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みかさんのレビュー
いいね!された数101
  • 私の男

    私の男

    桜庭一樹

    文春文庫

    道ならぬ絆

    奥尻の津波で家族を亡くし、9歳で独りぼっちになった「花」。彼女を引き取り養父となったのは、淳悟という遠い親戚の25歳の青年だった。 花の結婚から始まり、津波で引き取られ親子になるまで、年月を遡って描かれている。 花と淳悟には沢山の秘密がある。その秘密を共有することによって、絆が強く強く結ばれていく。 花は津波で家族を失い、淳悟は父親を海で、母親を病気で亡くしている。そういう欠損家族だった者同志が、お互いを守りあい、お互いだけを必要としていく。それは親子という道を踏み外すものだとしても。 単なるアダルトチルドレンのお話と片づけられるのかもしれないけれど、絆を切望する気持ちはとてもわかる。 守られたい。安心できる場所・人が欲しい。 きっと、それは誰だって同じ。

    1
    投稿日: 2014.09.19
  • 天才柳沢教授の生活(1)

    天才柳沢教授の生活(1)

    山下和美

    モーニング

    ハマる

    車の制限速度は厳守。 ペットの糞が道路に放置されていたら「犯犬をつかまえろ」とチョークで書置きをする。 公共の問題以外、個人のことには立ち入らない主義。 そんなY大学経済学部の柳沢教授の日々。 面白い~\(^o^)/ 34巻まで電子書籍化されているけど、大人買いしそう。

    1
    投稿日: 2014.08.07
  • その日のまえに

    その日のまえに

    重松清

    文春文庫

    涙・涙・涙

    「その日のまえに」 「その日」 「その日のあとで」 という後半の3つの短編と、その前にいくつかの短編という構成。独立した短編かと思わせておいて、「その日…」の3篇でそれらが大きな伏線になっていることがわかる。 その日とは、“死を迎える日” 死ぬことと生きること。 かけがえのない人を失うこと、かけがえのない人を残して先に逝かなければならないということ。 とっても暗いテーマだし、涙なしには読めないのだけれど、読後感がすごく良い。

    8
    投稿日: 2014.07.14
  • プリズンホテル 4 春

    プリズンホテル 4 春

    浅田次郎

    集英社文庫

    シリーズ最終にふさわしい

    52年もの懲役を務めて出所したじいさんが、毎月面会に来てくれていたヤクザの総長から出所したらここへ行けと言われていたのが、通称「プリズンホテル」。 途中神社で知り合った男と競馬場へ繰り出し大勝し、一緒にプリズンホテルへ行くことになる。実はこの男、自分の工場が不渡りを出す寸前で、じいさんの金を密かにねらっているのだ。 もちろんプリズンホテルには小説家の木戸先生も宿泊している。今回は、日本文芸大賞にノミネートされ、受賞発表の連絡を編集者たちと待ちながらの宿泊だ。 というのは表向き、実は行方不明になった育ての母富江が、もしかしたらここへ来ているのでは?と思ってのことだった。 その他に、役者志望の母娘。おなじみのヤクザ大曾根一家御一行様が宿泊。 放免祝いの大バクチあり、厨房で働く板長とシェフの人情物語あり、偏屈だった木戸先生の心が溶解していく様あり…。 ジェットコースターだけじゃなく、プリズンホテルの締めくくりにふさわしい。 ホテルの庭に咲く放免桜の花吹雪が、さわやか。

    1
    投稿日: 2014.07.14
  • プリズンホテル 3 冬

    プリズンホテル 3 冬

    浅田次郎

    集英社文庫

    厳寒なのにあたたかい

    しつこい原稿催促をする編集者から、ヤクザの叔父がオーナーの通称プリズンホテルへやっとのことで逃げてきた小説家の木戸。すっかり奴隷と化している恋人清子も一緒だ。 それでなくてもいわくつきのホテルには、深い雪の季節に訪れる客などほとんどいない。 ところが、この木戸先生は、どうやらお客を呼び込む不思議な力があるらしい。 今回同宿するのは、自分の患者を安楽死させた医者と、救命救急センターのベテラン看護師。いじめに耐えかね自殺しようと冬山へ入った中学生と、その中学生を偶然助けた超有名アルピニスト。 そして、木戸が逃げ込んだ先を執念でつきとめた編集者。 雪に閉ざされたロケーションということもあるのか、1作、2作と比べるとスピード感には劣るものの、心にしみるお話になっております。 偏屈で暴力的な木戸先生が、少しずついい人になってきちゃってます。

    0
    投稿日: 2014.07.13
  • プリズンホテル 2 秋

    プリズンホテル 2 秋

    浅田次郎

    集英社文庫

    スピード感抜群

    仲蔵親分がオーナーのリゾートホテル、通称「プリズンホテル」。 今回は、仲蔵親分の甥っ子の小説家木戸が、恋人の子供のミカを連れて宿泊する。 たまたま当日、同じくヤクザの大曾根御一行様と、何も知らずに予約した警視庁の慰安旅行が重なったからさあ、大変。 そこに今は落ちぶれた元アイドル歌手と、そのひも状態になっているマネージャー。指名手配中の泥棒も同宿。 極道同志が隣り合わせの宴会場で大宴会を始めるのだけれど、元アイドル歌手のマネージャー殺害未遂も絡んで、大騒動が勃発!! 仲蔵親分とプリズンホテルの従業員が、その大騒動をどう収拾させるか。 次から次へと騒動が持ち上がり、ジェットコースター並みのスピード感。第一作を上回る面白さ。 ヤクザも、警察も、落ち目の歌手も、自首しようとしている犯罪者も、みんなひっくるめてあたたかく包み込んでくれる。 プリズンホテルは、ただものじゃない。

    0
    投稿日: 2014.07.11
  • プリズンホテル 1 夏

    プリズンホテル 1 夏

    浅田次郎

    集英社文庫

    これも“おもてなし”

    小説家の木戸は、父の7回忌で久しぶりに叔父の仲蔵と会った。その叔父はヤクザの親分で、リゾートホテルのオーナーになったという。しかし、そのホテルは任侠団体専用のホテルだった。 木戸が訪れたホテルのその日の宿泊客は、ヤクザの団体客と、その筋の宿だとは知らずに予約した夫婦、一家心中をしようとしている家族連れ、仮釈放中で骨休めに来たヤクザ。 大手ホテルチェーンから左遷されて支配人となった花沢と、従業員のヤクザ達、そして仲蔵親分。 彼らの2泊3日の出来事が描かれる。 強面のヤクザさんたちが、なんだかかわいらしく、仲蔵親分の懐の深さもあり、違った意味でこれも“おもてなし”なんだろうなと感じる。 笑いもあり涙もある浅田ワールド全開。

    1
    投稿日: 2014.07.05
  • 清須会議

    清須会議

    三谷幸喜

    幻冬舎

    映画も観たくなる

    本能寺の変の織田信長の死後、織田家の跡目を巡って開かれた清須会議。その前後5日間の出来事を、柴田勝家、羽柴秀吉、丹羽長秀などの独白をつなげていく形式で描かれている。 いや~、面白い! もともと日本史大好きだからこういう歴史物は大好きなのだけれど、さすが三谷幸喜、NHKの大河ドラマのように真面目に…ではなく、エンターテイメントになってます。 信長の次男VS三男のイノシシ狩りのドタバタ劇は、頭の中で映像になっちゃう。 映画も観たくなった1冊。

    0
    投稿日: 2014.07.03
  • 人質の朗読会

    人質の朗読会

    小川洋子

    中公文庫

    実は悲しいお話

    地球の裏側の小さな村で、旅行会社が企画したツアー参加者が反政府ゲリラの襲撃をうけ拉致された。 それから100日以上が過ぎ、その国の軍と警察の特殊部隊が強行突入したが、犯人グループも人質も全員死亡した。 それから2年の歳月が流れ、ツアー参加者の遺族のもとへ、あるテープが届けられた。 それは、犯人グループの動きを探るために仕掛けられた盗聴テープで、そこに録音されていたのは、人質8人が自ら書いた話を朗読する声。 長い人質生活の中で犯人グループとのコミュニケーションも生まれ、命の危険を感じなくなっていたらしく、朗読の合間によく笑っている。 そんな「人質の朗読会」の8つのお話と、特殊部隊の隊員で盗聴の現場でヘッドフォンを耳にあてていた人物のお話の9章からなる。 一般人がこんな美しい文章を書けるはずがないと突っ込みを入れたくなるところだが、普通の人たちが普通に暮らしている中で心に残っている出来事が、優しい語り口で書かれている。 9つのお話だけなら、ほんわかとあたたかい気持ちのまま読み終えることができるのだけれど、その背景にあるのは「そんな普通の人たちが、拉致され殺された」という事実。 やっぱり悲しいお話。

    2
    投稿日: 2014.06.14
  • 舟を編む

    舟を編む

    三浦しをん

    光文社文庫

    辞書編集への情熱

    玄武書房辞書編集部のベテラン編集者荒木に、言語感覚の鋭さを見込まれて引き抜かれた馬締光也。 新しい辞書「大渡海」の刊行を目指すが、「金食い虫」と揶揄される辞書編集部には、上からのGoサインがなかなか下りない。 それでも少しずつ少しずつ準備を続けた13年後…。 辞書編集部に関わっている登場人物の全てが、辞書の刊行に情熱を注いでいる。その熱さが、読んでいる私にも伝わってくる。 私は新明解国語辞典がお気に入りだけれど、「大渡海」が実在すればいいのに…と思ってしまった。

    6
    投稿日: 2014.05.22