
太陽は動かない
吉田修一
幻冬舎文庫
映像が目に浮かぶようなエンタメ小説
産業スパイ、鷹野と田岡のコンビがアジア圏を舞台に暗躍するエンタメ小説です。吉田さんのいつもの深い人物描写、文学的な香りはあまりありませんが、様々な登場人物にはそれぞれきらりと光る魅力があり、特に男前な鷹野とちょっと妖しげな影のある田岡の出てくるシーンにはいつもドキドキ。 映像が目に浮かぶような場面の連続だけどこれを本当に映像化するのはものすごく大変そう。小説だからこそぱっぱっと展開していく素早さが小気味よく、純粋に楽しめるエンタメ小説です。思ったより壮大な話に展開していくのもよくて長編ながら飽きさせず次が気になってつい一気読みしてしまうような作品です。
2投稿日: 2013.09.30聖なる黒夜(上)
柴田よしき
KADOKAWA
山内練の虜になる
あらすじの中の「美しい男妾」というキーワードに魅力を感じた方にはぜひ手に取っていただきたいです、この稀有な小説を。主人公・山内練の虜になること間違いなしです。私は読後しばらく彼のことが頭から離れなくて大変でした。作中人物にこれ程心を奪われたのは初めてです。 ミステリだと思って読み始めるとびっくりするかもしれません。もちろんミステリ要素も面白いのですが、ここに出てくる男たち(そして女たちも)の生き様は壮絶です。柴田よしきさんの真骨頂です。 もしこれまで「聖なる黒夜」について知らなかったという方は、同作家さんの「RIKO」シリーズから読んでみるのもいいかもしれません。衝撃度がUPすると思います。同じ登場人物が出てきて話がつながっています。お話の時系列でいうと「聖なる~」の方が先なのですが、「RIKO」シリーズを読んでから彼らの過去話を読んで楽しむという方法もあるということです。実際書かれたのはRIKOの方が先です。 「RIKO」シリーズは全部で三冊、「RIKO」「聖母の深き淵」「月神の浅き夢」の順です。(すべて電子版あり) 山内練が出てくる小説は他にもあり、花咲という探偵が主人公のミステリ・シリーズで、現在(2013年9月)電子版で読めるのは「フォー・ディア・ライフ」だけです。
5投稿日: 2013.09.26長崎乱楽坂
吉田修一
新潮社
吉田文学の傑作
吉田修一さんはとても好きな作家さんでよく読むのですが、「長崎乱楽坂」以上の味わい深さを感じた作品は他にありません。 少年から男へと成長していく過程の通過儀礼、性への目覚め、ヤクザ者の集まる家のいかがわしさ、地方と都会、出て行く者留まる者、綿々と受け継がれる「血」---挙げれば切りがないほど幾つものテーマが折り重なっていて驚きます。 長崎という地方が舞台なのも非常に情緒溢れます。 少し暗めのトーン、深い人物描写、どれも好みでした。
1投稿日: 2013.09.25警視庁捜査一課刑事
飯田裕久
朝日文庫
警察小説が好きなら絶対オススメ
警察組織を書いたノンフィクションものはたくさん出版されていますが、電子版で読めるものはそう多くありません。その中でもこの作品が電子化されたのは非常に良かったと思います。 まず読み物としてとても面白い。ありがちな「手柄話」に陥らず、携帯電話もない時代の重大事件の警視庁の捜査がどんな風に行われていたかが臨場感たっぷりに読めます。決して古いと感じることもありません。 また、一警察官が花形である警視庁捜査一課に配属されるまでのいきさつなども詳しく書かれていて、想像以上に警察組織の厳しさを知ることになります。班長や係長など、警察小説やドラマによく出てくる肩書きの上下関係、中央と所轄の違いなども分かりやすく紹介されていて、警察小説が好きな自分には大変ためになりました。 小説になっても良いほどのドラマも実際この元捜査員である著者の周りに次々と起こります。下手な小説を読むよりずっと読み応えがあったかもしれません。著者はもうお亡くなりになっているという事実もまた心に響くものがありました。このような作品を残して下さってありがとうと言いたいです。
2投稿日: 2013.09.25左近の桜
長野まゆみ
角川文庫
美しい日本語、幻想的な世界観
連れ込み宿「左近」の息子・桜蔵(さくら)はその美貌ゆえか常人には見えないものをよく「拾って」しまう。あの世とこの世の狭間をさまよう妖しい男たちの物語を美しい日本語で読みたい方、ちょっと現実を離れて耽美な世界に浸りたい方にオススメです。 「骨箱」というお話がよかった。古道具にまつわる話や言葉遊びが面白い。
5投稿日: 2013.09.24