bookkeeperさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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沈黙
遠藤周作 / 新潮社
神の沈黙
4
普遍的なテーマを扱っているせいか古びていない。簡潔でたしかにドラマチック、読みやすい小説でもある。
特に信仰のない身には「神の沈黙」は他人事ではあるが、この不条理な世界で寄る辺もなく一人きりであると…いう恐怖は信仰にかかわらず普遍的かつ根源的だと思う。 続きを読む投稿日:2017.03.12
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ペスト(新潮文庫)
カミュ, 宮崎嶺雄 / 新潮文庫
2011年4月の読書メモより
3
震災後の状況をこの作品になぞらえた文章をたまたま2つも別々に見つけた。そこで読んでみる事に。
日常をむさぼっていた都市が、徐々に不条理な事態に直面する(徐々に、というのが地震と異なるが、原発や電力の…問題が当初の予想を超えてエスカレートしていく様は少し似ていないか)様子を淡々と描く前半から、そのペストと言う事態の只中で、確たる希望もないまま闘う人物の姿が描きこまれていく後半へと盛り上がっていく。主人公のリウーやともに保健隊で働く仲間たちは、彼らを動かす原動力こそ違えど、ヒロイズムでなく平凡に自分の職務と思うところを果たしていく。世界は圧倒的な力で人間を打ち負かすことがあるが、それでも抗うことに人間の人間たる所以があるのだろう。
しかし、フランス人が書いたせいか、60年の隔たりのせいか、翻訳と言うフィルターのせいか、単に趣味の問題か、どうもセリフや叙述がまだるっこしく思える(これでも簡潔な文体と訳者は言うが)。それに主題も、ボクにとってスッと腹に落ちるものなのだが、スっと落ちすぎて引っ掛かりが足りない感じ。読みきれていない部分もあるのだろうけれど。 続きを読む投稿日:2017.03.12
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問題は英国ではない、EUなのだ 21世紀の新・国家論
エマニュエル・トッド, 堀茂樹 / 文春新書
手頃なトッド入門書かも 時事ネタも網羅
4
トッドにはかねてから興味はあったのだが分厚い著作にはなかなか手がでなかった。これはインタビュー・講演や雑誌への寄稿をまとめたお手軽な新書。時事ネタ(2016年末時点)を扱って読み進めやすいし、「なるほ…どー」とうならせる箇所もとても多い。フランス人らしくなく哲学嫌いの経験主義者というだけあって話が分かりやすい。一方で、分量ゆえ仕方ないながら踏み込み不足というか物足りない感じもある。本格的な著作に誘導するなかなかうまい広告なのかもしれない。
あと、とにかく日本は少子化対策をがんばりなさいよ、とのこと。仰るとおりで。
[目次より]
1,2はBrexitに関する論考でたがいにやや内容はかぶる。タイトルにもなっているのだが、本書の中では小手調べ的なパート
3はトッド自身の仕事や方法論を振り返っており、初読の身には大変おもしろかった
4は人口学による各国近未来予測、手短ながら興味深い。個人的にはロシアの復活には気づいていなかった
5は悲観的な中国論、日本への言及も多し
6,7はお膝元フランスでのテロ(およびその後の国民の反応)を受けて。切実な問題意識を感じる 続きを読む投稿日:2016.12.31
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江戸の思想史 人物・方法・連環
田尻祐一郎 / 中公新書
百花繚乱 元禄ルネサンス
3
江戸時代の思想の博覧会。朱子学から国学、蘭学さらに天理教などまで及ぶ。どこかで聞いたことくらいはある思想、人名が多いのだが、改めてこうして総ざらえにされると、江戸の世に百花繚乱の思想があった様がよく分…かる。あとがきに、思想に寄り添いすぎて批判的に読むのが苦手、と記してあるがたしかにその通りみたいで、正反対な志向を持つ思想を取り上げてもそれぞれの長所を誉めてしまう。厚くはない新書にこれだけ幅広く詰め込んでいるので細部の突っ込みはあまりないのだが、初心者には好適の見取り図。てんこ盛りすぎて消化不良のきらいはありますが。
元禄ルネサンスなんて言葉をどこかで聞いた記憶があるが、この様子にはルネサンスを思わせるものがある。戦乱の中世を抜けて、はじめは武士のあり方を模索したりしているが、やがて都市に文化が花開く。仁斎や徂徠は、朱子学を突き抜けて孔孟に帰ったという点で古典復興と呼べるだろう。徂徠や富永仲基、吉見幸和のテキスト分析の実証性や白石にみられる合理性、古いドグマを振り払って蘭学等々の実学が生まれるのもルネサンス的と思える。だから何なのか?都市で束縛の少ない、より匿名的な社会関係が生まれると思想もそういう方向に向かうのかも。本書は序章でそういった社会条件を列挙しているが、そこと思想の関連性をもっと問うと面白いかも。 続きを読む投稿日:2016.10.10
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ディアスポラ
グレッグ・イーガン, 山岸真 / ハヤカワ文庫SF
あまりの壮大なスケール
3
あまりの壮大なスケール。はっきり言って難しすぎてついていけない所があるが見事な大法螺イーガン節である。すばらしい。
これまで読んだ作品と比べるとユッタリとしたストーリーで、解説の大森望氏が指摘するよ…うなビークル号的古典的冒険譚の香りもある。もう少し異世界の細部をギリギリ書いて冒険譚風味を出して、という気はするが、それじゃテーマとそれるし冗長か。 続きを読む投稿日:2016.10.10
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傲慢な援助
ウィリアム・イースタリー, 小浜裕久, 織井啓介, 冨田陽子 / 東洋経済新報社
経済学者による途上国援助批判
2
「プランナー」による「全ての貧困を終わらせる!」みたいなユートピア的アプローチの援助を批判し、もっと現場主義の「サーチャー」による援助をすべきだという主張。著者の考え方は市場メカニズム(インセンティヴ…、可視性&説明責任、自律性など)を重視したもので、第三世界の現状もあわせ考えると非常に説得力がある。
ただし学者の議論としては、あまりにも現場主義、ケースbyケースを強調すると「じゃあ、何も言っていないのと一緒じゃん」となる難しさはある。ある程度の一般化をする努力もいるのかなと思う。もちろん著者にしてみれば、援助機関の現状を踏まえると、とにかく無責任なユートピア的発想に一言物申したいのだろう。 続きを読む投稿日:2016.10.10