くっちゃね村のねむり姫さんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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罪
カーリン・アルヴテーゲン, 柳沢由実子 / 小学館
あれよあれよと思う内に事件の渦中へ
9
あの「喪失」のカーリン・アルヴテーゲンのデビュー作なんだそうな。これがデビュー作?凄いとしかいいようがありません。
この手の作品ですから、あらすじを書くわけにはいきませんが、典型的な巻き込まれドラ…マです。負債を抱えた男が喫茶店に座っている内に、まことに奇妙な事件に巻き込まれます。展開はとてもスピーディー。この主人公共々、読者の我々も、何がどうなっているのか、まったく把握できていないうちに物語が進んでいきます。その内、どうも彼は選ばれて巻き込まれたようだと気がつきます。いったい何故オレが選ばれたのか?どうしてなんだ?しかも犯罪の目的がハッキリしません。謎は謎のまま話は進み、本の中頃、とりあえず事件は解決してしまいます。え?この後どうするんだよぉー、まだ半分残っているけど、どう続ける?と思っていると、とんでもないことがわかってくるという仕掛け。いや、参りましたね。
ミステリーと呼ぶには、あまりに盛り沢山の内容であり、人生に疲れ切ってしまった人の心情が克明に描かれているところも秀逸。そして、多分一生続くであろう、歳の離れた人との友情が、一服の清涼剤となります。結構はまりますよ! 続きを読む投稿日:2016.09.26
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ペンギン鉄道 なくしもの係
名取佐和子 / 幻冬舎文庫
可愛いペンギンが歌うSWEET MEMORRIES、あのSUNTRYのCMを覚えてますか?
9
著者がどこからこの小説の発想を得たかは判りませんけれど、単なる軽いファンタジーかと思いきや、まさかこんな結末で締めくくるとは、いはやはや参りましたね。
4つの短編からなる小説でありますが、正直申し…上げて、ファンタジーとしては、お世辞にも上手い話とは言えません。特に、すべての伏線となる前半3つの物語は、突っ込み所が満載です。嘘の様な出来過ぎな事柄ばかりで、あまりに都合良く作られた感が強すぎます。しかし、何故か眼前に、電車の中やホームの上にスクっと立って、キョトンとしているペンギンの絵が脳裏に浮かんできて、そんなことはどーでもいいやと、思えてきてしまうのが不思議です。
そして、すべての話が集結する最後の章は(ここも少々説明的な記述が多くてクドい気はしますけど、)、まさかこんな結末が待っているとは思ってもいませんでした。単なる面白おかしいファンタジーと思わせておいて、親子関係、老人問題、はたまた人の生き様まで、実に含蓄のある物語になっています。なぜ、ペンギンがいたのか、なぜ駅に流れるのがSWEET MEMORRIESなのか?これら全てが明らかになった時、きっとアナタの目にも涙がにじむでしょう。
この話も映像化希望だなぁ。今ならCGでペンギンの映像も違和感なく組み込めるだろうし、シナリオ段階でもう少し話を整理したら、心温まる作品になると思うけどな。
ところで、例のコマーシャルがとても懐かしく思い出され、思わず検索したらYouTubeで見つけましたよ。小説を読んだ後は、是非あの歌声に身をゆだねて下さいませ。 続きを読む投稿日:2015.12.18
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サマー・バレンタイン
唯川恵 / 幻冬舎文庫
少々乙女チックというか、ガキっぽい内容ではありますが
9
青春小説の傑作とのこと。う~ん、傑作かどうかは判りませんけれど、青春の輝きを見失いかけた「大人たち」の焦燥と不安、そして新たな旅立ちが描かれていることだけは、確かです。
著者の唯川恵さんは、私より…5つ年上でありまして、ほぼ同世代に属するわけですが、やはり生きてきた時代が少し違うのかなぁと思います。ただ、学生時代に友人を亡くすという経験は、私にもあります。1人は交通事故、1人は病気でした。その体験は、やはり年上の人を亡くすのとは、全く異なる独特の感情を抱くものです。しかもそれが、どう考えても自分より人間的に上に位置すると思える人だと、なおさらなのです。
小説は、一昔前に流行った自分探しの旅っぽい内容でした。ただ、夏彦のように自由に振る舞ってきた人を羨ましいと思い、憧れるのは、どうなんでしょうか。兎に角必死に、今の自分の立ち位置を、罵られようが、誹られようが、たとえそれが惨めな姿でも、懸命に生きるしかないのが人生だと思います。
物語は、高校時代の憧れの人と結ばれるような形で終わりますが、どうなのかなぁ。これでいいのかなぁ。発展性がないような気がするんだけどなぁ。 続きを読む投稿日:2017.03.31
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北上症候群
いぬじゅん / OtoBon
ヒトはどうして、悲しみを抱えて北を目指すのか?
9
遠距離恋愛で、彼の本心を疑いだした琴葉。会社は倒産するし散々でズタズタの傷心を抱え、彼の本心を確かめるため、神戸から札幌までの深夜特急に乗り込みます。そこで、それぞれ問題を抱えて北へ向かう3人の同行…者と出会い、各々の悩みを打ち明けている内に、自分を見つめ直すというお話。
他人のこととなると結構冷静に、物事が考えられるわけですね。
まぁ、よくあるシチュエーションと言えばそうなのですけれど、章だてが、第一章神戸。第二章名古屋といった感じで、普通なら駅名を使うところを、第一章北緯34度、第二章北緯35度、といったように、北緯で表しているのが、まず面白いですね。旅情を誘うと言うよりも、いかにも北上している感じを醸し出してます。
そもそもが旅の小説ではありませんからね。そして登場人物4人も年齢も性別もバラバラなのがいいですし、オカマさん、いやゲイのヒトが出てくるのも、いかにも現代的かもしれません。
ラストは、そうだよねぇ、そうなるのが必然なんだよねぇ、と思ってしまうのですが、深夜特急という限られた空間での4人の旅を通して、色々琴葉と人生を考えるのも良いかもしれません。
これはドリカムの楽曲「LAT.43°N ~forty-three degrees north latitude~」にインスパイアされた小説だそうな。軽い小説かもしれませんが、決してライトノベルではないところがミソかも。 続きを読む投稿日:2017.03.13
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正三角形は存在しない 霊能数学者・鳴神佐久に関するノート
二宮敦人 / 幻冬舎文庫
なかなか含蓄のあるストーリーですよ
9
ライトノベル風の表紙、そして書籍説明には、「ホラーだけど胸きゅんの青春オカルトミステリ」と書かれています。確かに筋立てはその通り。でも、中身は結構きてますよ。
私はタイトルに引かれて手に取りました…。数学者が霊について理詰めで迫っていくものと勝手に思って読み始めましたが、あまり数学的要素はなかったかな?でも、ラストのそう来たかと思わせるところまで、なかなか面白い小説でした。
このタイトルの意味するところはこうです。つまり、正三角形というモノを実際に作成することは出来ない。なぜなら、線には太さというものがあるわけで、これは机上でしか存在できないわけです。ならば霊だって同じ事。なるほど確かにそうかもしれませんね。 考えてみれば、ユークリッド幾何学の大前提が成り立たないと仮定してみたら、非ユークリッド幾何学が成立してしまったわけですから、霊の存在だって、あると仮定しても成立する世界なのかもしれません。
ストーリー展開もなかなか面白く、また妙な雑学、たとえば、ヤマビルは一生のうち、多くて8回ほどしか食事をしないという、トリビア的知識も散りばめられてます。
「なぽりたん」さんがレビューで書かれている様に、読むのを躊躇している人は、軽い気持ちで読んでみて下さいな。結構ハマることうけあいです。 続きを読む投稿日:2015.08.28
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上と外 完結上下巻セット【電子版限定】
恩田陸 / 幻冬舎
少年少女よ!出かけよう、さぁ冒険の世界へ!
8
書籍説明にひかれて読み始めました。最初は、複雑な家庭環境のドロドロ話かと思いきや、舞台は一転、マヤの遺跡が残る中南米の架空の国へ。おっとそっち系のSFかと思ったら、突然、ジャングルに放り出されるホン…トは血が繋がっていないかもしれない兄と妹。ならば夢野久作の「瓶詰め地獄」のような話になるかと思いきや、ジャングルを彷徨う冒険譚へ。そうこうしているうちに、「サンチャゴに雨が降る」みたいなラジオ放送があって、いきなり勃発するクーデター。どうなるどうなると思っていると、二人は、むせかえるジャングルから、なんと地下に落ち込んでしまいます。しかも、漆黒の闇の中で、二人は離ればなれに。そこに、突如登場する謎の少年ニコ。いったい彼は何なんだ?と、思っていると、始まってしまいますバトルロワイヤル。闇の中での生き残りをかけた「成人式」と称される儀式。火山まで爆発して、いったいどうやって物語を終結させるんだ?と、そればかりが気にかかって、読者は先へ先へと読み進めていくことになります。
少々ご都合主義的な設定と、現地で起きている事象だけでも盛り沢山なのに、日本にいる家族の描写も付け加えたため、少し食傷気味の感はありますが、家族の絆を問題にしつつ、現状の閉塞感あふれる社会をも題材にした、冒険活劇巨編でありました。。 こんな体験を少年時代にしたら、きっと強くなるでしょうねぇ。いや、トラウマになるかな?それにしても、不思議なのは、どうしてヘリコプターから二人は落ちたのかということ。普通、いくら乱暴な運転されても落ちないよね。
そして、最大の謎はタイトルですよ。上と下とか、外と内というなら、何となく解りますが、あえて上と外としたところに、作者の謎かけがあるようです。これは読み終えた読者がジックリ考えて見て下さい、ということなんでしょうね。 続きを読む投稿日:2015.12.25