くっちゃね村のねむり姫さんのレビュー
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猫又お双と消えた令嬢
周木律 / 角川文庫
懐かしき香り漂うミステリーでありました
10
読み始めは、ファンタジーなのかと思いましたよ。猫又とは、あの猫又のことで妖怪なんですけれど、とってもチャーミングな少女として登場します。その彼女が、湯川秀樹の弟子である大学院生とひょんな事から同居し…ている場面から物語は始まります。こんな猫又ちゃんとなら、是非同居したいものだと思うのは、私だけではないでしょう。そして、そこへ持ち込まれてる奇妙な相談。ここから物語は展開します。
舞台は、元士族の没落しつつある子爵家。そこの令嬢を誘拐するという予告があったとのこと。このレトロ感あふれる設定に、令嬢(もはや死語?)誘拐。しかも、犯人は「魔術師」と名のっている男?!ほ~らほら、これはもう、遙か昔、むさぼる様に読んだ怪人二十面相の世界ではありませんか?
一応、密室から令嬢が誘拐されるという密室推理の類いなのですが、状況説明が丁寧を通り越して少々クドい。そのためか、私の様なボンクラな読者でも犯人は容易に特定できましたし、そのトリックまで推察できました。では、途中でつまらなくなったかというと、そうではなく、面白いことに、読者である私と主人公だけがわかっている真実を、まだ何もわかっていない他の登場人物達に、主人公が、どうわかりやすく説明するか?ということに興味が移るという、不思議な体験をいたしました。
レトロチックな雰囲気に浸りつつも、ハッピーエンドに終わりますから、読後感はいいですよ。なんか乱歩の怪人二十面相シリーズをまた読みたくなってしまいました。 続きを読む投稿日:2016.03.16
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史上最強の内閣
室積光 / 小学館
痛快!爽快!大爆笑!でもラストはホロリ。史上最強の政治パロディーなのだ!
10
北朝鮮からミサイルが飛んでくる!こんな国難に立ち向かえるのは、真の内閣しかない!と、登場するのが京都の公家出身の二条首相率いる一軍内閣。最初は、なんでここで、お公家さんなんだよと、思いました。ところ…がどっこい、内閣の顔ぶれたるや、時代劇ファン、歴史ファンならずとも、ニンマリしてしまう凄腕の面々。
官房長官が高杉晋作いや高杉松五郎、外務大臣が、坂本龍馬いやジョン万次郎、いやいや坂本万次郎等々。ま、この辺りまでは容易に思いつくでしょうが、文部科学大臣が新門辰五郎いや、新門辰郎だなんて、とても常人が考え得る所ではありません。オマケに、内閣情報調査室のトップが、服部半蔵いやいや服部万蔵となれば、そりゃ最強でしょう。つまり、歴史上、考え得る最強の内閣と言うことかもしれません。結局、この諜報活動が決め手となって、トラブルを解決する展開となってます。
勿論、ギャグです。パロディーです。でも、当節の実際の出来事をうまくはめ込んでありますよ。北の将軍の息子が、某テーマパークに遊びに来たことなど、こんな風に対応したら、完全にコケに出来て面白かったろうにねぇ。そして、物語上も、この出来事が一つの大きな鍵になってます。
また、筆者の世相に対する思いも十分に盛り込まれています。特に、日の丸、君が代についての考え方は、私の思いに近いものがありますし、一番感動したのは、「サザエさん」のくだりです。「大丈夫。この国には、『サザエさん』がある。」この台詞は感動的でした。なぜ大丈夫なのか理由を書くと、読む楽しみを奪ってしまいそうなのでやめますが、ここで「サザエさん」が出てくるとは思いませんでした。そしてまた、これこそが日本人の根幹に流れる思想なのかもしれません。
この物語を読んで、ニンマリとするか、あるいは溜飲を下げるか、はたまた、歴史観が滅茶苦茶だぁ、結局ヒーロー待望論かよぉ、くっだらねぇと思うかは人それぞれだとは思います。でも、私は自信を持って★5つです。 続きを読む投稿日:2015.09.07
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新版 日本永代蔵 現代語訳付き
井原西鶴, 堀切実 / 角川ソフィア文庫
こんな話だったんだぁと、再認識
9
古今東西の名作と言われるモノでも、名前だけ知っていてまったく内容を把握していない本ってありますよね。私にとっては、この本もその一つでありました。
書籍説明にもあるとおり、江戸前期の人々の、金と物欲…にまつわる悲喜劇を描く傑作なのでありますが、小説と言うよりも、エッセイの雰囲気かなぁ。様々なエピソードを連作紹介していくというスタイルです。これが江戸時代にベストセラーになったと思うと、感慨深いものがあります。み~んな金持ちに憧れていたんですかねぇ。
面白いのは、その内容が教訓めいているかというと、そうでもなく、その一方で、家族がちゃんと食べて、生活できるのは、母親の働きであると、この時代に堂々と書いているのも興味深いものがありました。
また解説に「近代短篇小説を読み慣れた読者からすると、各篇の物語りの進行と構成の仕方には大変戸惑いを感ずるに違いない。」と書いてありましたが、確かにそのとおりで、もどかしい部分もあります。それに、井原西鶴の主張?にも、所々矛盾点があるような気もいたします。それも含めて面白かったです。人間なんて、なかなか一筋縄ではいかないモノです。
ただ、本のタイトルが、現代語訳付きとありますが、正確には、「日本永代蔵現代語訳 原文と解説付き」とするのがホントだと思います。まず、現代語訳が掲載されていて、その後に、原文と解説がついています。この原文と解説で本の4分の3を占めています。つまり、現代語訳は本全体の4分の1程度だけです。折角詳しい解説がついているのだから、現代語訳と原文と解説を同時に見ることができるようになっていたら良かったのにな、とは思いました。
さて、なかなか面白い内容である一方、当然、今には通じないこともあります。妙に心に引っかかっているのは、中国人は、心が落ち着いていて、家業にもあくせくせず、風雅な楽しみに興じ、世渡りに無頓着との記述があるところです。江戸前期の知識人は、中国の人をそう評していたのでしょうか?現在では、考えられませんけれどねぇ。 続きを読む投稿日:2016.07.23
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夜の床屋
沢村浩輔 / 東京創元社
短編集です。でも、ただの短編集ではありません。
9
表題作を含む著者の代表作が〇編収められています。とか、同じ主人公が活躍する連作短編集です。と言うのは、よくあるスタイルですよね。しかし、この一冊は、いずれの表現も当たってはいますが、それだけでは的を…射ているとは言いがたいという、摩訶不思議な、ジャンル不明の一冊であります。
読み始め当初は、ちょっと面白い、ありそうでなさそうなミステリー短編かなと思いました。それがいつしか、ファンタジーになり、怪奇ロマンぽくなっていきます。しかも、解説を読むと、それぞれの短編が発表された順番で並んでいるのではないらしいのです。よくぞ、こんなカタチの一冊にまとめたものだと思います。その本としての構成に、☆5つといっても良いでしょう。
とりあえずこれは、是非読んでみて下さいとしか、言いようがありません。どんな人に向くかは、正直良くわからないなぁ。なんせジャンル不明ですからね。読書好きには、こんな本はどうでしょうかと、オススメしたくはなる一冊ではあります。
なお、物語の中に「眠り姫」が登場いたします。私のペンネームは、「くっちゃね村のねむり姫」ですが、私は仮死状態で眠っている人魚ではないので、あしからず。 続きを読む投稿日:2016.03.28
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演歌の虫
山口洋子 / 文春文庫
この人にしか書けない、まさに会心の短編集
9
短編集なのでありますが、下手な長編よりも、読みごたえもあり、また読後の満足感も半端ではありません。四つの短篇が掲載されていますが、いずれも、酸いも甘いもかみ分けた、それでいて業界にも詳しい作者ならで…はの視点が光ります。直木賞受賞作となった「演歌の虫」と「老梅」もすばらしいですが、「貢ぐ女」も「弥次郎兵衛」も、どうしようもない人間の性、あるいは業のようなものが描かれています。
それぞれモデルとなる人がいるのかな?と思わせつつも虚実混交でありまして、「愛するということは、自分と相手の人生をいとおしく感じ、大事と願うことです」などという、山田洋次監督のコトバが、さらりと引用されていたりします。
タイトルが「演歌の虫」とあるので、そのイメージから演歌のような世界観を想像されるかもしれませんが、プロデュースした音楽のジャンルが演歌というだけであって、その内容は、一つの仕事に打ち込んできた男の喜びと悲哀が綴られたものです。これは、懸命に働いている人すべてに、当てはまるものでしょう。
総じて言えることは、これは大人の小説と言うことです。私もこういう世界をしみじみ味わえるようになったと言うことは、それなりに歳をとったということかもしれません。 続きを読む投稿日:2016.07.23
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罪
カーリン・アルヴテーゲン, 柳沢由実子 / 小学館
あれよあれよと思う内に事件の渦中へ
9
あの「喪失」のカーリン・アルヴテーゲンのデビュー作なんだそうな。これがデビュー作?凄いとしかいいようがありません。
この手の作品ですから、あらすじを書くわけにはいきませんが、典型的な巻き込まれドラ…マです。負債を抱えた男が喫茶店に座っている内に、まことに奇妙な事件に巻き込まれます。展開はとてもスピーディー。この主人公共々、読者の我々も、何がどうなっているのか、まったく把握できていないうちに物語が進んでいきます。その内、どうも彼は選ばれて巻き込まれたようだと気がつきます。いったい何故オレが選ばれたのか?どうしてなんだ?しかも犯罪の目的がハッキリしません。謎は謎のまま話は進み、本の中頃、とりあえず事件は解決してしまいます。え?この後どうするんだよぉー、まだ半分残っているけど、どう続ける?と思っていると、とんでもないことがわかってくるという仕掛け。いや、参りましたね。
ミステリーと呼ぶには、あまりに盛り沢山の内容であり、人生に疲れ切ってしまった人の心情が克明に描かれているところも秀逸。そして、多分一生続くであろう、歳の離れた人との友情が、一服の清涼剤となります。結構はまりますよ! 続きを読む投稿日:2016.09.26