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ツクヨミさんのレビュー
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  • 号泣

    号泣

    松田志乃ぶ,香魚子

    集英社オレンジ文庫

    いちばん悪いのは……?

    高校の箏曲部を舞台にした青春ミステリ。物語は、部の中心メンバーの一人、春日井奈々(春)の転落死から始まります。彼女の死は自殺なのか? それとも殺人なのか? 部の指導役を務める小鳥遊(大学院生・男)は、真相を突き止めるべく動きだします。 読んでまず思ったのは、珍しいところを突いてきたなあ、ということ。詳しくは言えませんが、○○をキーにした小説というのはあまり見ない気がします(少なくとも私はほかに読んだことがありません)。 話が進むにつれて、各キャラクターの内面なんかも明らかにされていくのですが、外見と中身にギャップのあるキャラもいたりして、「誰がいちばんの悪人なのか」ということを考えてしまいました。 タイトル通りの重いラストのわりに、読後感は悪くありません。たぶん、探偵役の小鳥遊が好感の持てる爽やかキャラだからでしょう。箏曲部ならではの琴の演奏シーンも雰囲気があってよかったです。

    3
    投稿日: 2015.05.21
  • ぼくはこうして大人になる

    ぼくはこうして大人になる

    長野まゆみ

    角川文庫

    美しき少年たちの恋愛模様

    男子中学生(中3)同士の恋愛を描いた作品。BL(ボーイズラブ)小説と呼べないことはないでしょうが、一般的なBLとは趣が異なります(解説の宮木あや子氏は「ジャンル=長野まゆみ」と定義)。 一番の違いは、キスシーンやラブシーンに生々しさがないことでしょうか。色っぽい雰囲気は漂わせながらも、さらっとした筆致で描かれています。そのぶん会話や主人公の内面描写に力が入れられていて、特に主人公・一と七月の心理的駆け引きのような会話が印象に残りました。中学生にしては大人びた一の語りも、この話の世界には不思議とふさわしいように思えます。ちょっと一がフラフラしすぎ(恋の相手が多すぎ)な気はしますが……。 著者の作品にしては文体のクセが少なく(キャラの名前は凝ってるけど)、長野まゆみ初心者でも手に取りやすいのではないかと思います。

    3
    投稿日: 2015.05.16
  • パラダイス・クローズド THANATOS

    パラダイス・クローズド THANATOS

    汀こるもの

    講談社文庫

    キャラクター色の強い「変格」ミステリ

    双子の兄弟とお守り役の刑事が活躍するキャラクターミステリ。全体的にパロディネタが多く(章タイトル「孤島の鬼」とか、ナウシカの台詞の引用とか)、ときにはミステリのお約束までもがネタにされます。本格ならぬ、変格ミステリといった感じでしょうか。そもそも双子兄の「他人の死を招き寄せる体質」という設定からして規格外ですが……。 密室も連続殺人もクローズドサークル(舞台は小笠原の孤島)もあるけれど、なによりインパクトが強かったのは水棲生物マニアな「死神」美樹のキャラ。彼が語りまくる蘊蓄といったら、もう事件の細部なんか吹き飛ばしそうな勢いです。「高校生探偵」真樹も美樹とはまた違った方向にキャラが立っていて、生き生きと物語を動かしてくれます。二人に翻弄されっぱなしの高槻刑事がまたいい。 ミステリとしては変わり種ですが、ジャンルの枠を壊すのではなく、その中で最大限に遊んでいるといった作風で好感が持てました。

    6
    投稿日: 2015.05.08
  • アクアリウムの夜

    アクアリウムの夜

    稲生平太郎,緒方剛志

    角川スニーカー文庫

    投げっぱなしの怖さ

    男子高校生が主人公の青春ホラー。舞台設定(野外劇場とか小さな水族館とか)といい、キャラの語り口といい、全体的にやや古風な印象を受けます。おそらく作中の時代を古めに設定してあるのでしょうが(ケータイとか出てこないので)、それを差し引いても違和感の残る部分もありました。 とはいえ、ホラーとしてはけっこう怖かったです。サイコホラー系と民俗系を取り混ぜた怖さとでもいえばいいでしょうか。最後まで読んでも明かされない謎もあったりして(私の理解力が足りないだけかもしれませんが)、その「投げっぱなし」感がまた不安を誘います。個人的には中盤あたりが一番ぞわっときました……。 一応ラノべレーベルから出ていますが、この作品には「ジュブナイル」という言葉が似合う気がします。雰囲気的には、乱歩の少年探偵団シリーズに近いかも。

    3
    投稿日: 2015.04.30
  • つれづれ、北野坂探偵舎 感情を売る非情な職業

    つれづれ、北野坂探偵舎 感情を売る非情な職業

    河野裕

    角川文庫

    小説家を目指している人にもオススメ

    シリーズ第4弾となる本書は、雨坂や佐々波の過去を描いた番外編的な作品となっています。ただし、プロローグとエピローグではシリーズを通しての重要な謎にも触れられているので、読み飛ばしは厳禁です。 物語の軸となるのは、当時現役の編集者だった佐々波とその恋人・萩原との関係。「萩原はなぜ死んだのか」というのが今回解かれるべき謎です。 その謎は例によって雨坂が解いてくれるのですが、本書の読みどころはそれだけではありません。個人的にとても興味深かったのが、佐々波の編集部が主催する「はやて文学賞」の選考風景です。もちろんこれは架空の賞ですし、実際の文学賞でこういう(ある意味不公平な)選考が行われているかどうかはわかりません。ただ、小説の構成や文体についての指摘はなるほどと思うことばかりで、小説家を目指す人にも役立ちそうだと感じました。佐々波の後輩・工藤(女性です)の熱いキャラにも好感が持てます。 それにしても、雨坂の小説は作中作かなにかで読ませてもらえないものでしょうか。あまりにも面白そうなので……。

    6
    投稿日: 2015.04.20
  • 異人館画廊 贋作師とまぼろしの絵

    異人館画廊 贋作師とまぼろしの絵

    谷瑞恵,詩縞つぐこ

    集英社オレンジ文庫

    読むと絵画を語りたくなるかも

    絵画ミステリシリーズ第2弾。1巻はコバルト文庫から出ていましたが、今回からオレンジ文庫にレーベルが移りました。そのせいか、一通りの設定についてはおさらい的な記述が加えられていて、この2巻からでも話についていけるようになっています。もちろん、1巻から読むに越したことはありませんが……。 今回も千景と透磨は言い争ってばかりいます。それでも、言葉の裏に隠された想いを知ると、とげとげしい台詞さえ愛のささやきに聞こえてくるから不思議。気づいてないのは本人たちだけだったりして……? 本シリーズの魅力の一つは、ストーリーを楽しみながら、西洋絵画にまつわる知識を自然と身につけられる点です。この2巻でも16世紀の画家・ブロンズィーノや死の舞踏(ダンス・マカブル)といったキーワードが登場し、とても興味深く読みました。 懸命に絵の意味を読み解こうとする千景の姿勢には、絵画への愛が感じられます。

    4
    投稿日: 2015.04.16
  • バチカン奇跡調査官 原罪無き使徒達

    バチカン奇跡調査官 原罪無き使徒達

    藤木稟

    角川ホラー文庫

    クスリと笑えて心洗われる日本編

    シリーズ10冊目(長編としては9冊目)の舞台は日本! 平賀&ロベルトが熊本の天草にやってきます。おなじみの奇跡調査に、カソリックの歴史だけでなく、ラフカディオ・ハーンの怪談や妖怪油すましといった日本的なモチーフが絡んでくるのが面白いと感じました。 今回の「奇跡」は、無人島に浮かび上がるキリスト像という、かなり謎めいた代物です。こんなの解明できるの?と思っていましたが……さすが神父コンビ、見事にやってくれます。真相が明らかになる終盤は、毎度ながら感心しっぱなしでした。 血なまぐさい場面の多い本シリーズですが、今回はそういったものがほとんどありません。むしろ心洗われるようないい話で、驚いたくらいです。ホラーとしては弱いかもしれないけれど、個人的にはかなり好みでした。宿の主人に翻弄される2人の様子に、ついつい笑ってしまったり……。 読むだけで涎が出そうなロベルトの料理シーンも見逃せません。

    5
    投稿日: 2015.04.07
  • 孤独の価値

    孤独の価値

    森博嗣

    幻冬舎新書

    孤独じゃないと本も読めない

    『すべてがFになる』などの作品で知られる森博嗣が、孤独について論じた1冊。 本書において著者は、孤独は悪いことじゃない、むしろ人間にとって必要なものだ、と語ります。本好きなら、この主張にきっと共感することでしょう。本を読むときは、たいてい1人きりで読むものです。誰かと話しながら読んでも、内容が頭に入らないのではないでしょうか。私も本好きの1人なので、「孤独(=1人の時間)は必要」という著者の意見はごく納得できるものでした。 その一方で、「孤独」という言葉についついネガティヴな印象を抱いてしまうのも確かです。本書の中でいちばん刺激的だったのは、人はメディアによって子供のころから「孤独は悪い」と思い込まされている――という部分。普通の人が書かないことをきっちり書いてくれるあたり、さすが森博嗣だなと思いました。 余談ですが、「第5章 孤独を受け入れる方法」に出てくる「無駄なこと」の内容が具体的で面白かったです。

    12
    投稿日: 2015.03.29
  • 異人館画廊 盗まれた絵と謎を読む少女

    異人館画廊 盗まれた絵と謎を読む少女

    谷瑞恵,詩縞つぐこ

    集英社コバルト文庫

    ケンカするほど仲がいい?

    「死を招く絵画」の謎をめぐり、若き図像学者とSな画商が活躍する絵画ミステリ。絵画がテーマといっても、小難しい解説などはなく、美術の知識がなくても十分楽しめます。 ヒロインの千景(19歳)は天才的な図像学者です。比較的気が強く、画商の透磨とは言い争ってばかりですが、ときどきズレた発言をするのが可愛い(英国暮らしが長かったせい)。対する透磨は千景を手の上で転がして遊んでいるように見えますが……本当は転がされているのは透磨のほうだったりして。二人の仲間である「キューブ」のメンバーも、それぞれの個性で話を彩ってくれます。 なにより面白かったのは、呪いの絵画に使われている図像術(図像学の応用)という技法です。ちょっとオカルトめいてはいますが、そこを含めてとても魅力的に感じました。

    5
    投稿日: 2015.03.29
  • はるがいったら

    はるがいったら

    飛鳥井千砂

    集英社文庫

    ハルはなんにも言わないけれど

    両親の離婚で離れて暮らす姉弟が、年老いた愛犬・ハルの介護をする話。ハルは基本寝たきりでなにをするわけでもありませんが、タイトル含め、この物語には欠かせないキャラとなっています。人はペットを鏡にして自分を見るのかなあ……なんて思ったり。 著者は女性なので、行(弟)が語り手を務める部分は男性には甘く感じられるかもしれませんが、そのぶん姉・園の一人称には女性ならではの鋭い観察眼が生きています。 必ずしもいい人ばかりではないけれど、読み進めるうちに好きになるキャラも多かったです。主役の姉弟には特に愛着が湧いたというか、なんか無性に心配になりました。超完璧主義の園も生きにくそうだけど、高校生なのに妙に悟っちゃってる行もなあ……。 そんな停滞ぎみの空気が一気に変わる後半は、読んでいてすがすがしく感じました。

    2
    投稿日: 2015.03.18
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