くっちゃね村のねむり姫さんのレビュー
参考にされた数
861
このユーザーのレビュー
-
配達あかずきん 成風堂書店事件メモ1
大崎梢 / 東京創元社
本好きにはたまらない1話完結の連作短編集
8
このサイトに集う人は、本好きの人ばかりでしょうから、電子ブックのサイトとは言え、書店めぐりが嫌いな人はいないでしょう。かく言う私自身も勿論そうですし、図書館司書とか古本屋のオヤジに憧れた時期もありま…した。
さて、実際に大きな書店で働いたことがあると言う作者でありますから、そのヘンの描写は、リアリティがあります。おそらく、ただただ立ち読みだけのお客さんとか、毎日のように顔を出しては、何かしらコトバをかけてくるお客さんとか、色々見てきたのでしょうね。
そんななかから紡ぎ出されるミステリーは、すべて、書籍が謎解きの鍵となる物語となってます。それも、「あさきゆめみし」なんていうマンガ(懐かしい!)も含まれるという、かなり多岐にわたっております。
さて、あなたは、ここに登場する書籍をどれだけ読んだことがあるでしょうか?勿論、それぞれの物語の内容を知らなくても、なんら不都合はないのですけれどね。知らない本が出てくると、ちょっと悔しい気になってしまうのも不思議な感じです。
謎解き自体は、少々強引?な感じがなきにしもあらずでありますが、本好きには、たまらん小説でありました。1話完結短編集ですので、通勤通学のお供に最適かも。 続きを読む投稿日:2016.12.31
-
春風夏雨
岡潔 / 角川ソフィア文庫
かなり独善的ではありますが。。。
8
幻の名著と言われているそうな。文化勲章までもらったエライ学者先生の書いた雑文?を集めたものと思いますが、shimojiriさんが書かれているように、よく判らない部分が沢山ありました。とくに、「はしが…き」が理解できなかった。でも、冒頭のここで放ってしまっては悔しいので、我慢して読んでいくと、後半の短文になって、やっと理解可能な内容が並びました。
批判を恐れず、敢えて言わせて頂けば、内容が難しいというよりも、文章の構成が悪いのではないでしょうか。たぶんエライ先生が書かれると、編集者も注文できないんでしょうねぇ。後半の短文集は、普通の文章だと思いました。
仏教、とくに正法眼蔵がよく出てきますが、仏教の知識はさほどいらないと思います。しかし、絵画の話は、その絵を知らないと、ちょっとツライものがあるでしょう。
すべて傾聴に値する話題を提供してくれるのですが、一つだけ引っかかったところがありました。
「生きている」という言葉を教えるときに、なぜ、冬枯れの野の大根やネギは良くって、ミミズがいけないのかなぁ。ミミズは、土を耕す重要な生き物なのにね。全文読んでも、それだけは判らなかった。読み込みが足りないのかな。 続きを読む投稿日:2017.02.28
-
アドラー心理学入門
岸見一郎 / ベスト新書
ボリュームからみても、入門書としては最適かも
8
今流行のアドラー心理学の入門書であります。
まず入門書らしく、アドラーとはいったいどんな人だったかという人物像から入ります。その人が、何故そのような思想に到ったのかを知るには、その生い立ちをたどる…のが一番でしょう。そして、政治改革による人類救済を断念し、育児と教育に関心を移したアドラーの思想が紹介されていきます。
正直申し上げて、良くわからない部分も少々ありました。特に前半部分は、筆者の例え話が今一つ、的を射ているのかどうだか不明な点もあるにはあるのですが、後半になるに従って、徐々にその例え話も堂に入ってきて、とてもわかりやすく、理解を助けてくれるものになります。跳ねているノミの話や、鳩の話など、筆者オリジナルの例え話ではないにせよ、とっつきやすく、また、本筋の内容も、読むに従って生きる勇気みたいなものが、わき上がってくる気がしました。楽天主義と楽観主義の違いというのも、面白かったですね。
現代社会において、フロイトやユング以上に注目を集めるアドラー心理学の一部を垣間見るには、なかなか良い入門書だと思います。コレを元に、様々な解説書にアタックすれば良いでしょう。
ただ、先日BSで放送されたスタンフォード監獄実験や、相模原市の知的障害者施設の事件を見ると、ヒトというものは、一筋縄ではいかないものであることは、厳然たる事実として存在するわけで、やはり不可解なものであることは間違いないようです。もしアドラーだったら、どう分析したのでしょうか? 続きを読む投稿日:2016.08.05
-
櫛挽道守
木内昇 / 集英社文庫
最近、骨太な小説を読んでないなぁとお嘆きのアナタへ
7
今も残る「お六櫛」にまつわるお話です。
時は幕末、ペリーの来港で風雲急を告げ、世はまさに激動の時代が始まろうとしています。そんな中、木曽の薮原で、ひたすら櫛を作っている職人一家が舞台です。
神業…の技術を持ち、無口でひたすら板の間で櫛を挽いている父親。そんな父親に尊敬と憧れを持ち、女性ながら、いつか自分も、と願う主人公。一方、こんな田舎でくすぶって、母親のような生き方はしたくないと思う美人の妹。また、父親に期待される腕を持ちながらも、広い世間を見てみたいと考えていたらしい早生した弟。そして、家を守ることのみを考えているような母親。と、ここまでは、今にも通じる家族の物語ですが、時代の動きなど無関係と思われる田舎にも、ヒタヒタと時代の変化の波が押し寄せてくるわけです。
そんな家族の中に、江戸で卓越した技を習得した男が弟子として入り込み、主人公の夫となります。新時代を象徴するかのような彼の振る舞いに、主人公は何の愛情も持てず、苛立ちと戸惑いを感じるばかりです。そして迎える新しい時代。でも変わらない職人魂。夫の真意に気づかされる主人公。
おそらく「あらすじ」は?と聞かれれば、書籍説明に少々付け加えるだけの非常に短い文で済んでしまうでしょう。でも、筋だけを追い、その展開と結末を楽しむだけの小説では決してありません。
実に沢山の要素が含まれています。時代小説でもあり、家族小説でもあり、また早生した弟である直助の残した絵にまつわるミステリー的要素さえ持っています。
勿論フィクションなのでしょうが、あの時代に、櫛を作る職人のワザを女性が継承しようとする筋立てを通して描かれる当時の世相は圧巻です。木曽の山中でも幕末の騒動はあったんですね。和宮降嫁しかり、天狗党の残党しかり。一方、名もなき職人達の恵まれない境遇を描き、それに抗う新しいシステム作りや、そんな拝金主義?よりも、今まで同様、ただひたすら技の向上を追求したいという考え方を描く等々。様々なエピソードが複合的に絡み合って、物語文学の醍醐味を十分に味わうことができます。
小説のタイトルが、櫛挽「業」守となっていないところがミソです。
「おらの技はよ、おらのものではないだに」「おらのこの身が生きとる間、ただ借りとる技だ。んだで、おらの技というこどではねぇ」と父親は言います。つまり、その土地に根付き、長い歴史に培われ、引き継がれてきた技と言うことですね。その技を追求し、現代に通じるよう継承していくと言うことは、まさに「道」なのでしょう。
物語のラスト。様々な思いや真意を理解した後に、主人公が、病床の父親の手を取り、板の間から聞こえてくる夫の櫛を挽く音に二人して耳を澄ませるシーンが、静かな感動を呼びます。三冠に輝く、まぎれもない名作でありました。 続きを読む投稿日:2017.01.28
-
話が長くなるお年寄りには理由がある
増井幸恵 / PHP新書
タイトルにひかれて読み始めました
7
常々、一億総活躍社会というワードに違和感を抱く人には、一読をお勧めします。
高齢者に対する実証研究に基づいた心理学ですので、なかなか説得力がありますよ。ここに掲げられている「老齢的超越」とは、85…歳を超えた超高齢者を指していると書かれていますが、老いの程度そのものは、人それぞれだと思います。そして、「生涯現役」こそが正しい生き方というのも、少々おかしい気がしていましたが、やはり著者の書かれているとおりなんだろうなぁという、納得できる一冊でした。
興味深かったのは、「長寿の秘訣は何ですか?」と聞かれたとき、日本に住む高齢者は、「ありのまま、自然のまま、あれこれ考えない。」と胸をはって言う方が多いですよね。でも、アメリカ人は絶対にそんなことは言わないという点です。そもそも「自然のまま」というフレーズは、訳すことが出来ないとのこと。無理に訳せば、「Let it be.」つまり、ビートルズのあの名曲も、アナ雪のあのテーマ曲も、国によって、ずいぶん受け取るイメージが違うというわけです。
また、よく介護の問題で、キーワードとして使われる「頑張らない。」という言葉、当然これは介護する側の話としてとらえられていますが、介護される人にも「頑張る」ことを強いてはいけないと言うことも記されています。自分の身内だからこそ、知らず知らずのうちに、無理をさせてしまうかもしれません。個人的な話をすれば、私の父は超高齢者となる前に亡くなってしまいましたが、母はまだ健在で、超高齢者となっています。今後のことを考える上にも、示唆に富んだ一冊でありました。 続きを読む投稿日:2015.11.25
-
相剋の森
熊谷達也 / 集英社文庫
相克しているのは、果たして何と何なのでしょうか?
7
自然保護、環境保護という言葉が錦の御旗のように扱われて久しいわけでありますが、難しい問題ですね。自然との共生を謳って開催されたのが2005年の愛知万博。でもやはり結論が出るはずもありません。クマ狩り…とクマの保護を通して、この問題を改めて考えさせられました。
「山を半分殺すかわりに己も半分殺す、すなわち己の欲も半分殺す。」この言葉の意味は重いものがあります。マタギ達がクマを撃った後、やったーと大喜びなどせず、どこか切なげに見えたと描写されていますが、これがすべてを物語っている気がします。また、マタギ達はクマを擬人化し、自分と同列の存在としているというのも興味深いものがありました。単に可愛そうだから、というのでは的外れですね。これは、イルカ漁やクジラ漁にも通じるモノかもしれません。イギリスの貴族達の行うキツネ狩りとは一線を画するものでしょう。彼らは供養なんてしないんじゃないかな?
一方、物語の展開とは直接関係はありませんが、己のルーツについて、日本人の普通の家庭では、親から聞くのは、せいぜい祖父や祖母のことまでとなっていることについて、かの大戦が大きく影響しているとの指摘は、至極納得の出来るモノでした。
ただ、マタギ三部作の第一作目にあたる作品ではありますが、小説としては、少々もどかしいものがあります。妙な男女関係や夫婦の話を入れ込みすぎのような気がします。また怪しげな自然保護団体も、結局怪しくなかったでは、ちょっと消化不良です。
とは言え、ラスト近くのクマ狩りのシーンは、著者の面目躍如。ここの描写はスゴイですよ。読者自身が一緒に野山を駆け巡っている気になります。流石は「邂逅の森」の熊谷達也なのであります。私はこちらを先に読んでしまいましたからね。でも、問題の提起という点では、まさに「相克」を扱ったこちらの作品が上だと思います。 続きを読む投稿日:2015.09.20