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shohjiさんのレビュー
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  • 愚か者死すべし

    愚か者死すべし

    原りょう

    ハヤカワ文庫JA

    沢崎らしさが際立ってきた。

    私立探偵の沢崎シリーズ4冊目。 相変わらずオープニングで関わらなくても良い騒動に関わり命を狙われる羽目に陥る。こうでなければハードボイルドではないという入り方だがいつも乗せられてしまうので少し悔しい気もしてきた。 新宿署地下駐車場での狙撃事件をきっかけに沢崎は奇妙なもう一つの事件に巻き込まれる。政治家のスキャンダルが大金がらみの「ホラ話」と化ける何とも不思議なリアルさとウソくささの混在ぶりが素晴らしい。 政治家は聖人君子でなければならないのだろうか。今回の作品はマスコミ、政治家、警察官に対して一般市民が常々抱いている違和感を上手に扱っている。しかしその雰囲気がハードボイルドらしさを少々薄めているのも事実。 沢崎がなぜ常識的な報酬以外の謝礼を受取らないか、そのあたりの心情が語られている点もポイントである。 さて、次は短編集、その次はいよいよ新刊へ。

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    投稿日: 2018.04.02
  • さらば長き眠り

    さらば長き眠り

    原りょう

    早川書房

    今までの3冊の中で一番面白かった

    私立探偵の沢崎シリーズ3冊目。少しずつ沢崎の味がチャンドラーから離れて渋く完成してきた感じ。ミステリ要素も今までの3冊の中で一番面白かった。 400日ぶりに東京に帰ってきた沢崎を待っていたのはホームレスの男だった。彼のキャラが前半の面白さを引っ張っていたと言っても過言ではないだろう。 今回は11年前、高校野球賭博に絡んだ八百長疑惑で人生が狂ってしまった29歳の青年が依頼人。今までの作品に比べると長いなと思って読み始めたが、とても丁寧に一つ一つの場面が、登場人物の一人一人が書かれていた。結局、長さは感じなかった。 1作目の佐伯氏や2作目の事件で逃亡した清瀬がほんの少しだけ顔を出したりするのもシリーズならではの楽しさ。それに加え沢崎はなぜ400日も東京を離れていたのか、事件そのものよりも気になって仕方なかった。今回はうまく著者にハメられた感あり。

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    投稿日: 2018.04.02
  • 私が殺した少女

    私が殺した少女

    原りょう

    早川書房

    私立探偵の沢崎シリーズ2冊目

    語り口は前作より自然になったがやはりチャンドラー色を残した作風だ。しかしチャンドラーが描くマーロウは事件を積極的に解決する気迫を余り感じさせない探偵だったような記憶がある。スペンサーは探偵業に対する葛藤をスーザンと語ることで乗り越えアイデンティティーを確立していった。だが沢崎は根っから探偵業が好きで、私生活で女性に振り回されない潔さがある。そこが少し寂しいところでもあり読みやすさでもある。 今回もお約束のように本来は関係ない事件に巻き込まれながら沢崎らしく動き回り深みにハマる。 ミステリ要素も面白いので、沢崎が語る「最近の若者」批判などに共感しながら読んでいた。ところが途中で重大な事実に気がついた。本書は1989年発行である。この当時の私は25歳、批判される側の年齢である。後半は気を引き締めて読み進んだ。 11歳の天才ヴァイオリン少女の誘拐が今回の事件であるが家族の問題が複雑に絡んでいる。【人間のすることはすべて間違っていると考えるほうがいい。すべて間違っているが、せめてゆるされる間違いを選ぼうとする努力はあっていい】25歳の時に読んでいたら読み飛ばしたかもしれない言葉をかみしめながら読了した。

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    投稿日: 2018.03.23
  • そして夜は甦る

    そして夜は甦る

    原りょう

    早川書房

    「スペンサーを意識して書いているな」と感じる作品

    原さん初読み。読むきっかけは半額セール。 読み始めて数ページで「スペンサーを意識して書いているな」と感じた。 沢崎という苗字だけの私立探偵、古いブルーバード、ちょっと皮肉な語り口、突然事務所に飛び込んでくる依頼者。いつのまにか騒動に巻き込まれ行方不明の男を捜すことになる。 初読みなのに時代背景のせいかストーリー展開のせいか懐かしさを感じる。残念なのは人間関係を捻りすぎて複雑になってしまったところか。途中でスペンサーの話題が出たり、あとがきで著者がチャンドラーに心酔していることが判明したりでスッキリ読了。 翻訳モノではないので読みやさは嬉しいが沢崎はもう少しアクが強くて良いのではないかと思った。というのもスペンサーの大ファンの私はこの作品に満点をつけるのがなんとなく悔しいだけなのだが。色々言いながらもセールで続きも購入済み。おそらくシリーズ全部読むものと思われる。

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    投稿日: 2018.03.13
  • 警視庁情報官 ゴーストマネー

    警視庁情報官 ゴーストマネー

    濱嘉之

    講談社文庫

    黒田室長の独演会のような雰囲気だった

    警視庁情報官シリーズ第6弾。 前作の最後で恋人の遥香にプロポーズし3年間の海外研修へ旅立った黒田の姿はシリーズ完結を匂わせていた。しかし、警視正となり警視総監直轄の新たな情報室を指揮する立場で帰ってきた。 看護士の遥香はスーパーマン黒田と比較し自分の平凡さに悩んだ結果「国境なき医師団」に参加。ソマリアの戦闘地区に行っていた…のだがいつの間にか黒田と入籍していた。黒田は戦闘地区での医療行為などナンセンスだと感じていたはずだった。このあたりの心理描写が成熟しないまま進むので小説としての迫力に欠ける面は否めない。 さて今回の事件はというと、日本銀行から廃棄するはずの古紙幣1500億円が消えさらに複数のコンビニATMから巨額の金が不正に引き出されるという不思議なものだった。日本銀行のシュレッダーが故障して外部業者に処分を依頼したという設定は面白い。 捜査はGPS位置情報偽造ソフト⇒中国の地下銀行⇒中国の黒社会などに発展。EUと中国の関係やロシアの現状、中国政府幹部の海外逃亡など海外研修で仕入れた知識も披露しどんどんグローバルになっていく。世界の敵と戦うことが出来る情報室を目指す黒田室長の独演会のような雰囲気だった。

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    投稿日: 2018.03.01
  • 警視庁情報官 サイバージハード

    警視庁情報官 サイバージハード

    濱嘉之

    講談社文庫

    黒田純一が万世橋署の署長に着任

    警視庁情報官シリーズ第5弾。黒田純一が万世橋署の署長に着任早々ATNの誤動作が起きる。指定した金額の10倍の現金が引き出されるという奇妙な事件だった。単独事件としては被害も少額なうえに犯人も簡単に特定できる程度のサイバーテロだ。ところが黒田署長と情報室との連携で情報収集を行う過程で大物クラッカーと繋がっていく。 結局は警察の捜査も違法なハッキングである。そのままでは証拠能力がないため別動隊の行動確認が必要となりストーリーは非常に複雑に…IT業界の知識をある程度持っていないと楽しめないのでは、と思われる。 PC一台で大金を稼ぎ世界中を騒動に巻き込むクラッカー集団の目的はなにか。 伝説のクラッカーが語る理想郷作りの話はうっかりすると洗脳されそうになる。お金と頭脳と領土があればモナコのような国家建設も夢ではないのだ。問題は領土であるが、真実味があるような無いような、ロシアが関係してくる。北方領土問題が引き合いに出されたりインフラ整備で日本企業が出てきたり、どこまで話は大きくなるのか。 そしてところどころ意味不明のまま粛々と今回もXデーはやってきた。

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    投稿日: 2018.03.01
  • 警視庁情報官 ブラックドナー

    警視庁情報官 ブラックドナー

    濱嘉之

    講談社文庫

    黒田室長はヤクザの大物親分とハワイで遭遇。

    警視庁情報官シリーズ第4弾。休暇をハワイで過ごしていた黒田情報室長はヤクザの大物親分と遭遇。入国禁止のはずのヤクザがアメリカで肝臓移植を受けたとあっては謎を解明せずにはいられない。そもそも2週間程度で臓器提供者が現れるのも不自然である。 本作品は今まで読んだ濱作品の中で一番ミステリ小説らしさが漂っている。今まで無敵な超人だった黒田情報室長がヤクザに捕まり傷め付けられる。お馴染みになった部下が室長代理で捜査の陣頭指揮にあたり、アメリカと中国、フィリピンに潜入する仕事も部下が中心になるなど視点が変わってきた。 捜査は静かに進行し現地人の心を掴んだ情報館がアメリカの病院から難なく情報を盗み出す。次第に臓器提供のルートが解明されていくが中国の死刑囚の数の多さと人間の体を資産と考え売買を躊躇しない姿に驚く。どこまでが本当のことなのか、国家ぐるみで大使館まで関わって産業として発展しているとしたら怖い。 パズルのピースがぴったりはまる感じで収集された情報が落ち着くべきところに落ち着きXデーを迎える。静かな最後に少々物足りなさを感じるが面白いテーマだった。

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    投稿日: 2018.03.01
  • 毒見師イレーナ

    毒見師イレーナ

    マリア・V・スナイダー,渡辺由佳里

    ハーパーBOOKS

    物語っていいなと実感できる

    NHK-FM青春アドベンチャーのラジオドラマを聴いて面白かったので電子書籍を購入。 サバイバル・ファンタジーというジャンルは馴染みがないので私はもしかしたら最高齢読者なのではないかと変な心配をしながら読んだ。 異世界にあるイクシアという国家が舞台。19歳の死刑囚イレーナは死刑執行日に絞首台に行くか毒見役になるか選択を迫られる。毒見師という職業も面白いが逃走防止用に猛毒を飲まされ解毒剤を毎日呑まなければ死んでしまうという設定が凄い。 いつも一人で苦しみを背負い逃げ出す準備をしながら生きてきた少女、孤児のイレーナ。自分の未来には希望も夢もないと考えながら迷路に迷い込んでいたが毒見役になったことで強く成長していく。 考えてみれば誰もが日々選択を迫られ今日を生き延びても明日のことなどわからないのだ。魔術師や幽霊も出てくる異世界の話なのだが生死のかかった緊迫感ゆえなのか結構面白かった。本来はリアリティあふれる小説が好きだがこういう作品を読むと物語っていいなと実感できる。

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    投稿日: 2018.02.07
  • ブラック・ウィドウ 下

    ブラック・ウィドウ 下

    ダニエル・シルヴァ,山本やよい

    ハーパーBOOKS

    下巻はドキドキの連続

    相変わらず登場人物が多く難しかった。イスラエル側がISISに送りこんだスパイは女医であったため敵のボスの命を救うという矛盾が起きて序盤から混乱。 その後ISISとイスラエルの戦いはアメリカに舞台を移す。さらにCIAとFBIも参戦するがヨルダン&イスラエル側から見るとアメリカの考えが甘いので苛立ちが募っていく。 今回は爆薬を仕込んだ自爆ベストの使い方を説明したり黒装束の男が処刑をビデオに撮ろうとするなどリアルに怖ろしい。 しかし一番悲しいのはテロから身を守る戦いは今も続いているという現実である。 リアルに世界情勢が絡んでくるので難しくて読むのに時間もかかったが、これで美術修復師ガブリエル・アロンシリーズの最新作を読み終わってしまったのだと思うと何だか寂しい。

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    投稿日: 2018.02.01
  • ブラック・ウィドウ 上

    ブラック・ウィドウ 上

    ダニエル・シルヴァ,山本やよい

    ハーパーBOOKS

    シリーズ最新作はテロ実行犯ISISとの対決

    美術修復師でありイスラエルのスパイでもあるガブリエル・アロン。 シリーズ最新作はテロ実行犯ISISとの対決。ブラック・ウィドウ(黒衣の未亡人)とはヨーロッパで高い教育を受けた女性達のこと。ISISに勧誘され洗脳され敵意を抱き復讐に燃え、戦闘員の夫が殉教者となったあと実質的に組織の中枢を握っていく。ガブリエルはヨルダンGID長官と手を組みフランス女性をスパイに仕立て上げ潜入させる。 上巻ではスパイの勧誘から教育まで特に新たな名前と過去を作り上げる過程が詳細に描かれている。実質的な展開は下巻でということだ。 劇的な展開のない地味な作品だが何ともタイムリーな作品である。執筆中、現実世界で同じようなテロ事件が起きたため原稿の破棄も考えたとのこと。さらにエルサレム首都宣言も起きてきたため興味深い内容であった。 考えてみたら今まで余りにも漫然とニュースを聞いていただけだったと反省するところが多い。今回はGoogleのストリートビューで嘆きの壁とイスラエルの街並を見てみた。食文化なども調べてみてリゾット風の料理やチャパティ風のパンも焼いてみた(家族には不評だったけれど・・・)さて、それではそろそろ下巻へ。

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    投稿日: 2018.01.23
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