ハーモニー

伊藤計劃 / 早川書房
(671件のレビュー)

総合評価:

平均 4.3
292
213
79
12
4
  • とある窮屈な世界で

    真っ白な表紙からは、どんな内容か想像できないと思いますが……
    本作は未来の地球を舞台にした物語です。医療技術のめくるめく発達により、そこではほとんどの人類が健康なまま寿命を迎えます。風邪をひくこともなければ、肥満も痩せもありません。そんな世界に違和感を覚える主人公(女)は、大人になってもシステムを騙して煙草を吸ったりしています。誰よりも世界に反感を抱いていた友人、ミァハのことを思い出しながら……。
    これは単なるSFにとどまらない、深い物語です。ときには残酷な描写も出てきますが、それが理由で読まないのはもったいないと思います。独特な人物名やHTMLタグのような文字列を多用した文章形式も、この物語独特の雰囲気を生み出すのに一役買っています(文字列の意味は最後まで読めば分かります)。
    「面白い」の一言では片付けたくない、いろいろな意味で「衝撃的」な作品でした。
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    投稿日:2013.12.05

  • ディストピア小説としての現時点での一つの回答

    テクノロジーが進化して、個々人のあらゆる病気が駆逐された未来を舞台にしたディストピア(見方によってはユートピアなのかも)小説。現実世界でのサラリーマンの企業による健康管理を極端・徹底的にして全人類に適用したような世界が舞台。主人公たちは、そんな体制に陰で反抗する女性(少女)たち。そこで起きた、ある意味必然性をもった大事件とは。
    文体としてはやや取っつきにくい感じもあるが、読み進むうちに気にならなくなる、非常に強烈な魅力を持った作品。エンタテイメントでありながら、(著者の境遇も併せて)考えさせられる問題作。
    このSF小説はすごい。P・K・ディック賞特別賞も当然か。どうしたらこんな小説を考えつくのか。伊藤計劃氏の底の知れなさは慄然としてしまう。早世したのは本当に惜しかったと思えるが、死期が近いことを悟っていたからこその作品かもしれません。
    SFファンなら必読、そうでない人にもお勧め。「虐殺器官」を読めた人なら、抵抗なく読めると思います。

    そういえば、「虐殺器官」共々アニメ化されるとか。実写での映画化はちょっと難しいのではないかと思っていたので、アニメ化は当然と思われますが、気をつけて演出しないと、総スカンを食いますね、これは。
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    投稿日:2014.05.11

  • 意思とは何だろう

    すべての人々が管理され,「健康的に生きること」が最優先されるようになった世界。
    最善の生き方,最善の生活を外部から指示されながら生きていく,人々がそのような道を選び,調和していくとどうなっていくのだろうか。
    人とは,意思とは何だろうか。
    このようなすばらしいSFを書かれた伊藤 計劃さんだが,若くして亡くなられてしまったというのは非常に残念。
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    投稿日:2014.04.23

  • 絶望的なユートピアと無謀な試みに、彼の魂は救われたのか

    わたしという一人称で語られる、人類という種が到達し得る一つの絶望的なユートピアの姿を描いた類稀なるSF小説です。ゼロ年代ベストとの評価は妥当だと思います。

    詳細はネタバレになるので避けますが、時代とテクノロジーの流れとしては『虐殺器官』から繋がっていてより未来の話になっているものの、人間の社会とテクノロジーある種のロジカルな発展をしていった末の姿としての違和感はなく、それゆえに恐ろしくもあります。一人称が女性になったせいか、物語の雰囲気としては前作よりも物静かに感じますが、取り扱っているてテーマはより人間という動物の進化に対する深い仮説から成り立っています。

    色んな作品へのオマージュに作者の遊びゴコロを感じつつも、作者が実生活で死を見据えた病と格闘する中で記したこの小説が、構成員がみな健康的に生きられる社会と自分の意識の死というものを救い得る物語をそれらに対して否定的な『わたし』の視点から書いているところに、作者自身の死に対する距離感をもった諦観や解放などの感情と、意識を失うことへの憧れと恐怖、を感じてしまいます。

    さらに言うなれば、『わたし』の消失を『わたし』が記録することは、体験できる死が常に誰かの死でしかないように原理的には不可能なので、この『わたし』による記録という形式でこの小説を書いたことは、自分の死を描こうとしているような無謀なトライアルに筆者がのぞんでいるように思えてなりません。ひょっとしたら、その無謀な試みにこそ読者は感動させられるのかもしれません。

    この絶望的なユートピアと消失する『わたし』を描くことで、少しでも彼の魂が救われたことを切に願ってやみません。
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    投稿日:2014.01.20

  • ハーモニープログラムの必然性

    大災禍の後、高度医療社会が到来しハーモニープログラムにより人間は自意識を失い、究極の平穏を手にしました。核兵器が「使える」兵器だと世界が認知した状況ではこのような結末は現実的だと言えると思います。結果的に虐殺器官をどう抑制するかという課題は解決されました。それは健康状況が管理された肉体的には死が無い医療社会。そして、選択、決断の必要のない社会。それは管理された潜在意識に支配される自意識の存在しない幸福な社会。
    ハーモニープログラムはやはり必然である。自意識があるからには、死ぬことが許されない社会にあっては集団自殺は不可避である。肉体が健康であっても精神は崩壊する。まさに高度医療社会とハーモニープログラムはユートピアの臨界点である。
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    投稿日:2014.02.09

  • ハレルヤハレルヤ

    著者最後の長編作品。『虐殺器官』同様緻密に練られた設定で、読みすすめる中で情景描写に違和感が全くない。中盤から最後は一気に読まされました。次回作が読めないのがとても、とても残念。ハレルヤ ハレルヤ

    投稿日:2013.09.26

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ブクログレビュー

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  • げんげん

    げんげん

    このレビューはネタバレを含みます

    キアンが実はただの腰巾着ではなく、誰よりも大人だったことに気づいたトァンがそこから真相に迫りつつ、復讐心を抱いていたこと、真相に迫りながら意識、意志の存在を理屈として否定しながらも復讐心という意識の産物を抱えている姿が、どうしようもなく人間らしい

    と感じることが、ハーモニーであることを妨げる

    人は一体であることを望んでいるんだろうか?
    少なくとも一体感は大事にされている?
    だが意識があれば一体となることはできない
    そして意識を失うことは耐え難い
    故に人は一体になれず、一体感を目指して苦しい思いを抱いている
    ということを切実に描いた小説だと受け止めています

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    投稿日:2021.04.22

  • stella63

    stella63

    虐殺器官に引続き読了。
    虐殺器官を読んでいたから、読みたい気持ちと怖さがあった。
    そして案の定あっという間に引き込まれて、そして今、押し寄せる読後感に圧倒されている。
    頭の中を駆け巡る、答えの無い問い
    虐殺器官の時もそうだった。こうやって本を読み終えてもなお、その世界を垣間見ながら考える。本の世界が続いている感じ。

    そして何より、作者が死を前にこれを書いていたことを、どうしても意識せざるを得ない。
    そうして読んだ時の文章の重みをどう表せば良いのか、それだけの術を私は持ち得ない。
    続きを読む

    投稿日:2021.04.21

  • あきほ@しのびあし

    あきほ@しのびあし

    このレビューはネタバレを含みます

    2010年に書かれたとは思えない本。これからこの本に書かれたようなことが起こっても決しておかしくないと思った。この本を読んでから電子決済が怖くなってしまった笑

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    投稿日:2021.04.10

  • aki

    aki

    虐殺器官もそうですが、世界観の完成度が高すぎる。
    設定や起こる事件はなかなかぶっ飛んでいるのに、今の世界から地続きであり得そうな違和感の無さがすごい。

    投稿日:2021.04.08

  • yuu

    yuu

    細かい部分は読み飛ばしたから完全に理解したとは言えないんだけど、ストーリーの大筋はとても興味深くて面白かった。私はこういう、人間の心理とか、生きることの意味とか難しさとか、考えても答えが出ないような、正解がないような、哲学者たちが考えていたような問いについて思いを巡らすのが好き。ある一つの考え方があって、それに対して反対する人も賛成する人もいて、また、ある一点までは同じ道だったのに途中から分岐することもある。ずうっと昔から変わらないんだろうなと思う。意識が奪われたら生きる意味はないのでは、って、反射的に思ってしまうけど、「意識をもって」「苦しみや喜びを感じながら」生きることにだって意味があるのかと問われたら、どう答えて良いかわからない。その時々で生きるために必要な機能をインストールしながら生存してきた。不要なものはアンインストールされるべきなのかもしれない。進化って不思議で面白い。続きを読む

    投稿日:2021.03.21

  • kei1122

    kei1122

    このレビューはネタバレを含みます

    21世紀後半、大災禍により従来の政府は
    生府となり生命主義の健康社会を保つために、
    人は大人になると個人用医療薬精製システム
    (メディケア)を使用し『公共物としての身体』を
    大切に扱うというルールの下で生活している。

    「ただの人間には興味がないの」(P22)と言い放つ
    御冷ミァハ、ミァハに心酔する主人公・霧慧トァン、
    2人の友人の零下堂キアンは、自殺を試み、
    結果、ミァハだけ自殺は成功する。

    大人になったトァンはWHOの螺旋監察官となり、
    僻地で世界のルールを犯しつつ働いているが、
    日本に戻されてしまう。そして、彼女の目の前で
    大事件が起こる。

    最後に人類は何を得て何を失うのか。

    SFは苦手分野ですが、もともと存在するWHOの
    人間が主人公ということもありとても
    読みやすかったです。

    三人の少女もそれぞれ個性的で全員厨二病かな?と
    思わせつつ、それぞれのバックボーンもしっかり
    描かれていました。10代なら御冷ミァハのことを
    好きになっただろうなー。

    スイーツを好きなように食べられず、
    やせた人も太った人もいない世界はさぞ
    味気ないでしょうね。私には無理だ。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2021.02.21

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