クラフト★ビア★マンさんのレビュー
参考にされた数
601
このユーザーのレビュー
-
物欲なき世界
菅付雅信 / 平凡社
なぜ、「モノを持つことがダサい」時代になったのか?
9
車、時計、宝飾品、奇抜なブランドものの服、靴、高級オーディオやテレビ、家電・・・・形のあるものが売れないと言われて久しい昨今、一体何が起こっているのか。元「エスクァイア」「Cut」の編集者が自身の体験…と、多くのインタビューを通して考察する一冊。
著者は学者ではないので、客観データに乏しいと感じるところはあるが、多くの体験・世界中の事象からまとめられており、説得力がある。
消費のパラダイムシフトを読み解く良著だと思う。
・モノが売れない、欲しくない、むしろモノに縛られることがダサい
・モノ(ファッション)を通して、自分を表現し、他人より優れていることを示す必要がなくなった
・この現象は日本だけでなく、あらゆる先進国で起きている
・それはインターネット・情報化による、「作ることに金がかかり環境負荷の高いモノ・ハード・アトムの世界」ではなく、
「サービス・ソフト・バーチャルの世界」への変化が背景にある
・その変化を紐解くキーワードが「ライフスタイル」という言葉。その具体例が掲載されており、
アメリカの一田舎町だったポートランドが全米で最も住みたい街になっている理由はそこにある
・代官山ツタヤ、ツタヤ家電が生まれた文脈も同じところにある。
その代官山ツタヤで一番売れている洋雑誌は「ヴォーグ」ではなくポートランドで創刊された「キンフォーク」
・今流行りのシェアリング・エコノミーの解く鍵も同根にある
・ライフスタイル的な生き方は、働き方の価値観にも大きく影響を与えている
・地方再生や、若者の農業への回帰、スローフードなどの動きも同じ文脈でなぜ注目されるのか見えてくる
・経済成長がなくても、文化の成長が人間の幸福度を高める。むしろ、経済成長を第一義にしていたこの数十年は特殊な時代だった
「文化の成熟」がこれからの時代のキーワード。
今起きている世の中の変化が、一体何なのか考察するのに適した良著。
社会の変化に興味がある人は是非。
※資本主義そのものに対する考察はちょっと素人の思い込み感が強かったので個人的には「ホンマかいな」と思いながら読んでいたので★は4つ。 続きを読む投稿日:2016.01.27
-
僕のヒーローアカデミア 1
堀越耕平 / 週刊少年ジャンプ
羨望を糧に喪失からはい上がる王道少年マンガ
9
そこいらで評判がよいので期待してはいたのだが、読み始めたとたんに泣かされ、心をわしづかみにされた。
1巻で3回泣いたよ。なんだこのマンガ、むちゃくちゃ面白いじゃないか。。。文句なしの★5つ。
もう1…0回は読み直してしまった。なんでこんなに面白いのだろう。
「猛れクソナード」「はりさけろ入学」独特な勢いのある言葉選び、
主人公の憧れるヒーローが一人だけアメコミ画風、
少年ジャンプ連載3度目のキャリアを活かしたハイレベルな作画、
全力で個性的なキャラ達・・・と上げればまだまだあげられるよ?!嫌いじゃないよ?!
という感じだけど、何より主人公がいい。
主人公の出来(いずく)は、「個性」と呼ばれる特殊能力を持つのが当たり前になった社会で、「個性」がない人間として育つ。
それにも関わらず、人一倍ヒーローにあこがれ、羨望と喪失のはざまで生きている。
憧れのヒーロー「オールマイト」に出会い、持たざる者が持つものの心を動かし、受け入れられる過程は胸が熱くなる。
「君はヒーローになれる」
このセリフは何度読んでも涙腺が緩む。あきらめなくてもよかったんだと、自分の人生は前に進めていいのだと認められた瞬間。
たった一話でこのマンガのファンになってしまった。
電子で買ったけど、紙でも買おうと思ってます、今。
最近の少年ジャンプはワールドトリガー、僕のヒーローアカデミア(ヒロアカと略すらしい)と、新しい世代が本格的に油がのってきた感じで読みごたえがハンパない。
葦原大介、堀越耕平といった連載がいまいちうまくいかなった作家をしっかり育てて花を咲かせてきたジャンプ編集部の手腕もすばらしい。
今、一番面白いマンガじゃないだろうか。これがあったからジャンプ編集部もナルトを終わらせられたんだろうな。
僕のヒーローアカデミア、ワールドトリガー、七つの大罪、マギ、進撃の巨人、アルスラーン戦記あたりを今連載中の少年マンガでは読んでるけど、自分の中でヒロアカが一つ頭抜けた感じ。 続きを読む投稿日:2015.03.02
-
七つの大罪(3)
鈴木央 / 週刊少年マガジン
仲間ってどこかに尊敬がある
9
口先やうわべではない、人が人を認める瞬間が描かれていて、ぐっときました。
ひとつ冒険を乗り越えて結束した仲間となる過程は胸が熱くなります。
アクションだけでなくて、戦いの後の宴の描写もとてもいい。
…かっこいいアクションやかわいいキャラだけでなくて、友情の描写(それも、男と男ではなく女と女の友情!)を通して、
このマンガの懐の深さを感じられる巻です(ただし1巻から読むべきです)。
おすすめ。 続きを読む投稿日:2013.10.28
-
質問力――話し上手はここがちがう
齋藤孝 / ちくま文庫
ダニエル・キイスと宇多田ヒカルに見るコミュ力の真髄
9
「質問力」というタイトルだが、授業や会議で質問がうまくなる、というだけの話ではなくコミュニケーション全般に関わる内容。
コミュニケーションにおいて「質問力」が極めて重要だとしている。
知識量が多い、…とか記憶力が高い、テストで高い点を取れる、いい大学を出ている、ということではない、地頭のよさ、人との関わり方(いわゆる「コミュ力」)をここまで平易な言葉で説明できるのか、と感心した本。
理論だけでなく、実例が豊富なのがいい。純粋に読み物としても面白い。
谷川俊太郎といった詩人から、ダニエル・キイス(アルジャーノンに花束をの作者)と宇多田ヒカルの対談、モハメドアリのインタビューに、ジャズの巨人マイルス・デイビスまで。
本書の特筆すべきところは実例のどこがすごいのか、極めてわかりやすく説明している点だ。
質問の種類を4種類に分類しており、
①抽象的かつ本質的 ・・・ 例:なぜ人は生きるのか?
②具体的かつ非本質的 ・・ 例:普段何をしていますか?
③具体的かつ本質的 ・・・ 例:今、どこにいますか?
④抽象的かつ非本質的 ・・・ 例:どうでもいいこと
③の「具体的かつ本質的」な質問が重要であると説いている。
「具体的かつ本質的」な質問の重要性が前段で説明されているので、谷川俊太郎の「きらいなことわざをひとつあげてください」や「あなたが一番犯しそうな罪は?」という質問のすごさがわかる。
本来は教育者の著者ならではというか、いかに必要な点に絞り込んで単純化して伝えるか、という視点が徹底していてすばらしい(この点は、私は斉藤孝と池上彰、河合隼雄の3人を心の師にしている。勝手に)。
文章は中学生でも読める程度に書いてあり、とても読みやすいが、書いてある中身は、立ち止まって自分の頭で汗をかいて考えないと呑み込めない本質的なもの。
ぱあっと視野が広がるような知的興奮を味わえる読書ができます。 続きを読む投稿日:2014.08.26
-
伝染(うつ)るんです。(1)
吉田戦車 / ビッグスピリッツ
シュールという概念を教えてくれた4コマの金字塔
8
私は、「行け!稲中卓球部」と「伝染るんです」の笑いが共有できる人はまず仲良くなれる自信がある。
もう発売から20年は経っているのだけど、今読んでも破壊力抜群。
当時中学生だった自分に「シュール」という…概念を教えてくれた本。
「ふつうこう」というフォーマットを逆手に取ったズレを楽しむメタ的な笑いというか、高度なコンテキストが共有できないと笑えない、洗練された作品。
サブカル的な作品ではあるのだが、吉田戦車の本作は安易なシュールではなくて、ズレの強弱がとんでもなくセンスがあったり、ふつう説明のあるキャラや場面の背景を徹底的に描かないことで生まれる奇妙な空気(ちょっと味付けするとホラーになりそうな感じは松本仁志の「ビジュアルバム」と共通した感じがする)がたまらなく上手で、サブカル耐性がない人でもしっかり楽しめるだろう。1巻は結構試し読みできるのでまずはそちらを(あと、是非2巻の最初の話も!これやばい)。
4コマに限らず、あらゆる漫画好きな人にはぜひ読んでほしいギャグマンガの金字塔。電車の中で読むと吹き出すと思うのでご注意を。
他の似たような作品とは一線を画している(相原コージの「コージ苑」は今読むと大分古くてつらいし(涙))。
というか本作の影響でシュールなギャグ漫画というのが流行ったのだと思う。シュールという言葉もこの漫画の頃からではなかったか?
伝染るんです、とはよく言ったものだ。 続きを読む投稿日:2015.03.31
-
東京喰種トーキョーグール リマスター版 14
石田スイ / 週刊ヤングジャンプ
発売から2週間。何度読んでも咀嚼しきれない
8
東京喰種。初見では寄生獣の現代版で亜人の劣化版マンガ、くらいの印象でそこそこ面白いのでテンションはあまり高くないままなんとなく購入していた。
アニメ化でオープニングのかっこよさと月山さんのキレッキレぶ…りに一つ興味度が上がった。そこで、本刊である。
あまりの密度についていけず、適当に読んでいた過去巻を読み漁るが、わからないことばかり。一気に2014年度トップのマンガに躍り出た。衝撃。
1巻で5~6巻分の展開があり、ふつう1話かける重要なシーンを淡々と1ページで進んでしまう。
グールならではの詩的な表現と狂気が織り交ざり現実が釈然としない。
悪い夢を見ているままもう全部終わってしまうと思ったら想像だにしなかった現実が突然頭をもたげる。
これで混乱しないわけはない。しかも何年も前にちゃんと伏線が引かれていたという・・・。
まだ読んでいない人は、この巻を読むためにシリーズを買い始める価値、ありますよ。
どうやら、続くらしいけど。 続きを読む投稿日:2014.10.27