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ツクヨミさんのレビュー
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  • ココロ・ファインダ

    ココロ・ファインダ

    相沢沙呼

    光文社文庫

    自分が見ている自分、他人の目に映る自分

    同じ高校の写真部に所属する少女4人を描いた連作短編集。1編ごとに主役が交代し、主役となった子の一人称で話が進む作りになっています。ジャンル的には一般小説なのでしょうが、どの話にもなんかしらの「謎」が登場するため、ちょっとだけミステリっぽさを味わえます。 4人=4つの物語にはその子その子の個性が出ていて、女子高生もいろいろだよなあ……と感じました。個人的には、シズとカオリの話が特に好きです。 どの子も、自分の話に主役(語り手)として出てくるときと、ほかの子の話に脇役として出てくるときでは印象が少し違って見えるのですが、それは「自分が見ている自分」と「他人の目に映る自分」とのギャップなのかもしれません。 4人それぞれのやり方で写真と向き合う姿に、読んでいるこっちまでカメラを触りたくなってきました。

    3
    投稿日: 2015.03.18
  • 灰と幻想のグリムガル level.5 笑わないで聞いておくれよ

    灰と幻想のグリムガル level.5 笑わないで聞いておくれよ

    十文字青,白井鋭利

    オーバーラップ文庫

    ちょっと寄り道?

    シリーズ第5巻。前巻のラストからは少し時間が経っているようで、いきなりキャラが成長していて驚きました(装備とかスキルとか、そういう意味で)。 今回の話のメインとなるのは、他パーティとの交流(?)です。正直、個人的にはちょっと予想外の内容でした。前巻の流れからいってもっと壮大な展開を期待していたので、「あれ? ここにきて寄り道?」と……。手に汗握る戦闘シーンは健在だし、伏線になりそうな部分もちらほら見受けられるのですが、できればもう少し盛り上がり(設定につながる話とか)がほしかった。ここまで面白く続いてきただけに、よけいにそう思います。 評価を★3にしようか迷ったのですが、ゾディアックん(ランタの使い魔)がいつも以上にいい味出してて面白かったので★4で。この5巻が寄り道ではなく、今後の物語を左右する大きな伏線だった……みたいな展開だったら嬉しいのですが。

    3
    投稿日: 2015.03.10
  • ホーンテッド・キャンパス なくせない鍵

    ホーンテッド・キャンパス なくせない鍵

    櫛木理宇,ヤマウチシズ

    角川ホラー文庫

    こよみに身悶え

    シリーズ第7弾。季節は冬(年末~2月)とあって、雪国ならではの寒そうな描写が目立ちます。積雪とか、白い息とか、黒沼部長の着膨れ(?)とか……。 今回収録されているのは、絵画サークルのメンバーが描いた不気味な絵の話、人を迷わせ自分の元へと誘い込む街灯の話、なにかの気配につきまとわれる大学職員の話、人から人へ伝染する首吊りの話、の全4話(+プロローグ&エピローグ)。 特に好きなのは、第1話「嗤うモナリザ」と第4話「夜に這うもの」です。第1話はホラーとして印象深かったからですが、第4話は怪異がどうこうというより、こよみの言動にすべて持っていかれた感じでした。ほんと、どんどん可愛くなるなあ。 余談ですが、ときどき描かれる森司の食事風景にも癒されます。安上がりだけど美味しそうで……。

    7
    投稿日: 2015.03.04
  • 知らない映画のサントラを聴く(新潮文庫nex)

    知らない映画のサントラを聴く(新潮文庫nex)

    竹宮ゆゆこ

    新潮文庫nex

    ハチャメチャなのか計算なのか

    無職女子とコスプレ男子が突っ走る謎のラブコメ。無職女子は便所サンダル愛用、コスプレ男子は(「男の娘」とかじゃなく)普通に変態系のコスプレで、2人とも20代です。 尖っているのはキャラだけではありません。ストーリーはストーリーで、かなりハチャメチャな感じに進みます。すでにプロローグの時点で「どうなるのこれ?」という感じでしたが、結局、ラスト近くになるまで展開が読めませんでした。これを計算で書いているとしたらすごい。 コメディらしい笑いの中にも、鋭い棘や温かさが感じられ、読後感もとてもよかったです。単なるラブコメにとどまらない、広がりのある作品だと思いました。

    8
    投稿日: 2015.02.26
  • GLASS HEART グラスハート

    GLASS HEART グラスハート

    若木未生,藤田貴美

    バーズノベルス

    透き通った音楽が聴こえてくるような

    『ハイスクール・オーラバスター』『イズミ幻戦記』の著者による音楽系青春小説。女子高生ドラマー・朱音が天才音楽家・藤谷のバンドに誘われ、プロミュージシャンとしての道を歩きだします。 もともとコバルト文庫で出ていたシリーズですが、最終巻はバーズノベルスから刊行され、その後既刊も同ノベルスから書き下ろしつきの「新装版」として出し直されました。本書は新装版の1巻に当たり、以下、『嵐が丘』『いくつかの太陽』『熱の城』『イデアマスター』と続きます。 数多くの短編・中編からなる本シリーズには著者の新人賞受賞作である「AGE」も収められています(『いくつかの太陽』に収録)。そういう意味では、著者の原点といえるシリーズかもしれません。 ただ、気をつけなければならないのは、ほかの若木作品に比べて文体のクセが強いことです。本シリーズは一人称形式を採っているのですが、エキセントリックな人物が多いせいで、語り手となる人物によってはそのノリについていきにくい部分があります。独特な思考回路がそのまま文章になっているというか……。とはいえ、読み慣れると「この文体じゃなきゃ!」と思えてくるので不思議です。 万人向けではないと思うので星を一つ減らしましたが、個人的には中高生のころにものすごく影響を受けた作品です。

    5
    投稿日: 2015.02.22
  • 悪魔交渉人 2.緑の煉獄

    悪魔交渉人 2.緑の煉獄

    栗原ちひろ,THORES柴本

    富士見L文庫

    変人大集合

    人間&悪魔のコンビが活躍するオカルトミステリシリーズ第2弾。1巻は序章的な意味合いもあり、晶と音井の関係(出会い含め)が丁寧に描かれていたりしましたが、この2巻では彼らの仕事を中心に物語が進みます。悪魔交渉人・晶の本領発揮という感じでしょうか。 2人の行動範囲も広がり、登場する悪魔もパワーアップ、建築家・新田をはじめとする新キャラも個性的な人ばかりです。そもそもこの作品は音井(悪魔のほう)からWMUA職員まで変人ぞろいといってもいいのですが、今回の最強はやはりジローラモでしょう。イラストはなくても、頭の中にくっきり姿が浮かびました……。 さまざまな組織の思惑が絡み合う重層的な構成も、本シリーズの魅力だと思います。

    2
    投稿日: 2015.02.13
  • 人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか(新潮新書)

    人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか(新潮新書)

    森博嗣

    新潮新書

    抽象的思考がくれる自由

    『すべてがFになる』(S&Mシリーズ)などで有名な著者が書いた、「抽象的思考」のススメ。具体的であることを求められがちな世の中で、あえて抽象的に思考することの大切さを教えてくれます。本書の考えでいくと、こうしてレビューを書くことは抽象化ではなく具体化になってしまうとのことですが……ほかの人にも読んでほしいので、感じたことをちょっとだけ書きます。 読後いちばんに思ったのは、「抽象的思考って自由をくれるんだ」ということ。現代人は具体的なことにとらわれすぎている、と著者は言うのですが、確かにそうだなあ……と。ものごとを抽象的にとらえれば、もっと楽に、柔軟に生きていけるのかもしれません。 本書は「こうすれば抽象的思考ができる」という具体的方法を示すものではありませんが、そのヒントになりそうなことはいくつか提示されています。すぐに変えることは難しくても、毎日意識することで少しずつ身につけていければなあ、と思います。 どちらかというとネガティヴなイメージ(「曖昧」とか)のあった「抽象的」という言葉を、この上なくポジティヴに感じさせてくれる1冊でした。

    7
    投稿日: 2015.02.05
  • 思い出のとき修理します3 空からの時報

    思い出のとき修理します3 空からの時報

    谷瑞恵

    集英社文庫

    あったかいけど甘くない

    シリーズ第3弾となる本書では、突然現れた明里の恋のライバル&明里の家族事情を中心にストーリーが進みます。2巻にも明里の妹が登場しましたが、今回は親も含め、より深く突っ込んだところまで描かれています。個人的には恋愛よりも家族の話のほうが胸に沁みました。 毎度ながら感じるのは、じんわりとしたあたたかさに満ちた物語だということ。でも、ただあたたかいだけではありません。こじれたままの人間関係や、忘れたくても忘れられない記憶など、人が持つ負の面をきちんと描いた上で、それでもまだ希望の光を見せてくれる。安易に甘い展開に持ち込まないというか、いい意味で「フィクションらしくない」ところが魅力です。 それにしても、津雲神社と太一の謎は深まるばかりですね……。

    2
    投稿日: 2015.01.26
  • 永遠の森 博物館惑星

    永遠の森 博物館惑星

    菅 浩江

    ハヤカワ文庫JA

    技術は進歩しても……

    惑星丸ごと博物館!という小さな惑星を舞台に、学芸員・田代の悩める毎日を描いた連作短編集。脳外科手術を受けた「直接接続者」である田代は、専用のデータベースコンピュータを呼び出すことで、頭に浮かんだイメージをそのまま検索にかけることができます。キーボードやタッチパネルがいらないのはもちろんですが、声を発する必要さえありません。スマホで音声検索、なんてのは今でもありますが、本作に出てくる技術はそれよりもずっと高度です。 しかし、直接接続者なら仕事もサクサク進むというわけではないようで……。各部門の調停作業に追われたり、面倒事を押しつけられたりと、田代は基本、損な役回りばかりです(そこが愛しく思えたりするのですが)。技術がどれだけ進んでも、人がやらなきゃいけないことってあるんだろうなあ、としみじみ思いました。 全体的に会話が面白く、外国人のジョークなんかも非常にリアルに感じました(ユーモアと「寒い」の境界線!)。収録されている9編はどれも好きなのですが、特に印象的だったのは「夏衣の雪」と「抱擁」です。

    6
    投稿日: 2015.01.20
  • 夜の床屋

    夜の床屋

    沢村浩輔

    東京創元社

    意外すぎる!?着地点

    男子大学生・佐倉が語り手を務める連作短編集(全7編)。タイトルやあらすじから、いわゆる「日常の謎」系ミステリなんだろうなー、と思って読みました。実際、前半3編(「夜の床屋」「空飛ぶ絨毯」「ドッペルゲンガーを捜しにいこう」)はそんな感じで、深夜に突然営業を始める床屋の謎、住人が寝ているあいだに盗まれた絨毯の謎、廃工場に住むドッペルゲンガーの謎を解き明かしていきます。1編1編を取っても、ミステリとして綺麗にまとまっているように感じました。 印象が変わってきたのは、4編め(「葡萄荘のミラージュⅠ」)からです。そこからラストの「エピローグ」まで一気に読んで、その着地の仕方に驚きました。なんかいろんな意味で「やられた!」というか……。賛否両論あるとは思いますが、個人的には歓迎できる離れ業でした。

    10
    投稿日: 2015.01.13
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