くっちゃね村のねむり姫さんのレビュー
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史上最強の内閣
室積光 / 小学館
痛快!爽快!大爆笑!でもラストはホロリ。史上最強の政治パロディーなのだ!
10
北朝鮮からミサイルが飛んでくる!こんな国難に立ち向かえるのは、真の内閣しかない!と、登場するのが京都の公家出身の二条首相率いる一軍内閣。最初は、なんでここで、お公家さんなんだよと、思いました。ところ…がどっこい、内閣の顔ぶれたるや、時代劇ファン、歴史ファンならずとも、ニンマリしてしまう凄腕の面々。
官房長官が高杉晋作いや高杉松五郎、外務大臣が、坂本龍馬いやジョン万次郎、いやいや坂本万次郎等々。ま、この辺りまでは容易に思いつくでしょうが、文部科学大臣が新門辰五郎いや、新門辰郎だなんて、とても常人が考え得る所ではありません。オマケに、内閣情報調査室のトップが、服部半蔵いやいや服部万蔵となれば、そりゃ最強でしょう。つまり、歴史上、考え得る最強の内閣と言うことかもしれません。結局、この諜報活動が決め手となって、トラブルを解決する展開となってます。
勿論、ギャグです。パロディーです。でも、当節の実際の出来事をうまくはめ込んでありますよ。北の将軍の息子が、某テーマパークに遊びに来たことなど、こんな風に対応したら、完全にコケに出来て面白かったろうにねぇ。そして、物語上も、この出来事が一つの大きな鍵になってます。
また、筆者の世相に対する思いも十分に盛り込まれています。特に、日の丸、君が代についての考え方は、私の思いに近いものがありますし、一番感動したのは、「サザエさん」のくだりです。「大丈夫。この国には、『サザエさん』がある。」この台詞は感動的でした。なぜ大丈夫なのか理由を書くと、読む楽しみを奪ってしまいそうなのでやめますが、ここで「サザエさん」が出てくるとは思いませんでした。そしてまた、これこそが日本人の根幹に流れる思想なのかもしれません。
この物語を読んで、ニンマリとするか、あるいは溜飲を下げるか、はたまた、歴史観が滅茶苦茶だぁ、結局ヒーロー待望論かよぉ、くっだらねぇと思うかは人それぞれだとは思います。でも、私は自信を持って★5つです。 続きを読む投稿日:2015.09.07
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猫又お双と消えた令嬢
周木律 / 角川文庫
懐かしき香り漂うミステリーでありました
10
読み始めは、ファンタジーなのかと思いましたよ。猫又とは、あの猫又のことで妖怪なんですけれど、とってもチャーミングな少女として登場します。その彼女が、湯川秀樹の弟子である大学院生とひょんな事から同居し…ている場面から物語は始まります。こんな猫又ちゃんとなら、是非同居したいものだと思うのは、私だけではないでしょう。そして、そこへ持ち込まれてる奇妙な相談。ここから物語は展開します。
舞台は、元士族の没落しつつある子爵家。そこの令嬢を誘拐するという予告があったとのこと。このレトロ感あふれる設定に、令嬢(もはや死語?)誘拐。しかも、犯人は「魔術師」と名のっている男?!ほ~らほら、これはもう、遙か昔、むさぼる様に読んだ怪人二十面相の世界ではありませんか?
一応、密室から令嬢が誘拐されるという密室推理の類いなのですが、状況説明が丁寧を通り越して少々クドい。そのためか、私の様なボンクラな読者でも犯人は容易に特定できましたし、そのトリックまで推察できました。では、途中でつまらなくなったかというと、そうではなく、面白いことに、読者である私と主人公だけがわかっている真実を、まだ何もわかっていない他の登場人物達に、主人公が、どうわかりやすく説明するか?ということに興味が移るという、不思議な体験をいたしました。
レトロチックな雰囲気に浸りつつも、ハッピーエンドに終わりますから、読後感はいいですよ。なんか乱歩の怪人二十面相シリーズをまた読みたくなってしまいました。 続きを読む投稿日:2016.03.16
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新版 日本永代蔵 現代語訳付き
井原西鶴, 堀切実 / 角川ソフィア文庫
こんな話だったんだぁと、再認識
9
古今東西の名作と言われるモノでも、名前だけ知っていてまったく内容を把握していない本ってありますよね。私にとっては、この本もその一つでありました。
書籍説明にもあるとおり、江戸前期の人々の、金と物欲…にまつわる悲喜劇を描く傑作なのでありますが、小説と言うよりも、エッセイの雰囲気かなぁ。様々なエピソードを連作紹介していくというスタイルです。これが江戸時代にベストセラーになったと思うと、感慨深いものがあります。み~んな金持ちに憧れていたんですかねぇ。
面白いのは、その内容が教訓めいているかというと、そうでもなく、その一方で、家族がちゃんと食べて、生活できるのは、母親の働きであると、この時代に堂々と書いているのも興味深いものがありました。
また解説に「近代短篇小説を読み慣れた読者からすると、各篇の物語りの進行と構成の仕方には大変戸惑いを感ずるに違いない。」と書いてありましたが、確かにそのとおりで、もどかしい部分もあります。それに、井原西鶴の主張?にも、所々矛盾点があるような気もいたします。それも含めて面白かったです。人間なんて、なかなか一筋縄ではいかないモノです。
ただ、本のタイトルが、現代語訳付きとありますが、正確には、「日本永代蔵現代語訳 原文と解説付き」とするのがホントだと思います。まず、現代語訳が掲載されていて、その後に、原文と解説がついています。この原文と解説で本の4分の3を占めています。つまり、現代語訳は本全体の4分の1程度だけです。折角詳しい解説がついているのだから、現代語訳と原文と解説を同時に見ることができるようになっていたら良かったのにな、とは思いました。
さて、なかなか面白い内容である一方、当然、今には通じないこともあります。妙に心に引っかかっているのは、中国人は、心が落ち着いていて、家業にもあくせくせず、風雅な楽しみに興じ、世渡りに無頓着との記述があるところです。江戸前期の知識人は、中国の人をそう評していたのでしょうか?現在では、考えられませんけれどねぇ。 続きを読む投稿日:2016.07.23
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北上症候群
いぬじゅん / OtoBon
ヒトはどうして、悲しみを抱えて北を目指すのか?
9
遠距離恋愛で、彼の本心を疑いだした琴葉。会社は倒産するし散々でズタズタの傷心を抱え、彼の本心を確かめるため、神戸から札幌までの深夜特急に乗り込みます。そこで、それぞれ問題を抱えて北へ向かう3人の同行…者と出会い、各々の悩みを打ち明けている内に、自分を見つめ直すというお話。
他人のこととなると結構冷静に、物事が考えられるわけですね。
まぁ、よくあるシチュエーションと言えばそうなのですけれど、章だてが、第一章神戸。第二章名古屋といった感じで、普通なら駅名を使うところを、第一章北緯34度、第二章北緯35度、といったように、北緯で表しているのが、まず面白いですね。旅情を誘うと言うよりも、いかにも北上している感じを醸し出してます。
そもそもが旅の小説ではありませんからね。そして登場人物4人も年齢も性別もバラバラなのがいいですし、オカマさん、いやゲイのヒトが出てくるのも、いかにも現代的かもしれません。
ラストは、そうだよねぇ、そうなるのが必然なんだよねぇ、と思ってしまうのですが、深夜特急という限られた空間での4人の旅を通して、色々琴葉と人生を考えるのも良いかもしれません。
これはドリカムの楽曲「LAT.43°N ~forty-three degrees north latitude~」にインスパイアされた小説だそうな。軽い小説かもしれませんが、決してライトノベルではないところがミソかも。 続きを読む投稿日:2017.03.13
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演歌の虫
山口洋子 / 文春文庫
この人にしか書けない、まさに会心の短編集
9
短編集なのでありますが、下手な長編よりも、読みごたえもあり、また読後の満足感も半端ではありません。四つの短篇が掲載されていますが、いずれも、酸いも甘いもかみ分けた、それでいて業界にも詳しい作者ならで…はの視点が光ります。直木賞受賞作となった「演歌の虫」と「老梅」もすばらしいですが、「貢ぐ女」も「弥次郎兵衛」も、どうしようもない人間の性、あるいは業のようなものが描かれています。
それぞれモデルとなる人がいるのかな?と思わせつつも虚実混交でありまして、「愛するということは、自分と相手の人生をいとおしく感じ、大事と願うことです」などという、山田洋次監督のコトバが、さらりと引用されていたりします。
タイトルが「演歌の虫」とあるので、そのイメージから演歌のような世界観を想像されるかもしれませんが、プロデュースした音楽のジャンルが演歌というだけであって、その内容は、一つの仕事に打ち込んできた男の喜びと悲哀が綴られたものです。これは、懸命に働いている人すべてに、当てはまるものでしょう。
総じて言えることは、これは大人の小説と言うことです。私もこういう世界をしみじみ味わえるようになったと言うことは、それなりに歳をとったということかもしれません。 続きを読む投稿日:2016.07.23
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閉鎖病棟(新潮文庫)
帚木蓬生 / 新潮文庫
山本周五郎賞受賞は、伊達ではありません
9
もう何も言うことはありません。 しばらくレビューを書くことさえ出来ませんでした。hazu-haya-yuさんの言うとおり、★5つでも足りないくらいです。
この筆者の作品は、ずいぶん以前、国銅という…作品を読んだことがあります。骨太のロマン溢れる小説を書かれる方だと、勝手に思っておりましたが、今回は、精神科医でもあるという筆者の面目躍如といったところでしょうか。
平々凡々の生きてきた私には、想像もできないような世界が描かれています。また一方、凶悪犯罪が起きたときによく聞く、精神鑑定というコトバ。そして、その後、被疑者がどのような処置をされ、どう扱われているのかは、あまり公にはなりませんし、また、現在行われていることが正しい方法なのかは、私には良くわかりません。ただ、犯罪に到るまでの経緯も、人それぞれであり、これは難しい問題ですね。
冒頭は、あれ?短篇連作なのかなと思いました。しかしそれは、患者達のそれぞれのプロフィール紹介だったのですね。様々な過去を持った人々がそこに描かれています。先天的に犯罪思考を持つ人なんて、存在しないのかもしれません。赤ちゃんの目は、どんな子でも澄んでいますもんね。
一番最初のエピソードが、女子校生の堕胎から始まりますが、何も語られないので、淫行の末かもと思いきや、とんでもない事件の結果だったとは、最初は思いもよりませんでした。この島崎さんがヒロイン的役割を果たすわけですが、途中で消息不明になってしまいます。私は小説の筋を追いながらも、それが気になって気になって仕方ありませんでした。でも最後にまた、ちゃんと成長した姿を見せてくれるというのも、読者を最後まで引きつけますし、また、あの乱暴者の重宗が死ぬ間際、ホッとしたような顔を見せたという描写にも、心惹かれるものがありました。
とにかく、読後の余韻に浸りたくて、しばらく他の小説に手を伸ばすことをためらうような作品は、久しぶりでありました。 続きを読む投稿日:2016.10.30