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Unaken66さんのレビュー
いいね!された数51
  • 芙蓉の人

    芙蓉の人

    新田次郎

    文春文庫

    理想の女性像

    冬期の富士山頂に長期滞在し、初の気象観測をおこなった夫婦の物語。主人公千代子は、封建的な時代と戦い、世間の好奇の目と戦いながら、夫を助けるため献身的努力を続けます。富士山へ登頂するだけでも命がけの時代、ろくな装備もない中で、どうやって観測を成功させるのか!? ドキドキしながら読み進み、頁を繰る手が止まらなくなります! 何かをやり遂げようという意思の力、そのために知力を振り絞る明治女性の姿が感動的です。新田次郎は山岳小説の第一人者ですが、さすがに厳しい自然を描写する筆致には素晴らしいものがあります。

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    投稿日: 2015.01.10
  • 雀鬼五十番勝負

    雀鬼五十番勝負

    阿佐田哲也

    角川文庫

    文句なしに楽しめます

    阿佐田哲也さんの大大大ファンで、紙で出た本はほぼ全て所有しています。しかし、せっかくなので電子書籍でも読みたい。紙の本があるからもったいない気もするけど、自分へのご褒美に一冊だけ買う!(大げさ)……ってことで選んだのがこの「雀鬼五十番勝負」です。タイトル通り五十の短編が収められており、仕事の合間にREADERでちょこちょこ読むにはぴったりの一冊。麻雀の名勝負を楽しめるのはもちろん、勝負のアヤ、人生の悲哀まで感じられる、文学的にも意外と奥深い一冊となっています。一点だけ残念なのは、牌活字って、READERを使っても拡大表示はできないのですね。テキストが読みやすいだけに、そこだけ残念、でもしょうがないか。

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    投稿日: 2014.12.11
  • 山下洋輔の文字化け日記

    山下洋輔の文字化け日記

    山下洋輔

    小学館

    ヨースケ節健在なり

    昭和55年に文庫化された「ピアニストを笑え!」以来、山下エッセイの大ファンです。今のところ、READERでは氏の過去の名作は読めませんので、ぜひとも電子書籍化してほしいものです。 さて、本書においても、山下洋輔さんのキレがあって、スピーディな文体は健在。ダジャレ、ユーモア、猫の話、時には含蓄ある話も交えつつ、「氏のエッセイのファン」ならあっという間に読み終えてしまうこと請け合い、楽しい一冊です。発表媒体が音楽誌だったそうで、そのため氏の近年の音楽活動、セッション、ライブなどの記録も克明で、氏の「ジャズの方のファン」にとっても貴重な一冊かと思います。

    0
    投稿日: 2014.12.04
  • 花のさかりは地下道で

    花のさかりは地下道で

    色川武大

    文春文庫

    これこそが小説

    筆者の記憶の残滓、夢、病魔のせいで見る幻影などのイメエジとからめて、様々な人との交流や別れを描いた短編集です。今時の、薄く軽くつながったネット時代の人間関係とは違う……。人が本気で人を想う、そういう気持ちが感じられて――それは重くて、時に辛い気分でもあるのだけど――とても心に残る作品群です。85年発行の文庫版には、村松友視氏の解説があったのですが、電子書籍版では省かれているのが残念。初出時から、少し時代が過ぎていますので、本書を読み解くヒントという意味でも、解説も再録してほしかったです。

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    投稿日: 2014.10.21
  • 青春を山に賭けて

    青春を山に賭けて

    植村直己

    文春文庫

    超面白い、男の成長記!

    作者は歴史に名を残した偉大な冒険家であって、自分なんかとは違う人種……と思っていました。しかし違いました! 未成熟で、失敗だらけで、だからこそ共感できる、一人の男だったのです。本書には、まだなにものでも無い少年が、山に出会ってなにものかに成長していく、そんな過程が描かれています。文無し同然で外国に渡り、厳しい労働に耐えながら山を目指す姿。単独行で命を落としかけたことや、アフリカでの初体験、誰も考えつかなかったアマゾンの川下りなど、エピソード満載でとにかく面白い! 自分にはできない、だから憧れるのかもしれないけど、植村直己のようにストイックに、自分を律して、ひたすら目標に向かって生きる姿は美しいなと感じました。

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    投稿日: 2014.10.11
  • きまぐれロボット

    きまぐれロボット

    星新一

    角川文庫

    大人も子供も楽しめる

    ファンなら誰でも知っているでしょうが、星新一さんの文章は、「平易な文体で、難しい漢字や言い回しを使わず、誰が読んでも分かりやすい」という美文で書かれています。だから大人は勿論、子供が読んでも楽しめます! 感受性の強い子供時代や、若い時に、是非この本を読んでみてほしいものです。 この「きまぐれロボット」の、特に後半の収録作品は、ジュブナイル色が強いものがならんでいます。気になって初出を調べてみると、『新しい童話』の題で新聞の日曜版に書かれたもの、学年誌に発表された物などが多い由。なるほど、確かに「新しい童話」といった作品群です。電子書籍化にあたっては、できればそういった初出などの情報や、かつての文庫版の解説、挿絵などもデータとして残してほしいと感じました。

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    投稿日: 2014.08.13
  • ボッコちゃん

    ボッコちゃん

    星新一

    新潮社

    名作は古びない

    少し前に、本書に収録の「生活維持省」が、某コミックの元ネタなのではないかと騒動になりました。それで思い出して数十年ぶりに再読してみたのですが、やはり面白い! 単に未来や科学の行く末を予見するだけではなく、世界はこうあってほしい……という作者の思いを感じられる作品群。当時のSF作家の見識の高さに脱帽です。

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    投稿日: 2014.06.11