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戦場の掟
スティーヴファイナル, 伏見威蕃 / ハヤカワ文庫NF
戦場の掟は強者のルール
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2004年秋から特ダネをつかむため米軍とともにイラク各地を訪れたワシントン・ポストの特派員スティーブ・ファイナルは仕事が原因で離婚し主夫に熱中するあまり鬱になっていた。そしてバリー・ボンズが薬漬けにな…ったことを記事にし大陪審証言をリークしたとして収監された弟と悪性腫瘍で余命わずかの父を残し2006年再びイラクに逃げ出した、民間警備会社の仕事を10日間取材するとして。
取材先のクレセントで出会ったのはイラクでこれほど楽しそうにしている人間は他にいないという好青年のジョン・コーテー彼もまたアフガンとイラクの戦争から除隊し、平和な学生生活に耐えられず逃げ出したー達だった。「おい、ここを離れなきゃだめだ。大学に戻ったほうがいい」取材対象相手としては近づき過ぎだがスティーブはコーテに忠告しクレセントを離れた。そして父親が危篤と聞いて戻ったアメリカで聞いた新たなニュースはコーテ達5人がコンボイの護衛中にクウェートからそれほど離れていない比較的安全な主要補給路のルートタンパで誘拐されたと言うニュースだった。
イラクの傭兵の数ははっきりわかっていない。おそらく2.5~7.5万人の間で管理人、コック、トラック運転手や爆弾処理の専門家を含めると08年には軍以外に19万人がイラクにいたと推定される。民間企業との契約総額は850億ドルで米政府の戦費の1/5に当たる。しかし統計上は死傷者に数えられず戦闘にも参加していないことになっている。
クレセントの場合比較的平和なイラク南部へチームを派遣するには1日4~5千ドル、間違いなく攻撃されるファルージャだと35千ドルを請求する。警備部長の月給は1万ドル、チーム・リーダーは8千でメンバーは7千、しかし同じ仕事をやるイラク人には600ドルだ。そのイラク人は最も危険で快適な車内には入れない射手を務める。志願してクレセントの射手になるにはメール1本出すだけでいい、実際に52歳のトラック運転手のホーナーは持ったこともないAKー47を渡されそのまま最初の任務に就いた。「俺はランボーだ」と言えばそれが通じる世界だ。
2005/10/3に発行された連合国暫定当局(CPA)指令第17号に米軍に同行する民間業者の武器使用についてひっそりと発表された「警備任務に必要な場合は武器の使用を承認される」と。連邦法では準軍隊の使用を禁じているが、この指令では先制攻撃の禁止については曖昧で戦闘指揮官の努力目標として規定されている。軍であれば少なくとも指揮命令系統ははっきりしており、犯罪や違反をおこせば統一軍事裁判方で裁かれる。ところが民間警備会社には適用されず、CPA17号指令でイラクの国内法からも免除されている。傭兵を訴追するには実務的な試練にさらされていない法律を適用するしかなく、誰がそれを執行するかも決まっていない。
悪名高いブラックウォーターはイラク政府の免許と適切な武器許可のない会社とは契約を結ばないという新しい命令にも関わらず、国務省に守られ制御できない軍隊となった。道ばたに立っているだけの人を撃ち、対向車や追い越した車を撃つ。それでも何も報告されない。パーティで泥酔した傭兵は首相官邸近くをぶらぶらし、誰何した副大統領の警備員を撃って逃げた。「われわれは殺すために撃つんだ。それに、いちいち脈を確かめたりしない。」ある元傭兵の言葉だ。ブラックウォーターは占領政府のトップや米大使や外交官全てを警護しイラク戦争で10億ドルを得ていた。ブラックウォーターはイラク国民を恐怖で支配する傭兵の代名詞となりアメリカ人が憎悪される原因を作っている。
本書の題名「戦場の掟」(BIG BOY RULES)はブラックウォーターをはじめとする民間警備会社が自分達のルール=強者のルールで戦い死んでいくことから付けられている。米政府は傭兵達を無視しているが傭兵なしでは作戦を遂行できない。2-3回に1度の割合で襲撃される通常20人以上必要なコンボイ警備をわずか7人で実施したクレセントのチームは唯一同行したイラク人に裏切られ拉致された。コーテ達5人は後に死亡が確認されたがクレセントは拉致されると同時に給与の支払いを停止した。
自衛隊が駐屯したサマワでもこうした民間警備会社が警備を担当した。自衛隊がいくら武器使用規定を厳格に守ったとしても、その自衛隊を警備する民間警備会社が銃を撃ち放題だとしたら同じく憎悪の対象になるということだ。 続きを読む投稿日:2015.12.23
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官僚の責任
古賀茂明 / PHP新書
官僚を変える政治は選ばれるのか
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前半は政治家と官僚のダメさ加減を攻撃、ちょっとしつこいが鬱憤が溜まってたんでしょう。 最終章で、ではどうすればという提言でここは大筋意見が会う。 既得権益の構造を破壊しろと言うのが根底に流れ、官僚が自…力ではやれないので政治が介入しろと言う。 しかし、それも既存政党にはできんだろうということなので政界再編と選挙制度から変えないとできそうにないと思います。 続きを読む
投稿日:2014.01.01
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日本の医療 この人を見よ 「海堂ラボ」vol.1
海堂尊 / PHP新書
CS朝日ニュースターの自主制作番組「海堂ラボ」を文書化、医療に関わる様々な人を紹介している。
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國松孝次 いわずとしれた警察庁長官狙撃事件の被害者だが救急医療に助けられたことにより、NPO救急ヘリ病院ネットワークの理事長に乞われてなっている。成果としてはドクターヘリ特別措置法の成立のための働きか…けで元行政官としてどこを動かすかがわかると言うのがポイントだったようだ。ドクターヘリは運用に1機2億かかるのだが、救命率が上がることにより例えば千葉北総病院のケースでは救急車に比べ医療費が110万円/人削減できた。入院日数も16.7日短い。出動回数は2009年に748回なので結果として収容人数が増え医療費も削減できた。
赤星孝幸 白内障手術の第一人者で手術写真が載っているがまず角膜のみを1.8mmダイヤモンドカッターで切開。プレチョッパーという独自開発した道具で水晶体を切り分けて吸引。直径6mmのアクリル性眼内レンズを1.8mmの傷口から差し込み中で拡げると後は角膜をぴったり閉じる。手術時間はわずか3〜4分ですぐに物が見え歩いて帰れる。また道具の特許は取らず、学会内で術式を披露し合い、新たな改良が加えられている。
他にも法医学者、議員、病院長、医療弁護士・・・と様々な立場の人が出てくる。 続きを読む投稿日:2014.01.01
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イスラムの人はなぜ日本を尊敬するのか
宮田律 / 新潮新書
FBでフォローしている宮田さんの投稿は写真が楽しい。文脈にあまり関係ない美女写真もついて来る。
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イスラム本はもう一冊並行して読んでたがさくっと先にこちらを読み終えた。本人も認めるようにかなりイスラムよりだ。
イスラム、特に中東諸国の日本びいきの感情には歴史的なヨーロッパの介入にある様だ。例えば…日露戦争に勝ったこと、敗戦後経済的な復活を遂げたことなど。文化面では「男はつらいよ」や「おしん」も人気が高い。アニメではキャプテン翼は主人公がアラブ人になりキャプテン・マジドになっている。
普通の日本の行動習慣、例えば謙虚さ、清潔さなどなどはイスラムの行動規範にかなっているので日本人は改宗すれば良いイスラムになれるという人もいる。1日5回のお祈りだったり、断食だったりはイスラムの一面では有るが似たような所を探す方が相互理解につながるだろう。
自衛隊のイラク派遣についてはイスラムからの評価は別れているようだ。しかし、現地サマーワでは自衛隊撤退の噂に対して140人が帰らないでデモを実施するなど概ね好評だった。もう一国評価が高かったのがドイツでなんとなく工業製品に対するブランド価値と一致している。しかし、もし戦闘が起こっていたら同じ評価が得られたかを考えると難しいところだ。
例えばアフガニスタンではタリバン政権時の方が治安が良く、カルザイ派の腐敗を指摘する人はODAも無駄になっているという。一方で隣国イランはカルザイ派を支持するなど一筋縄ではいかない。ともかく金の使い道の監査は必要だろう。アメリカのイラン禁輸措置についても宮田氏は日本は独自路線を取るべきとの立場だ。せっかく好かれてるのならアメリカに追従しつつもイスラムとのパイプを残す工夫がいるのだろう。 続きを読む投稿日:2014.11.16
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スティーブ・ジョブズ I
ウォルター・アイザックソン, 井口耕二 / 講談社
Think different Stay hungry , stay foolish
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完璧主義者のジョブズが自ら企画した伝記。
ジョブズにかかると人は天才かまぬけだし、製品は完璧かゴミだ。
大きな邸宅を買っても完璧を求めるあまり家具が買えない。全てを自分の意のままにコントロールと我慢…ができず微妙な違いにこだわり続ける。
ジョブズの意思はすごい製品を作ることに集中し続けたが、必ずしも成功ばかりではなく失敗を繰り返してもいる。
例えばCDはスロットインが美しく、トレイは美しくないから使わない。
書き込みができないために音楽CDを焼くというニーズを取り込めなかった出遅れはipodとitunesで音楽業界そのものをひっくり返した。
次にデジカメが携帯に浸食されるのを見てipodも携帯にやられないためにiphonに集中する。
製品へのこだわりは特に凄い。装置の中身の美しさにもこだわり、デザイン、ハード、ソフトの一体化した統一された世界にこだわる。
禅の影響を受け考え抜かれ得たシンプルさを追求する。製品デザインのコンセプトは無くせる物を全て削り落とした上で直感的に操作できること。
部下のそれは無理だと言う声はことごとく無視し現実歪曲フィールドを使う。まるでフォースだがこの人が暗黒面に落ちたら大変なことになっていただろう。
そして間に合わないはずの改造は間に合うことも多いが、やはり無理な物もあるがジョブズはそれを認めようとしない。
部下のアイデアをくそみそにけなした1週間後にまるで自分が思いついたかの様にどうだ凄いだろうと触れ回る。
自分は世間のルールを守らなくて言いと思っていて身障者用駐車場に止めたり、2台分に斜めに停めたりする。パーク・ディファレントと呼ばれたらしい。
itunesがウインドウズに移植されipod miniが出たときがappleを使い始めたきっかけだったがその後ipodは故障含めて3台、iphon2台、ipad、Macとバックアップ用のタイムカプセルと完全にappleに取り込まれてしまった。正直中国の携帯もiphonにした方が楽なのだが・・・
技術と芸術の交差点を目指したジョブズの製品は使い慣れると空気のようにあたりまえになってしまっている。 続きを読む投稿日:2014.01.01
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繁栄 明日を切り拓くための人類10万年史
マット・リドレー, 大田直子, 鍛原多惠子, 柴田裕之 / ハヤカワ文庫NF
合理的な楽観主義者が語る世界は何の心配もいらなさそうだが本当だろうか?
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確かに昔は良かったという幻想とは裏腹に明らかに今の方が良いというデーターはあふれている。世界中で平均寿命は伸び、新生児死亡率は概ね低下しており、2005年は50年前と比べると地球上の平均的な人間で所得…は3倍になり、摂取カロリーは3割増以上で寿命も30%以上延びた。人口の爆発的な増加にも関わらず世界中の人々が手に入れられる商品やサービスは増大した。間違いなく物質的な豊かさはましてきている。
では物質的な豊かさで人は幸福になったのかというと2008年に人は豊かになるにつれ幸せになるという分析が示されている。まあこれには否定的な意見の人も多いだろうが個体数が増え、寿命が延びているのだから繁栄しているというのは間違いではない。交易がその鍵になったというのが著者の考えで、自給自足の生活よりもそれぞれが専門性を高め物々交換を始めたことで収穫量が増大する。交易は信頼を醸成し信頼が取引コストを下げる。当然上手くいかないこともあるが交易量の増加は一方通行といって良いだろう。
世界大戦のイメージにも関わらず戦争(国家間やら隣の村やら)で死亡する人数は近代になり減っているしそういう意味では世界は平和になっている。日本だって殺人事件の件数は減り続けているのだ。少し古いデーターだが2003年の日本人の屋外での死亡原因第一位が交通事故なのに対し、家庭内での事故(転落、転倒、浴槽での溺死、誤嚥による窒息などなど)の方が多い。
マルサスの人口論、ローマクラブの成長の限界にこれでもかこれでもかと反証をぶつけ続ける。最後の山は気候温暖化だがそれにたいしても問題なしとゆるがない。恐らく人口は100億か多くても150億で飽和すると見られており、問題はそれを抱え続けるだけの資源が続くかなのだが、過去にも同様の警告はいくつもあり、その度新たなイノベーションで食料も燃料も増やし続けてきた。必要に応じて新たな発明が起こるのでこれからも大丈夫というのが著者の主張だ。ビル・ゲイツでもそこまでは言わないだろうという楽観論だが、いろんな懸念があることはわかっていて、それでもあえて楽観論者でいようではないかということだ。
過去より今の方が良いという主張には賛成ながら、今まで大丈夫だったからこれまでも大丈夫と言い切られてもちょっと真に受けるのはどうかと思う。まだ大丈夫だというのと今のままで良いというのとは違うし著者の楽観論も必要に応じて変化すると言うのが前提にある。まあ暗い話に飽きた人には良い本なのでは。
続きを読む投稿日:2014.06.20