豚山田さんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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人間失格
太宰治 / 青空文庫
冷静に、抜け目なく、面白い小説です
6
再読。晩年に心身ボロボロの状態で自身の思いの丈をぶつけた手記的な作品、という印象でしたが、全く異なりました。
言うなれば(生意気ですが)冷静そのもの。
主人公の持つキャラクター性は、世間一般に知られ…る著者の性格とはきちんと一線を画している様ですし、物語は伏線を張るなどしてリーダビリティにも気を遣っていた様子。ましてやコミカルな描写まで抜け目なく挟まれており、まさか人間失格でちょっと笑わされてしまうとは!
氏がどんな心境で本作を執筆されたかなど知る由もありませんが、作家の気迫と矜持は見せつけられました。
すげえ。 続きを読む投稿日:2014.04.15
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四畳半神話大系
森見登美彦 / 角川文庫
「あの時ああしてれば…」などとクヨクヨしている方にはこの一冊
6
何とも不思議な物語に出会ったものです。
四つの短篇からなる一冊ですが、四篇とも同じ主人公、同じ時系列、同じ場所を中心に広げられる異なる物語。
いわば読者は四篇の並行異世界を体験する事になります。
…予備知識ゼロで取り組むと、この辺の仕組みを正しく理解するのに半分、約二〇〇頁も要してしまいましたが、理解してからは楽しさ倍増。
最近氏の作品の世界観も理解し始めてきた所だったので、余計な気を回す事無く純粋に没頭する事ができました。
ただ、最後の一篇は解決編に見えて読者を混乱させるだけだった様な。
発想は凄く楽しかったけれど。 続きを読む投稿日:2014.04.06
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ナポレオン狂
阿刀田高 / 講談社文庫
鞄に常備させたい一冊
6
直木賞受賞作という称号自体はむしろ自分の中で作品の期待度を落とす要素でしかないのですが、それだけに本作は少し意表を突かれました。
本作は短編集で、全てが最高とはならないまでも、最初と最後が凄く良くトー…タルでは非常に好印象で終わった作品でした。
笑いあり、ミステリあり、ホラーあり、エロスありと非常に幅広い一冊で、ちょっとした隙間時間を埋めるには最適な本となりました。
お気に入りはやはり表題作です。
太宰作品を彷彿とさせるユーモアのある語りで引っ張っておきながら、まさかそのオチに持ってくるとは。
鞄に常備させたい一冊。 続きを読む投稿日:2014.12.28
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追想五断章
米澤穂信 / 集英社文庫
作者の筆力に驚嘆
6
再読。作者の筆力に驚嘆です。
主人公は依頼を受けある方の遺した五つの短編を探すのですが、見つけ出した作中にはある過去の事件の謎を読み解く鍵が隠されていた…という感じの物語なのですが、まずこの短編が素晴…らしい。
年代も思想も、ましてや執筆の動機も違う別の人物になり切って物語を書き、それでいて妙に惹かれる面白さがあるのですから。参りました。
問題提起も何もない所から静かに始まり、いつの間にやら深い事件に巻き込んでくれる所なども流石。ちと弱いが意外な結末も控えており素晴らしい一冊でした。
これ作者の代表作でいいのでは? 続きを読む投稿日:2014.03.21
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モルグ街の殺人事件(The Murders in the Rue Morgue)
エドガー・アラン・ポー, 佐々木直次郎 / 青空文庫
作家界のレオナルド・ダ・ヴィンチと呼んでいます
6
1841年!
日本なら江戸時代に発表の本作。
嘘か誠か地球初の推理小説で密室ものとの事、まずは探偵デュパンの小気味よい推理が冴え中々の立ち上がり。とても古さを感じさせない洗練されたものを感じました。
…また恐怖小説が得意分野とだけあって遺体発見のシーンはかなりぞっとできます。
そして何より結末! これは凄すぎでしょう!
初の密室トリックなどとすっかり忘れ去ってしまうような衝撃的なラストでした。
腰を抜かしました。
短編ながらあらゆる点で飛び抜けた作品。
作家界にもこんなレオナルド・ダ・ヴィンチみたいな人がいたんですね… 続きを読む投稿日:2014.04.22
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不夜城
馳星周 / 角川文庫
これほどのアトラクションが遊園地にありますか?
5
再読。僕的には怖い位に「読ませてくれる」作品です。
言うなれば鯛焼きの薄皮一枚剥がしたら鯛の形をしたあんこが出てきたというような…とにかく最初から最後まで退屈な部分がない一冊です。
小説が実生活では得…られない体験をさせてくれると言うのなら、僕がまず踏み入れたいと望むのがこのワルの世界という奴でして。
道徳的な良し悪しなぞ脱ぎ捨てて肩まで浸かってしまうと、後はむしろ救いがなければないほど良いてな具合で、ほとほと感情をシェイクされての読了が約束される訳です。
こんなアトラクション、TDLにだってありませんよ!
お勧め。 続きを読む投稿日:2014.03.05