
ウォッチメイカー 上
ジェフリー・ディーヴァー,池田真紀子
文春文庫
リンカーン・ライムシリーズの7作目。
物的証拠にこだわるライム、それは証言の危うさを知り尽くしているから。しかし今回は尋問とキネシクス(ボディランゲージや言葉遣いを観察し分析)の専門家キャサリン・ダンスが登場する。 シリーズ1作目を読んで科学的根拠を徹底分析して推理するのは面白いが何となく何かが足りない感じがしていた。そこで5冊飛ばして本書に挑戦。 ダンスは人間中毒、奇妙で恐ろしい生物達に共感し魅了され独特の感受性で追い詰めていく。今回の事件はウォッチメイカーと名乗り拷問事典を参考に殺人を重ねる連続猟奇殺人だ。ダンスは事件関係者に質問し彼らの答えに注意深く耳をすます。尋問というよりは傾聴である。 四肢麻痺のライムの事故後の悲嘆や恐れも見抜いてしまう。さらにダンスの母親としての暖かなドラマが加わることで全体の雰囲気が和らいできた。最初は警戒していたライムだが次第にかみ合ってきたので下巻が楽しみ。たくさんの事件が起きて情報が多いわりに繋がってこないがこれから面白くなると思われるため急いで下巻へ。。。
0投稿日: 2018.09.28
緑衣の女
アーナルデュル・インドリダソン,柳沢由実子
東京創元社
人間の心に住む悪魔に国境はないのだと思い知らされる。
火と氷の国「アイスランド」幸福感あふれる静かな美しい風景が目に浮かぶ。しかし北欧ミステリを読むと人間の心に住む悪魔に国境はないのだと思い知らされる。少年が拾った人骨の謎を追う、これがこの作品の全てである。70年程度経過していると想定して進められる捜査の過程で様々な人間の苦しみが浮き彫りになる。暴力、虐待、嫉妬、勇気をもって負の連鎖を止めようとする少年、深い心の傷・・・魂の殺人をしたとがで、人を裁判にかけ、有罪にすることができますか・・・捜査官エーレンデュルの抱える哀しみと並行してミステリは静かに進む。
0投稿日: 2018.09.19
遺志あるところ
レックス・スタウト,大村美根子
グーテンベルク21
助手のアーチーも騙されるまさかの展開に。
大物実業家の遺産相続騒動が舞い込み、預金残高が乏しくなっていたウルフはウンザリする話しを我慢して聞く。騒動の最中にクレイマー警視が登場し実業家は事故死ではなく殺人だったと判明する。そこからがウルフの本領発揮である。手先となって調査するファミリーも全員登場。ウルフは珍しく依頼人宅に出向くがそこで第2の殺人に遭遇して逃走。拘束されず調査するためであるが巨体のウルフはいざとなると逃げ足は速いのである。EQに掲載されたが単行本化されず電子書籍のみの作品だが大変面白かった。
0投稿日: 2018.09.19
探偵が多すぎる
レックス・スタウト,村上博基
グーテンベルク21
長編に比べると少々物足りない感あり。
中篇2篇【探偵が多すぎる】探偵の電話盗聴の実態を調べることになりウルフとアーチーは呼び出される。他の探偵と待合室で待機している時に隣室で殺人が。犯人はすぐにわかる人物で推理は余り冴えないウルフである。女性探偵ドル・ボナーが登場し女性嫌いのウルフと親密になりアーチーが除け者にされるという内輪のエピソードを楽しむ作品【ゼロの手がかり】アーチーがお節介で出かけて殺人事件に遭遇。被害者は元数学教授で複雑な数式を使って確率の法則を適用する的中率86%という占い師のような人物。
0投稿日: 2018.09.19
死線のサハラ 下
ダニエル・シルヴァ,山本やよい
ハーパーBOOKS
イスラエル諜報機関の長官になったガブリエル。
きっと暴れ馬のごとく慣例を蹴破るのだろうと期待していたが意外と大人しい。 他国の最先端技術と連携することも大切だ。ユダヤ人が表に出ないほうが上手くいく作戦もある。高額な絵画専門の画廊が出てくるが美術談義は静かになった。等々…少し寂しい気持ちで読んでいたが最後はガブリエルも我慢できずに全力疾走だった。 そしてこれほど殺伐としたテロ壊滅作戦を繰返しながらこのシリーズは何故かロマンスが生まれる。微妙な立場同士の愛はこのあとどうなるのか、次作への余韻を残して終わるのだった。 このシリーズは勿論エンタメ作品であるが、リビアのカダフィ大佐の殺害やビン・ラディンの隠れ家襲撃などリアル事件にも触れている。 今回の舞台のモロッコ、シリアとロシアとイランの関係、さらには北朝鮮まで不穏な空気が漂ってくる。イスラエル諜報機関モサドが金正男を注視していたことも昨今話題になっているのでスパイ合戦はこわいなと感じる。その反面モサドは世界各国に役立つ情報を提供しているのも事実らしい。 日本はトヨタ・ランドクルーザーとニッサン・パスファインダーで貢献していた。
0投稿日: 2018.08.30
死線のサハラ 上
ダニエル・シルヴァ,山本やよい
ハーパーBOOKS
ガブリエル・アロンシリーズ最新作。
前作でイスラエル側はISISのボスの命を助けざるを得なかった。ロンドンで死者千名超のテロが起きて闘い再燃。今回は潜入ではなく取引相手を凋落するヌルイ感じの演出から始まった。しかしISISとの取引で手に入れた大金でセレブ生活を送る男は実行犯以上に憎しみを誘う。 このシリーズでお馴染みになったコルシカ島の必殺仕事人も良い味を出している。 どこまでリアルなのかイスラエル問題に疎い日本人には理解を超えた問題になりがちだが無差別テロは現実に起きていることなのだ。いよいよ下巻で対決へ。
0投稿日: 2018.08.30
モンテ・クリスト伯(5)
アレクサンドル・デュマ,泉田武二
グーテンベルク21
5巻、ついに完結。復讐は終わった。
しかしそれは悲しみを伴うものだった。ダンテスが地下牢で誓ったことは正しかったのか。また新たに自分探しの旅が始まる。ずっと第2のテーマのように並行して進んでいた複数の悲恋物語にも決着がついた。おそらく誰にとっても苦しみや悦びはそれまでの経験の相対性ということなのだろう。自分は誰よりも不幸だという絶望も極端な不幸を知った者のみが目覚める幸福に変わる時がくるのだ「待て、望みを捨てるな!」ここまで到達するのは読者としても長い旅だがこの長さゆえに共感も深まるものなのだと実感した。
0投稿日: 2018.08.16
モンテ・クリスト伯(4)
アレクサンドル・デュマ,泉田武二
グーテンベルク21
4巻、急激に面白くなった。
今まではまさに新聞小説を読むごとく毎日少しずつ読んできたがここに来て一気読みだった。 ダンテスが財宝を手に入れた時は第2の人生を楽しんだほうが良いのではないかと感じたが、いつの間にか復讐を応援して力が入っていた。 おそらく本作の最高の盛り上がりと思われるシーンに突入。これまで種を蒔いてきた事柄が直接決闘へと導かれるのだ。ところが実際にこの場面に立ち会ってみると復讐ではなく人々を正しい道へ引き戻す儀式の意味合いが強かった。 「水戸黄門」と「犬神家」要素である。さていよいよ物語りは最終巻へ。
0投稿日: 2018.08.15
モンテ・クリスト伯(3)
アレクサンドル・デュマ,泉田武二
グーテンベルク21
3巻ではフランスで次々と標的に遭遇。
偶然が重なりすぎではないかと感じるところもあった。しかしこの時代のフランスの人口と貴族の割合を考えると非常に狭い世界と思われるため芋づる式も有りなのか。 お金持ち同士の濃厚な交際と暇にあかして囁かれる噂話、それでいながら互いに真実を知らない関係。いつも思うのは日本の田舎のムラ社会と変わらないということ。 モンテ・クリスト伯は巧妙に人心を掌握し時には危ない裏取引で標的に少しずつ接近していく。新しい登場人物と思っていたらあの時のあの人だったかという場面が多い。名前を覚えるのが大変になってきた。 物語は4巻へ続く。
0投稿日: 2018.08.15
モンテ・クリスト伯(2)
アレクサンドル・デュマ,泉田武二
グーテンベルク21
2巻は「開けゴマ」の呪文がぴったりのシーンから始まる。
いよいよ復讐の始まりかと思ったがまずは元船主を倒産の危機から救うのだった。ここで物語が終わっても良いのだがダンテスは復讐を誓ったのだからここからが本番なのだ。復讐の種を蒔きモンテ・クリスト伯爵と名乗る。若き似非セレブ集団が本物貴族と接触する社交界に華やかにデビュー。ダンテスの言葉にドキリとすることも多かった。14年も地下牢に幽閉され苦しみ抜いた迫力である。元々は2年続いた新聞連載小説なので長いがエピソード毎に読みきりの面白さがある。物語は3巻へ続く…
0投稿日: 2018.08.15
