
博士の愛した数式
小川洋子
新潮社
小川さん独特の慈悲深い文章がたまらない
ストーリーそのものに何か大きなトリックやどんでん返しがあるわけでもないのに、その文章の暖かみにグイグイ引き寄せられます。数式ネタは数学者の藤原正彦さん(「若き数学者のアメリカ」は、僕の青春の一冊!)によるものだそうですが、一つ一つのエピソードが光っている。 色々な描写から、舞台は岡山なのだろうと思わせるところは、地元民にとってはツボです。 全てが変わった日、1992年9月11日。忘れもしない阪神×ヤクルト戦(甲子園)の、八木の幻のホームラン・・・。 阪神ファンには忘れられない9.11を小説のターニング・ポイントに設定しているところもツボでした。 読むだけで清涼な気持ちになれた一冊です。
2投稿日: 2013.10.04世界の奇妙な国境線
世界地図探求界
角川SSC新書
暇つぶしにとどまらない面白い本
世界地図を見ていると目につく、なんとも奇妙な国境線。その謎を解き明かしていく「雑学本」。 しかし、バーレ市のように一つの街の中に二つの国の国境が入り混じっていても、上手くやっているところもあれば、バングラデッシュのように国境線のために現地の人々が不便を強いられているところもあったり。 第4章では国境紛争にまつわる国境線の話題になりついつい真剣に読み入ってしまう。暇つぶしのつもりで購入した本でしたが、世界の歴史・民族・宗教・紛争について、色々と考えさせられる良本でした。
2投稿日: 2013.10.04ホームタウン
小路幸也
幻冬舎文庫
人間ドラマとして読めば傑作
舞台は北海道の3つの街。妹の木実の失踪、それを追ううちにフィアンセまでもが失踪していることを知る、主人公の柾人。兄妹にのしかかっている黒い過去、そしてそれを置いてきた旭川で、柾人を過去・現在を支えてきた脇役たちとの捜索劇が展開される。 この小説はミステリーとして読むと物足りないかもしれませんが、小路幸也一流の人間ドラマとして読めば、感じるものが多いです。 最後に柾人が住み込んでいる家のおばあちゃんとの会話のシーンにすべてが救われる思いがします。
1投稿日: 2013.10.04半落ち
横山秀夫
講談社文庫
結末は賛否両論ありそうですね
現職警察官の妻殺し、その犯人は自首している。しかし事件の経過に存在する空白の時間。真相には口を割らない容疑者。大揺れに揺れる警察組織。事件を追う者たちの人間模様。まさに横山ワールド全開の作品ですが、最後の結末に感動を覚えるか、肩透かし、ととらえるかは読者次第という感じですね。
6投稿日: 2013.09.29モーニング Mourning
小路幸也
実業之日本社文庫
自分の部屋でゆっくり読みたい本
親友の真吾の死、その葬儀のために福岡に集まった大学時代の親友・ルームメイト達が、色々な事情が複雑に絡み合って封印されてきた過去を、一つ一つほぐしていくような東京へのロング・ドライブの車内が舞台。 素敵な思い出に彩られた学生時代の甘酸っぱい過去は読者の心を懐かしい気持ちにさせますが、ある大切な人との暗い過去の思い出は胸が締め付けられる思いがします。 通勤電車や仕事の合間ではなく、家の中で一人っきりでゆっくりと読みたくなる本でした。
2投稿日: 2013.09.29脱グローバル論 日本の未来のつくりかた
内田樹,中島岳志,平松邦夫,イケダハヤト,小田嶋隆,高木新平,平川克美
講談社
若手二人の論客がスパイスを利かせる
このメンバーが集まれば、流れとしては反自由主義、反グローバル化、反橋下的政治に行きつきます。しかし、イケダハヤト・高木新平という二人の若手論客の存在がいい触媒となって、その後のオジサンたちの対談も熱を帯びていきます。最後の凱風館(内田先生の私塾)での対談ではTPPの本質へグイグイ迫る議論に、自分自身も色々と考えさせられました。
0投稿日: 2013.09.27清須会議
三谷幸喜
幻冬舎
歌舞伎の演目にしたら面白そうですね
小説・・・というよりも脚本です(笑)歴史的な事実に即した、舞台劇。それを文章で読んでいる感じがします。歌舞伎の演目として作り込んだら面白そうです。
0投稿日: 2013.09.24真夜中のマーチ
奥田英朗
集英社文庫
ホワイトな奥田ワールド全開
奥田さんらしいテンポよくスカットさせてくれる物語。夜更かしして一気に読みました。 10億円を巡るドタバタ劇なのにカネの腐臭がしない。ミタゾウ、ヨコケンのキャラが秀逸。クロチェは本心ではお金より家族が大事。10億円を奪うというミッションは三人が繋がるための方便みたいなもの。読んだ後に爽快さすら感じる。
2投稿日: 2013.09.24ラットマン
道尾秀介
光文社文庫
救いようのない話のようでいて、最後には後味がスッキリする
これだけ二転三転のどんでん返しがあり、伏線の上に更に逆の伏線が張られていると、あざとく感じてしまいかねないのですが、そうはなっていないんですね。最終的な犯人の動機はやや弱い気がするが、その説明もうまく登場人物に代弁させています。 一気に読めます。
7投稿日: 2013.09.24ロスジェネの逆襲
池井戸潤
ダイヤモンド社
半沢直樹シリーズの中で一番面白いかも
就活で何十という企業に落ち続け、やっと入れたのが銀行のグループ子会社、しかし上の世代が無能・あるいは銀行からの腰掛出向組の無責任な仕事に、社会人として方向性を見失っていた森山らのロスジェネ世代。そこに、バブルに踊った上の世代の後始末・尻拭いばかりさせられてきた半沢らのバブル組がタッグを組んで、親会社の銀行を相手に真っ向勝負を挑む。半沢のロスジェネ世代を見るまなざしが、他のシリーズ作品には無い爽快感を出しています。半沢直樹シリーズの中で一番面白いと思います。
1投稿日: 2013.09.24