
ハートブレイク・レストラン
松尾由美
光文社文庫
ライトなミステリがお好きな人に
書籍説明にある通り、ファミレスを舞台とした安楽椅子探偵ものです。 寺坂が狂言回し的に謎と向き合い、常連のおばあちゃんが探偵役としてその謎を解決してくれるのですが、このおばあちゃんの謎がこのタイトルのキモでもあります。 ただ、個人的にこのおばあちゃんの正体は最後まで引っ張った方が好みでした。 (おばあちゃんの正体は1話で早々に明らかになります。) ミステリーとしても若干弱いところがありますから、気楽に楽しめる誰も死なない推理小説を読みたい時にお勧めする一作です。
3投稿日: 2014.11.02
OZ 完全収録版 1巻
樹なつみ
LaLa
樹なつみの代表作の一つ
樹なつみは、ファッション界、実業界、アメリカの学生バスケ、伝記もの……と扱うジャンルの広い少女漫画家ですが、作品群の中でもこの『OZ』は近未来SFを舞台に一つの完成をみたタイトルと言えます。 核戦争のために全世界の生活水準が後退し、紛争が絶えない状況。 そんな諦念漂う世界で、理想の科学都市として名をささやかれる“OZ”。 実在するのかもわからなかった“OZ”からコンタクトを受けたヒロイン・フィリシアと、 水先案内人の人工生命体“1019”、 そして成り行きでヒロインを“OZ”まで護衛することとなった傭兵・ムトー。 でこぼこトリオのロードムービー的に始まる序盤からは予想もつかないエンディングへ、 長すぎることも駆け足すぎることもないページ数で畳み掛けるように展開する様は、 さすがベテランの手腕です。 樹さんは少女漫画家ではありますが、男性読者も読みやすい絵柄かと。 またこの作品は星雲賞を受賞していますので、近未来SF好きへもお勧めです。
5投稿日: 2014.11.02
In These Words<特別版>
Guilt|Pleasure
ビーボーイコミックスDX
圧倒的画力の海外BL
シリアルキラーvs精神分析医の密室サイコミステリーとBLの融合作品です。 表紙からもわかるように、徹頭徹尾圧倒的な画力で描かれるので、 正直ストーリー展開がぶっ飛んでいてもそのまま読めてしまう画面完成度です。 しかもそのストーリーも二転三転するので、まったく目が離せません。 ただ、連続殺人がテーマなため、グロい描写もあります。 グロが苦手な方は注意が必要かもしれません。 またジャンルとしてはBLですが、メイン二人がボーイでもなきゃ(1巻時点では)ラブもないといった展開です。 容赦なく描写される一方的な性交渉(はっきりいえば強姦)など、主人公・浅野の状況を追加体験するような話の流れのため、一つの事件を追ってバディがキャッキャしながら活躍!というのを望んでいる方にも、嗜好から外れる可能性があります。 1巻だけですと謎が謎のまま残ったり、不自然に感じるエピソードなどもありますが、そのあたりは2巻を読むと大体解消されます。 電子書籍版はおまけ収録もありますから、紙版よりもお得です。
5投稿日: 2014.10.17
神様がうそをつく。
尾崎かおり
アフタヌーン
ヘヴィなテーマを透明感でくるんだボーイ・ミーツ・ガール
あらすじから予想するよりも、ヒロイン・理生の抱える秘密は重いです。 それを知ってしまった主人公・なつるは理生を守るため、自身のできる精いっぱいで頑張ります。 さらっとした絵柄や透明感あるネームのおかげでさらさらと読めてしまうものの、 それはあくまで上澄みであって、ちょっと身を倒すと暗い深淵を覗いてしまうような話でした。 適度に世間が分かり行動力もあるけど、それでもやっぱり子供でしかない「11歳」って年齢設定も上手いと思いました。 読後感はいいので、尾崎かおり作品の入門としてもいいかもしれません。 ただ全きハッピーエンドではなく、晩夏を思わせる切なさを余韻として噛みしめる内容なので、その点だけ注意。
4投稿日: 2014.09.26
霧こそ闇の
仲町六絵
メディアワークス文庫
異色のラノベタイトル
電撃小説大賞の受賞作とのことですが、いろいろな意味でびっくりでした。 まず、投稿作の改稿版とはいえ、かなりの完成度です。デビュー作の構成力とは120%ではないでしょうか。 戦国時代を舞台にしているのに、マイナーといっていいエリアへスポットを当てるのも面白い。 それから、物の怪の描写がかなり怖い。正確に言うなら、怖いというよりもキモ怖い。 読んでいて鳥肌が立つような物の怪は久々です。 なによりも、何故にこの物語がメディアワークス文庫というライトノベルレーベルから出たのか。 受賞した新人賞がラノベジャンルだから当然といえば当然ですが、 ライトノベルレーベルタイトルだと思って手に取ったら、文芸レーベル的小説だった……という違和感を感じさせてもおかしくない内容です。 というか、仲町氏の作風がこのまま進むのだとしたら、このレーベルはちょっと違う気がします。 (例として、ホワイトハート文庫から出た『十二国記』が講談社文庫へ移ったような感じ。) 異種婚姻譚のもの悲しさと、「夫と子を守りたい」という普遍的な女の感情が上手くリンクした作品。 個人的に、今後もマニアックな物語を書いてほしいと思った作家さんです。
2投稿日: 2014.08.29
悪夢の棲む家 ゴーストハント(1)
小野不由美,いなだ詩穂
ARIA
衝撃の復活
『ゴーストハント』は全12巻でコミカライズが完結したと思っていたので、この『悪夢の棲む家』が刊行されて大変驚きました。 原作は上下巻でしたが、コミカライズは全3巻で完結の予定です。 このシリーズのスタイルである「科学的に解決できる部分と、解決できない怪異の襲来」はこのタイトルでも健在です。 シリーズ最大の伏線が『ゴーストハント』12巻で回収済なこともあり、とあるキャラクターとの邂逅シーンはしんみりするものがありました。 新キャラクターが狂言回しとしてSPRメンバーに絡むため、新規読者も手に取りやすい構成にはなっているものの、 やはり『コーストハント』を読了済の方が楽しめるのは事実。 また作中でモチーフになっている事件が現実での某事件であることが明確なので、この辺りが読者によっては引っかかる可能性ありです。 いなだ詩穂さんの画力も相変わらずの安定感で読みやすいです。 正統派ホラータイトルですので、その方面がお好きな方にお勧めの一作です。
3投稿日: 2014.08.15
チェコスロヴァキアめぐり ――カレル・チャペック旅行記コレクション
カレル・チャペック,飯島周
ちくま文庫
私の知識レベルをもっと上げてから再読したい一冊
『スペイン旅行記』が面白かったこともあり、「チェコのことを知りたいんだったら、ご当地のこの方のエッセイ読めば手っ取り早いんじゃね?」と思って手に取ってみた次第。 チェコという国を全く知らないので入門書としてこれを選びましたが、若干失敗したかも……と思いました。 というのも、『スペイン旅行記』の場合は、チャペック自身も完全なストレンジャーなのでほぼ同じ視点を共有できた感がありました。 でも、こちらはチャペックのお膝元。私の知らないご当地スタンダード事情を前提として語られるチェコの風土や文化や歴史。 「いや、まずそこから知りたいんだよ……」と己の基礎情報のなさを痛感した次第です。 チェコの基本情報を頭にインプットしてから、再読にチャレンジしたいと思います。
2投稿日: 2014.07.21
スペイン旅行記 ――カレル・チャペック旅行記コレクション
カレル・チャペック,飯島周
ちくま文庫
カレル・チャペックの旅行のお伴のような気分に
タイトルのまま、カレル・チャペックのスペイン旅行記です。 スペインは有名な都市同士がけっこう離れているので、あれこれ観光してまわろうとすると結構な旅程となるはずなんですが、そのあたりを苦にする様子はみじんもなく、あっちこっちへ活き活きと足をのばしているのには脱帽です。 闘牛などこの国ならではのカルチャーを異邦人のまなざしでみつめて記していることもあり、内容が頭に入りやすいかと思います。 ただ、個人的なことになりますが、どうにも翻訳者の文体が私の体になじまず、するすると読み進めることができませんでした。このあたりの要素は読者それぞれですから、一つの要素として補足しておきます。
1投稿日: 2014.07.21
天空の玉座 1
青木朋
ミステリーボニータ
可愛らしい姫君の冒険譚だけど、下地は骨太な中国史
青木さんの主人公が女の子って珍しい……と手に取った新シリーズ。 市井で育った珊瑚は、実は反逆罪で五親等まですべて処刑された姫家の姫君だった。 宦官となることで首の繋がった珊瑚の兄は、今では姫家を滅亡させた皇太后の側近となっていた。 何も知らない珊瑚は兄に引き取られ、後宮へ入る事になるが―――といった出だしです。 舞台の中国王朝は架空の設定のため、皇太后のモデルは清朝の西太后だったり、ぼんくら皇帝は前漢の宣帝がモデルだったり、中国史のいろんな要素をうまく絡めて物語が進んでいきます。 主人公の少女・珊瑚が天真爛漫で行動力のある可愛い女の子なので、なんだか和やかに眺めてしまいますが、物語の下地となっている政争は全く容赦ない展開です。 (作中や2巻あとがきで、宦官の作り方まで語られるとは思わなかったです。確かに勉強になりましたけど。) 変なタメがなく、さくさくと物語が進むのは、さすがベテランのストーリーテリング。
6投稿日: 2014.07.11
ルピナス探偵団の憂愁
津原泰水
創元推理文庫
ラストまで読んで、「憂愁」のタイトルがよくわかる
書籍説明にある通り、前巻『ルピナス探偵団の当惑』で活躍した四人のうち一人が亡くなり、その葬儀で残されたメンバーが顔をあわせるところから物語が始まります。 全四編が納められたミステリー短編集ですが、第一話「百合の木陰」からラストまで、時間を巻き戻すかたちで綴られていきます。 この時間巻き上げ構成が最後にじわじわと効果を発揮します。 最初に読者が食らう“喪失の悲しみ”が、最終話『慈悲の花園』で高校卒業式のしみじみした空気へと昇華する流れが実に好みでした。 そういう意味で、これはミステリー小説であると同時に、青春小説でもあると痛感。 とりあえず、このシリーズに興味を持った方は『ルピナス探偵団の当惑』から読んでみてください。 『ルピナス探偵団の憂愁』から読んでも話は分かりますが、『~当惑』から読んだ方が登場キャラクターへの愛着が違うし、その愛着こそが読書スパイスになる構成なので、刊行順に読まれることをお勧めします。
3投稿日: 2014.07.11
