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あかんたれさんのレビュー
いいね!された数97
  • マリア・プロジェクト

    マリア・プロジェクト

    楡周平

    角川文庫

    命の価値、とは

    著者の「朝倉恭介VS川瀬雅彦」シリーズが面白かった事から「著者買い」した一冊。 先進国の堕胎等によって捨てられる「命」、貧困国(極端な貧富差による)において消息不明になっても碌に警察にケアして貰えない「命」。 その命を医療研究の実験に利用しようとする話です。 胎児(既にこの時点で必要な卵子は揃っている)の卵子を培養して人工授精に利用したり、所謂スラム的なエリアに住む少年少女を誘拐拉致して、代理出産の「代理母」を強制したり、臓器移植の材料にしたり、と。 本書中盤まで、そういうドクターによるあれやこれやが続くので、かなり重い気分になれます。 当然それは最後のカタルシスのための「溜め」だとは分かってはいるのですが、上記のシリーズのようなアクション・ボリュームも無く(人里離れた研究所への奇襲であればそうならざるを得ないでしょうが)、「溜め」の見返りとしては少し物足りないところが少々。貧弱装備故に味方もバタバタやられてしまいますし。 それ故、読後感としては本書のモチーフとされた医療と貧富差と人命の価値について考え込まされるものとなりました。 フィクション故に本書に描かれた医療技術はまだ実現してはいないようではあるのですが。。。

    1
    投稿日: 2014.02.11
  • のうりん

    のうりん

    白鳥士郎,切符

    GA文庫

    一年も取材してたんだ…(驚愕)

    著者が農業高校に取材してまでして執筆したラノベ。 アニメから入ったので、本編中のパロディネタ塗れ状態はあまり気にならなかったように思います。 ストーリーの端々に、というか舞台設定のディテール描写に「意外にちゃんと取材してるんじゃないか」と思わされたのですが、よもやの長期取材だった(あとがき参照)とは。 とはいえ、本筋のストーリーはそんなネタ一切関係ないドタバタノリとパロディーで一気呵成に進んじゃうんですけどね。 個人的には、アニメよりもそういうネタをサクサク読み進められる(読み飛ばしできる)原作の方が楽しめたかなと。

    0
    投稿日: 2014.02.11
  • よんでますよ、アザゼルさん。(10)

    よんでますよ、アザゼルさん。(10)

    久保保久

    イブニング

    先々への布石…?

    前半は魔界の性病・デスクラミジアのパンデミック問題という前巻の続き。 相変わらず酷い展開に最低なオチ(褒め言葉)です。 後半の新エピソードは、さくまさんの退所騒動。悲恋に流れそうになりつつ酷いネタもオチもしっかり入れて、実はさくまさんが事務所に居るのは借金とかだけでなくもう一つ重要な問題がありました、という話に。 一般的なストーリー物であれば、これが先々のストーリーの軸となって展開していくんでしょうが、本作の場合は「そんな話ありましたっけ?」なノリで展開していくんだろうなあ。

    0
    投稿日: 2014.02.11
  • 藁の楯

    藁の楯

    木内一裕

    講談社文庫

    映画未見状態で読了。

    基本的に読後爽快感とかいったタイプではないですね。色々胸くそ悪くなる思いや苦々しい気分を味わうタイトルです。 残忍な幼女強姦殺人犯を送検せねばならない、でも被害者の一人の親が大金持ちでその命に莫大な懸賞金を掛けたため、それが命がけの道行きになってしまいましたというお話。 青年漫画「BE-BOP HIGHSCHOOL」の作者だけあって、テンポの良さとスピード感は秀逸です。場面や舞台装置を次々に切り替えながら、ちゃんとそれぞれでイベントが発生してエピソードになっている。 終盤、このキツい話に救いが見えるか…と思わせて、案の定更に酷い「落とし」が待っているので、そういう展開に抵抗があるかどうかが、読んで楽しめるかどうかの目安にはなるでしょうか。

    1
    投稿日: 2014.02.11
  • 江戸の刑罰 拷問大全

    江戸の刑罰 拷問大全

    大久保治男

    講談社+α文庫

    江戸時代の刑事法と執行内容解説

    個人的には「無残絵」的な、ちょっと悪趣味な関心で購入してみたのですが。 流石にそういう路線に応えるタイプの本とはちょっと違います。 資料絵や描き起こされた図を使いながら、晒し首とか石抱きとか色々説明してくれてはおりますが、基本的には江戸時代の刑事法がどういったものだったか、その運用がどういう組織によって行われていたのか、どういう執行がなされていたのかを解説したものです。刑罰・拷問はその執行や尋問における態様というべき印象。 とはいえ色々勉強になる事も多く、例えば大岡裁きの越前のエピソードは中国等からのエピソードの孫引きだったり、「義賊」鼠小僧次郎吉が、実は盗んだ金のバラ撒きも一切やらずにバクチと女に使っていた只の泥棒だったりと、時代劇トリビアとでも言うべき情報が色々詰まっております。

    0
    投稿日: 2014.02.11
  • 機動戦士Zガンダム 第一部 カミーユ・ビダン

    機動戦士Zガンダム 第一部 カミーユ・ビダン

    富野由悠季,美樹本晴彦

    角川スニーカー文庫

    監督自身によるノベライズ

    富野監督自身による、TV版Zガンダムのノベライズ。 前作と異なり、美樹本氏のイラストはカバーのみで挿絵は別の方になっているなど、若干有り難みとしては目減りした感はありますが、こちらも巻頭でカラー口絵だけでなくキャラ紹介やメカ設定紹介ページを用意しており、文庫本(本電子書籍のマスター)としては豪華な作りになっています。 初っぱなからカミーユの述懐で色々端折られていたりしますが、個人的にはこれくらいの紙面バランスが正解ではないかと思います。 他、続巻(全5巻)を読み進めるとレコア・ロンドがあっさり退場したり、シロッコとの最終決戦の結末が微妙に異なっていたりと、色々ディテールの違いは出ておりますが、基本的にはTVアニメのノベライズとして、アニメの筋をなぞった格好になっているかと。 ある意味アニメよりも重い話になっていますが、この重さあってこそのZでしょう。

    2
    投稿日: 2014.02.11
  • ナイーヴ 完全版 1巻

    ナイーヴ 完全版 1巻

    二宮ひかる

    ジェッツコミックス

    「読むと、したくなる」という名コピー

    所謂普通の恋愛ができているようで、ちゃんとできてない。そんなコミュニケーション不全気味でほどほどに器用、でも精神的に不器用な2人。 既に社会人として出発を遂げている、そんな中途半端にオトナな2人の恋愛漫画です。 上記のような2人だから、そしてコミック連載の掲載誌が青年誌という事もあって読者ニーズもあり、まず身体のお付き合いからスタート。 以降も毎回エピソードごとにその手のシーンが入ります。 とはいえ、それ故に即物的エロティシズムを期待するとちょっと肩透かしになってしまうかも。 本作は(勿論裸体描写なども多いですが)2人の男女の、身体を重ねてもなかなか気持ちが重なりきらずにもどかしい思いを抱く所や、ピロートーク的な台詞の一つ一つの味わいを楽しむタイトルで、その意味では青年誌掲載コミックではあるものの男女問わずに楽しむ事のできる作品です。 最近少しずつ増えて来た男性・青年向けなベッドシーンを交えつつもキャラの心理や台詞の機微で楽しませるタイプの恋愛コミックの、言ってみればハシリの作家である二宮ひかる。その魅力が最も凝縮されたタイトルではないかと思います。(「ハネムーン・サラダ」も捨てがたいですが) 刊行時の帯のコピー「読むと、したくなる。」が実に秀逸でした。

    0
    投稿日: 2014.01.31
  • けだもののように1 学園編

    けだもののように1 学園編

    比古地朔弥

    太田出版

    野生の少女・規範なき聖女

    学園に転校してきた謎の美少女。口数も少ない、人付き合いも悪い、授業態度もよろしくない。 けれど主人公はある夜、彼女の秘密を知ってしまった。。。 生い立ち不明な謎の美少女・ヨリ子は社会規範も性規範もどこ吹く風で生きる野生の少女でもあった。 性規範も希薄だから、割とノリでアレコレやってしまったりするワケで、男子は気が気でなくなってしまうし、女子は女子で「キスまでした〇〇君が」とか「〇股のスベタ」とか思って複雑な気分になってしまう。そんな「少女」の姿をした台風に翻弄される学園の様が描かれます。主人公を筆頭に皆振り合わされっぱなし。 本作の続編として、ヨリ子のパトロン的中年男性と彼女が東京に行ってしまった後を描く「東京編」、そこで更なるトラブルが起こって舞台を一度本作「学園編」に戻す「完結編」が存在します。中年男性と本作の主人公がひたすら振り回される展開となりますが、規範に頓着のない一種の「聖女」として著者が捉えているヨリ子が、数々のイベントを経て人間・ヨリ子へと着地する様が描かれています(振り回される2人も、苦い思いを味わいつつ成長します)。 まずは本書を、ただ本書だけではそういったシリーズの肝が楽しめないので、本書が楽しめた人は是非続編2作も見ていただきたい。

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    投稿日: 2014.01.27
  • スラップスティック

    スラップスティック

    カート・ヴォネガット,浅倉久志

    ハヤカワ文庫SF

    非ナショナリズムの行方

    やや長めのエッセイじみた著者の述懐形式のプロローグを経て物語は始まります。 突然変異のフリークス(奇形)な双子の姉弟。巨大でモジャモジャ髪で乳首が四つもあって、姉とセットになれば比類無い知恵を発揮するものの、バラになれば読み書き以上の事が大分覚束ない(逆に姉は単独では読み書き以外だけが達者)。そんな弟が主人公です。 そんな弟が合衆国大統領に就任。それだけでも割と大丈夫かと思いたくなりますが、更に全米が不治の病に冒されて国家としての体を失っていきます。 とはいえ、ディストピア的な重苦しさは皆無です。全編にわたって繰り返される「ハイホー」(思考のしゃっくり、と称されます)がその証。 読み解く鍵の1つは主人公の政策。ファミリーネームを撤廃させて、人為的かつランダムに決めた独自のファミリーネームを使うように定めます。血統も何も関係ない、単純にランダムにミックスされた「拡大家族」による共同体構想と言えるでしょうか。 もう2つは物語の端々に現れる「中国人」。文明として進歩も失い劣化したアメリカを凌ぎ、最早彼らには理解不能な独自のブレイクスルーを遂げています。 この2つから、本書はナショナリズムや権力、富める者が不可避的に陥る一種の貴族主義、そういったものが人々の不幸の温床になるとして、それを無効化したらどうなるか、という思考実験とも捉えられます。進歩は失われ文明の勢いは一気に消失する、でも人々は不幸じゃない。緩やかな衰退を楽しんでいる風すらあります。 中国人は、西欧文明の外部に存在する英知の象徴と考えるべきでしょうか。英知はアメリカを見放し、遙か先に進んでいってしまいます。 ニヤリとさせられる諧謔に満ちつつ、しかし読み進めるに従ってジワリジワリと侘しさを感じさせられます。

    0
    投稿日: 2014.01.26
  • 機動戦士Zガンダム フォウ・ストーリー そして、戦士に…

    機動戦士Zガンダム フォウ・ストーリー そして、戦士に…

    遠藤明範,矢立肇,富野由悠季,北爪宏幸

    角川スニーカー文庫

    フォウ・ムラサメの「Z」前日譚

    「Zガンダム」においてカミーユの生き方に大きな影を落とす事になったヒロインの一人、フォウ。 彼女のムラサメ研究所への入所からホンコン出撃までを扱った、アニメージュ付録小説に加筆を行って刊行されたタイトルです。 彼女の研究所生活においても転機をもたらす少年少女キャラクターが存在しており、そのうちの一人は、あのミハル=ラトキエの弟です。 必然的にミハルが家を去って以降の弟妹の行く末を知る事になるワケですが、刊行当時は「ミハルに思い入れ持ってるなら読むんじゃない」と知人に言われたもので、私もそれに従って読まずに過ごし、今回の電子化で今更初読となりました。 安彦氏の「ORIGIN」番外編読み切りではセイラによって二人が保護される事になった模様のため、本作は所謂「正史」から外れたパラレル設定となるのでしょうが、一度読んでみても良いのではないでしょうか。

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    投稿日: 2014.01.18