どなのだ。 不快という意味での嫌らしさ。これは個人の感情に基づく意見なので著者のファンには申し訳ないが、私は購入した事を酷く後悔してしまった。 ただ逆に言えば、世にある数多い怪談集はどれも似たり寄ったりで、1度読めば頭からサッと消えていってしまうものが多い。それに引き換えこの著者の怪談集はなんとも後味の悪い嫌な気分にさせられる事で、強く印象に残る結果となっているので、そういう意味では素晴らしいと褒めるべきか…。

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    投稿日: 2021.09.03
  • 百鬼一歌 都大路の首なし武者

    百鬼一歌 都大路の首なし武者

    瀬川貴次

    講談社タイガ

    シリーズ物の第2弾

    この作者の別シリーズ「ばけもの好む中将」の大ファンでこちらの作品も読んでみたのですが、前回の第1作目は正直面白いと思えませんでした。歌人を主人公にした点に物珍しさはあっても随所に挿入される本人による歌の解説に(話中の人物同様)げんなりさせられ、主人公の歌人希家のキャラクターがどうにもボンヤリして、魅力を感じる事ができなかったのです。「ばけもの~」はどこか可笑しみを感じさせる軽妙洒脱な文章が気に入ってるのですが、こちらは至って真面目な文章の運びです。こちらのお話の方が史実の流れををより意識させるような作りになっていると感じます。ただどうにも凡庸感が否めず、これが何故2作3作と続く事になったのか…と失礼ながら首を捻ったものでした。 が、2作目になって俄然面白くなりました!実はこのシリーズの(隠れ)主人公は歌人その人ではなく、いつも彼の周りをちょろちょろしている陽羽という少女だったのです。そうした目線で見ると、作中誰よりも生き生きとキャラが立っていて動きのある人物で、彼女の熱意ある行動が物語を広げて行きます。 今回は首なし武者出現という、おどろおどろしい話ですが前回よりずっと緊迫感・ミステリー感があって楽しめました。そしてこのシリーズは、最後の最後に「えっ?!」と驚くようなタネ明かしをぽんと投げかけて次回に引っ張る、という特徴があるようです。じわじわと面白さが増して来ました、次回作が楽しみです。

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    投稿日: 2021.05.06
  • ずうのめ人形

    ずうのめ人形

    澤村伊智

    角川ホラー文庫

    一作目に劣る

    不条理で全くもって理不尽な怪異に襲われる、という点では一作目も二作目であるこちらの話も共通しているが、今作品はただ訳も分からず不幸な境遇の少女の日記めいた話を延々と読まされるので、退屈な上に苦痛でしかなかった。物語が動き出すのは中盤を超えてからなので冗長極まりない。怪異自体はパワーがあるが、理由付けのしっかりしていた前作に比べ、今作品はモヤモヤとした謎だけ残った。都市伝説が主体の話なので、結局はそれで良いのかもしれないが・・。

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    投稿日: 2020.09.06
  • 消滅 VANISHING POINT (上)

    消滅 VANISHING POINT (上)

    恩田陸

    幻冬舎文庫

    少し長すぎるかな

    テロリストがこの中にいる。そう告げられて空港に足止めを食らった人々。互いに疑心暗鬼を募らせながらも連帯感によって結ばれて行くという話。果たしてテロリストは誰か。彼らが目論む「消滅」の意味するものは? ミステリーの要素があってとても面白かった。長丁場だけあって人物描写が非常に細やかだし、ここで必要なのかと思うような突拍子もないようなSF要素も話の中でスパイスになっていた。 ただ描写がいささかクド過ぎ長すぎの所があって、こんなどうでもいいような説明を長々するよりもさっさと話を進めて欲しい。そう感じる時もあった。この物語はもう少し短く纏めても良かったのではないかと思う。 あと、この騒動は結局落ち着く所に落ち着いて終焉を迎える訳だが、国家や政府など物々しい体制をを持ち出した割には、いささか甘いというか呆気ないというか。でも軽い読み物としては最高だし、2時間ドラマにしたら面白い内容だと思う。

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    投稿日: 2020.07.30
  • 死都日本

    死都日本

    石黒耀

    講談社文庫

    大スペクタクル・パニックホラー

    これはホラー小説だ、と思った。 ゴシックホラーやサイコホラー等色々あるが、 パニックホラーという名称を与えたい。 なにしろ火砕流が押し寄せた時のおぞましい 戦慄や人々の苦痛の描写が、これでもかという 程に残酷にリアリに描き出されていて、冒頭の 章だけで心の底から震え上がってしまい、 読み進めるのを躊躇したほどだ。 最後のページまで一瞬たりとも気を抜けない、 目が離せない緊迫感と臨場感は実に見事だ。 古事記と火山噴火を絡めた解説も非常に 説得力があって興味深い。おそらくそれが事の 真相だと素直に感じられるのではないか。 本当は星5つの満点評価でも良かったのだが、 星を一つ減らした訳は3つある。 一つに、専門的な火山関係の説明がやや 長すぎたこと。 門外漢の読者相手に、微に入り細を穿つように 事細かく火山の状態を描写されたり説明 されたりしても、よく分からないので冗長に 感じてしまった。 また、最も辟易させられたのが、登場人物の 口を借りての日本の政府批判、政策批判だ。 作者が自分の主義主張をを小説内に込める 事は常套手段なので、それはとやかく言わない。 ただあまりにも露骨過ぎるし、クドい。 作者が最後に打ち出した日本再生論は 美しく神話的な理想論として感動はしたが、 そこに至るまでのこき下ろしが多過ぎた。 現状を憂う気持ちに共感する部分はあっても 度を越せば鼻に付く。 そして3つ目は、聖書の聖句に対するミス リードだ。 これは作者が聖書に詳しくないが故の過ち なのか、それとも分かりつつ敢えてわざと 読者をミスリードしたものか。 聖書の黙示録の一節が、意図的に火山爆発 説と結び付けられていたのだ。 古代ユダヤ人の文化では、大きな嘆きを表す 際に袖を引き裂き、自ら灰を被った。 それを、あたかも自然現象で灰が降り積もった かのように描写するのは、ミスリード以外の 何物でもない。 こと宗教に関する事物、それも様々な解釈が あるとはいえ『Bible』を扱うからには、 作者はもっと慎重になるべきだと進言する。 殆どキリスト者のいない日本人向けの小説 だからこそ、誤った印象を植え付けて欲しく ないのだ。 以上の点で星を減点したが、素晴らしく 読みごたえのある一大スペクタクルには 違いない。 特に九州地方に住んでいる人には最高に 恐ろしいパニックホラーと思うが、 我ら日本という国に住む人間は太古の時代 より、まさしく火山列島の真上に文明を築いて きたのだという厳然たる事実を、改めて強烈に 思い起こさせてくれた好著である。

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    投稿日: 2020.01.08
  • お月見村の診療所 ~プラマイゼロ~

    お月見村の診療所 ~プラマイゼロ~

    丸山ユイチ

    JSpace

    なめて掛かったらガツンとやられました

    掘り出し物の佳作を見つけた気分です。 文体が非常に優しくて、子供向けの ファンタジーなんだろうな、と思います。 でも発想がすごくて、主人公である診療所の 先生の変わり様に度肝を抜かれました。 こんな不思議なお話は、子供の頃にだって 読んだことがありません。 終わり方も良かったと思います、自分の当初の 予想とは違いましたが、却って良かったです。 自然と人と、心の脆さ強さ、家族の有り難さ。 じんわりと胸に滲みて、温かくなる物型です。

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    投稿日: 2020.01.04
  • 鹿男あをによし

    鹿男あをによし

    万城目学

    幻冬舎文庫

    主人公のキャラがなぁ・・

    大絶賛してる人には申し訳ないが、私はこの物語はイマイチ好きになれない。 いや面白かったですよ?奈良の美しい自然と神の使いの鹿。情景が目に在り在りと浮かんだし、途中から古代ロマン溢れる壮大な?ファンタジーになっていく辺りはなかなか良かった。 ただ、途中までひっぱり過ぎだろうという感は拭えない。最初からおそらくキーパーソンだろうと思わせる女の子の正体が明かされるのはいい加減後になってからだし、何より主人公の男性に魅力が感じられない。 「コイツの性格はどうなんだ?」と始めからイライラし通しだった。 却って脇を固める人々や、神の使いの三神獣の方がよほどキャラが立っていると感じたくらいだ。 ・・いや、これが作者の狙いなのかもしれない。 格好良くもいい人でもない、いわば禄でもないような 主人公を敢えて据える事によって、より登場人物たちが活きるという。 だとしたら、やはり見事な物語なんだろうな。

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    投稿日: 2019.12.31
  • 十二単衣を着た悪魔 源氏物語異聞

    十二単衣を着た悪魔 源氏物語異聞

    内館牧子

    幻冬舎文庫

    なんという面白さ!

    この本に巡り会った幸せを、しみじみ噛み締めながら今、読了した。 まずはこの本を世に送り出して下さった作者と出版社にお礼を申し上げたい。 世に源氏物語の解説本や登場人物たちを描いた同じような物語は掃いて捨てるほどもあるが、この本こそが決定版であると、声を大にして私は言いたい! これほどまでに千年昔の京の都を生き生きと、人々の息遣いまでが聞こえてくるようにハッキリと描き出した物語が他にあっただろうか? そして、ここまで細やかに人の心を鮮やかに映し出した物語があっただろうか。 私の心は主人公と共に平安時代の京へ飛び、当時の美しく素朴な風景を味わい、同じように亡き人を偲んで涙し、そして予想はしていたが、主人公のその後に同じように苦しみを感じた・・古の都が恋しくて。 そのくらい、のめり込んで読み込んでいた。 この物語では、源氏物語では脇役でしかなく、しかも悪役で恐らくは嫌われ者であろう人物が主体となっている。だが、なんと魅力的で愛すべき人物であろうか。全く目の覚める想いであった。そうか、この人物の真の姿はこうだったのかと。 登場人物たちは皆生き生きとしていて個性が溢れ、そしてとても良い台詞を言う。どれも皆心に染みて、胸に迫る。 この本は私の愛読書の一つとして、生涯大切にするだろう。何度も読み返して、私もまた、平安の昔へタイムスリップするのだ。何度でも!

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    投稿日: 2019.11.28
  • ラストレシピ 麒麟の舌の記憶

    ラストレシピ 麒麟の舌の記憶

    田中経一

    幻冬舎文庫

    心の底から感動した!

    ミステリー仕立てになっているのでどうしても先が気になり、一気に読んでしまった。 まさか最後にそういうサプライズを用意していたとは‥。 ひとりの希有な料理人と幻のレシピを追う話が、昔の話を差し挟みながら少しずつ進んでいくのだが、戦前戦中が舞台の話では当時の世相がよく伝わってきて、遥かな満州の空気までが感じられるようだった。見事な描写である。 そして現代版の主人公も優れた料理人ではあるのだが、その態度や生き様に、我々読者は若干の苛立ちを禁じ得ない。 が、この物語はその彼の再生のドラマでもあるのだ。 過去に存在した、正に天才といってよいほどの希有な料理人。彼の作った一世一代の幻のレシピ。 それを追い求める中で出会った人々の心根に触れ、幻の天才料理人の料理に対する真摯な思いが分かるにつれ、彼は変わってゆくのである。 そして、彼が変わったのも実は・・という、二重三重の伏線が張られていて、構成が実に巧みだと思った。 こんなにも胸が一杯で読了する事は、なかなか無い経験だ。素直に感動した。 しばらくは幸福な余韻が続くだろうが、収まった頃にまた改めて読み直したいと思う。

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    投稿日: 2019.11.14