
3月のライオン 5巻
羽海野チカ
ヤングアニマル
勝負の世界よりも残酷な現実
厳しい棋士の世界と、あたたかい川本家とのやりとりのバランスで成り立っていたと思っていた物語の構造が大きく崩れる第 5巻。 ある意味で、ルールが明確な勝負の世界よりも残酷で救いのない”いじめ”を正面から描いており、胸が張り裂けそうになります。 確かだと思っていたものが足元から崩れていくのに、対処療法しか見つからずどんどん物事が悪化していく様子は、絶望的な気分になり、本当につらい。 羽海野チカさんの作品は本作が初めてで、「なんか少女マンガみたいなかわいらしい絵を書く人」というくらいの印象だったのですが(失礼)、 本巻を読んで私は白旗を上げました。 すさまじい本気がこもった作品です。この作家は、本物です。
8投稿日: 2014.02.10
プラネテス(1)
幸村誠
モーニング
驚異の画力で迫る傑作SF
デビュー作とは思えない驚異の画力。 フィクションであるがゆえに、むしろSFに必要なリアリティが圧倒的で、ぐいぐいと物語に引き込まれる。 「かっこいいエリート宇宙飛行士」の話ではなくて、デブリ(宇宙ゴミ)回収業者の一社員という設定の主人公「ハチマキ」が宇宙を舞台に夢に向かって突き進み、苦しみながら前に進んでいく様は、自分と重なって、読む手が止まらなくなる。
4投稿日: 2013.12.16
監獄学園(1)
平本アキラ
ヤングマガジン
確かな画力に吹き出す青春エロバカ真剣コメディ
タイトルと書影、ヤンマガ連載ということもあり、なんとなくバカでエッチなよくあるマンガだと思ってました。 その割に各地で評判がよく、絵もうまそうだったので試しに読んでみると、一気に最新刊まで読みつくしてしまった。 どこかで見たことある男子向けコミックの定番の「女子風呂のぞき」から始まったかと思えば、いきなり監獄に入れられ、女王様キャラの裏生徒会副会長に踏みつけられることに快感を覚えたり、偶然女子のトイレシーンを見てしまったりと、1巻目だけでもいろいろ出てきて飽きさせない。 エッチな描写は(あまり)下品さがなくて、なんというか、女子が見ても笑える感じ。 ただのバカなコメディかと思いきや、脱獄に至るまでの状況の変化に臨機応変に対応していく(そこそこ)複雑なパズル的なストーリー、男同士の友情や裏切り、結束していく姿など、青春ものの描写、男という生き物のばかばかしいまでの性欲に対するサガ、それにとまどう女子の過剰反応という性についてのもやっとした箇所を高度な笑いに高めていく(そしてちゃんとエロい)技術力と、実はマンガとしての総合力はかなり高い。 ローファイなゆるいヘタウマ系のギャグ漫画とは一線を画した、確かな画力のせいで思わず吹き出してしまうところ多数。 学長のダンディさと南米美女の尻にかける情熱のギャップ、放置プレイに極度に弱いアンドレのドM、オタクなのによく考えるとかなり行動力のあるガクトなど、巻を重ねるごとに魅力を増すキャラにも目が離せなくなってきた。 案外、数年後でもギャグ漫画の名作として語られているのではないかなぁ。 稲中が好きな人は間違いなく笑えます。
1投稿日: 2013.11.25
アドルフに告ぐ(1)
手塚治虫
手塚プロダクション
手塚治虫後期、社会派の最高傑作
手塚治虫の代表作というと火の鳥や鉄腕アトム、ブラックジャックなどがまずイメージされるのが一般的だが、本作もそれに負けない傑作。 コミック誌でない週刊文春に連載されていたこともあり、社会派な作品で、時代のうねり、人生のままならなさ、複雑でパズルのように展開される人間関係と、大人を唸らせる手塚治虫後期の真骨頂が味わえる。 70年代の作品の奇子、きりひと賛歌などのエロ・グロの濃いものとは異なり、三人の主人公による卓越したストーリーテリングを中心とした作風は、浦沢直樹の「モンスター」を思わせ、先を読ませない。 火の鳥はSF、ファンタジー、歴史ものの要素が濃いが、こちらは現代を舞台にした社会派作品のなかでは手塚治虫の最高傑作だと思う。 しっかりしたコミックを読みたい方はぜひ。間違いないです。
5投稿日: 2013.11.09
七つの大罪(4)
鈴木央
週刊少年マガジン
アクションアクションアクション!からのラブ(まさかの)
七つの大罪も4巻目、ということでこれまでのパターンとは違い、明らかに主人公たちより強い敵「聖騎士ギーラ」が初めて出てきます。 2巻~3巻の敵が、卑劣な手やトリックで攻めてきたのに対して、戦闘で純粋に強いガチなタイプ。 しかも、主人公たちの技を知り尽くしていて、明らかに劣勢。 圧倒的な強さを誇る聖騎士ギーラの前に、どうなるやら・・・ というアクション盛りだくさん、驚きも盛りだくさん、な巻で相変わらずハイテンションで面白いですが、 本巻は、巻末の番外編にやられました。 まさかの一番縁のなさそうな「強欲の罪のバン」のピュアなラブストーリー。 短編だけど大事な部分がしっかり書かれていて感情移入しました。 しかも巻の前半で「?」だったセリフの回答になってる。 やっぱり鈴木央(なかば)というこの漫画家、マンガ超うまいです。
3投稿日: 2013.10.30
七つの大罪(3)
鈴木央
週刊少年マガジン
仲間ってどこかに尊敬がある
口先やうわべではない、人が人を認める瞬間が描かれていて、ぐっときました。 ひとつ冒険を乗り越えて結束した仲間となる過程は胸が熱くなります。 アクションだけでなくて、戦いの後の宴の描写もとてもいい。 かっこいいアクションやかわいいキャラだけでなくて、友情の描写(それも、男と男ではなく女と女の友情!)を通して、 このマンガの懐の深さを感じられる巻です(ただし1巻から読むべきです)。 おすすめ。
9投稿日: 2013.10.28
十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。
遠藤周作
新潮社
人のこころをつかむとは
この本は遠藤周作死後に見つかったエッセイだが、不思議と、現代のコミュニケーションに苦しむ人が欲しかった答えが書いてある。 人のこころをつかむとはどういうことか。 就職の面接や、仕事でのお客様との対応、好きな異性への気持ちの伝え方など、人生のあらゆる面で遭遇する、人と人とのコミュニケーションの具体的な事例がでてくる。ずばり解決方法を提示してくれるのではないけれど、示唆に富んだアドバイスを与えてくれる。 私は、文章表現範囲でのきれいな言い回しとか、かっこつけた言い方とか、俳句の季語的な教養の話かと思って本書を手に取ったのだが、そういう発想自体が浅はかだった。 そういう、自分の中に閉じた考え自体が、「伝わらない」ことの根本であって、本当に人にこちらが言いたいことを伝えるには、「伝わらないかもしれない」恐怖を胸に秘めつつ、それでも相手に「私はあなたのことが大事だと思っている」ことを、言葉ではなく、行動で示し続けることが肝要だと説いているように私は読んだ。 ずばり言い切り型で明快な答えで書いていないことが、むしろ、 コミュニケーションの本質とは、人それぞれ、場所それぞれで、こころの持ち様くらいしか他人から教えてもらえないのだといわれているようで、その点も深みがあってとっても勉強になった。 本自体は長いものではなく、文章も軽快なのに得るものは多い。 おすすめです。
2投稿日: 2013.10.07
マギ(18)
大高忍
少年サンデー
特別な人間「魔道士」と統率された個の力のぶつかり合い
前巻で開戦した戦争がまるまる1巻続きます。 突出した魔道士の力で戦う魔法大国マグノシュタットと、統率された個人と科学の力で戦う軍事大国レーム。それぞれの正義をぶつけ合いながら、大量の死者を出していきます。 互いに死力をつくし、シーソーゲームのように戦況が入れ替わるスリルは、バトルものとして純粋に面白い。 ではあるが戦争の悲惨さもにじませならが書かれるのは本作ならではといったところ。 主人公アラジンがその戦況を左右する”マギ”の力を久々に開放するのだが・・・・という展開なのですが、それだけでも終わらず、さらに先があり、非常によく練られた展開にうなります。 個人的に、アラジンが「風の谷のナウシカ」に重なりましたが、ナウシカとは違い、アラジンは特別な力をどう使っていくのか、先が気になります。
0投稿日: 2013.10.02
マギ(17)
大高忍
少年サンデー
幸せな食卓が引き起こす戦争という矛盾
表紙の美味しそうな食事、楽しげな食卓が本巻を象徴しています。 誰もが当たり前に望むことができるはずの、幸せな食卓、美味しい食事のシーンがあるからこそ、その後の悲痛な状況に強く感情を揺さぶられ、何回読んでも涙が止まらなくなります。 さらに発展して行く愛があるが故の開戦…と、それぞれの正義とその背景を丹念に書きながら進んでいく物語には、どこかに軸足を置いて読むことを許さず、大人でも唸ってしまう骨太な歴史や文化の衝突を見て取らざるを得ません。 それにしてもマグノシュタット校長の聖と濁の描写は、よく少年誌でこの魔道士と非魔道士の差別という重いテーマを正面から捉えたなぁ、と衝撃を受けました。差別主義の悪魔のような側面と、心優しい父親のような側面が凝縮されていて、好きになっていいのか判断に迷います。
2投稿日: 2013.10.01
七つの大罪(1)
鈴木央
週刊少年マガジン
ここ数年で読んだ少年漫画で1位か2位
少年漫画の持つみずみずしさとわかりやすさ、勢いのある絵、キャラクター、心奪われる演出。 もうやりつくされたと思っていた少年バトルマンガのパターンを踏まえつつ、軽やかに超えつづける(といってもまだ数巻だけど)七つの大罪。 某マンガに絵が似てるといった批判も聞くがそんなことはお構いなしに、作画のすばらしさに感動してしまった。 第1話の主人公を探して逃げてきた姫様エリザベスが追い込まれていく見開きのシーンの構図は、少年マンガの魅力が詰まっていて、作者のマンガ家としての腕にやられます。 ストーリーもめちゃくちゃなようで伏線や強さのインフレを計算しながら進んでいる感じで、安心して長く楽しめそう。 次第に魅力を増していくキャラクターたちには目が離せず、特に昭和のエッチなマンガのノリを地で行く(主人公にセクハラされても笑顔で流す)エリザベスがかわいい。 今後も楽しみなマンガです。 個人的に表紙のデザインとロゴのデザインが今のマンガに見えない(15年くらいまえのマンガだと最初は思った・・・)ので星は4つで(笑)
12投稿日: 2013.09.25
