
いちご同盟
三田誠広
集英社文庫
「生きろ」!
傑作。どこにも自分の居場所を見つける事が出来ないという思いから「死」という向こう岸への思いを募らせる主人公が、あるビデオ撮影を頼まれる事で2人の人間と係る事になる所から始まる「死」そのものの物語と、「死」を見届ける事になる主人公が最後に「生」へと向かう事になる「再生」の物語に心が震えました。自分の年代という視点から読むと、物語に出てくる様々な「親」の立場にも色々と考えさせられる点がある物語でもあります。主人公の感情の揺れ動きが細やかに描写され、主人公に絡む2人それぞれとの関係も繊細且つ深いものがあり、素晴らしい余韻が残る物語でした。
6投稿日: 2015.05.06
ようこそ、わが家へ
池井戸潤
小学館
面白さ「2本立て」!
池井戸さんらしさ爆発の「会社内」サスペンスの物語が描かれる一方、同時並行で今作では主人公に振りかかるもう一つの「私生活」を巡るサスペンスの物語が描かれ、今1作で2本分の面白さが味わえる作品となっています。それぞれの物語の描かれ方が少し物足りないと思われる部分とも裏腹だとは思いましたが、一気に読ませる面白さは今作でも健在ではないでしょうか。「会社」と「私生活」それぞれでそれぞれの「問題」を抱えている部分は人それぞれである訳で、今作はそういうある意味万人が共通して持つ「悩み」の部分を物語的な誇張はありながら、池井戸さんなりに提示した作品なのかも知れません。
38投稿日: 2015.03.31
青天の霹靂
劇団ひとり
幻冬舎
少々軽めだったかも?
あっという間に読了しました。冒頭の「自分は特別な人間(本当は全くそうでない)」というモチーフがその後の物語と余りリンクしなかったり、前半の登場人物が生かされなかったりという少々消化不良ぎみな点はありましたが、「タイムスリップもの」(本当にそうだったのかな?)にうまく親子の情愛を絡めたウェルメイドな物語だったと思います。才能がある方だと思うので、もう少しハードルを上げた作品を次作では是非!
1投稿日: 2015.02.24
その女アレックス
ピエール・ルメートル,橘明美
文春文庫
評判高い作品ですが・・・。
今年の各賞を取って評判が高い作品だった為、期待して読みました。が、確かに全く面白くない訳ではなかったものの、正直「それほど?」と思えてなりませんでした。色々と腑に落ちない箇所、設定が見受けられるのも気になりましたし(特に読者に何の手がかりが提示されないまま話が進んでいく第三部はかなり疑問に思いました)、登場人物の過去のエピソードで紡がれる「キャラクター」小説として読んでみても、各エピソードが物語に絡んでこない中途半端さを感じました。アレックスという主人公の立場の展開のさせ方や、最終的な決着の仕方がミステリが好きな方の嗜好をくすぐるのかも知れませんが、シリーズ2作目という前提(事件を解決する人間に対する信頼)が無ければ、このラストは成り立たないのではないでしょうか。少々残念な読後感でした。
23投稿日: 2014.12.27
ねじれた文字、ねじれた路
トム・フランクリン,伏見威蕃
ハヤカワ・ミステリ
別れ、そして、出会うという事。
読み終わった瞬間ではなく、その後何時間か経ってから、この本の最後の文章を思い出した時に不覚にも涙が流れました。アメリカ南部の「打ち捨てられた」とでも呼べるスモールタウンで起きたある事件をきっかけに、25年前に出会った2人の人物がその後離れ、そして最後に本当の意味で「出会う」までを自然描写も豊か(厳しく)に描いた素晴らしい作品でした。登場人物それぞれが重い人生を背負いながら暮らしている描写がこの物語をより深いものにしていると感じます。今後の彼らの幸せを願わずにはいられないラストの余韻を未だ噛み締めています。
6投稿日: 2014.09.20
オー!ファーザー
伊坂幸太郎
新潮社
父親が4人!その理由とは?
「父親が4人」という設定を聞いていた限りでは、「ほのぼの」系の話なのか?と思いきや、かなりガチの「サスペンス」系に話が流れていったのには少し驚きましたが、それぞれ個性が際立ったキャラクター設定の登場人物が入り乱れつつの物語はいつもながら魅力的で、面白く読了しました。『ゴールデンスランバー』に至る直前の作品として見ると、物語に出てくる色々な要素が繋がっている感じも受け、その点も興味深い物語でした。結局最後の「アレ」をやりたいが為に「4人」という設定にしたのかな?という気もしましたが(笑)
6投稿日: 2014.09.15
マドンナ
奥田英朗
講談社文庫
あっという間に読めるのが「欠点」なのかも?
いわゆる「中間管理職」(今作は男子限定)のサラリーマンが、自分の思うようにならない各種事情の数々にぶち当たり、のたうち回る様を奥田さんの短編特有の「軽め」のタッチでユーモラスに描いた作品集でした。個人的には今作に出てくるサラリーマン社会の有り様には余り理解も共感も出来ませんでしたが(少し描写が古め?)年齢が自分とも近い登場人物達の「この世は全くままならず」という感覚には身に覚えがある部分もあり、全体的には楽しく読了しました。最後の「パティオ」という短編が今作の中ではお気に入りです。
6投稿日: 2014.09.12
博士の愛した数式
小川洋子
新潮社
切なく心に刺さる物語。
「博士」と「家政婦の親子」が多分双方共自分等の中に欠落している「何か」を求めて相手に寄り添っていく描写が、そこはかとなく示される「過去」も絡めながら、切なく心に刺さってくる物語でした。「阪神タイガース」「江夏豊」という「世俗的」な要素が、色々な関係をうまく「現実的」な所に落としこむ役割を果たしているようにも思えます。
1投稿日: 2014.08.29
真夜中のマーチ
奥田英朗
集英社文庫
上々のスラップスティック小説
泥棒小説(というジャンルは無いと思いますが)として非常に面白く読了しました。相変わらずの読みやすさに加え、こういう物語が個人的にツボだという事が改めて分かった小説でした(笑)3人の登場人物がそれぞれの思惑がある中で手を組んでの「泥棒」となる描写のドタバタ感が楽しくてたまりません。「悪人」と呼べるような凶悪な人物が出ない所もコメディ感を一層増している感じでした。余韻に浸る、というような小説では全くありませんが、読書で楽しいひと時を!という目的にはピッタリの小説だと思います。
1投稿日: 2014.08.24
ドミノ
恩田陸
角川文庫
ただただ面白い!
おや?と思う出だしからの、次から次へと登場する人物、出来事、生きているもの、生きていないもの(笑)が繋がって繋がって、それぞれがそれぞれの所に落ち着くというただただ面白い小説でした。登場人物がしっかりと描き分けられている為、登場人物の多さにも関わらず混乱無く読める点も流石の素晴らしさでした。考えてみると、ちょっと気になる最後ではあったような気もしますが、そういう点も作者の狙いなのでしょうね。ひたすら面白い小説が読みたい方は是非。
7投稿日: 2014.08.24
