ラピスラズリさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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砂の器(上)
松本清張 / 新潮文庫
現代においても燦然と輝く存在感
8
昭和40年代に書かれた推理小説で、登場人物もほとんどが戦前生まれ。コピー機もなく、あらゆる情報は手帳に書き写し、大家と店子の関係が密接だったり、と現代とは全く環境が違うが、推理小説の肝のトリックの部分…は本当に読ませる。今西巡査部長もスーパー刑事というわけではなく、地道な作業を積み上げて犯人を追い詰めていく。現代においても燦然と輝く傑作です。やっぱり松本清張は凄い 続きを読む
投稿日:2014.08.25
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ラットマン
道尾秀介 / 光文社文庫
救いようのない話のようでいて、最後には後味がスッキリする
7
これだけ二転三転のどんでん返しがあり、伏線の上に更に逆の伏線が張られていると、あざとく感じてしまいかねないのですが、そうはなっていないんですね。最終的な犯人の動機はやや弱い気がするが、その説明もうまく…登場人物に代弁させています。
一気に読めます。 続きを読む投稿日:2013.09.24
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半落ち
横山秀夫 / 講談社文庫
結末は賛否両論ありそうですね
6
現職警察官の妻殺し、その犯人は自首している。しかし事件の経過に存在する空白の時間。真相には口を割らない容疑者。大揺れに揺れる警察組織。事件を追う者たちの人間模様。まさに横山ワールド全開の作品ですが、最…後の結末に感動を覚えるか、肩透かし、ととらえるかは読者次第という感じですね。 続きを読む
投稿日:2013.09.29
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未来の年表 人口減少日本でこれから起きること
河合雅司 / 講談社現代新書
人口減少の問題点を年表形式にまとめた、たいへんな労作
4
国立社会保障・人口問題研究所が、全国の消滅可能性都市について公表して以来、人口減少をテーマにした書籍が多数出版されるようになった。
一方で、それらの書籍の中には具体的にどういったことが起こるのか…、という視点については論点が錯落としていて、恐怖心や不安ばかりが煽られたり、逆に人口減少に伴うメリットが過度に強調されたりするものも多い。
その点、本書は人口減少に伴って起こると予想される膨大な問題点を整理し、年表形式で述べられているため、読者はその年に自分は何歳になっており、社会的な立場がどのようになっているのかを落とし込むことができる点でたいへん優れている。
問題点の指摘だけでなく、合計特殊出生率が回復しても人口は回復しないメカニズムなど、政府の取る対策が成功したとしても人口減少を止められない、その「しくみ」の部分についても詳しい。
解決への処方箋も示されているが、現在の社会制度や社会常識では対応しきれない抜本的な解決策が多く、公的資金で補てんされている部分の年金資金を死後に返済・循環させる方法や、居住地域を「戦略的に縮む」方法については、確かに効果はあるものの、財産権や税制、場合によっては憲法の改正まで必要になってくるかもしれず、この人口減少の問題の深刻さと、現状での手詰まり感を浮き彫りにしている。
人口減少の問題は、都市部に居住している方々には、まだ実感がわかないだろうが、私のように地方都市で生活している者にとってはすでに切実な問題である。若年労働力の不足、介護・医療現場の崩壊、「限界」集落を超え、続出する消滅集落と荒れ果てた里山がもたらす土砂災害の深刻さ…。これらの問題はいずれ日本人全員が向き合わざるを得なくなる。一つのシナリオとして本書を読んでおくことは有効だと思う。 続きを読む投稿日:2017.08.15
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空飛ぶタイヤ(上)
池井戸潤 / 講談社文庫
圧巻のリアリティ
4
凄いボリュームと、まるでノンフィクションを読んでいるかのようなリアリティ。
三菱銀行にお勤めだった池井戸さんが実際に見聞きしたエピソードも多分に含まれているのでしょう。出来れば週末にじっくり腰を据えて…読むべき小説です。
他の皆さんが素晴らしい感想・レビューを書かれているので、私の出る幕はないのですが、一言だけ。
私の住む町は三菱自動車の企業城下町のようなところで、現実のリコール隠しに関わる影響で、地域経済は大打撃を受けました。原因個所と無関係の部品を担当した、たいへんに技術力のある下請けでも発注減による経営危機だけでなく、「三菱と取引があった」というだけで差別的な扱いを受けて、倒産した会社もあります。
大企業の論理に振り回させれるのはいつも無関係で善良な庶民や、ヒエラルキーの最下層の人々。戦争も原発事故もそうですね。
池井戸さんには、何年かした後には原発事故をテーマにしたフィクションも書いて頂きたいな、と思います。
余談が過ぎました。 続きを読む投稿日:2014.09.05
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私という運命について
白石一文 / 角川文庫
一人の女性の29歳から40歳までの揺れる10年を描いた、フィクションの物語
3
主人公の女性の揺れる心が切ない。結婚に踏み切れなかった心情、純平との出会いと事件と別れ、運命をはじめから見定めていた人、そして結末・・・
描かれている時代が、自分の生きてきた時代とぴったり重なるの…で、ちょっと共感が持てる小説。 続きを読む投稿日:2013.10.04