
ポケットに名言を
寺山修司
角川文庫
寺山修司の感性、を感じる一冊
本書は、いわゆる「名言集」というのとは少し違うかもしれません。冠婚葬祭の前にちょっと開いてスピーチの参考にする……なんていう用途には向かないかもw。その代わり、優れた詩人であり劇作家であった筆者が、どのように「言葉」と格闘し、向き合ってきたのか、そんな想いが感じ取れる一冊です。 文中では「サヨナラダケガ人生ダ」は井伏鱒二、「人間五十年」は織田信長の名言として紹介されています。それぞれ、干武陵、敦盛(幸若舞)というオリジナルがありますが、その言葉を有名にした人が誰かって事なのでしょうね。今はネットもありますんで、そうやって疑問に感じたことは原典など調べてみると、また新たな発見がありそうです。
1投稿日: 2015.09.14季節のない街
山本周五郎
新潮社
忘れがたい場面がいくつも
不勉強な話ですが、本書が、黒澤明監督の映画「どですかでん」の原作であることを知りませんでした。「変なタイトルの映画だよなぁ」とは思ってたのですが、そのいわれが、本書の第一話を読んで初めて分かりました。 短編集、しかもストーリーテリングの名手・山本周五郎作……なのですが、本書に収められたお話は、キレイにオチが付いたり、理に落ちたり、という話は少ないです。その分、頭の中で何度も「場面」や「各キャラクター」の味を反芻させられることになり、忘れがたい作品となりました。切ない話、泣ける話、とぼけたユーモア、いろんな場面、いろんな人間の、リアルな味わいを感じられる小説です。
0投稿日: 2015.09.12親鸞全三冊合本版
吉川英治
吉川英治歴史時代文庫
食わず嫌いはもったいない
仏教の話? 抹香臭いんじゃね。とてつもなく偉い人の話!? 説教くさいんじゃねーの! と、読みもしないうちから敬遠していた一冊なのですが、食わず嫌いはもったいないです。 小説には、親鸞が人生に悩み、青春のたぎりに苦しみ、権力や運命に翻弄されるさまなどが描かれますが、その苦悩は我々凡俗となんら変わることもなく、だからこそ共感できる部分もたくさんありました。悪人正機説というのは、哲学=思想としても素晴らしいものがありますので、この小説を入り口に、もう少し勉強してみようと思いました。
5投稿日: 2015.08.17クッキングパパ(1)
うえやまとち
モーニング
今読んでも面白い
紙のコミック第一巻は、1986年発売だそうですが、時を経て今読んでもちゃんと面白いから大したもの。冒頭の場面で「荒岩さんがノーヘルでバイク乗ってる!」と驚くかもしれませんが、原チャリのヘルメット義務化が1986年ですから、雑誌掲載時点ではまだ違反じゃなかったんですねぇ。同様に「料理する人がタバコ吸ってる!!」とか、「そもそもなんで料理すること秘密にしてるの!」とか、今の時代から見ると不思議に思うかもしれませんが、昭和の男にとってはそれが当たり前だったんですねぇ。男子厨房に入るべからず、なんて言葉がありましたから。その辺は時代ってことで、おおらかな気持ちで読みましょう。
5投稿日: 2015.06.17寝ぼけ署長
山本周五郎
新潮社
隠れた傑作!
本作は敗戦間もない昭和21年頃から、雑誌「新青年」に連載された、連作短編群だそうです。今から少し前の、みんなが貧しい時代に書かれた小説……その点だけ意識しておけば、今の若い方が読んでも十分に楽しめる内容です。 掲載誌が推理雑誌だったためか、「著者唯一の探偵小説」なんていう売り文句が付けられていますが、その気になって読むと、少し肩すかしかも……。この小説は、警察署長が主人公ではありますが、弱いもの、貧しいものに優しい目を向けた、著者お得意の「人情小説」なのだと思います。読後の清々しい気分! ぜひ味わってみてください。
1投稿日: 2015.06.09【対訳】ピーターラビットシリーズ 1~5巻セット かわいいイラストと、英語と日本語で楽しめる、ピーターラビットと仲間たちのお話!
ビアトリクス・ポター
ゴマブックス
英語の勉強にも
紙の絵本は持っていましたが、こちらの電子書籍版には原文も載っているということでゲットしてみました。英語の勉強にもなると思います。 そういう意味で残念なのは、第3章「フロプシーのこどもたち」の中に、原文のmuffを、「マフラー?」と訳した箇所があること。訳者さん、防寒具のマフを、ご存じなかったのかしら。さらには、第4章「こねこのトムのおはなし」の中に、突然「ピーターラビットのおはなし」の挿絵が入っているという乱丁(と言うのかな、電子書籍でも)もあります。紙の出版物と違って、電子書籍ならデータ上での直しですむと思いますし、版元さんにはぜひ「改訂版」を出してほしいです。
0投稿日: 2015.06.03三国志全八冊合本版
吉川英治
吉川英治歴史時代文庫
紙の本と比べて
紙の文庫本=吉川英治歴史時代文庫版も所有していますので、軽く比較レビュー。 ・文庫だと全八巻、かさばるし、価格も高いのに比べ、電子書籍版は安く手に入って一気に読めるのが最大のメリットでしょう。しかし全5千頁ともなると、ただでさえ動作もっさりのREADERで読む場合、ページ読み込みなどはかな~り待たされますので、そこは我慢が必要です。 ・文庫版にあった、当時の地図、用語の注釈、尾崎秀樹の解説などは、作品を読み解く上でとても有用なのですが、電子書籍版では「全て省かれています」! せっかくの電子書籍だから、端末の辞書機能やネットなんかと上手く連動できれば、注釈がないのも補えるのですが、READERの場合はこの点ももっさりダメダメですからねぇ……。 結論:再読の人や、三国志の世界に詳しい人には、お買い得な電子書籍版は文句なしにおすすめ!! しかし、初めて読む人には、地図や注釈のある紙の文庫版の方が分かりやすいと思います。
13投稿日: 2015.04.02雨の日には車をみがいて
五木寛之
集英社文庫
素敵な小説!
9台の個性的な外国車と、その車に関わる女性たちとの出会いや別れを描いた、連作短編です。登場する車は1960年代のものが中心で、自分にとっては必ずしもリアルタイムの想い出はないはずなのですが、自分の青春の原風景を見ているような気分になれる素敵な小説です。単なる恋愛小説とも違う、不思議な心地よさがあり、車のことを知らない人でも楽しめる一冊ですよ。
3投稿日: 2015.04.02わかっちゃいるけど… シャボン玉の頃
青島幸男
文春文庫
爆笑必至
青島だァ! なんてギャグ、若い人は知らないんだろうなぁ。でもこの本、若い人が今読んでも文句なしに面白いはずですよ。 この本には、昭和30年代後半、テレビ黄金時代の爆笑エピソードがたくさん詰まっています。筆者の青島幸男は、売れっ子放送作家であり、タレントでもあり、クレージーキャッツのヒット曲の作詞家でもあるという、いわゆるマルチタレントの走りみたいな才人でした。人気番組「シャボン玉ホリデー」の台本を通じて、その青島氏や、全盛期のクレージーキャッツの活躍ぶりが活写されているのですから、ツマラナイわけがない! 青島氏が、社会風刺や世相批判が多いという自身のコントの作風に触れて、「権力を批判したり、常識をくつがえしたりすることに異常な喜びをもつタチ」と自分を評しているのには大いに感心。さすが、青島だぁ!! ……って、そんな人が都知事になったらダメでしょうに!
1投稿日: 2015.02.07平家伝説
半村良
角川文庫
読まないともったいない!
伝奇ロマンの旗手・半村良先生には「◌◌伝説」というタイトルの著作が多くありますが、この「平家伝説」もその一冊。主人公が銭湯へ行く……というありふれた日常の場面から物語は始まり、ロマンスあり、平家の財宝をめぐる謎解きあり、そしてラストへと、一気に引き込まれます! マジメで慎ましい主人公が、富める者達から取り残されたような焦りを感じ、もがく姿は、高度成長期に書かれた「時代」を感じます。筆者はその高度成長期に、人類に本当に必要なものはなにか、あるべき心とはどんなものなのか、予見していたように思われます。古い作品ですが、文句なしに面白いので、読まないともったいないですよ!
1投稿日: 2015.01.13