
ロートケプシェン、こっちにおいで
相沢沙呼
創元推理文庫
ニュートリノは思春期の女心も通過する
「午前零時のサンドリヨン」の続編、第2弾です。 前作は、高校生活の日常の謎解きの要素が強かったのですが、今作は思春期のゆれうごく心情の描写に重きが置かれています。特に女子の「いじめ」の描写が生々しく感じられ、本当に男性の作家さんが書いたものなの???って疑ってしまうほどでした。 トモという女の子のパートと、須川くんのパートが交互に入れ替わり、話しが進んでいきます。一見、つながりのないこの2つのパートがいつつながるのか、ちょっと悶々とした気分で読み進めることに・・・ ん~・・・やっぱり叙述トリックは自分は苦手かな?
10投稿日: 2015.09.06午前零時のサンドリヨン
相沢沙呼
創元推理文庫
ニュートリノは思春期の男心も通過する
ミステリー好きの草食系男子高校生と、美人だけど一人でいることを好む寡黙な女子高校生との純粋な恋愛小説でもあり、 実は彼女は凄腕のマジシャンで、高校生活の日常の謎を抜群のマジックテクニックを駆使して解決していく、青春ミステリー小説でもあります。 男子高校生を語り手として、一人称の文体で話が進んでいきます。好きな女の子の気を引きたい、友達になるきっかけを作りたい、そんな青春の時代が自分にもあったなあ、この作家さん、シャイな男心を描くのが巧いなあ、いやいや、それ以上に、思春期の少女たちの描き方にはまさに脱帽。恋愛のみならず、友達関係や進路のことで悩み多き高校生たちの揺れ動く心情が、マジックによる日常の謎解きと上手くマッチングしていて、楽しく読めました。 1番ビックリしたのは(読後にネットで知ったのですが)、著者の相沢沙呼さん、てっきり女性の作家さんかと思っていたら、男性の作家さんだったこと。読後に襲った最大のミステリーでした。
12投稿日: 2015.05.04皐月鬼
田辺青蛙
角川ホラー文庫
妖と人の邂逅の物語
『生き屏風』、『魂追い』に続くシリーズ第3弾であり最終章です。特に『魂追い』の続編と言ってもよく、“火の山”から帰郷した妖鬼・皐月のその後の物語が、6つの連作短編集として語られています。 『魂追い』のラストで感じたもやもやが、この3作目でスッキリします。でも、「あ~やっぱり読まなければよかった」という気持ちと「読んでよかったな」という気持ちが入り交ざり、少々複雑な気分に・・・ 悠久の時を生きる妖と、限られた短い時を生きる人との邂逅が、せつなく、儚く、哀しい物語を紡ぎだしています。 巷では、妖怪〇ォッチがブームらしく、騒がしい妖怪が子どもたちに大人気のようですが、この静々と淡々と描かれる妖の物語は、自分がもっていた妖怪のイメージを大きく変えてくれました。 恒川光太郎氏の『夜市』や、漆原友紀さんの『蟲師』と似通った雰囲気を感じる小説かな?
10投稿日: 2015.03.14魂追い
田辺青蛙
角川ホラー文庫
妖と人の旅の物語
『生き屏風』の続編、妖鬼・皐月の物語です。 皐月が、魂を狩ることを生業とする少年・縁(えにし)と出会い、とある理由で共に“火の山”を目指す旅に出ます。指輪は捨てませんが。(笑) 前作は、1つの里を舞台とした3つの短編集でしたが、今作は皐月が旅に出る長編で、物語の世界観が広がっています。 妖(あやかし)と人とが共存し、日本のいつの時代でどこの場所なのかよくわからない独特の世界の中で、旅の道中で出会う様々な種族の妖と不思議な能力をもつ人たちとが、生と死を巡る起伏にとんだストーリーを創りだしています。 多少ホラー要素が強くなった気がしますが、怖さを感じないのは、前作と同様、淡々とした語り調子だからでしょうか。 ラストが気になる終わり方でちょっともやもや。 3作目の『皐月鬼』を読めばスッキリするのでしょうか? そういう意味では怖さを感じますが・・・
8投稿日: 2015.03.07生き屏風
田辺青蛙
角川ホラー文庫
しずしずと たんたんと・・・
インパクトのある冒頭の一文から、どんだけ恐ろしい話が始まるのかと期待して読み始めましたが、全くそんなことはなく、ホラーというよりは、和風ファンタジーといったところ むかし、むかし、まだ妖(あやかし)と人とが共存していたころのお話。詳しい時代背景や設定などは全く説明されませんが、そんなことは気にならず、すんなり物語の世界に惹き込まれました。 屏風に取り憑いた女の霊と小鬼である皐月の会話を通して、この物語の世界観や皐月の過去が徐々に明かされていくという手法が、心地よい読書のリズムをつくりだしています。 食事やお酒を飲むシーンがけっこうあり、夜、日本酒を飲みながら読書をすることの多い私にとっては、その場に自分も一緒になって皐月の話を聞いているような錯覚に陥ってしまいました。 第15回日本ホラー小説大賞 短編賞受賞作 表題作の他、「猫雪」「狐妖の宴」の3編が収録されています。
7投稿日: 2015.03.01カンニング少女
黒田研二
文春文庫
カンニングは ダメよ~ ダメ ダメ
うちの子は中学3年生。もうすぐ高校受験です。 志望校合格はかなり難しいらしい。(妻談) ということで、父親として何かできることはないか おぉ! ここにいいタイトルの小説が! 何かヒントになるものが・・・ぐえふぇふぇふぇ・・・ ―――というのは冗談ですが、 ダークサイドな考えが ちょっとはあったかも? 姉の死の真相を知るために、カンニングという手法で最難関私大を受験する少女の物語。カンニングという行為に嫌悪を感じるのは確かだけど、爽快感の方が上回るのは、3人の友達のサポートと、努力してきちんと実力を上げ、自力で解くことを放棄しない姿が描かれているからかな。最終試験の少女の回答にはちょっとホロリ。嫌悪感と爽快感が混在する不思議な感覚の青春小説でした。 ところで、新潟の公立高校入試の制度が今年から大きく変わります。昨年までは5教科を1日だったのが、今年から2日間に。1日目は今まで通りの5教科。2日目に各高校で独自の試験科目や作文、面接を実施するらしい。(何もうちの子の年度から実施しなくても・・・) 暗記力を軽視するわけではないけど、暗記力や単なる知識量だけにしばられない内容の試験が増えてくるといいな~と思います。全国的にそういう傾向なのでしょうか? 小6と中3で実施する全国学力テストでも、知識を問うA問題と、活用力を問うB問題とに分けて実施されている。(うちの子の全国でのおおよその位置がわかって愕然・・・) 自分が高校や大学を受験したころの昔を懐かしく思い出し、「がんばれ!うちの子」と静かに見守ってやるのが父親としての役目かな、というところに落ち着きました。
7投稿日: 2015.02.21セカンドステージ
五十嵐貴久
幻冬舎文庫
妻に「ありがとう」って ちゃんと言葉で伝えなきゃ
結婚、出産で退職したママが、子育てに一区切りついた?のを機に、パパに内緒で起業するお話。従業員は7人のお年寄り+若い男1名。様々な問題をお年寄りたちと共に、いや、お年寄りたちが解決していきます。有川 浩の「三匹のおっさん」ならぬ「七匹のじーさん ばーさん」といったところ。 第一話、第二話と、なんて強引な展開なんだろう、こうすんなり話が進むわけないじゃんと思いながらも、しだいにストーリーに惹き込まれ・・・ 最終話では、強引さを通り越して、なんて豪快な展開なんだろうとちょっと感動。何かの映画で似たようなシーンがあったような、なかったような・・・ 男として、夫の立場からして、ちょっと耳の痛い小説 夫としての自分は反省させられることしきり・・・ でも、思いをちゃんと言葉にして伝えることの大切さと難しさに、改めて考えさせられたかな。 ん~、でもこの小説を読んだこと やっぱり妻には内緒にしておきます。
10投稿日: 2015.02.18ペンギン鉄道 なくしもの係
名取佐和子
幻冬舎文庫
ペンギンにほっこり 癒されました~
タイトルに惹かれて購入。ペンギン好きなので。 ペンギンが喋るでもなく、切符を切るでもなく、ファンタジー小説ではありませんでしたが、何故ペンギンが駅に? しかも電車に乗って、乗継もしちゃうし。 遺失物保管所の赤毛の駅員さんと、そこに訪れる人たちとのお話。季節を舞台にした4つの連作短編集です。それぞれ自分のなくしものを探す「ちょっといい話」なのですが、ストーリーが出来過ぎというか、創られ感を感じてしまった。自分的にはリーダー初の★2つかな?と思いきや、最後の章で全てがつながり、ペンギンの秘密もわかって なかなかに素敵なお話だったという印象で★3つ ペンギンの愛らしさと、発車ベルがあの名曲「SWEET MEMORIES」だなんて、粋な鉄道会社だな~ということで★4つ
15投稿日: 2015.02.11合本 竜馬がゆく(一)~(八)【文春e-Books】
司馬遼太郎
文春e-Books
もっと若い時に読んでおくべきだった・・・(再レビュー)
昨年6月か7月に「竜馬がゆく 全8巻セット」にレビューを投稿したのですが、いつの間にか「該当コンテンツは、現在取り扱っておりません。」と表示・・・(←レビュー投稿者にとっては、かなり悲しいですよね。)気づいたのがこれで3作目。Reader Storeさん、せめてレビューだけは削らないでくださいな。 商品名?が変わっただけで、小説そのものが変わったわけではないので再投稿です。 高校生の時、一度読もうとしましたが、 部活でへとへとになっていることを言い訳に 挫折してしまった本です。 あれから うん十年、恥ずかしながら電子書籍化を機に ようやく全巻を読むことができました。 読んだのは2013年の9月から10月にかけてです。 (その時は文藝春秋の本はレビューを書くことが できなかった?のが、いつの間にか記入可能に…) 司馬遼太郎氏によって、激動の時代の日本を生きた 数多の人物がいきいきと描かれ、惹き込まれます。 坂本龍馬の生き方、考え方、人生の軌跡に ますます魅力を感じ、憧れをも抱きます。 仕事上の不平不満や目先の損得で物事を考えている 小さい自分に気づかされ、猛省させられました。 人生とは、人との出会い、そして別れの連続 それは偶然なのか必然なのか どちらにせよ、 人との出会いを大切にして人生を歩んでいきたい。 私にとって 人生必読の本となりました。
12投稿日: 2015.01.31雷の季節の終わりに
恒川光太郎
角川ホラー文庫
長篇も いいですよ~♪
神隠しの異世界・穏(おん)の物語と 現世の物語の クロスオーバー・ホラー・ファンタジー 2つの物語が交差するとき・・・ ミステリー的な展開もよかったです。 「夜市」「風の古道」に通じる 幻想的で抒情的な異世界の情景と そこに存在する謎めいた人々の営みの描写 不条理で残酷な物語・・・ それでいて、雰囲気が静かに沁みこんでくる美しい文体に 妖しく、せつなく、哀しい読後感 もっとこの世界観に浸っていたかった ―――そう思わせる長篇小説でした。
9投稿日: 2015.01.27