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豚山田さんのレビュー
いいね!された数471
  • そして誰もいなくなった

    そして誰もいなくなった

    アガサ・クリスティー,青木久惠

    クリスティー文庫

    初めてなのに何処か懐かしい感じ

    お恥ずかしながら初読みです。 初めてなのにどこか懐かしい感じ。 それはきっと今の多くのミステリ作品の根底に本作へのオマージュやリスペクトが流れているからなのでしょう。 とにかく人を楽しませる仕掛けの詰まった作品でした。 孤島に集められた嘘を抱える人々、十人の兵隊が一人ずつ減っていく童話になぞらえた殺人、と同時に減っていく人形、生じる互いの疑心暗鬼…。 細かいトリックを問うタイプではありませんが、ミステリとしてはこちらの方が余程好みですね。 真犯人の心中の台詞が引っ掛かり所ではありましたが、十分に楽しませて貰いました。

    1
    投稿日: 2015.01.22
  • ハンドレッド ―ヴァリアント覚醒―

    ハンドレッド ―ヴァリアント覚醒―

    箕崎准,大熊猫介

    GA文庫

    素材自体は興味があったのですが…何とも疲れる結果に

    いやぁ、長い旅路でした。 数ページ読んではぐったり疲れて、ついつい別の本に手が伸びて…と繰り返すこと間に5冊! すっかり読書から荒行という体になってしまいました。 一体何が合わなかったのか…思うに描写不足とテンポの悪さが、本書の読みにくさを助長していたのかと。 例えば登場人物の内面がきちんと描かれていないからか、Aという台詞からBという台詞に移る感情の動きが全く読み取れず、言っている事が一瞬先でコロコロ変わっている様に見えてしまう宇宙人的会話の連続となっていたりなど。 素材自体は興味が湧いていただけに残念でした。

    4
    投稿日: 2015.01.14
  • 殉狂者 上

    殉狂者 上

    馳星周

    角川文庫

    二つの時間軸で並行して謎を明かしていく様は非常に楽しい

    30年前のスペイン・バスク地方を舞台に、テロ組織に身を置く事となった日本人と、彼の遺した謎に巻き込まれる事となった現代の息子の、裏社会に関わる者の苦悩を描いた作品。 主人公二人を用い、現代と30年前とでシーンを交錯させながら、二つの時間軸で並行して謎を明かしていく様は非常に楽しい。 日本の裏社会で主人公が暴力と酒と女の狭間でもがくという作者のパターンからは離れていますが、ある意味ヤクザよりも無慈悲なテロ社会が舞台とあって何が起きるかわからない雰囲気は十分に楽しめます。 さて後半、どんなサプライズが待っているか。

    2
    投稿日: 2015.01.14
  • 花火

    花火

    太宰治

    青空文庫

    文学的な推理小説は凡人の身にはいささか酷なものが

    文学的な推理小説とでもいうのでしょうか。 とにかく謎が謎を呼んでおいて、バッサリと結末を切られて終わってしまいました。 父は無実なのか。兄は本当に性根から悪かったのか。妹の最後の言葉は真実だったのか。そもそもこのタイトルの意味は…。 文学的に言えばそれらの解答に大きな意味はないのでしょうが、凡人たる身にはいささか酷な結末かと。 とはいえ作者の意図も何となく伝わって面白かったです。 兄の小暴君ぶりに波立てられた感情を、妹の最後の「新しい言葉」で締められた時の感覚といったら。 作者はきっとそれがやりたかったのでしょうね。

    2
    投稿日: 2015.01.13
  • 駈込み訴え

    駈込み訴え

    太宰治

    青空文庫

    このユダがまた落ち着かないこと

    キリストと使徒の物語。 ユダの視点で「最後の晩餐」あたりの様子が描かれています。 同い年でありながら美しい師であるキリストに対し、複雑な眼差しを向けているユダ。 氏の作品を通じていつも感じるテーマなのですが、今回も主人公は葛藤してます。 考えがあちらこちらと揺さぶられ、落ち着くところが無い。 このユダもキリストへの愛情が高まったかと思えば、復讐だと騒いだり。 自分の本心を隠そうとして嘘をつくのか、嘘をつく自分を振り返って正直であろうとするのか、とにかく気持ちがひとところに落ち着こうとしません。 これぞ人間……なのかな?

    1
    投稿日: 2015.01.08
  • 恥

    太宰治

    青空文庫

    太宰作品なのに、まさかの作家像が…

    とある思い込みの激しい女性と、自虐的な作風が売りの作家との交流の物語。 冒頭から恥をかいたと憤る語りから始まり、最後にその内容が明かされるのですが、徐々に読者の気分を高めて焦らして「これは恥ずかしいなぁ」と苦笑いをさせられてしまう展開には感心しきり。 氏は人間の負の部分が分かっているというか、この場合であれば人が恥ずかしいと感じるためにはどうすべきかがよく分かっているという感じで、つい主人公に同情をしてしまいます。 それにしても、今回は氏の作品にしては見たこともない様な作家像が。 これが氏の本当の姿? まさかね…

    1
    投稿日: 2015.01.08
  • お父さんのバックドロップ

    お父さんのバックドロップ

    中島らも

    集英社文庫

    派手さはないけど、別れが惜しくなってしまう。そんな父ちゃん。

    予備知識なしで読みましたが、なるほど児童書でしたか。 タイトルから期待したようなジーンとくる逸話とか、最後の大逆転的な展開等はありませんでしたが、江戸っ子的父ちゃんの奮闘ぶりが後からじんわりと胸に沁みてきて心地よい。 派手さはないけど、別れが惜しくなってしまう作品という感じでした。 こういう父親って密かに憧れだったなぁ。 人前に出すとちょっと恥ずかしいんだけど、面白いことを何でも知っていて、日曜日が来るのが楽しみで仕方がないみたいな。 果たして自分はそういう父親になれたのだろうか? 図らずも振り返らされていました。

    2
    投稿日: 2015.01.04
  • 来なけりゃいいのに

    来なけりゃいいのに

    乃南アサ

    祥伝社文庫

    嫌な奴ばっかで癖になる

    読み始めの印象は最悪でした。 主人公含めどの登場人物も共感できず、気持ち的に盛り上がらないと憤った程でした。 ところが二話三話と読み進めるうちに、はたと気づいたのです。 出てくる人物、出てくる人物、とにかく嫌な奴ばかりでこうして苛立たされてはいるが、それってつまりこの本からそういう感情を引き出されているのではないか、と。 そしてそれも一つの「面白い」の形なのではないかと。 実際、最後の方はそれが癖になっていて、むしろ次はどんな嫌な奴が出てくるのかと楽しみな位でした。 面白かった。 秀逸なのは表題作。 見事に騙されました。

    5
    投稿日: 2015.01.04
  • アリス・リローデッド ハロー、ミスター・マグナム

    アリス・リローデッド ハロー、ミスター・マグナム

    茜屋まつり,蒲焼鰻

    電撃文庫

    少なくともこの物語にはアレが必須だったのでは

    面白かったのだと思います。 しかし物語の根幹を支える筈の肝心なものがいつまで経っても見えず、というか結局最後まで見えず、何か抜けてる感が否めずに終わってしまいました。 物語は、主人公のマグナム銃が西部劇風の舞台で相棒の少女と敵の魔女を斃しに行くというもの。 銃の一人称で進むスタイルは面白いのですが、何故銃が主人公でなければならなかったのか、銃に人格が無ければ成し遂げられない物語だったのか、結局そこが解消されなかったのです。 物事全てに理由が必要とは言いませんが、少なくともこの物語にそれは必須だったのでは。 うーん。

    1
    投稿日: 2014.12.28
  • ナポレオン狂

    ナポレオン狂

    阿刀田高

    講談社文庫

    鞄に常備させたい一冊

    直木賞受賞作という称号自体はむしろ自分の中で作品の期待度を落とす要素でしかないのですが、それだけに本作は少し意表を突かれました。 本作は短編集で、全てが最高とはならないまでも、最初と最後が凄く良くトータルでは非常に好印象で終わった作品でした。 笑いあり、ミステリあり、ホラーあり、エロスありと非常に幅広い一冊で、ちょっとした隙間時間を埋めるには最適な本となりました。 お気に入りはやはり表題作です。 太宰作品を彷彿とさせるユーモアのある語りで引っ張っておきながら、まさかそのオチに持ってくるとは。 鞄に常備させたい一冊。

    6
    投稿日: 2014.12.28