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チョッピーさんのレビュー
いいね!された数220
  • 誰もいない夜に咲く

    誰もいない夜に咲く

    桜木紫乃

    角川文庫

    力強い物語の数々

    ひたすら「厳しい」としか思えない世界の中で、特に女性の「生きる力」を感じる事が出来た短編集でした。他人が思うような一般的な「哀しみ」や「孤独」のような「記号」に埋もれず、ある意味「クール」で颯爽としていすらあるそれぞれの登場人物の姿に、読み手である自分も凛としていたい、と思わせる力を持った物語だと思いました。それぞれの登場人物の気骨溢れる姿を際立たせる為の背景としての北海道という舞台も物語として素晴らしく機能していると思います。

    0
    投稿日: 2014.08.24
  • ヒトリシズカ

    ヒトリシズカ

    誉田哲也

    双葉文庫

    エンディングに物足りなさが・・・。

    警察を舞台にした「短編集」、と漠然と読み始めた本書でしたが、2編目から一人の人物が中心となって繋がっていく連作短編である事が分かり、面白く読了しました。主人公たる「シズカ」に何故か『エデンの東』のキャシーのイメージが重なりましたが(大袈裟ですが)、伏線を張った各編に比べ、物語の結末が性急且つあっけなく思われ、主人公の物語としては少々物足りなく思えました。

    1
    投稿日: 2014.08.24
  • 嘘つきアーニャの真っ赤な真実

    嘘つきアーニャの真っ赤な真実

    米原万里

    角川文庫

    素晴らしい「物語」を読んだ後の読後感

    1960年代のチェコのソビエト学校の思い出と、そこで一緒に過ごした友達3人との30年を経た後の「再会」が描かれた「ドキュメント」でしたが、素晴らしい「物語」を読んだ後の充実した感覚と同じものを感じる事が出来た素敵な一冊でした。チェコ、ルーマニア、ユーゴという、私とは全く縁のない世界で生きる人々をこれ程までに身近に感じる事が出来たのは、作者の端正かつバランス感覚優れた描写の力の素晴らしさに依るものだと思います。複雑な政治状況に翻弄されながら「それでも」生きていく人間を描いた傑作だと思います。

    8
    投稿日: 2014.08.24
  • 我が家の問題

    我が家の問題

    奥田英朗

    集英社文庫

    心あたたまる作品

    題名の通りに家庭で起きる色々な「問題」を題材にした短編集でした。前に書かれた『家日和』よりも題材が題材なだけに少しシビアに書かれた部分もありましたが、「問題」そのものが直接描かれる訳ではなく、それに関わる人達の揺れ動く心の動きが丁寧に描かれていて、誰にでも共感できる内容になっていると思いました。話の落ち着く先がある種の「ホッと」した所に着地している点は『家日和』と共通している所かと思いますが、それぞれの作品の登場人物に対する作者の視線の優しさが読む者の気持ちもほっこりとさせる作品だと思います。

    5
    投稿日: 2014.07.29
  • 時をかける少女

    時をかける少女

    筒井康隆

    角川文庫

    全く色褪せない作品

    超有名な表題作を含む3編のジュブナイル?SF短編集です。表題作は今更言わずもがなの「古典」ですが、この作品を読むと大林宣彦監督の映画作品(細田守監督のアニメ版等では無く)が如何に原作に忠実な「映像化」作品であったかが改めて分かるような気がしました。他の2編はどちらかと言うとかなり「ブラック」な内容で「ジュブナイル」と呼ぶのは本当は適切では無いのかも知れませんが、どちらも少し「怪談」めいた内容が、やや古めの文体とも相まって面白く読めた作品でした。

    5
    投稿日: 2014.07.21
  • 彼女と彼女の猫

    彼女と彼女の猫

    新海誠,永川成基

    KANZEN

    人間と猫のそれぞれの思い・・・。

    『ほしのこえ』よりも前に作成された新海誠さんのショートアニメを元にした小説です。登場人物とその人物に関わる「猫」の目線が交互に入れ替わりながら物語が進み、物語が進むに連れ、それぞれの登場人物とそれぞれの「猫」が繋がり、最後は優しく切なくそして希望が溢れる物語になっている、素晴らしい作品でした。犬も出てきていい味を出していますが、猫好きには堪らない作品ではないでしょうか。新海誠さん「らしさ」にも溢れた作品だったと思います。

    1
    投稿日: 2014.07.20
  • シュレディンガーのチョコパフェ

    シュレディンガーのチョコパフェ

    山本弘

    アドレナライズ

    文句無く、面白い!

    表題だけを見ると「ラノベ」的な気配も漂う感がありましたが、中身はバリバリの「SF」小説でした。短編集でしたが、どの短編も面白く、作者らしい「オタク」ネタや、擬似科学批判ネタも混じえながらの「ハードSF系」に振った作品の数々に触れ、改めてこういう「SF」が好きな自分も再確認したような気がします。やっぱり「SF」小説は面白い!

    2
    投稿日: 2014.07.20
  • 影踏み

    影踏み

    横山秀夫

    祥伝社文庫

    少々「薄味」でした。

    泥棒が「名探偵」の役割を演じ、且つ、主人公の主観に「他者」が入り込むという独特の設定で読ませる7つの連作短編集でした。泥棒業界?の「隠語」が沢山出てきたりする点に「らしさ」を感じつつも、全体的には少々「薄味」で、読後の余韻のようなものは思ったよりも無かったように感じます。主人公の抱えているものの重さとそれぞれのエピソードの「謎解き」の要素が余りうまくマッチしていなかったからかも?とも思いました。

    1
    投稿日: 2014.07.20
  • ここは退屈迎えに来て

    ここは退屈迎えに来て

    山内マリコ

    幻冬舎文庫

    痛烈な「既視感」に襲われるかも?

    「田舎」でもなく「都会」でもない、日本全国の「地方都市」のどこにでも当てはまるような「風景」を舞台にした短編集でした。「椎名」という一人の「男」がそれぞれの短編の登場人物の内心を映す鏡のような存在としての役割が与えられていて、「椎名」という人間との関わり方の違いを描写する事で、登場人物それぞれが持つ「地方都市」で生きる事の意味であったり、痛みであったり、虚無であったりが描かれていて、そのストレートな描写が個人的にも「他人事」ではないような強烈な感情を読む者に与えている作品だと思います。

    2
    投稿日: 2014.07.20
  • 研修医純情物語 先生と呼ばないで

    研修医純情物語 先生と呼ばないで

    川渕圭一

    幻冬舎文庫

    物語?エッセイ?

    小説と思い読み始めましたが、中盤以降はほぼ現実体験を記した「エッセイ」「日記」のような代物で、どっちつかずと言えば聞こえは良いですが、題名からも感じられる「逃げ」の姿勢が内容に表れているように思えました。物語?の方も著者自身の「自分には甘く、他人には厳しい」目線に終始違和感(嫌悪感)を感じてしまい、実際の医療を担っているのは、多分この著者のような「他人事」の人々では無かろうな、と思えてなりませんでした。著者の他の本を読む気にはなれません。

    1
    投稿日: 2014.06.07