litsさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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日本のいちばん長い日(決定版) 運命の八月十五日
半藤一利 / 文藝春秋
終戦を巡る日本人のドラマ
2
「運命の八月十五日」とタイトルになっていますが、運命の日を迎えるに至る過程もしっかりと書かれていて、実に読み応えのある本でした。ノンフィクションといっても差支えがないのではないか?と思われるほどに聞き…込みや調査が丹念に重ねられており、その上に描かれた物語には重みがあります。
日本という国を思い、身命を投げうってつばぜり合いと葛藤を繰り広げた方々に敬意を。右とか左とか、そういったことが軽く見えるほどに真剣なドラマがここにはあり、この本の世界に引き込まれていきました。
つぎはぎだらけの詔書がどのようなものを象徴しているのか。それはこの本を読んだそれぞれの方でとらえ方が違うと思います。そういった、単純すぎる見方を排した筆致も魅力です。
現代に続く事柄が多いだけに、読みながら現代日本に思いをはせてしまう、そんな本だと思います。
続きを読む投稿日:2015.10.09
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僕は友達が少ない 11
平坂読, ブリキ / MF文庫J
最初から最後まで筆がのらず淡々とした印象
3
もうきちんとした終わりをみることはできないのかな・・とあきらめかかっていたので、好きだった物語を完結させてくれたこの11巻は読んでよかったと思います。「僕は友達が少ない」というタイトルも、ポジティブな…意味に昇華する狙い通りのラストにはもっていけています。
ただ、筆がのっていないというか、シリーズ序盤にはあったラノベらしいテンポの良さが影をひそめ、全体的に淡々とプロットを消化していったというのが読後の印象です。
できれば、夜空の性格に大きな暗い影を落としていた家族問題に星奈をからめて1冊、幸村・理科の関係性で1冊くらいのボリュームで読んでみたかったです。終始淡々としているので、キャラが生きている感じがしないのです。なので、楽しさやリズムは残念ながらあまりありませんでした。 続きを読む投稿日:2015.09.26
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ローマは一日にして成らず──ローマ人の物語[電子版]I
塩野七生 / 新潮社
まずは助走
3
塩野さんの書く本は、自分の惚れ込んだ人やものを伝えたいという熱意が、はちきれんばかりにこもっているのが特徴だと思います。このシリーズの場合はローマという国とそこに生きる人が対象になっています。
歴史…書と呼ばれるものは、はっきりしない根拠からの推論を排した上に論を重ねていくので無味乾燥になりがちですが、塩野さんの場合は小説家らしい想像力の豊かさを広げさせていて、学術的には正確性を欠くかもしれませんが、一緒になって想像を広げる楽しさとリズムがあるのがすばらしいです。
もっとも、この第1巻は本当に書きたいことの土台となる部分、ローマが都市国家として安定していくまで、を描いているので、すこし退屈な部分もあるのは仕方のないところでしょうか。ともあれ、次巻以降はさらに躍動するので、それを期待して手にとってみる価値は十分あると思います。
これは完全にどうでもいいことなのですが、表紙は文庫版の方が好きです。単行本の表紙は、なんだか学生時代に歴史の授業で使った資料集を思いおこしてしまうんですよね(笑)。 続きを読む投稿日:2015.06.11
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サイゴンのいちばん長い日
近藤紘一 / 文春文庫
生の素材をずらりとならべて
0
南ベトナムの崩壊について興味があり、いろんな本を読んでいるのですが、この本は一次史料に近いのではないかと感じました。
ひとつの国の滅亡という歴史的大事件については、イデオロギーや倫理観、地域の歴史的…な流れも含めて語られるのがほとんどですが、この本はサイゴン陥落のまさにそのときその場所にに身を置き、行動し聴き考え感じたことを率直な文体でつづったものです。ですので、体系的な記述とは言いがたく、陥落前後の日常記述と筆者のベトナム観などがいりまじっています。
安全な場所に身を置き偽善と語ることは、より偽善的な行為ではないだろうか。我々日本人のベトナム戦争についての理解、さらにはベトナムという国に対する理解は浅薄なものだったのではないか。これは本文中の表現の一部で、この本の性格を語っています。
サイゴン進駐の際にカメラを向けると軍服を調え、撮影が終わるとはにかむ北軍兵士など、既成概念にとらわれない人の息づく空気を感じることができました。大局を語っているわけではありませんが、末端ではどのようなことが起きていたのかを知るには十分な内容だと思います。
続きを読む投稿日:2015.06.06
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はたらく魔王さま!12
和ヶ原聡司, 029 / 電撃文庫
力あるものの葛藤
0
新しい展開への助走と思える11巻の内容、物語の裏側で動いてきた人物の登場、魔界時代を描くゼロ巻の発売、そうきたら世界の核心に迫る物語の急展開を期待してしまいますが、そういう内容ではありませんでした。走…り幅跳びだと思っていたら、三段跳びで、ホップ・・ステップ・・と見せられたような展開という感じでしょうか。わかりにくいかな・・(笑)。
エンテ・イスラの来るべき危機へ、魔王と勇者が世界の謎を知り戦いにおもむく展開をついつい期待してしまいましたが、そういえばいままでの戦いは全て「まきこまれ型」だったなと。主体的に戦いに参加したことはなかったので、この巻で言いたいことはよくわかるし、シリーズ構成上はあって当然のように思います。その意味では11巻とセットでの内容といえるかもしれません。
ただ、11巻からけっこう待ったし、ちょっと・・というよりかな~~~り(!)新展開に期待してたので、肩透かしをくらった感はあります。内容はいつもどおりのクオリティです。安心して読み進められるし、この巻単体では見所も多いと思います。なので、シリーズのファンとしてついつい辛目の見方になってしまいますが、決してデキが悪いわけではありません。むしろおススメです。
でも・・・・期待させて待たせたのに~という思いは抑えられなかったので、星ひとつマイナスにしときます(笑)。
13巻に期待してます!
続きを読む投稿日:2015.05.06
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文藝春秋SPECIAL 電子版 2014年秋号
文藝春秋 / 文藝春秋
戦争論というよりは安全保障論に近いかも
3
複数の論者による寄稿で成り立っている本なので、表紙にある池上さんの成分は薄めです。実に硬派な論が多く、様々な視点から語られていて、さらにはボリュームもたっぷりで、価格分以上の内容です。
ただ、リーダー…端末で読むと図がみづらく、ipadで読むと論文が読みづらいという構成上の問題があるように思います。これは好みですが、前半はipad等で、後半はリーダー端末で読むといいかもしれません。
これで300円は破格だと思います。 続きを読む投稿日:2015.04.21