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ツクヨミさんのレビュー
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  • リッターあたりの致死率は THANATOS

    リッターあたりの致死率は THANATOS

    汀こるもの

    講談社ノベルス

    ほろ苦い余韻

    シリーズ第4弾。前巻(『フォークの先、希望の後』)に引き続きジャンル分けしづらい話ですが、誘拐事件をテーマにしているぶん、多少ミステリっぽさが戻ったかもしれません。 ちなみに誘拐されるのは美樹。アクアリストの彼は、監禁先でも恒例のお魚蘊蓄を喋り散らします。毎回話の雰囲気は変わってもお魚ネタは欠かさず登場しているので、別名「アクアリスト」シリーズと呼んでもいいかと……。 基本的に、誘拐された美樹を含む犯人サイドと、それに対抗する警察サイド(真樹含む)との往復で話が進むため、あまり派手な動きはありません。それでも飽きずに読めるのは、美樹の蘊蓄の巧みさと、真樹のはっちゃけた性格のおかげでしょうか。真樹は美樹とは違った意味で恐ろしい少年です……。 彼ら双子の複雑な境遇については毎回考えさせられるものがあるのですが、今回は特に美樹が痛々しく感じられてなりませんでした。バッドエンドとはいえないものの、読後もほろ苦い余韻が残ります。 これはフィクションですが、現実に起きる事件の一つ一つにも語られないドラマがあるのかな、と想像したりしました。

    3
    投稿日: 2015.08.19
  • 少女は夏に閉ざされる

    少女は夏に閉ざされる

    彩坂美月

    幻冬舎文庫

    すべての「少女」に共感してしまう

    夏休み中の高校で、寮に残った女子生徒たちが事件に巻き込まれるパニック系ストーリー。殺人教師に追いかけられたり、また別の危険に襲われたりと、息をつかせぬ展開に心地よいスリルを感じました。 出てくる女子生徒たちはそれぞれ違った個性を持っているので、人数が多くても混乱することなく読めます。中にはクセの強い子もいますが、どの子にも多かれ少なかれ共感できる部分がありました。たぶん、一人一人の抱える事情(過去など)が丁寧に描かれているからでしょう。特に海の過去エピソードには、読んでいて切なくなるものがありました……。 怖すぎない程度のスリルに加え、爽やかな読後感も魅力です。七瀬と久美との関係に、「青春っていいなあ」と思いました。

    4
    投稿日: 2015.08.09
  • ミステリなふたり

    ミステリなふたり

    太田忠司

    幻冬舎文庫

    サクッと読める安楽椅子探偵モノ

    女性刑事とその夫のコンビが活躍する連作短編集。事件現場で捜査するのは刑事である妻・景子ですが、推理の要はイラストレーターの夫・新太郎。いわゆる安楽椅子探偵として、自宅で謎を解いてしまいます。 1編1編が比較的短いので(全10編)、細切れに読んでも以前の内容を忘れることなく楽しめます。最後の1編(「ミステリなふたり happy lucky Mix」)の仕掛けにも見事に騙されました。主役の2人がやたらとイチャイチャするところが個人的には好きではありませんでしたが、連作ミステリとしては綺麗にまとまっていると思います。 余談ですが、家事もこなす新太郎が作る料理はどれも美味しそうで、読んでいてお腹が空きました……。

    2
    投稿日: 2015.07.31
  • フォークの先、希望の後 THANATOS

    フォークの先、希望の後 THANATOS

    汀こるもの

    講談社文庫

    ミステリじゃなくなったけれど

    シリーズ第3弾。2巻まではかろうじてミステリだったのですが、ここに来てジャンル不明の作品に……。語り手もいつもの高槻じゃなかったり、登場人物表の説明が「謎の~」(例:立花真樹/謎の高校生)ばかりだったりと、いろいろとイレギュラーな感じです。 しかし、ジャンルなどわからなくても、面白いものは面白い! 語り手である彼方(肺魚好きの美大生・女)の恋をはじめ、いろいろな要素や各人の思惑が絡み合いながら進むストーリーに、「いったいどこに行き着くんだろう?」と引き込まれるように読み進みました。途中、切なくなる展開もありましたが、ラストは別の意味でちょっと泣きそうに……。誰かを想う気持ちってすごいなあ、と思ってしまいました。 もしかしたらこの作品は、一風変わったラブストーリーなのかもしれません。

    3
    投稿日: 2015.07.21
  • 真夜中の探偵

    真夜中の探偵

    有栖川有栖

    講談社文庫

    探偵ソラ、始動

    「探偵ソラ」シリーズ第2作。時系列的には1作目(『闇の喇叭』)の続きに当たり、前作を読んでいないとわかりづらい部分もあるのでご注意ください。 本書では、純が本格的に探偵活動を始めます。舞台は大阪に移り、登場人物もガラリと入れ替わりました。ディストピア的な世界は相変わらずですが、1巻より本格ミステリ度がアップしたぶん、重苦しい場面は少なくなったように感じます(個人的には歓迎!)。 いちばんの読みどころは、謎の溺死事件に対する純の推理でしょう。探偵=違法な世界で、彼女が一人の探偵として歩みだす瞬間です。推理以外の面ではまだまだ未熟な部分も多いものの、それも可愛さの一つかと……。某警視がいかにもな悪役なので、純の真っすぐさがなおさら引き立って見えました。

    6
    投稿日: 2015.07.11
  • バチカン奇跡調査官 独房の探偵

    バチカン奇跡調査官 独房の探偵

    藤木稟

    角川ホラー文庫

    ローレンって、ローレンって……

    シリーズ11冊目(短編集としては2冊目)。本書単独でも読めないことはないですが、本編のネタバレになっていたり、前の短編集(『天使と悪魔のゲーム』)と話がリンクしていたりするので、できれば1巻から順に読んだほうがより楽しめると思います。 「シンフォニア 天使の囁き」……平賀の弟・良太を主人公にした話。良太の名前は本編にもよく出てきますが、実際の彼はいい意味で想像と違っていました。なんとなく、この話の内容は今後本編にも影響してきそうな感じです。 「ペテロの椅子、天国の鍵」……サウロ大司教と法王の対話を中心とした話。ほかの3編に比べると地味でお堅い印象ですが、これぞカソリック!という雰囲気を味わうにはいいと思います。 「魔女のスープ」……平賀とロベルトがある女性と一緒に魔女のスープを作る話。いかにも怪しげなレシピ(「黒焼きのムカデ」とか書いてあるんですよ!)を、大真面目に再現しようとするところが凄い。個人的には、本書の中でいちばん好きな作品です。 「独房の探偵」……少年時代のローレンを描いた作品。もう最初から最後まで驚きっぱなしで、「ローレンって、ローレンって……(以下エンドレス)」という感じでした。プロファイラーのフィオナもかなりの変わり者といえるでしょう。2人に振り回されるアメデオ(国家治安警察隊所属)の混乱っぷりが楽しかったです。 分量としては少なめでさらりと読めてしまったのですが、本編への期待を高めてくれるいい短編集でした。

    4
    投稿日: 2015.07.04
  • 海のある奈良に死す

    海のある奈良に死す

    有栖川有栖

    角川文庫

    火村シリーズ×トラベルミステリ

    火村&アリスシリーズの第3長編。トラベルミステリ風味の本作では、事件の調査のため、火村とアリスがちょっとした旅に出かけます。実在する施設や名所がわんさか登場するので、読み終えたあとは実際に自分の足で巡ってみるのもいいかもしれません。 表紙からもわかるように、本作では人魚が重要なモチーフとなっています。物語のあちこちに登場する「人魚」が互いに絡み合い、独特な雰囲気を生み出しているように思えました。 ただし、ミステリとして現在も通用するかは微妙なところです。使われているトリックは、今読むとイマイチ納得がいかないような……。単行本版の初版が1995年なので、仕方がないとは思いますが。 とはいえ、2人が旅する場面が楽しい作品でもあるので、本シリーズのファンなら読んで損はないと思います。

    7
    投稿日: 2015.06.27
  • ソルティ・ブラッド ―狭間の火―

    ソルティ・ブラッド ―狭間の火―

    毛利志生子,田倉トヲル

    集英社オレンジ文庫

    現実寄りの吸血鬼モノ

    若き女性刑事が吸血鬼の青年とともに放火事件の謎を追う話。吸血鬼というとファンタジーのイメージがありますが、この作品の場合はちょっと違います。メインはあくまでも事件の捜査なので、あえてジャンル分けするなら、ファンタジー要素を加えたライトミステリといった感じでしょうか。 とはいえ、決してほのぼのした話ではありません。事件の真相は楽しいものではないし、主人公のアリス自身も重い過去を抱えていたりします。でも、アリスが捜査に一生懸命になるのはまさにその過去があるからで、そう思うと突っ走りすぎなほどに頑張る彼女が愛おしく感じられました。 吸血鬼についてはまだ謎も多いですが、シリーズ化したらいろいろ明らかになってくるのでしょう。個人的には吸血鬼の彼がやっている「計画的な血の飲み方」がツボにハマりました……。

    5
    投稿日: 2015.06.20
  • 犯罪者プロファイリング ――犯罪を科学する警察の情報分析技術

    犯罪者プロファイリング ――犯罪を科学する警察の情報分析技術

    渡辺昭一

    角川oneテーマ21

    天才プロファイラーはいなくても

    実際の犯罪捜査でプロファイリング技術がどう利用されているかがわかる本。ドラマとかだと、天才プロファイラーが出てきて華麗に事件を解決しちゃったりしますが、現実のプロファイリングはあくまでも警察の捜査を支援する技術とのこと。FBIの面接調査は比較的ドラマに近い部分があるものの、イギリスや日本で行われているような統計的手法はどうしても地味な印象を受けます。 とはいえ、その地味な手法が的確な犯人像を導き出すのだからすごい。本書で取り上げられている北海道警察特異犯罪情報分析班の事例には、ただただ感心するばかりでした。日本でもこうやって実際の事件にプロファイリングが適用されているんだなあ……と。本書の初版(紙版)が平成17年ということを考えると、現在はさらに進歩していることでしょう。 興味本位で読むには文体がとっつきにくく(論文か報告書みたいな感じ?)、繰り返しがやや多いので評価を少し下げましたが、現実のプロファイリングを知ることができる貴重な1冊だと思います。

    4
    投稿日: 2015.06.11
  • まごころを、君に THANATOS

    まごころを、君に THANATOS

    汀こるもの

    講談社文庫

    チャラい真樹のチャラくない話

    シリーズ第2巻。1巻では双子の兄・美樹がいろいろな意味で目立っていましたが、今回は弟の真樹を中心とした物語になっています。舞台は真樹が通う高校、登場人物の多くは生徒と教師です。さらには部活や文化祭といった学生特有の活動・行事まで盛り込まれるため、前巻とは雰囲気的にかなりのギャップを感じました。「孤島の連続殺人事件」から、「文化祭でハムレット」なので……。 しかし、舞台設定こそほのぼのしているものの、事件の規模や物語としての重さは1巻よりも断然上です。いろいろと考えさせられる話で、特に真樹と犯人との会話シーンは読んでいて胸が痛くなりました。なにかとチャラい真樹ですが、彼が今の彼になるまでには長い道のりがあったんだろうな……と。 今回、美樹は真樹ほど活躍しませんが、アクアリスト(水棲生物飼育者)として相変わらずの暴走ぶりを見せています。通常営業で苦労しまくる高槻刑事には、もう同情の言葉しか出てきません……。

    6
    投稿日: 2015.06.02
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