かのこちゃんとマドレーヌ夫人
万城目学
角川文庫
やさしい気持ちになれる本
とあるゲリラ豪雨の日、1匹のアカトラ猫がかかのこちゃん一家の飼い犬「玄三郎」の犬小屋に逃げ込んだ。 それからかのこちゃんの家に居つくようになった猫は「マドレーヌ」と名付けられる。 玄三郎の話す犬語と、人間語がわかるマドレーヌ。 マドレーヌ夫人と玄三郎の夫婦愛と、かのこちゃん一家や、広場に集まる猫仲間とのやさしい、やさしいお話。 最後は涙なしには読めません。
1投稿日: 2014.04.04仮釈放
吉村昭
新潮社
贖罪なしの仮釈放の悲劇
妻の不倫を目の当たりにした主人公が、妻と不倫相手の母親を殺した。情状酌量もあり無期懲役になった彼は、16年後仮釈放を認められる。 16年という年月は、街の様子も暮らし方も、全く違うものに変えていた。 「人を殺めた」ことが周りの人にバレないかという不安。 人並みな暮らしができるように助けてくれる、保護観察官への感謝。 模範囚だったかもしれないけれど、彼には仮釈放されるための重要な要素が足りていなかったのかもしれない。 被害者への贖罪の気持ち。 被害者への憎しみを昇華できないまま仮釈放された彼が、本当の平安をつかむことができるのだろうか? 結局は、彼は刑務所の塀の中で守られていたのだろう。 主人公の心の動きが痛いほど伝わる。
1投稿日: 2014.02.21破獄
吉村昭
新潮社
後半に読み応え
「昭和の脱獄王」と呼ばれた白鳥 由栄(しらとり よしえ)をモデルに描かれた作品。 青森刑務所、秋田刑務所、網走刑務所、札幌刑務所と、4か所もの刑務所を脱獄し、累計逃亡年数は3年にも及ぶ。 彼の超人的な脱獄方法と、それを防ごうとした刑務官たちとの攻防。 食糧難・刑務官不足に瀕していた全国の刑務所の状況。 それらが、吉村昭の真骨頂でもある膨大な取材から描かれている。 ただ、残念なのは、前半の網走刑務所脱獄までは、記録を追っている感があり、人物の動きが感じられない。 札幌刑務所から最後の服役になる府中刑務所までの章で、やっと脱獄犯の佐久間と刑務官たちが生き生きと動き出す。 実際にインタビューできたのが、最後の府中刑務所での関係者であったことも影響するのかもしれない。 ドキュメンタリーではなく、小説という形をとっているのだから、もっと大胆に作っても良かったのではないか? 吉村さんはまじめだから、それができなかったんだろうなぁ。
0投稿日: 2014.02.20