
トレジャー・ハンター八頭大 ファイルIII
菊地秀行
ソノラマノベルス
菊地秀行のトレジャーハンターシリーズ最高潮の時期に書かれた傑作
このシリーズ、毎回導入部分がうまい。が特に「怪猫伝」はいい!青山通りをスーパーカーで疾走中に老婆と二枚目のカップルを目にした主人公が交差点に車を乗り捨ててカップルを追いかけるシーンからスーパーでの立ち回りまでのスピーディな展開にあっという間に作品世界に入り込めてしまう。 話自体は日本国内ということで、いつもよりスケールダウンしていますが、その分怨霊ということで日本の怪談ネタが出るわ出るわ、かなりエグいことになっています。作者は和物も結構いけるのね・・。 後半、若干のトーンダウンがありますが、やはり勢いが作品にはあるので一気にお約束のラストまでいけます。場所が宮城家近辺にしぼり込まれた展開になるので閉塞感があるのも確か。それにしても物理攻撃が有効でない敵に対抗しての大ちゃんのガジェットがすごい(笑)。それは読んでのお楽しみではあるが、よく考えるよなあ、こんな物。
1投稿日: 2013.09.24
エディプスの恋人(新潮文庫)
筒井康隆
新潮文庫
七瀬三部作の最終巻
前作の終わりから何の説明もないまま平穏な日常に戻っている七瀬の周りで起こる不可解な現象。それがある人間と係わり合いがあると知ったときから彼女の超常現象の元である「意志」探しが始まる。前半は、ミステリー風の誰がその超常現象をおこなっているのか?を探す旅が面白い。その過程でわかってくる不可解な謎。ただその正体が徐々に明らかになってくるにしたがって日常世界から神話世界へ移行していく後半はなに~と思った。初見の時には、この展開、特に前作での状況が置いて行かれたような本作にいまいち納得できなかった。ただ今回読み直してみていろいろと気づいた点も多い。 神によって「彼」同様、七瀬自身も守られていたと気づいた時、小説という舞台で演じているうんぬんのくだりが出てくるのだが、これは作者=神という意味に読み取れた。。。この最終巻に登場する「神」は、日本的ではなく西洋、特にギリシャ神話に登場する独善的な「神」であり、実はこの「神」、作者自身にかぶって見える。なんせ小説世界では、作者は絶対的な神であるからだ。これってメタ小説?まあ神を登場させるということは夢オチと同じで小説では諸刃の剣。使い方によっては作品そのものを壊してしまうが、ここではうまくいっている。小松左京の「こちらニッポン・・・」よりは、小説としての納まりは良い。 ここまでの物語の飛躍を生んだのは、続編を書かなくても良いようにこのシリーズを終わらせるという意志が作者にあったということらしいが、主人公を小説舞台から消す(つまり殺す)という安易な話に持っていくのではなく、物語自体を(神を登場させることで)ドンつきまで持っていくことで終わらせてしまうというこの作者の力量には脱帽してしまう。やはり筒井康隆はすごい作家だ。
1投稿日: 2013.09.24
天冥の標 I メニー・メニー・シープ (下)
小川一水
ハヤカワ文庫JA
小川一水が満を持して放つ全10巻の新シリーズ開幕篇
これでもかというぐらいの設定が詰まった作品。物語の展開は速いが、設定が詰まっているのでこの巻では明らかにならない謎がてんこ盛り。登場人物もどんどん増えていくのであるが、どんどん死んでいくので感情移入の暇がなく、主な登場人物のみに絞って読んでいたが、最後は、ほとんど誰もいなくなるという状況。またどんでん返しが1つ用意されているので、読者は「え!」という驚いた状態で次巻を待つ羽目に。。。ほんと久しぶりに期待できる大河SFシリーズに出会った予感。期待を裏切らないでね。
1投稿日: 2013.09.24
BRAIN VALLEY(下)
瀬名秀明
新潮社
おしい。。
この作者の欠点は小説としてのバランスの悪さにある。前作の「パラサイト・イヴ」に顕著に出ていたこのバランスの悪さが今回もやはり目に付いてしまった。前作の時ほどひどくはありませんが、あまりにも前半部分が科学的、現実的、論理的過るので後半の飛躍との落差が大きすぎてついていけなくなる。これは作者が小説家というよりも科学者もしくは研究者に近いからなのかもしれません。 97年に脳に関する知識をこれだけ駆使して物語を書くことに関しては高く評価できるし着眼点も良い。それだけに小説として見た場合、残念で仕方がない。
0投稿日: 2013.09.24
フリーター、家を買う。
有川浩
幻冬舎文庫
かっこいい
主人公の誠治が煩わしいと避けてきた家族の問題が現実の問題として立ちはだかる序章は大小であれどこの家にも起こりうること。ここで自分にも思い当たる問題と共感できれば、あとは最後まで一気に読めてしまう。有川浩は、こういった日常の家族の機微の捉え方がうまい作家だ。自分が守られていた存在から守る存在に変われた誠治はカッコイイ。でもこの小説で一番男前なのは姉貴だ。
6投稿日: 2013.09.24
獣の奏者 III探求編
上橋菜穂子
講談社文庫
すごい世界観
続編とはいえこれだけの世界観をさらに上乗せしてくるとは・・・なんとすごい物語なのだろう。それぞれの立場に縛られ自分の思い通りに生きられない主人公たちが、それでも現状を変えていくために奮闘するその姿は痛々しくも美しく感動する。エリンたちがとった苦渋の選択の先にあるものは?最終巻で確認してください。
1投稿日: 2013.09.24
獣の奏者 IV完結編
上橋菜穂子
講談社文庫
人という獣
短命で獰猛な人という獣が生きていくために群れや規律を作り自らそれに取り込まれ縛られていくという負の部分と世界の成り立ちを解き明かしたいという探究心や理不尽な現状を打破し幸せに生きていくための勇気という正の部分。この相矛盾する人の業をこの作品はエリンたち主人公を通して描いている。真実とはあまりにも残酷でそれを一人ではもしくは一世代では解決できなくて、だからこそ人は他の人間や次の世代に託していく。本シリーズは、その語り伝えていくという本来物語が持っている本質をついているからこそ、読んでいて深く感動する。
0投稿日: 2013.09.24
特捜部Q―檻の中の女―
ユッシ・エーズラ・オールスン,吉田奈保子
ハヤカワ・ミステリ文庫
楽しみなコンビもの
早い段階で犯人の目星はついてしまったが、話は面白かった。主人公のカールが当初の駄目っぷりから早々に立ち直って活躍する点が意外で、助手?のアザドもなかなか魅力的な人物で謎が多いところも良い。シリーズものの強みで解決しない持ち越しの事件はあるもののこのコンビがどうなっていくのか次が読みたい。「コールド・ケース(未解決事件)」ものではあるが、結構アクティブなこと、謎解きのタイミングなどストーリー展開も良く練られていて楽しみなシリーズがまた1つ増えた。
4投稿日: 2013.09.24
ペンギン・ハイウェイ
森見登美彦
角川文庫
いつものモリミワールド
主人公が小学生という設定ではあるが、今後他の作品に登場する妄想主人公になって行きそうな片鱗が見え隠れする。お姉さん=乙女と考えると基本同じ図式。おっぱい好きだしね(笑)。
0投稿日: 2013.09.24
遺跡の声
堀晃
東京創元社
「滅び」の原風景
作風は解説でも書かれているように「滅び」の情景を思い浮かべる作風で、明るい未来でもなく手に汗握るような小説でもない。昔読んだときもかなり暗い印象を受けたのだが、やはりその通りだった。ただ話の中身は今読んでも十分通用する内容であり、あの当時にこのようなSF小説が書かれていたこと自体が驚き。ハードSFの書き手が少ない中、やはりこの作家の底力を見せられた一冊。
4投稿日: 2013.09.24
