くっちゃね村のねむり姫さんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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北上症候群
いぬじゅん / OtoBon
ヒトはどうして、悲しみを抱えて北を目指すのか?
9
遠距離恋愛で、彼の本心を疑いだした琴葉。会社は倒産するし散々でズタズタの傷心を抱え、彼の本心を確かめるため、神戸から札幌までの深夜特急に乗り込みます。そこで、それぞれ問題を抱えて北へ向かう3人の同行…者と出会い、各々の悩みを打ち明けている内に、自分を見つめ直すというお話。
他人のこととなると結構冷静に、物事が考えられるわけですね。
まぁ、よくあるシチュエーションと言えばそうなのですけれど、章だてが、第一章神戸。第二章名古屋といった感じで、普通なら駅名を使うところを、第一章北緯34度、第二章北緯35度、といったように、北緯で表しているのが、まず面白いですね。旅情を誘うと言うよりも、いかにも北上している感じを醸し出してます。
そもそもが旅の小説ではありませんからね。そして登場人物4人も年齢も性別もバラバラなのがいいですし、オカマさん、いやゲイのヒトが出てくるのも、いかにも現代的かもしれません。
ラストは、そうだよねぇ、そうなるのが必然なんだよねぇ、と思ってしまうのですが、深夜特急という限られた空間での4人の旅を通して、色々琴葉と人生を考えるのも良いかもしれません。
これはドリカムの楽曲「LAT.43°N ~forty-three degrees north latitude~」にインスパイアされた小説だそうな。軽い小説かもしれませんが、決してライトノベルではないところがミソかも。 続きを読む投稿日:2017.03.13
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サマー・バレンタイン
唯川恵 / 幻冬舎文庫
少々乙女チックというか、ガキっぽい内容ではありますが
9
青春小説の傑作とのこと。う~ん、傑作かどうかは判りませんけれど、青春の輝きを見失いかけた「大人たち」の焦燥と不安、そして新たな旅立ちが描かれていることだけは、確かです。
著者の唯川恵さんは、私より…5つ年上でありまして、ほぼ同世代に属するわけですが、やはり生きてきた時代が少し違うのかなぁと思います。ただ、学生時代に友人を亡くすという経験は、私にもあります。1人は交通事故、1人は病気でした。その体験は、やはり年上の人を亡くすのとは、全く異なる独特の感情を抱くものです。しかもそれが、どう考えても自分より人間的に上に位置すると思える人だと、なおさらなのです。
小説は、一昔前に流行った自分探しの旅っぽい内容でした。ただ、夏彦のように自由に振る舞ってきた人を羨ましいと思い、憧れるのは、どうなんでしょうか。兎に角必死に、今の自分の立ち位置を、罵られようが、誹られようが、たとえそれが惨めな姿でも、懸命に生きるしかないのが人生だと思います。
物語は、高校時代の憧れの人と結ばれるような形で終わりますが、どうなのかなぁ。これでいいのかなぁ。発展性がないような気がするんだけどなぁ。 続きを読む投稿日:2017.03.31
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罪
カーリン・アルヴテーゲン, 柳沢由実子 / 小学館
あれよあれよと思う内に事件の渦中へ
9
あの「喪失」のカーリン・アルヴテーゲンのデビュー作なんだそうな。これがデビュー作?凄いとしかいいようがありません。
この手の作品ですから、あらすじを書くわけにはいきませんが、典型的な巻き込まれドラ…マです。負債を抱えた男が喫茶店に座っている内に、まことに奇妙な事件に巻き込まれます。展開はとてもスピーディー。この主人公共々、読者の我々も、何がどうなっているのか、まったく把握できていないうちに物語が進んでいきます。その内、どうも彼は選ばれて巻き込まれたようだと気がつきます。いったい何故オレが選ばれたのか?どうしてなんだ?しかも犯罪の目的がハッキリしません。謎は謎のまま話は進み、本の中頃、とりあえず事件は解決してしまいます。え?この後どうするんだよぉー、まだ半分残っているけど、どう続ける?と思っていると、とんでもないことがわかってくるという仕掛け。いや、参りましたね。
ミステリーと呼ぶには、あまりに盛り沢山の内容であり、人生に疲れ切ってしまった人の心情が克明に描かれているところも秀逸。そして、多分一生続くであろう、歳の離れた人との友情が、一服の清涼剤となります。結構はまりますよ! 続きを読む投稿日:2016.09.26
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夜の床屋
沢村浩輔 / 東京創元社
短編集です。でも、ただの短編集ではありません。
9
表題作を含む著者の代表作が〇編収められています。とか、同じ主人公が活躍する連作短編集です。と言うのは、よくあるスタイルですよね。しかし、この一冊は、いずれの表現も当たってはいますが、それだけでは的を…射ているとは言いがたいという、摩訶不思議な、ジャンル不明の一冊であります。
読み始め当初は、ちょっと面白い、ありそうでなさそうなミステリー短編かなと思いました。それがいつしか、ファンタジーになり、怪奇ロマンぽくなっていきます。しかも、解説を読むと、それぞれの短編が発表された順番で並んでいるのではないらしいのです。よくぞ、こんなカタチの一冊にまとめたものだと思います。その本としての構成に、☆5つといっても良いでしょう。
とりあえずこれは、是非読んでみて下さいとしか、言いようがありません。どんな人に向くかは、正直良くわからないなぁ。なんせジャンル不明ですからね。読書好きには、こんな本はどうでしょうかと、オススメしたくはなる一冊ではあります。
なお、物語の中に「眠り姫」が登場いたします。私のペンネームは、「くっちゃね村のねむり姫」ですが、私は仮死状態で眠っている人魚ではないので、あしからず。 続きを読む投稿日:2016.03.28
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正三角形は存在しない 霊能数学者・鳴神佐久に関するノート
二宮敦人 / 幻冬舎文庫
なかなか含蓄のあるストーリーですよ
9
ライトノベル風の表紙、そして書籍説明には、「ホラーだけど胸きゅんの青春オカルトミステリ」と書かれています。確かに筋立てはその通り。でも、中身は結構きてますよ。
私はタイトルに引かれて手に取りました…。数学者が霊について理詰めで迫っていくものと勝手に思って読み始めましたが、あまり数学的要素はなかったかな?でも、ラストのそう来たかと思わせるところまで、なかなか面白い小説でした。
このタイトルの意味するところはこうです。つまり、正三角形というモノを実際に作成することは出来ない。なぜなら、線には太さというものがあるわけで、これは机上でしか存在できないわけです。ならば霊だって同じ事。なるほど確かにそうかもしれませんね。 考えてみれば、ユークリッド幾何学の大前提が成り立たないと仮定してみたら、非ユークリッド幾何学が成立してしまったわけですから、霊の存在だって、あると仮定しても成立する世界なのかもしれません。
ストーリー展開もなかなか面白く、また妙な雑学、たとえば、ヤマビルは一生のうち、多くて8回ほどしか食事をしないという、トリビア的知識も散りばめられてます。
「なぽりたん」さんがレビューで書かれている様に、読むのを躊躇している人は、軽い気持ちで読んでみて下さいな。結構ハマることうけあいです。 続きを読む投稿日:2015.08.28
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配達あかずきん 成風堂書店事件メモ1
大崎梢 / 東京創元社
本好きにはたまらない1話完結の連作短編集
8
このサイトに集う人は、本好きの人ばかりでしょうから、電子ブックのサイトとは言え、書店めぐりが嫌いな人はいないでしょう。かく言う私自身も勿論そうですし、図書館司書とか古本屋のオヤジに憧れた時期もありま…した。
さて、実際に大きな書店で働いたことがあると言う作者でありますから、そのヘンの描写は、リアリティがあります。おそらく、ただただ立ち読みだけのお客さんとか、毎日のように顔を出しては、何かしらコトバをかけてくるお客さんとか、色々見てきたのでしょうね。
そんななかから紡ぎ出されるミステリーは、すべて、書籍が謎解きの鍵となる物語となってます。それも、「あさきゆめみし」なんていうマンガ(懐かしい!)も含まれるという、かなり多岐にわたっております。
さて、あなたは、ここに登場する書籍をどれだけ読んだことがあるでしょうか?勿論、それぞれの物語の内容を知らなくても、なんら不都合はないのですけれどね。知らない本が出てくると、ちょっと悔しい気になってしまうのも不思議な感じです。
謎解き自体は、少々強引?な感じがなきにしもあらずでありますが、本好きには、たまらん小説でありました。1話完結短編集ですので、通勤通学のお供に最適かも。 続きを読む投稿日:2016.12.31