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ペンギンずさんのレビュー
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  • I.C.U. 1巻

    I.C.U. 1巻

    タイム涼介

    月刊コミックビーム

    異色の除霊チーム。

    職を失った物理学者・磯呂井 心(イソロイシン)、霊は見えないが「ホンモノ」の除霊師・或木 仁(アルギニン)、憑依体質に苦しめられる少女・アミノ。三人がチームを組んだ時、物語が幕を開ける―。 タイム涼介氏の作品に初めて触れたのは、十数年前の「日直番長」。結構好きなギャグマンガだったが、今やこんなストーリーマンガを書いてらっしゃるとは知らなかった。 絵柄とテンポは少し独特だが、三人のちょっとコメディータッチなかけ合いと、リアルな描写の除霊パートが良い感じで絡み合い、慣れるとぐいぐい引き込まれる。特に物語を牽引する「仁」のパワフルなキャラクターが秀逸。「生臭坊主」という言葉がピッタリ(坊主ではないのだけれど、イメージで)。ミステリアスな雰囲気を漂わせる謎の男、「キセノタキオ」の存在も気になる。おもしろ怖い、ホラー好きにオススメのコミック。

    2
    投稿日: 2014.06.20
  • ロズウェルなんか知らない

    ロズウェルなんか知らない

    篠田節子

    講談社文庫

    オカルトは地方都市を救うか。

    過疎にあえぐ町・駒木野。生業とする観光業も今ひとつふるわない。地元の青年クラブ(といっても中年に近いが)メンバーは、そんな町を活性化させるため、オカルトでの町興しに奔走する―。 地方都市の現状や、そこで暮らす人々の閉塞感が何ともリアルで、郷愁を誘う。そこから起死回生を図ろうと、自称文筆業の鏑木にのせられつつ、UFOや心霊現象に再生の活路を見出そうとする人々の姿が、悲しくもユーモラス。物語としてはちょっと裾野を広げすぎたせいか、もう一つ盛り上がりが薄い。もっとはっちゃけたコメディ路線にはしっても良かったかも。

    2
    投稿日: 2014.03.25
  • 薔薇だって書けるよ─売野機子作品集─

    薔薇だって書けるよ─売野機子作品集─

    売野機子

    楽園

    売野機子作品の入門書として。

    売野機子氏の作品集第一弾。 正直な感想として、どの作品にも派手さは感じられない。内容的にも格別目新しくはない。でもそんな中に、心にじんわりと入ってくる切なさが、時折まじっているのが何とも侮れない。 日本人が日常で着物を着ていた時代、嫁入り前の娘と、未来から来たと語る少年との、密やかな心のふれあいをノスタルジックに描いた「遠い日のBOY」、少女・ハルタの切ない恋の思い出、そしてその後を描いた「晴田の犯行」が良かった。 余談だが、個人的に売野氏の描く、少年マンガとも少女マンガともつかないちょっとクラシックな絵柄が好み。

    0
    投稿日: 2014.03.11
  • 鉄道少女漫画

    鉄道少女漫画

    中村明日美子

    楽園

    鉄オタの少女が主人公のマンガ、ではない。

    ロマンスカーの車内でスリをはたらく女子高生。スリを失敗して捕まえられた男に、先の車両にいる女の額に「肉」と書いてこい、とマジックを渡されて…。 登場人物たちのドタバタと電車ならではのギミックが楽しいラブコメ(?)、「浪漫避行にのっとって」はじめ、鉄道+少女の取り合わせが楽しい、笑いあり、恋愛あり、ドラマあり、のバラエティに富んだオムニバス。中村明日美子氏の描く流麗で独特な色気を持ったキャラクター達が、鉄道にちなんだ舞台で動きまわる、というギャップが、なんとも言えないユーモアを醸し出す。 描きおろし「ある休日」は、オムニバスならではの仕掛けでニヤリ。

    5
    投稿日: 2014.03.10
  • 甘々と稲妻(2)

    甘々と稲妻(2)

    雨隠ギド

    good!アフタヌーン

    登場人物の豊かな表情が魅力的。

    待望の第二巻。犬塚親子と小鳥の調理風景もこなれた感じ。三人の醸し出すあたたかでやさしい空気が、料理への期待を倍増させて、読者のお腹の虫を刺激する。グラタンと餃子が食べたい…。 本作の魅力の一つである、キャラクターたちの豊かな表情も健在。特に、くるくる変わるつむぎの顔は注目。怒る、笑う、泣く、固まる、呆ける…。こっちの表情まで釣られて変わりそう(笑)。 そんな中に垣間見える、親子の愛と女心。ホロッときて、やきもきする。いつまでも浸っていたい、心地良い雰囲気。新キャラクターも登場するが、展開としては一巻に比べると割りとおとなしめ?次巻以降の躍進に期待。

    5
    投稿日: 2014.03.06
  • 沈黙のフライバイ

    沈黙のフライバイ

    野尻抱介

    ハヤカワ文庫JA

    宇宙へのロマンが溢れる、SF短編集。

    地球外文明との邂逅、火星への片道切符を握った宇宙飛行士達、高度80キロを目指す有人の巨大凧…。 各編で描かる内容は種々雑多なれど、読み進める内に伝わってくるのは、人類の持つ宇宙への夢・希望・ロマン。 読者を引き込む奇抜な発想、作品の背景に広がる壮大なスケール感は、野尻抱介氏作品ならでは。特に「大風呂敷と蜘蛛の糸」は、「ふわふわの泉」に通ずる軽快な楽しさがある。 読み終わった後で、何となく目の前に宇宙が広がってくるような、そんな気持ちが味わえる秀作SF短編集。

    4
    投稿日: 2014.02.28
  • 岸辺露伴は動かない 1

    岸辺露伴は動かない 1

    荒木飛呂彦

    週刊少年ジャンプ

    岸辺露伴の冒険。

    ジョジョ第四部の人気キャラクター・岸辺露伴を主人公に据えたスピンオフ作品。本編とはちょっと違う、先の読めないダークな雰囲気が魅力。「懺悔室」のみ過去単行本「死刑執行中脱獄進行中」からの再録。他作品とは絵柄が異なるのが、時代を感じさせる。 「懺悔室」は告解者のショッキングな告白を、露伴が聞き手として受け取る形が特徴的な作品。事態を積極的に解決する当事者ではない、という露伴のポジションがおもしろい。この作品のみ既読だったが、今読み返してみてもクオリティが高く、新鮮。その他『富豪村』も、「外界から遮断された山奥の豪邸村」というミステリアスな設定、そして本編に通ずる「ルールとの闘い」が、ドキドキ感を生み出していてGood。 各話の最後に付いている荒木氏自身の解説は、本作独自のボーナス。ファンならば楽しめること請け合い。いずれの作品も意外性にあふれていて、ジョジョ本編に勝るとも劣らない面白さ。ファン必携の一冊。

    7
    投稿日: 2014.02.23
  • さよならタマちゃん

    さよならタマちゃん

    武田一義

    イブニング

    入院経験のある方にも、そうで無い方にも。貴重な闘病記。

    精巣腫瘍、そして他臓器へのがん転移から、入院しての抗がん治療を受けることになった、漫画家アシスタントである著者・武田氏の体験記。 抗がん剤による副作用の苦しみ。長期間の治療から来るうつ症状。がん患者の現実。実体験している著者自身だからこそ描ける内容は、なかなか読み応えがある。とはいえ、そこはふんわりほがらかな武田氏のタッチ。決して重苦しくなりすぎないのがこの作品の良い所。 そんな中で印象に残ったのは、武田氏のマンガに向かう前向きな心と、家族の愛。苦しみと闘う身でありながら、漫画家としての奮起を決意する氏の強い気持ちにグッときて、そして奥様との互いを思い合う優しさにホロッとした。家族っていいなぁ。 個人的なことだが、私も入院経験があるので(武田氏ほどではないが)、当事者目線で共感して読めた。もちろん健康な人でも本書を読むことで、病気というものに対して新たな知見が生まれるのではないだろうか。闘病体験を一冊の貴重な作品に昇華させた、武田氏の努力に拍手。

    7
    投稿日: 2014.02.23
  • 臨場

    臨場

    横山秀夫

    光文社文庫

    『終身検視官』の活躍。

    L県警にて『終身検視官』の異名をとる倉石義男。事件に携わる人々の目を通して、鋭利な観察眼と独特のキャラクターで臨場にあたる倉石の活躍を描いた短篇集。 横山氏の他の警察ものに比べると、割りとトリッキーな事件群。あくの強い倉石の人物像。その彼を周囲の目線から浮かび上がらせるスタイル。そのどれもがビミョーに噛み合わさっていないかな…。 検死のリアリティ、そしてそこから事件の真相に迫っていく物語性は引き込まれるものがあるので、もう少しボリュームを増やして、各話をじっくりと描いて欲しかったところ。

    4
    投稿日: 2014.02.23
  • グリムのような物語 トゥルーデおばさん

    グリムのような物語 トゥルーデおばさん

    諸星大二郎

    朝日新聞出版

    グリム童話と諸星ホラーの融合。

    「赤ずきん」や「蛙の王様」「いばら姫」「ブレーメンの楽隊」など、昔懐かしいグリム童話を、ホラー界の鬼手、諸星大二郎氏がおどろおどろしくも斬新にアレンジ。 西洋ファンタジーの不思議な世界観が、良い感じにダークな雰囲気を醸し出す「Gの日記」や表題作「トゥルーデおばさん」は先の読めない展開にドキドキする。少女が迷い込んだ世界は夢か現か、恐ろしくも幻想的な「ラプンツェル」は、グイグイその世界に引き込まれる。 オリジナルのある諸星作品とはなかなか珍しいが、「妖怪ハンター」シリーズや「西遊妖猿伝」といった、氏の既存作品とはまた違った面白さ・怖さがある。諸星大二郎氏の新しい魅力を発見できる一冊。

    3
    投稿日: 2014.02.10