あかんたれさんのレビュー
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97
このユーザーのレビュー
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NieA_7 Recycle
安倍吉俊, gK / ヤングエース
安倍吉俊氏の漫画家業の出発点
3
個人的に色々と関わったタイトルではあるので中立的に語るのが難しい所ではあるのだが。
lainのキャラデザインなどで注目を浴び、今やリューシカ・リューシカ連載中の安倍吉俊氏の商業誌デビュー連載作です。
…同名アニメとのタイアップ連載でもあり既に其方を観た人も多いでしょうが、こちらも下品・悪趣味な危険球ギャグをポンポン繰り出しつつ、時折しっとりした描写の妙を楽しませてくれます。
惜しむらくは、電子化の際にコントラストを少し上げて欲しかった。
枠線を含めた全てを手書きの薄墨(?)で起こしているため、紙で見ると味わいを感じるのだが、電子端末では可読性が少々悪くなってしまっている。 続きを読む投稿日:2014.01.02
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ブラック・ラグーン(9)
広江礼威 / 月刊サンデーGX
やっと配信が来たロベルタ編完結巻。
3
原著刊行時から賛否分かれたロベルタ編。
個人的には有りです。だってもうロベルタってリビング・ターミネーターなんだし、メインで出てきた時点でリアルよりも活劇優先にしかならないでしょ。
それよりも寧ろ、こ…ういう破壊的・破滅的に暴走するキャラに対し、ロアナプラの主立った面々もなまじキャラとして立って行動特性も明確になっているために、「手綱を引く」事ができなくなっている所のピーキーな危うさというか緊張感が、読んでて胃にキリキリくる。
それ故にか、ロックがこれまでのストーリーから一歩も二歩も踏み込んだ「成長」(?)を遂げて、読者の代弁者であると同時に本作のストーリーテラーの代弁者でもあるかのような、キャラとしてのブレを見せていく。当然、本来被造物たるキャラの立ち入るべきでない危うい領域に踏み込んでしまっているだけに、結末は苦い物にしかならない。
そこが結構嫌われる要因にもなっているように思うが、著者の苦闘を(ストーリーというオブラートにくるんだ格好であれ)ライブ実感できるというのは、一つの楽しみ方ではないだろうか。肌のひりつくような緊張感と胃の痛くなるような危うさは、偶に堪らなく読み返したくなるのですよ。 続きを読む投稿日:2013.11.04
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のばらセックス
日日日, 千葉サドル / 講談社BOX
カワイイは、グロい。
3
日日日といえば、「ちーちゃんは~」以降「狂乱」「アンダカ」「ささみさん」と何気なく目を通してきて、その理に走った感のあるコンセプト設計とかそれでも読ませる文章力の器用さが何となく思い浮かぶ身ではあるの…ですが。その理に走った感を撓める事無く、多筆で培った文章力を伸ばし続けていったらこうなった、的な作品でしょうか。
タイトルの通り、もはや成年向けライトノベルのように性描写が氾濫しております。全編色々と体液まみれ。乱暴に扱われる主人公・手練手管でなすがままにされる主人公・恋人と衆目下で愛し合う主人公とシチュエーションも様々。
とはいえ、そこまでエロいかと言うと、著者自身が苦戦した旨書いているように、色々主人公にとって不本意な展開が多い上に主人公視点な描写なので、読んでいてメンタルに痛かったりするのでご注意を。
それ以上に個人的に興味深かったのは、この主人公の立ち位置。
かつて文化史的に「子ども」と「大人」しか居なかった所に、学生なる身分が生まれた結果、「少年・少女」という身分が生まれたと側聞しておりますが。
まだまだ男性優位極まりなかったご時世での話なので、少女とは「妻・母になるまでのモラトリアムであり、男性にとっての商品価値を高める期間」的だったのですが、いつしかそれも一人歩きして。「カワイイ」文化を筆頭に、少女文化は男性の欲望とはかなり縁遠い独自の進化をしております。
何が言いたいのかというと、この作品の主人公=「少女」概念の擬人化と捉えうるのではないか、という事です。更に言うとDVのサバイバー的要素もある。
相棒の少年は?というと、頑強長命で理性よりも本能なフリークス(奇形種)なのにどう見てもロリータという、いわば「去勢された少年」。
そう読み込んでいくと面白いというか、色々考えさせられるのだけれど、読みながら頭を同時進行で二様に使う格好になるため、かなり胃もたれ気分にもさせられる。更に言うと、終盤に向かってから物語を纏めるまでの辺りはかなりラノベ・漫画の方程式に準拠した感があって、そこが少々物足りない。
そうは言ってもラストのイラストに象徴された、カワイイし平和な光景であるが同時に異様でもある結末は、中々味わい深いのではないかなと。 続きを読む投稿日:2013.10.17
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新妹魔王の契約者 I
上栖綴人, 大熊猫介 / 角川スニーカー文庫
炸裂する中二エロスピリッツ
3
義妹が魔王の後継者とお付きのサキュバス。
サキュバスだから当然(表向き普通を装っていても)エロエロトークもアリアリのマシマシで!
そして契約を完遂させるためという大義名分の下に、主人公が義妹(後継者の…方)の豊かな胸を揉みしだく!
ツンデレ成分高めな魔王後継者は当然抵抗するけど大義名分があるから揉む! 揉まれた義妹が何度も昇天!
……と。
現実ベースの舞台で「勇者と魔王」なテンプレネタを扱いつつ、ラノベ枠のエロ路線の限界を探るような展開を特色とした一冊。
勿論本筋の物語もあり戦闘もあり、魔王サイドにも勇者サイドにも色々ありそうではあるが、まだシリーズ1巻目なのでそちらは「今後にご期待を」という所になるかと。 続きを読む投稿日:2013.10.11
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機動戦士Zガンダム フォウ・ストーリー そして、戦士に…
遠藤明範, 矢立肇, 富野由悠季, 北爪宏幸 / 角川スニーカー文庫
フォウ・ムラサメの「Z」前日譚
3
「Zガンダム」においてカミーユの生き方に大きな影を落とす事になったヒロインの一人、フォウ。
彼女のムラサメ研究所への入所からホンコン出撃までを扱った、アニメージュ付録小説に加筆を行って刊行されたタイト…ルです。
彼女の研究所生活においても転機をもたらす少年少女キャラクターが存在しており、そのうちの一人は、あのミハル=ラトキエの弟です。
必然的にミハルが家を去って以降の弟妹の行く末を知る事になるワケですが、刊行当時は「ミハルに思い入れ持ってるなら読むんじゃない」と知人に言われたもので、私もそれに従って読まずに過ごし、今回の電子化で今更初読となりました。
安彦氏の「ORIGIN」番外編読み切りではセイラによって二人が保護される事になった模様のため、本作は所謂「正史」から外れたパラレル設定となるのでしょうが、一度読んでみても良いのではないでしょうか。 続きを読む投稿日:2014.01.18
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フッサール心理学宣言 他者の自明性がひび割れる時代に
渡辺恒夫 / 講談社
要・現象学の予備情報
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発達心理学の知見として、子どもは生まれて間もなくから母親との関係を中心にして、間主観性(自分以外に意志を持った人間が居る)を自明の事として受け入れるとか。
ただ、「意識」が成長して観念的思弁を身につけ…るにつれ、いつか「なぜ(この思弁する意識の)私は、(今ここに肉化された)私なのか」という疑念を抱く時が来る。「なぜ私は今ココの私であって、他の誰かでないのか。別の時代の別の世界の誰かでもないのか」。
多くの人間は自明性に満ちた日常の圧力に流されてそれを忘れたまま過ごす事になるが、そこに躓いたままになってしまう人がいる。それも結構な割合で。
自分自身の自明性が壊れると、その補完処理を試みる果てに他者の自明性も壊れていく。こんな意識を持った自分だけが特別(自分が人であると同時に神である、自分だけが空っぽである等)という独我論に踏み込んだりもする。
著者はそこに現象学の知見を生かせると捉えている。具体的にはエポケー(自明の事を思考の上で括弧に入れ、例えば目の前の花瓶の存在を触覚だけで捉え直すような思考実験)を逃れられず強いられている状態という考え方になるだろうか。
かなり噛み砕いた説明が本書では行われているが、やはりフッサール現象学について何らか(現代思想の入門書等でも構わないが)の予備情報を頭に入れた状態で読み進めないと、なかなか歯ごたえのある内容になっているのでないかと。
個人的には忘れかけていたフッサールを再学習しつつ、マッハやシュレーディンガーといった古今東西の興味深い「症例」に接する事ができたので、楽しめたと思う。 続きを読む投稿日:2013.10.09