
ノブレス・オブリージュ イギリスの上流階級
新井潤美
白水社
読みやすい上流階級(と上層中流)の概観
イギリス近現代のアッパーミドルからアッパークラスにかけての所謂「ジェントルマン階級」の生態とパブリックイメージを扱った本。専門書ではなく一般向けなので読みやすい。半分くらいはイギリス社会史でよく論じられている階級論なので、普段からその分野の論文集などを読んでいる人にとっては既知の内容かも。とはいえアメリカ社交界とイギリス上流階級との交流、ウィンストン・チャーチルの母親がアメリカ人であった理由などについては簡単な説明で済まされることが多く、本書のような詳しい説明は他ではあまり見たことがないように思う。 なお、タイトルになっている「ノブレス・オブリージュ」は本書では特に先祖伝来の屋敷を維持し、客人へのもてなしの一環として公開するという面にクローズアップして使われているので、「ノブレス・オブリージュとは何か?」という目的で読むとちょっと違うかもしれない。
1投稿日: 2022.03.27
ワインの世界史 自然の恵みと人間の知恵の歩み
山本博
日本経済新聞出版
タイトルは立派
著者の専門がワインであって歴史ではないせいか、虚構の話を史実と取り違えて論じていたり、信憑性に欠ける内容が多かったり、時々明確に間違っていたりする。史料批判が出来ていないのと基本的な専門知識不足が原因かと。 酒の席での与太話としてなら笑えるが、素面の時なら突っ込まざるをえない、そのくらいのクオリティ。
0投稿日: 2021.10.17
フランス史 下
福井憲彦
山川出版社
定番フランス史のペーパーバック版
下巻はフランス革命から。旧版はミッテラン大統領までだったが、こちらの分冊版では2節、都合5ページ分ほど追加されてマクロン大統領当選とイエローベスト(ガソリン値上げに切れてシャンゼリゼとか燃やしてたやつ)までとなった。また旧版巻末にあった王朝系図や文献案内は年表は省かれている。学生向けには旧版の方が良いかもしれない。
0投稿日: 2021.09.27
フランス史 上
福井憲彦
山川出版社
定番フランス史のペーパーバック版
『新版世界各国史12フランス史』のペーパーバック分冊版。 上下セットで買ってもハードカバーの旧版より1000円以上安い。 ローマ以降、フランス王国成立以前をちゃんと扱っているのが偉い。 上巻はフランス革命の前まで。 「まえがき」が新しくなっている他は特に内容に違いはない。
0投稿日: 2021.09.27
世界奇食大全 増補版
杉岡幸徳
ちくま文庫
世界と言いつつ日本から出ない。
都内のフレンチレストランや中華料理店で食べたちょっと変わった料理(編集部の経費で)、国内旅行のついでの珍しい郷土料理かB級グルメ、通販で取り寄せた珍しい食べ物。本書の内容はだいたい上記3パターンに収まる。 しかも珍しいとはいうものの、余程アンテナが低い人以外、全然珍しくもなんともないものも多い。底本の出版が10年以上前だとしても、サルミアッキとか大学生レベルでもお土産の定番でしょ。 また江戸前の寿司に生魚はなかっただの、鮪は食べなかっただの普通に間違った情報も多い。本書と同じ筑摩文庫から出ている下級武士の食生活を扱った本を見れば鮪の握りを食べていたことが分かるし、本書がちょっと調べれば分かることも調べずに書かれていることも分かる。あと食事の最後に出てくる甘い物ではなく、お菓子全般をデザートと言っているのも理解に苦しむ。 唯一評価出来るのは最初の河豚のキモ(通販)の実食ぐらい。でも今ならYouTubeなり、ウェブサイトでもっと頑張ってる人はいくらでもいるからなぁ、という感じ。
0投稿日: 2021.08.15
イギリス史 下
川北稔
山川出版社
定番のイギリス通史
1998年出版の『新版 世界各国史11 イギリス史』のちょっと増補、分冊版。底本は20年以上前の出版ですが、転換期の後ということもあり古さは感じません。 ちなみに元の値段から比べると、上下巻合わせても三分の二ほど。お得!! 大学生以上向けで各国史としては定番といえます。各章ごとに専門の研究者が書いているので、専門書というほどではないものの、かなり詳細です。 イギリス史を一通り勉強してみようという際にまず候補となる本といえます。 下巻は名誉革命後のハノーヴァー朝成立から2019年のEU離脱決定まで。旧版にはなかった増補分も含みます。
0投稿日: 2021.03.18
イギリス史 上
川北稔
山川出版社
定番のイギリス通史
1998年出版の『新版 世界各国史11 イギリス史』のちょっと増補、分冊版。底本は20年以上前の出版ですが、転換期の後ということもあり古さは感じません。 ちなみに元の値段から比べると、上下巻合わせても三分の二ほど。お得!! 大学生以上向けで各国史としては定番といえます。各章ごとに専門の研究者が書いているので、専門書というほどではないものの、かなり詳細です。 また初期中世以前を取り扱っているイギリス史の概説書は限られるので、その点でも貴重。イギリス史を一通り勉強してみようという際にまず候補となる本といえます。 上巻はケルト以前の先史時代から名誉革命まで。
0投稿日: 2021.03.18
肉食の思想 ヨーロッパ精神の再発見
鯖田豊之
中公新書
かなり大味で時代をかんじる
初版が今から半世紀ほど前なので、現在の研究水準からするとかなり一面的だったり、間違っていたりという点も目に付きます。 「ではあるまいか」という推測が多く、推測に推測を重ねたあげく、なぜかインドのカーストに飛んだりして、落ち着いて読んでみるとかなり強引です。 第一線の研究成果が翻訳で読める現在と比べてはいけないとは思いますが、なんというか、そういう時代だったのだなぁ、と。 本書は文庫版も電子化していますが、こちらの新書版の方が表が見やすいかと。
0投稿日: 2021.01.31
肉食の思想 ヨーロッパ精神の再発見
鯖田豊之
中公文庫
わりと大味
肉食から始まり社会論、文化論に展開。 初版が今から半世紀ほど前なので、現在の研究水準からするとかなり一面的だったり、間違っていたりという点も目に付きます。「ではあるまいか」という推測が多く、推測に推測を重ねたあげく、なぜかインドのカーストに飛んだりして、落ち着いて読んでみるとかなり強引です。半世紀以上も前の本なので、そういう時代だったのかなぁ、という大らかな気持ちで読むのがよいかと思います。 また本書は文庫版ですが、中公新書版も電子化されており、そちらの方が表が大きく見やすいかと思います。
0投稿日: 2021.01.31
大都会の誕生 ──ロンドンとパリの社会史
喜安朗,川北稔
ちくま学芸文庫
古さを感じさせない論文集
1986年に有斐閣選書で出版された2人論文集。2018年に文庫化。最初の副題は「出来事の歴史像を読む」。文庫/電子版の副題と見比べると「社会史」という言葉が日本では一般的でなかった頃から社会史をやっていたことが分かります。このあたりは流石、社会史と世界システム論を日本に紹介した中心人物の一人である川北稔氏といったところでしょうか。 各論文で扱われているトピックを見ても、その後の社会史ブームでも良く扱われた論点が多く、あまり古さを感じさせません。ある程度の専門知識がある人が読めばジェントルマン資本主義や世界システムといった90年代以後に常識となった用語と概念を抜きにして同様の議論を展開していることに驚くかもしれません。 高校生には難しいかもしれませんが、大学一年生以上なら専門外の人でも問題なく読めるでしょう。専門の人にとってはおそらく既知の内容が多いでしょうが、1986年に本書が出版されたという点を意識して史学史の一環として読むのが良いのではないでしょうか。
0投稿日: 2021.01.26
